元・愛玩奴隷は愛されとろけて甘く鳴き~二代目ご主人様は三兄弟~

唯月漣

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88)あらぬ誤解

「日和さんに、明日の朝までに書いて欲しい書類があって。椎名さんに渡すように頼まれたんだけど……」
「――し、少々お待ち下さいっ!」


 飛び起きた私は反射的に傍にあった丈の長いパーカーを掴み、仕事着の上から羽織る。
 ローションの付いた手でドアノブを掴んでしまったけれど、気がついた時にはもはや時既に遅しだった。


「申し訳ありません……お待たせしました」


 ほんの少しだけドアの隙間を開けて、バレないように反対の手で書類を受け取れば……。
 
 そう思ったけれど、目が合った瞬間。
 律火様の顔に驚きの表情が浮かんで、それが無理だということはすぐに分かる。
 恐らくこの動揺が、私の顔に出ていたからだろう。


「あれ? 日和さんは今、部屋で詩月の宿題をやってる、って聞いたんだけど……」
「…………っ」


 それは嘘ではない。
 けれど――この状況。
 間違いなく、誤解を招いている気がする。
 
 ――だとしたら、恥ずかしすぎる……。


「ち、違うのです。これは……!」
 
 
 焦りから、上手く言葉が出ない。
 恥ずかしさに熱くなる顔を見られたくなくて、私は一歩下がって俯いた。
 
 するとそれを見た律火様は、何故か申し訳なさそうに口を開く。

 
「あっ、ごめんね。叱られると思っちゃったかな? 今は休憩時間だもん。怒ったりしないから、安心してね」
「…………」


 そう私を気遣って下さる律火様の優しいお言葉に、私は情けないやら恥ずかしいやらで、更に涙目になった。
 
 こくこくと頷く私に、律火様はホッとしたように微笑まれてから、更に口を開く。
 
 
「昨日は添い寝だけだったから、もしかして――物足りなかった?」
「――――!! なっ。ち、ちが……っ」

 
 まさか、今度はそういう方向に誤解されるなんて……!

 律火様との夜が物足りなくて自慰をしていた――そう思われたら、それこそまるで、体調不良だった律火様を責めているみたいに聞こえてしまうのでは……。
 
 そう思った私は、慌てて首を横に振った。
 

「あのっ、違うんです。そういう訳ではなく……!」
「――?」
「あの……ええっと」


 宿題の内容を、律火様にに言っても良いものか。
 そう迷ったのは……一瞬だった。
 
 宿題の内容について内緒にするようにとのご命令はなかったはずだし、誤解で律火様を落ち込ませるよりは、ずっと良いはず。
 だから……!
 
 
「――実は。コレが『詩月様の宿題』なんです……!」
「………………えっ」
「ですので、律火様との夜が物足りないだなんて、そんな事は決してございません……!」


 誤解を解くためとはいえ、よってこんな説明を律火様に……。
 
 もう、恥ずかしいなどというレベルではない。
 

 顔から火が出そうになっている私を後目に、律火様は「腑に落ちたよ」と、私の顔を見ながらクスクスとお笑いになった。


「なるほどね。とりあえず、書類にローションが付いちゃうといけないから、部屋に入っていい? 良ければそこの机に、直接置いておくよ。手、ベタベタみたいだし」
「はい……。申し訳ありません……お願いします」


 私は消え入りそうな声でそう答えると、律火様を部屋に招き入れた。
 
 書類を机の上に置いた律火様は、ベッドの上に転がる玩具やローションに、改めて視線を落としてから私に向き直る。


「こちらこそ、ごめんね。頑張っていた所を、邪魔しちゃったよね」
「いっ、いえ。邪魔なんてそんな……。正直、一人では詩月様のように上手くいかなくて、途方に暮れていたところで…………あっ」
「うん? そうなの?」


 おもわず零れた本音にしまったと思いつつ、律火様の言葉に私はコクリと頷く。
 
 すると律火様はふわりと微笑みながら、私の傍に来て頭を優しく撫でて下さった。
 そのままさりげなくエネマグラを拾い上げて、視線の高さで眺めながら口を開く。


「差し支えなければ、詳しく事情を聞いてもいい?」
「はい……」
「詩月が出したのはどんな内容の宿題だったのかな」

 
 耳元で優しくそう囁かれると、最早私に抗うすべはない。
 
 観念した私は、詩月様に出された宿題の内容を説明した。
 自慰経験が乏しく、一人では上手く出来なかったことも……。

 
「なるほど。それでまさか、力ずくで挿入しようとなんて、していないよね?」
「うっ……いえ、それはまだ」
「『まだ』って……! 力ずくでやって、万が一怪我でもしたら、どうするつもりだったの!」
「……――! も、申し訳ありません……!」


 律火様は珍しく、少しムッとした表情で私を見た。普段は滅多に怒らない、温厚な律火様。
 そんな律火様の怒ったお顔に、私はどうしたものかとオロオロしてしまう。


「ねぇ、日和さん。いくら詩月の宿題でも、今後そういう無茶はしないって約束してくれる?」
「――!」


 律火様は怒っていらっしゃるのではない。
 ――心配してくださっているのだ。
 そう気がついた時。
 真っ直ぐこちらを見つめる律火様のその真っ直ぐな視線に、不謹慎にもドキッとした。

  
「で、ですが……」
「…………」

 
 すると律火様は少し考えたあと、今度はニッコリ微笑んでこう仰った。


「じゃあ、こういうのはどう? その宿題、僕が手伝ってあげる」
「えっ……」
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