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90)私のペース
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「――そんなに嫌だった? もしかして――気持ち良くなかったかな……」
律火様に不安そうな顔でそう問われ、私は慌てた。
「……ち、違……っ……」
「じゃあ――どうして?」
「わ、……私は愛玩奴隷です。主人である律火様に、ご奉仕頂く訳には……!」
主人に奉仕をさせた挙句、『気持ち良くなかった』と誤解させるなんて、とんでもない。
むしろ、凄く……。
そこまで考えて、私はハッと我に返る。
「――ふふ、そっちの理由なら良かった」
「――!?」
目が合うと、律火様は悪戯っ子のような顔で微笑まれていた。
どうやら、先程の落ち込んだようなお顔は、わざとだったらしい。
ホッと胸を撫で下ろした私の顔を覗き込み、少しだけ真剣なお顔をされる律火様。
その澄んだ瞳の奥は、僅かに揺れている。
「ねぇ、日和さん……正直に答えて。立場とか、そういうのを抜きにして――僕にこういう事をされるの、本当に嫌じゃ、ない……?」
「……!」
「今、日和さんは『休憩時間』だよね。だから今だけ――愛玩奴隷としてじゃなくて……日和さんの言葉が欲しい」
「えっ……?」
私の、言葉……?
律火様の仰りたい事が、よく分からない。
――けれど。
私の答えは決まっている。
「嫌じゃ、ないです……」
「――!」
「私は――頭を撫でて下さる律火様の大きな手も、優しいハグも。甘いキスも……大好きです」
「……!」
「私を『可愛い』と言ってくださる事も……。それから、その……」
そこまで言ってから、私はチラリと律火様の口元を見た。真っ直ぐに私を見つめている律火様に、面と向かってこれを伝えるのは恥ずかしい。
――けれど……。
「先程私を舐めてくださった、その柔らかい舌も。びっくりして……どうして良いか分からなくなってしまうくらい――本当に気持ち良くて……」
「……っ!」
突然の行為にビックリしてしまったけれど、律火様の唇や舌はくすぐったいほど優しくて。
まるで大切な人の体を愛でるような、その甘い仕草。私は困惑してしまった位だ。
私の言葉を聞いた律火様が、顔を両手で隠したまま黙り込んでしまったので、私は慌てて律火様の様子をうかがう。
「り、律火様……? どうなさったのですか?」
「………………」
私は何か、答えを間違えてしまったのだろうか……?
けれど、そんな不安は一瞬で。
「――あー、もうっ。日和さんってば、世界一可愛い!」
「あっ……」
固く私を抱きしめて下さった律火様の、幸せそうなお顔。
それを見て、私はようやく律火様の質問の意図を理解した。
――律火様が言わんとすること。
それはきっと、詩月様が仰っていた事と同じだ。
今私がお仕えしているのは、律火様をはじめとする東條院家の三兄弟。
ならば今の私の仕事は、その新たな主人の決めたルールに従い、彼らの望みを叶えること。
つまり……。
主人が私に『したい』と思ってくださるのなら、私に嫌がる理由なんてない。
主人である律火様に喜んで頂く事こそが、私の望みだ。
けれど、私がそれをお伝えすると、律火様は僅かに複雑そうな顔で微笑まれる。
「主人と愛玩奴隷だから――僕が好きだから、『嫌じゃない』。日和さんは今、そういう結論に至ったんだよね?」
「――? はい……」
「…………。日和さんのその『好き』は、主人としての僕への好意? それとも……」
「……?」
キョトンとする私に、律火様は続ける。
「こういう事って、本来――好き同士がすることでしょ?」
「――? ええと……すみません。私にはまだよく……」
「――――そっか」
律火様は私の言葉を受けて、何やら考え込まれたご様子だ。やはり私は、何か答えを間違えた……?
そうオロオロする私に気が付いた律火様は、私を見てふっと表情を柔らかくなさった。
「――ごめん。今僕、日和さんを困らせているよね。日和さんには日和さんのペースがあるもの」
「すみません……私……」
謝罪しようとした私の唇を塞ぐように、律火様は人差し指をあてた。
「――こういうことをあやふやのままにするのは良くないし、今日の所はやめておく?」
「えっ……?」
お窺いを立てるような、それでいて甘えるような……。
そんな切ない律火様の微笑みは、初めて見る。
私はこのお屋敷の皆さんが……お優しい律火様が大好きだ。
だからそんな風に問われたら、堪らなくなってしまう。
私の顔を覗き込むようにする律火様は、恐らく私の言葉を待って下さっている。
私は律火様の腕の中で、恐る恐る口を開く。
「詩月様の宿題は……私一人では到底出来そうにありません。ですので……」
『先程の続きをお願いします』とは流石に言えなくて。
「よろしければその……。宿題を――律火様にお手伝い頂けたら……」
律火様に不安そうな顔でそう問われ、私は慌てた。
「……ち、違……っ……」
「じゃあ――どうして?」
「わ、……私は愛玩奴隷です。主人である律火様に、ご奉仕頂く訳には……!」
主人に奉仕をさせた挙句、『気持ち良くなかった』と誤解させるなんて、とんでもない。
むしろ、凄く……。
そこまで考えて、私はハッと我に返る。
「――ふふ、そっちの理由なら良かった」
「――!?」
目が合うと、律火様は悪戯っ子のような顔で微笑まれていた。
どうやら、先程の落ち込んだようなお顔は、わざとだったらしい。
ホッと胸を撫で下ろした私の顔を覗き込み、少しだけ真剣なお顔をされる律火様。
その澄んだ瞳の奥は、僅かに揺れている。
「ねぇ、日和さん……正直に答えて。立場とか、そういうのを抜きにして――僕にこういう事をされるの、本当に嫌じゃ、ない……?」
「……!」
「今、日和さんは『休憩時間』だよね。だから今だけ――愛玩奴隷としてじゃなくて……日和さんの言葉が欲しい」
「えっ……?」
私の、言葉……?
律火様の仰りたい事が、よく分からない。
――けれど。
私の答えは決まっている。
「嫌じゃ、ないです……」
「――!」
「私は――頭を撫でて下さる律火様の大きな手も、優しいハグも。甘いキスも……大好きです」
「……!」
「私を『可愛い』と言ってくださる事も……。それから、その……」
そこまで言ってから、私はチラリと律火様の口元を見た。真っ直ぐに私を見つめている律火様に、面と向かってこれを伝えるのは恥ずかしい。
――けれど……。
「先程私を舐めてくださった、その柔らかい舌も。びっくりして……どうして良いか分からなくなってしまうくらい――本当に気持ち良くて……」
「……っ!」
突然の行為にビックリしてしまったけれど、律火様の唇や舌はくすぐったいほど優しくて。
まるで大切な人の体を愛でるような、その甘い仕草。私は困惑してしまった位だ。
私の言葉を聞いた律火様が、顔を両手で隠したまま黙り込んでしまったので、私は慌てて律火様の様子をうかがう。
「り、律火様……? どうなさったのですか?」
「………………」
私は何か、答えを間違えてしまったのだろうか……?
けれど、そんな不安は一瞬で。
「――あー、もうっ。日和さんってば、世界一可愛い!」
「あっ……」
固く私を抱きしめて下さった律火様の、幸せそうなお顔。
それを見て、私はようやく律火様の質問の意図を理解した。
――律火様が言わんとすること。
それはきっと、詩月様が仰っていた事と同じだ。
今私がお仕えしているのは、律火様をはじめとする東條院家の三兄弟。
ならば今の私の仕事は、その新たな主人の決めたルールに従い、彼らの望みを叶えること。
つまり……。
主人が私に『したい』と思ってくださるのなら、私に嫌がる理由なんてない。
主人である律火様に喜んで頂く事こそが、私の望みだ。
けれど、私がそれをお伝えすると、律火様は僅かに複雑そうな顔で微笑まれる。
「主人と愛玩奴隷だから――僕が好きだから、『嫌じゃない』。日和さんは今、そういう結論に至ったんだよね?」
「――? はい……」
「…………。日和さんのその『好き』は、主人としての僕への好意? それとも……」
「……?」
キョトンとする私に、律火様は続ける。
「こういう事って、本来――好き同士がすることでしょ?」
「――? ええと……すみません。私にはまだよく……」
「――――そっか」
律火様は私の言葉を受けて、何やら考え込まれたご様子だ。やはり私は、何か答えを間違えた……?
そうオロオロする私に気が付いた律火様は、私を見てふっと表情を柔らかくなさった。
「――ごめん。今僕、日和さんを困らせているよね。日和さんには日和さんのペースがあるもの」
「すみません……私……」
謝罪しようとした私の唇を塞ぐように、律火様は人差し指をあてた。
「――こういうことをあやふやのままにするのは良くないし、今日の所はやめておく?」
「えっ……?」
お窺いを立てるような、それでいて甘えるような……。
そんな切ない律火様の微笑みは、初めて見る。
私はこのお屋敷の皆さんが……お優しい律火様が大好きだ。
だからそんな風に問われたら、堪らなくなってしまう。
私の顔を覗き込むようにする律火様は、恐らく私の言葉を待って下さっている。
私は律火様の腕の中で、恐る恐る口を開く。
「詩月様の宿題は……私一人では到底出来そうにありません。ですので……」
『先程の続きをお願いします』とは流石に言えなくて。
「よろしければその……。宿題を――律火様にお手伝い頂けたら……」
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