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9−③
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結局雨が上がったのは夕方に差し掛かる頃だった。
2時間ほどかけて大草原を抜け、王都に入る事ができた頃にはすっかり夜になっていた。俺達はクタクタになりながら宿屋に入った。
宿屋のカウンターで話をしていたルナは、俺たちの方に駆け戻ってくるなり、言いにくそうに口を開いた。
「今夜はもうダブルのお部屋しか空いていないそうデス。すみませんが3部屋取って、鷹夜様だけ別デ……」
「は? 何でだ? 普通に俺も相部屋で良いよ。金がもったいないだろ。カヴァと俺、ラングとルナな」
俺がそう答えて床に下ろしていた荷物を持ち上げると、3人は驚いた顔で俺を見上げた。
「エ……」
「ちょっ……!」
「おや」
短い感嘆を漏らす3人に、俺は首を傾げる。
「……え? なんかマズイのか?」
「あ……いえ。鷹夜がそうしたいなら、それでいいのよ。それにきっと、鷹夜に他意はないのよね」
「タイ……??? 鯛……体……他意…………あっ」
そう問われてようやく、俺は3人が感嘆した理由に思い至った。
「ご、ごめ……」
「ふふ、分かってる。あちらに恋人のいる鷹夜と今更一緒に寝たって、別に襲わないわよ。アタシを信じて貰えたなら、何より。さあ、早く部屋で休みましょう。明日に差し支えるわ」
「えっ、あっ、いやちょっ……」
候補者の魔力は、その体液が闇市場で売買されるほど価値がある。候補者に抱かれたくないゲイ族なんていない。
そう聞いていたのに、普段モテる事とは無縁だった俺はつい忘れがちになってしまう。
カヴァはさっき、どんな気持ちで『他意はない』と言ったんだろう?
いつも明るくニコニコ笑っているカヴァは、今も笑顔で考えが読めない。
カヴァに腕を引かれて部屋に入る。王都の宿は今までの都市に比べると比較的室内がコンパクトな作りになっていて、ど真ん中に大きなダブルベッドが置かれていた。
荷物を置いてベッドに座ったカヴァが、チラリとこちらを見ている。
「ねぇ、鷹夜。トオル様に会う前、北のバリリ・バーのチー・ママと、何があったの?」
「あ……!」
そうだった。
あの時俺は恋人だった涼と再会し、涼の浮気に気付いたまま感情を押し殺して勝負を挑み、勝利した。
そして、浮気の証拠を突き付けて涼に別れを告げた俺は、止まらない涙をカヴァに見られてしまったんだった。
涼との事は、いずれカヴァには話すつもりだった。けれどこの状況で話をした、その後は……?
「あー。悪い、先にシャワーを浴びてきてもいいか?」
「ええ、どうぞ」
カヴァが頷くのを確かめてから、俺はそっと荷物を置いてシャワールームへ向かう。
冷たいシャワーを浴びて、俺は頭を冷やしながら色々と思案した。
涼のこと。カヴァのこと。これからのこと……。
ーーーーそして。
気付けばすっかり長風呂になってしまった俺は、僅かに緊張しながら体を拭いて部屋へ戻る。
髪を拭いていたタオルを首にかけて、俺は椅子に座るカヴァに向き合うようにベッドに座った。
「悪い。待たせたな」
「うん。……もし言いたくないなら、別にアタシは無理にとは……」
「いや。ずっとカヴァには言わなきゃと思ってたから、ちょうど良かったよ」
「……そう」
「あの時泣いてた俺を抱きしめてくれたのに、なかなか言えなくてごめんな」
俺は照れ隠しにそう言って笑うと、床に視線を落として淡々と話した。
北のチー・ママとして現れたのが、あちらの世界で恋人であった涼だったこと。
三ツ矢に代わり南のチー・ママの地位にいるのは、その涼であったこと。
自分が彼の好みのタイプを知り尽くしているが故に、トオルを見た瞬間、涼は好みのタイプだったトオルを口説いただけで、魔王へ反乱する意思などないだろうと分かったということ。
そして、異世界転移による浮気判明のため、あの日俺が涼に別れを告げた事。
なるべく感情を込めずに話したつもりだったのに、カヴァは俺の話を聞きながら顔をしかめた。
怒りの表情で何かを言いたげに口を開きかけたカヴァは、少し躊躇ったあと、今度は困った表情をしておずおずと口を開いた。
「……ごめんなさい。アタシには今、なんて言ったらアナタの悲しみを癒せるのかが、分からないの……」
困ったようにそれだけ言って淡く微笑んだカヴァは、ベッドに座る俺の側にやってきてそっと俺を抱きしめてくれた。
俺はカヴァのしなやかな腰に両腕を回すと、ぎゅっと抱き返す。
「もう十分、カヴァには助けてもらってるよ。お礼がしたいけど、今の俺ができる事と言ったらこれぐらいなんだ。これは、浮気じゃない。……嫌か?」
あっちの世界では、彼氏がいない時にはマッチングアプリなんかで知り合ったやつと一夜を共に……なんて、正直よくある事だった。
けれど、カヴァとはずっと仲間として旅をしていたせいか、ベッドに誘うという行為が、なぜだかとても恥ずかしかった。
カヴァの腹部に顔を埋めたまま、俺は赤面する顔をカヴァに見られないようにする。
魔王候補がこんなんじゃ、カヴァはガッカリするだろうか……? 魔王候補らしく、上からかっこよく命じた方が良かった? それとももっと、スマートな誘い方があった?
そんなことを考えて、すごくドキドキした。
そんな俺の心境を知ってか知らずか、カヴァが俺からゆっくりと離れる。
ひんやりと冷たい手が俺の頬に添えられてドキリとした瞬間、額にキスを落とされた。視線を上げるとカヴァの顔がドアップで視界に映っていて、その表情は何だか穏やかだ。
「返事をする前に一つ、聞いてもいいかしら?」
「なんだ……?」
カヴァの親指が俺の火照った耳朶をそっと撫でる。
「そのお礼って、ルナとラングにもするの……?」
「は……?! そ、そんな訳っ……!」
そう答えた俺の唇を、カヴァは何故だが嬉しそうに自分のそれで塞いだ。2~3度角度を変えて浅いキスをされたあと、カヴァはするりと俺の腕の中から抜け出して、にっこりと笑った。
「ふふ、いい返事ね。シャワーを浴びてくるわ。……先に寝ないでよ?」
そう言って俺にウインクをするカヴァをバスルームへ見送りながら、俺は馬鹿みたいに早鐘を打つ心臓の鼓動に、少し困惑していた。
2時間ほどかけて大草原を抜け、王都に入る事ができた頃にはすっかり夜になっていた。俺達はクタクタになりながら宿屋に入った。
宿屋のカウンターで話をしていたルナは、俺たちの方に駆け戻ってくるなり、言いにくそうに口を開いた。
「今夜はもうダブルのお部屋しか空いていないそうデス。すみませんが3部屋取って、鷹夜様だけ別デ……」
「は? 何でだ? 普通に俺も相部屋で良いよ。金がもったいないだろ。カヴァと俺、ラングとルナな」
俺がそう答えて床に下ろしていた荷物を持ち上げると、3人は驚いた顔で俺を見上げた。
「エ……」
「ちょっ……!」
「おや」
短い感嘆を漏らす3人に、俺は首を傾げる。
「……え? なんかマズイのか?」
「あ……いえ。鷹夜がそうしたいなら、それでいいのよ。それにきっと、鷹夜に他意はないのよね」
「タイ……??? 鯛……体……他意…………あっ」
そう問われてようやく、俺は3人が感嘆した理由に思い至った。
「ご、ごめ……」
「ふふ、分かってる。あちらに恋人のいる鷹夜と今更一緒に寝たって、別に襲わないわよ。アタシを信じて貰えたなら、何より。さあ、早く部屋で休みましょう。明日に差し支えるわ」
「えっ、あっ、いやちょっ……」
候補者の魔力は、その体液が闇市場で売買されるほど価値がある。候補者に抱かれたくないゲイ族なんていない。
そう聞いていたのに、普段モテる事とは無縁だった俺はつい忘れがちになってしまう。
カヴァはさっき、どんな気持ちで『他意はない』と言ったんだろう?
いつも明るくニコニコ笑っているカヴァは、今も笑顔で考えが読めない。
カヴァに腕を引かれて部屋に入る。王都の宿は今までの都市に比べると比較的室内がコンパクトな作りになっていて、ど真ん中に大きなダブルベッドが置かれていた。
荷物を置いてベッドに座ったカヴァが、チラリとこちらを見ている。
「ねぇ、鷹夜。トオル様に会う前、北のバリリ・バーのチー・ママと、何があったの?」
「あ……!」
そうだった。
あの時俺は恋人だった涼と再会し、涼の浮気に気付いたまま感情を押し殺して勝負を挑み、勝利した。
そして、浮気の証拠を突き付けて涼に別れを告げた俺は、止まらない涙をカヴァに見られてしまったんだった。
涼との事は、いずれカヴァには話すつもりだった。けれどこの状況で話をした、その後は……?
「あー。悪い、先にシャワーを浴びてきてもいいか?」
「ええ、どうぞ」
カヴァが頷くのを確かめてから、俺はそっと荷物を置いてシャワールームへ向かう。
冷たいシャワーを浴びて、俺は頭を冷やしながら色々と思案した。
涼のこと。カヴァのこと。これからのこと……。
ーーーーそして。
気付けばすっかり長風呂になってしまった俺は、僅かに緊張しながら体を拭いて部屋へ戻る。
髪を拭いていたタオルを首にかけて、俺は椅子に座るカヴァに向き合うようにベッドに座った。
「悪い。待たせたな」
「うん。……もし言いたくないなら、別にアタシは無理にとは……」
「いや。ずっとカヴァには言わなきゃと思ってたから、ちょうど良かったよ」
「……そう」
「あの時泣いてた俺を抱きしめてくれたのに、なかなか言えなくてごめんな」
俺は照れ隠しにそう言って笑うと、床に視線を落として淡々と話した。
北のチー・ママとして現れたのが、あちらの世界で恋人であった涼だったこと。
三ツ矢に代わり南のチー・ママの地位にいるのは、その涼であったこと。
自分が彼の好みのタイプを知り尽くしているが故に、トオルを見た瞬間、涼は好みのタイプだったトオルを口説いただけで、魔王へ反乱する意思などないだろうと分かったということ。
そして、異世界転移による浮気判明のため、あの日俺が涼に別れを告げた事。
なるべく感情を込めずに話したつもりだったのに、カヴァは俺の話を聞きながら顔をしかめた。
怒りの表情で何かを言いたげに口を開きかけたカヴァは、少し躊躇ったあと、今度は困った表情をしておずおずと口を開いた。
「……ごめんなさい。アタシには今、なんて言ったらアナタの悲しみを癒せるのかが、分からないの……」
困ったようにそれだけ言って淡く微笑んだカヴァは、ベッドに座る俺の側にやってきてそっと俺を抱きしめてくれた。
俺はカヴァのしなやかな腰に両腕を回すと、ぎゅっと抱き返す。
「もう十分、カヴァには助けてもらってるよ。お礼がしたいけど、今の俺ができる事と言ったらこれぐらいなんだ。これは、浮気じゃない。……嫌か?」
あっちの世界では、彼氏がいない時にはマッチングアプリなんかで知り合ったやつと一夜を共に……なんて、正直よくある事だった。
けれど、カヴァとはずっと仲間として旅をしていたせいか、ベッドに誘うという行為が、なぜだかとても恥ずかしかった。
カヴァの腹部に顔を埋めたまま、俺は赤面する顔をカヴァに見られないようにする。
魔王候補がこんなんじゃ、カヴァはガッカリするだろうか……? 魔王候補らしく、上からかっこよく命じた方が良かった? それとももっと、スマートな誘い方があった?
そんなことを考えて、すごくドキドキした。
そんな俺の心境を知ってか知らずか、カヴァが俺からゆっくりと離れる。
ひんやりと冷たい手が俺の頬に添えられてドキリとした瞬間、額にキスを落とされた。視線を上げるとカヴァの顔がドアップで視界に映っていて、その表情は何だか穏やかだ。
「返事をする前に一つ、聞いてもいいかしら?」
「なんだ……?」
カヴァの親指が俺の火照った耳朶をそっと撫でる。
「そのお礼って、ルナとラングにもするの……?」
「は……?! そ、そんな訳っ……!」
そう答えた俺の唇を、カヴァは何故だが嬉しそうに自分のそれで塞いだ。2~3度角度を変えて浅いキスをされたあと、カヴァはするりと俺の腕の中から抜け出して、にっこりと笑った。
「ふふ、いい返事ね。シャワーを浴びてくるわ。……先に寝ないでよ?」
そう言って俺にウインクをするカヴァをバスルームへ見送りながら、俺は馬鹿みたいに早鐘を打つ心臓の鼓動に、少し困惑していた。
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