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2)意外なご褒美。
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俺の自宅は駅から少し離れた古い一軒家だった。
以前は母親との二人暮しであったが、数年前父親の海外赴任先に合流する形で母親が家を出たため、以降は俺が一人で住んでいる。
とりあえず子猫には、コンビニで買った子猫用の猫缶と水を与えると、ペロペロと食べ始めてくれた。それを見て安心した途端、いつの間にか俺は泥のように眠ってしまったようだ。
そう言えば今日、締め切り明けだった……。
その日の昼過ぎ。
再び小学生二人と公園で待ち合わせて、一緒に子猫を動物病院へ連れていった。
幸い子猫の傷は大事には至らず、少し衰弱していたので一晩だけ病院で預かってもらうことになった。
会計を済ませ、子猫を入院させ、保護猫の引き取り手を探す団体へ連絡をして……。
そんなこんなをやっていたら、家路につく頃にはすっかり暗くなってしまった。
俺は兄のさとる君に家族への電話をさせて、近くのコンビニに迎えに来るよう伝えて貰った。
家族に変に誤解されたらたまったもんじゃないので、ついでにきちんと事情を説明するよう頼む。
弟のきんちゃんはとても人懐っこい性格で、今日会ったばかりの俺をすっかり信用した様子だ。
コンビニまで俺と嬉しそうな顔で手をつないで歩き、自分の好きな給食や友達の話など、他愛ない話を色々としてくれた。
俺は迎えを待つ間、お腹が空いたであろう二人に、コンビニで肉まんを買って渡してやる。
きんちゃんの方は大喜びだったが、一方のさとる君は申し訳なさそうに切り出した。
「あの、蒼井さん。今日は本当にありがとうございました。病院のお金とか、すぐには無理だけど、必ず返しますから……」
ああ。
帰り道になんとなくさとる君に元気がなかったのは、そういうことか。小学校高学年にもなれば、そういう気遣いもできるんだなぁ。俺は感心しつつ、ひらひらと手を左右に振って答えた。
「あー、いいっていいって。俺も乗りかかった船ってやつだしね。それより、肉まん温かいうちに食べたら? お腹、空いたっしょ?」
そう言って、俺もコンビニで買った軽食の袋を漁る。
猫の病院代は予想外にかかってしまったが、流石に小学生にお金なんて請求する気はおきない。
美味しそうに肉まんを頬張る二人を尻目に、既に疲労困憊な俺は、串に刺さった唐揚げを頬張りながら大きなため息を漏らした。
あー、今日はマジで疲れたー。
俺、今日締め切り明けなのにめっちゃ頑張った!
神様、お星サマ、仏さま! 誰でもいいからご褒美くれー!!
そんなことを思っていたら、コンビニの駐車場に一台の自転車が入ってきた。
自転車は二人の前に停まり、高校生くらいの若い青年がこちらへ駆け寄ってくる。
「ひとし、さとるっ」
「あ、まさ兄ちゃん」
ん? あー、そうか。
どうやら『きんちゃん』はあだ名で、本名はひとしなのか。名前を呼ばれた二人は、嬉しそうに青年に駆け寄った。
「すみません。うちの均と悟がご迷惑をおかけしたようでっ」
礼儀正しく深々頭を下げた青年は、清潔感ある短めの黒髪で真面目そうな雰囲気。
若干痩せ型だが、身長百七六センチの俺と同じくらいスラリと背が高く、涼し気な切れ長の目に白い肌、長い睫毛。
若いのにとても謙虚で、俺みたいな野のものとも山のものとも知れぬ男にも、丁寧な態度だ。
どんぴしゃでオレ好みの好青年だった。
「僕、多斑将貴といいます。話は悟に聞きました。本当にありがとうございました!」
あー……。
神様、お星サマ、仏さま。
俺、確かにご褒美ほしいとは言いました。言いましたケド……。
……こんなご褒美かいっ!
思わず心の中でツッコミを入れてしまった。
前の恋人と別れてから、かれこれ数年。俺もそろそろ新しい出会いとか欲しいなーとは思っていたけれどもっっ。
脳内一人ノリツッコミに忙しい俺をよそに、二人の兄弟は兄に代わる代わる話しかけていた。
「将兄、あの猫、助かったよ。蒼井さんが保護猫団体に連絡もしてくれてさ。引き取り手が見つかるまでは、蒼井さん家に置かせてもらえるって」
「猫、今夜は病院にお泊りなんだってさ。明日また蒼井さんの家に見に行くの! 蒼井さんのお家、五丁目にある空き地の裏のお家だってー」
「子猫、明日退院予定だって。蒼井さんち、学校から近いから、心配だしまた明日帰りに寄りたい」
「そっか。子猫、助かって良かったね」
嬉しそうに次々報告する均ちゃんと悟君の頭をポンポンと撫でてやりながら、将貴君は俺の顔を見た。
「あ、あの。こいつらこう言ってますけど、お邪魔しても大丈夫ですか? もし、ご迷惑だったら……」
「ああ、いや。別にそちらが嫌じゃなきゃ俺は良いですよ。在宅職なんで、大概は家にいますし。猫も、まぁ少しの間預かるだけなら。ボロ屋ですけど持ち家なんで、全然」
急に笑顔で親切になったのは、将貴君が俺のちょー好みのタイプだからじゃないぞ。断じて!
「そうですか。何から何まですみません。猫の病院代は、バイト代が入ったら必ずお返しします。猫の引き取り手は、こちらでも全力で貰い手を探させていただきますので」
再びペコリと頭を下げた青年は、コンビニの駐車場の出口へ向かいつつ、均ちゃんのランドセルを自転車のカゴに入れている。最後にもう一度俺を振り返って、三人揃って頭を下げていた。
「あの、じゃあまたご連絡しますので。今日は、本当にありがとうございました」
「はいよ。気をつけてなー!」
笑顔で手を振る均ちゃんに手を振り返し、コンビニの前で三人が見えなくなるまで見送ると、疲れていたはずの俺の脳みそがぐるぐると思考を始める。
ふーん。
将貴君、ね。
さて。おそらくノンケであろう彼と、もう少しお近づきになるにはどうしたら良いかな?
ともあれ、神様たちに貰ったご褒美、しっかり生かさせていただきまっす!
以前は母親との二人暮しであったが、数年前父親の海外赴任先に合流する形で母親が家を出たため、以降は俺が一人で住んでいる。
とりあえず子猫には、コンビニで買った子猫用の猫缶と水を与えると、ペロペロと食べ始めてくれた。それを見て安心した途端、いつの間にか俺は泥のように眠ってしまったようだ。
そう言えば今日、締め切り明けだった……。
その日の昼過ぎ。
再び小学生二人と公園で待ち合わせて、一緒に子猫を動物病院へ連れていった。
幸い子猫の傷は大事には至らず、少し衰弱していたので一晩だけ病院で預かってもらうことになった。
会計を済ませ、子猫を入院させ、保護猫の引き取り手を探す団体へ連絡をして……。
そんなこんなをやっていたら、家路につく頃にはすっかり暗くなってしまった。
俺は兄のさとる君に家族への電話をさせて、近くのコンビニに迎えに来るよう伝えて貰った。
家族に変に誤解されたらたまったもんじゃないので、ついでにきちんと事情を説明するよう頼む。
弟のきんちゃんはとても人懐っこい性格で、今日会ったばかりの俺をすっかり信用した様子だ。
コンビニまで俺と嬉しそうな顔で手をつないで歩き、自分の好きな給食や友達の話など、他愛ない話を色々としてくれた。
俺は迎えを待つ間、お腹が空いたであろう二人に、コンビニで肉まんを買って渡してやる。
きんちゃんの方は大喜びだったが、一方のさとる君は申し訳なさそうに切り出した。
「あの、蒼井さん。今日は本当にありがとうございました。病院のお金とか、すぐには無理だけど、必ず返しますから……」
ああ。
帰り道になんとなくさとる君に元気がなかったのは、そういうことか。小学校高学年にもなれば、そういう気遣いもできるんだなぁ。俺は感心しつつ、ひらひらと手を左右に振って答えた。
「あー、いいっていいって。俺も乗りかかった船ってやつだしね。それより、肉まん温かいうちに食べたら? お腹、空いたっしょ?」
そう言って、俺もコンビニで買った軽食の袋を漁る。
猫の病院代は予想外にかかってしまったが、流石に小学生にお金なんて請求する気はおきない。
美味しそうに肉まんを頬張る二人を尻目に、既に疲労困憊な俺は、串に刺さった唐揚げを頬張りながら大きなため息を漏らした。
あー、今日はマジで疲れたー。
俺、今日締め切り明けなのにめっちゃ頑張った!
神様、お星サマ、仏さま! 誰でもいいからご褒美くれー!!
そんなことを思っていたら、コンビニの駐車場に一台の自転車が入ってきた。
自転車は二人の前に停まり、高校生くらいの若い青年がこちらへ駆け寄ってくる。
「ひとし、さとるっ」
「あ、まさ兄ちゃん」
ん? あー、そうか。
どうやら『きんちゃん』はあだ名で、本名はひとしなのか。名前を呼ばれた二人は、嬉しそうに青年に駆け寄った。
「すみません。うちの均と悟がご迷惑をおかけしたようでっ」
礼儀正しく深々頭を下げた青年は、清潔感ある短めの黒髪で真面目そうな雰囲気。
若干痩せ型だが、身長百七六センチの俺と同じくらいスラリと背が高く、涼し気な切れ長の目に白い肌、長い睫毛。
若いのにとても謙虚で、俺みたいな野のものとも山のものとも知れぬ男にも、丁寧な態度だ。
どんぴしゃでオレ好みの好青年だった。
「僕、多斑将貴といいます。話は悟に聞きました。本当にありがとうございました!」
あー……。
神様、お星サマ、仏さま。
俺、確かにご褒美ほしいとは言いました。言いましたケド……。
……こんなご褒美かいっ!
思わず心の中でツッコミを入れてしまった。
前の恋人と別れてから、かれこれ数年。俺もそろそろ新しい出会いとか欲しいなーとは思っていたけれどもっっ。
脳内一人ノリツッコミに忙しい俺をよそに、二人の兄弟は兄に代わる代わる話しかけていた。
「将兄、あの猫、助かったよ。蒼井さんが保護猫団体に連絡もしてくれてさ。引き取り手が見つかるまでは、蒼井さん家に置かせてもらえるって」
「猫、今夜は病院にお泊りなんだってさ。明日また蒼井さんの家に見に行くの! 蒼井さんのお家、五丁目にある空き地の裏のお家だってー」
「子猫、明日退院予定だって。蒼井さんち、学校から近いから、心配だしまた明日帰りに寄りたい」
「そっか。子猫、助かって良かったね」
嬉しそうに次々報告する均ちゃんと悟君の頭をポンポンと撫でてやりながら、将貴君は俺の顔を見た。
「あ、あの。こいつらこう言ってますけど、お邪魔しても大丈夫ですか? もし、ご迷惑だったら……」
「ああ、いや。別にそちらが嫌じゃなきゃ俺は良いですよ。在宅職なんで、大概は家にいますし。猫も、まぁ少しの間預かるだけなら。ボロ屋ですけど持ち家なんで、全然」
急に笑顔で親切になったのは、将貴君が俺のちょー好みのタイプだからじゃないぞ。断じて!
「そうですか。何から何まですみません。猫の病院代は、バイト代が入ったら必ずお返しします。猫の引き取り手は、こちらでも全力で貰い手を探させていただきますので」
再びペコリと頭を下げた青年は、コンビニの駐車場の出口へ向かいつつ、均ちゃんのランドセルを自転車のカゴに入れている。最後にもう一度俺を振り返って、三人揃って頭を下げていた。
「あの、じゃあまたご連絡しますので。今日は、本当にありがとうございました」
「はいよ。気をつけてなー!」
笑顔で手を振る均ちゃんに手を振り返し、コンビニの前で三人が見えなくなるまで見送ると、疲れていたはずの俺の脳みそがぐるぐると思考を始める。
ふーん。
将貴君、ね。
さて。おそらくノンケであろう彼と、もう少しお近づきになるにはどうしたら良いかな?
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