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12)奏一郎と遊眞。
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「んー! 味噌汁ウマイ! やっぱ日本食が一番だね!」
遊眞は悟の作った味噌汁がいたく気に入ったらしく、三杯もお代りしていた。
「これが毎日飲めるなら、悟をお嫁にもらいたいぐらいだよー!」
遊眞はぎゅーっと悟を抱きしめて、頬にキスをするほどの大絶賛だ。
「やめろバカ。悟、嫌なら全力で殴った方がいいぞー?」
「え、えーっと……」
「えー? ダーメっ。これは愛情表現だよ、悟。分かるでしょ?」
そう言って、立ち上がりかけた悟を、遊眞は有無を言わさず再び隣に抱き寄せる。
どうして良いか分からないという風に遊眞の傍らに座る悟は、そう問う遊眞の勢いに押されて、こくんと頷いた。
遊眞はビールを飲みながら満足そうにケラケラと笑っているが、有無を言わさぬ物言いの仕方は相変わらずだ。
こいつはたまに、笑顔でとんでもないことをしたり言ったりしてくる。真面目な性格の悟や将貴が遊眞の毒牙にかからぬよう、俺が見張らなければ。
「お前のソレ、こえーんだよ。悟、食われる前にこっち来い」
「心外だなー。いくら僕でも、未成年を食べたりしないよ? 今食べるのは食事だけだ」
「未成年じゃなくても食うな!」
「ハハハハ! 奏一郎は相変わらずカワイイね!」
「うっさい。もう俺もアラサーなんだから、カワイイとか言うな」
お前年下だろ。将貴の前で俺をカワイイとか言うの、本当に止めてくれ。お前は親戚のおっさんか!
「奏一郎は、将貴の前ではカッコつけたいんでしょ? カワイイじゃない。奏一郎はずーっと昔から可愛かったけどね!」
あー、もう。酔っ払いめ。
俺は面倒になって、遊眞をスルーして食事を済ませる。
「三人とも。そろそろ暗いし、駅まで送るよ。洗い物はやっとくから」
「えー?! 僕遊眞ともっと遊びたいー!」
均はそう言ってぶーたれていたけれど、将貴に手を引かれて渋々玄関に向かう。
「均、僕は明日もここにいるから、学校が終わったら遊びにおいで」
「はぁ!? またお前なに勝手な事を……!」
「ホント?! じゃあ今日は帰るーっ」
「Thank you for the wonderful time.bye.」
無駄に爽やかな酔っぱらいは、ひらひらと三人に笑顔で手を振った。
これ以上遊眞が要らんことを喋る前に、良い子は家に帰さなければ。そして、遊眞をなるべく早く、アメリカに帰さなければ。
三人を駅まで送る道すがら、俺はため息をついたのだった。
「で? お前は何しに日本に戻ってきた訳?」
家に戻るなり、俺は遊眞の隣に座ってビールを開けた。
「いやー、奏一郎が困ってるかなーって思って。本の翻訳、頼まれたんだって?」
「う。なぜそれを……」
「舞ちゃんから聞いたよ。なる早で洋書を一冊まるまる訳すように頼まれたんだって? 奏一郎一人だけじゃさすがにあの分厚い洋書は荷が重いかもだから、フォローしてやってくれって、舞ちゃんに頼まれたんだ」
"舞ちゃん"こと砂川舞は、俺たちの共通の友人で、幼馴染だった。
俺に仕事を依頼してくれている出版社の、親会社にあたる出版社の編集者をしている。今俺がやっているフリーライターの仕事なども、元はといえば彼女の紹介だった。今は変わってしまったが、元々の担当編集さんは彼女の大学の後輩だ。
「あー、まぁ困ってるっちゃあ、困ってるけど……」
俺はチラリと、部屋の隅に山積みにしたままの資料に視線を送る。
「連絡くれたら良かったのに。そしたら僕はいつだって奏一郎を助けるのに」
そう言って、遊眞はまっすぐ俺の目を見る。そして、優しい顔をして俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。
遊眞は本当に変わらない。
年下なのに俺を子供扱いしたがるし、基本的には誰にでも優しいけれど、たまにとんでもないことをしてきたり、言ってきたり。
それが冗談なのか本気なのか、何を考えているかすら、長年の付き合いである俺にも分からない。
「ねぇ。あの子、奏一郎の恋人でしょ? 将貴、だっけ? もうヤッた?」
「ぶふっ……!」
仕事の話から一転、突然の話題転向に、俺は飲んでいたビールを吹いた。
「ゲホッ、っ……な、なにを突然……」
「ふふ。まだなんだ? 奏一郎は本当に昔から分かりやすいね」
遊眞はテーブルにあったスルメを齧りながら、ニヤリと笑みを浮かべた。
「あの様子だと、奏一郎がタチかな? あんなに可愛かった奏一郎がネコの恋人を作るなんて」
「何年前の話だよ。俺だって今じゃそれなりに経験もあるし、恋人位作る」
「えー。奏一郎、僕がいないからって遊んでたデショ? 寂しかったの?」
そう言って、遊眞は俺の腰に手を回してくる。
「遊んでねーよ。むしろお前との関係の方が若気の至り、過去の汚点、俺の黒歴史だよ……」
あの頃、俺の性癖を見抜いた遊眞は、何にも知らなかった俺に、若さと性欲に任せてあれやこれや……。
あーもう、思い出すだけで恥だっ。マジで黒歴史すぎる。
さり気なく腰に回された手をピシャリと払いのけて、俺は残りのビールを一気に煽った。嫌な記憶は飲んで忘れるに限る。
「えー? ヒドいなぁ。むー、じゃあ今夜は奏一郎とデキないのかぁ……」
可愛らしく誘うような流し目をして見せても、今の俺の目には全く魅力的に映らない。
「あたり前だ。てゆーかお前ソファで寝ろよっ。絶対寝室には入ってくんなよ! 絶対だからな!」
「あー、知ってる。それ、フリだよね? お笑い芸人的な……」
「違うわっ!!!」
しょーもないこの酔っぱらい男に、俺はピシャリとツッコミを入れるのだった。
遊眞は悟の作った味噌汁がいたく気に入ったらしく、三杯もお代りしていた。
「これが毎日飲めるなら、悟をお嫁にもらいたいぐらいだよー!」
遊眞はぎゅーっと悟を抱きしめて、頬にキスをするほどの大絶賛だ。
「やめろバカ。悟、嫌なら全力で殴った方がいいぞー?」
「え、えーっと……」
「えー? ダーメっ。これは愛情表現だよ、悟。分かるでしょ?」
そう言って、立ち上がりかけた悟を、遊眞は有無を言わさず再び隣に抱き寄せる。
どうして良いか分からないという風に遊眞の傍らに座る悟は、そう問う遊眞の勢いに押されて、こくんと頷いた。
遊眞はビールを飲みながら満足そうにケラケラと笑っているが、有無を言わさぬ物言いの仕方は相変わらずだ。
こいつはたまに、笑顔でとんでもないことをしたり言ったりしてくる。真面目な性格の悟や将貴が遊眞の毒牙にかからぬよう、俺が見張らなければ。
「お前のソレ、こえーんだよ。悟、食われる前にこっち来い」
「心外だなー。いくら僕でも、未成年を食べたりしないよ? 今食べるのは食事だけだ」
「未成年じゃなくても食うな!」
「ハハハハ! 奏一郎は相変わらずカワイイね!」
「うっさい。もう俺もアラサーなんだから、カワイイとか言うな」
お前年下だろ。将貴の前で俺をカワイイとか言うの、本当に止めてくれ。お前は親戚のおっさんか!
「奏一郎は、将貴の前ではカッコつけたいんでしょ? カワイイじゃない。奏一郎はずーっと昔から可愛かったけどね!」
あー、もう。酔っ払いめ。
俺は面倒になって、遊眞をスルーして食事を済ませる。
「三人とも。そろそろ暗いし、駅まで送るよ。洗い物はやっとくから」
「えー?! 僕遊眞ともっと遊びたいー!」
均はそう言ってぶーたれていたけれど、将貴に手を引かれて渋々玄関に向かう。
「均、僕は明日もここにいるから、学校が終わったら遊びにおいで」
「はぁ!? またお前なに勝手な事を……!」
「ホント?! じゃあ今日は帰るーっ」
「Thank you for the wonderful time.bye.」
無駄に爽やかな酔っぱらいは、ひらひらと三人に笑顔で手を振った。
これ以上遊眞が要らんことを喋る前に、良い子は家に帰さなければ。そして、遊眞をなるべく早く、アメリカに帰さなければ。
三人を駅まで送る道すがら、俺はため息をついたのだった。
「で? お前は何しに日本に戻ってきた訳?」
家に戻るなり、俺は遊眞の隣に座ってビールを開けた。
「いやー、奏一郎が困ってるかなーって思って。本の翻訳、頼まれたんだって?」
「う。なぜそれを……」
「舞ちゃんから聞いたよ。なる早で洋書を一冊まるまる訳すように頼まれたんだって? 奏一郎一人だけじゃさすがにあの分厚い洋書は荷が重いかもだから、フォローしてやってくれって、舞ちゃんに頼まれたんだ」
"舞ちゃん"こと砂川舞は、俺たちの共通の友人で、幼馴染だった。
俺に仕事を依頼してくれている出版社の、親会社にあたる出版社の編集者をしている。今俺がやっているフリーライターの仕事なども、元はといえば彼女の紹介だった。今は変わってしまったが、元々の担当編集さんは彼女の大学の後輩だ。
「あー、まぁ困ってるっちゃあ、困ってるけど……」
俺はチラリと、部屋の隅に山積みにしたままの資料に視線を送る。
「連絡くれたら良かったのに。そしたら僕はいつだって奏一郎を助けるのに」
そう言って、遊眞はまっすぐ俺の目を見る。そして、優しい顔をして俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。
遊眞は本当に変わらない。
年下なのに俺を子供扱いしたがるし、基本的には誰にでも優しいけれど、たまにとんでもないことをしてきたり、言ってきたり。
それが冗談なのか本気なのか、何を考えているかすら、長年の付き合いである俺にも分からない。
「ねぇ。あの子、奏一郎の恋人でしょ? 将貴、だっけ? もうヤッた?」
「ぶふっ……!」
仕事の話から一転、突然の話題転向に、俺は飲んでいたビールを吹いた。
「ゲホッ、っ……な、なにを突然……」
「ふふ。まだなんだ? 奏一郎は本当に昔から分かりやすいね」
遊眞はテーブルにあったスルメを齧りながら、ニヤリと笑みを浮かべた。
「あの様子だと、奏一郎がタチかな? あんなに可愛かった奏一郎がネコの恋人を作るなんて」
「何年前の話だよ。俺だって今じゃそれなりに経験もあるし、恋人位作る」
「えー。奏一郎、僕がいないからって遊んでたデショ? 寂しかったの?」
そう言って、遊眞は俺の腰に手を回してくる。
「遊んでねーよ。むしろお前との関係の方が若気の至り、過去の汚点、俺の黒歴史だよ……」
あの頃、俺の性癖を見抜いた遊眞は、何にも知らなかった俺に、若さと性欲に任せてあれやこれや……。
あーもう、思い出すだけで恥だっ。マジで黒歴史すぎる。
さり気なく腰に回された手をピシャリと払いのけて、俺は残りのビールを一気に煽った。嫌な記憶は飲んで忘れるに限る。
「えー? ヒドいなぁ。むー、じゃあ今夜は奏一郎とデキないのかぁ……」
可愛らしく誘うような流し目をして見せても、今の俺の目には全く魅力的に映らない。
「あたり前だ。てゆーかお前ソファで寝ろよっ。絶対寝室には入ってくんなよ! 絶対だからな!」
「あー、知ってる。それ、フリだよね? お笑い芸人的な……」
「違うわっ!!!」
しょーもないこの酔っぱらい男に、俺はピシャリとツッコミを入れるのだった。
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