1 / 1
あおぞらきょうしつ
しおりを挟む
シュンは机の上にぐーっと伸びた。
「あーあ、疲れた。」
こうなったのはあのせいだ。感染症とかいう奴。そのせいで宿題もたんまり、ひとりぼっちの時間もたんまりだ。
左頬を机にくっつけて窓を見あげると、どんよりとした灰色の天気だった。
こんな天気で、晴れ晴れと勉強なんかできっこない。
そう思ったシュンは、じっと顔をうつむけた。
その時だった。
首筋のかみを、風がなでていった。がばっと起き上がると、目の前に草原が広がっていた。
「ええっ!」
シュンは椅子から立ちあがる。
ぐるりと見わたすと、四方八方、地平線まで緑が続いている。
そしてシュンは、机と椅子と一緒に、ぽつんと大草原の中に取り残されている。
「ここ、どこだよ?」
というか、何が起こったんだ?
突然のことで、立ち尽くすしかない。が、むくむくと、心の弾みが広がってきた。
シュンは走りだした。めいっぱい走りだした。
「くくっ。ははは!」
シュンは笑っていた。
むねの中にたまっていたヘドロみたいなものを、力一杯放り投げたようだった。
檻の中から解放された小鳥のように、シュンは笑い、走って、草の上に転がった。
シュンは草のこしょぐったさと、虫のむずがゆさに、身をよじらせてまた笑った。
空を仰ぐと、すみわたった青空が広がっていた。
その次の日、シュンは再びこの草原をおとずれた。
昨日と同じように、草原をかけまわった。その後、一緒についてきた勉強机につく。
そして、鉛筆をにぎって宿題をやり始めた。
「よーし、やるぞ」
草の香りをふくむ、さわやかな風が、「さあ書け書け」と背中を押していく。
バッタが跳びはね、ちょうちょが頭上を飛び、テントウ虫が鉛筆の先にとまる。
きっと虫たちも応援してくれている。
シュンはその日、真剣に机に向かった。
そうして宿題はあっという間に終わった。次の日も、また次の日も、宿題はちゃくちゃくと進み、のびのびと運動できた。
そんなある日だった。
その日もあの草原を頭の中で想像して出かけようと思ったけれど、気持ちがどんより沈んでいる。
顔を上げると、草原には雨が降っていた。
机の上にもぽつぽつと雨がふりおち、宿題がしめっていく。シュンは無言のまま、机のものをよせ集め、引き出しにぶちこんだ。
そして立ち上がり、ぬかるんだ地面を歩く。
水と土がすぐに肌にまとわりついてきた。しかし、シュンはそれほど気にならなかった。
雨が次々とシュンの頬をぬらしていった。
一週間後、久しぶりにここの土をふんだシュンは、目を大きく見開いた。
目の前に、花畑が広がっていた。
原っぱ一面が色とりどりに様変わりしていて、虫たちもたくさん集まっている。
「わあー!」
シュンはスキップ気取りでかけだした。
雨が降れば花が咲く。
シュンはたんぽぽの香りをかいだり、にじいろトカゲをつかまえたりして、花畑の散歩を楽しんだ。
それから机につく。
鉛筆と宿題を机の上に広げた。その隅には、つんでさた花が鉛筆立てにさしてある。
シュンはすみわたった青空を見上げてから、背筋を伸ばして最後のページを開く。
今日で、こことはお別れだ。明日からまた学校が始まる。
楽しいことと、嫌なこと、いっぱいあるけれど、やっと元の日常が戻ってくる。不安だけれど、最高に楽しみだ。
なぜ草原が現れたのかは、不思議なままだ
家でひとりぼっちのシュンをはげますため、それとも宿題をほったらかしにするシュンを応援するため。はたまた神様のきまぐれか。
理由はどうでもいいけれど、この場所に出会えてよかった、そう思う。
青空のもと、シュンは長い休みを終わらせた。
「あーあ、疲れた。」
こうなったのはあのせいだ。感染症とかいう奴。そのせいで宿題もたんまり、ひとりぼっちの時間もたんまりだ。
左頬を机にくっつけて窓を見あげると、どんよりとした灰色の天気だった。
こんな天気で、晴れ晴れと勉強なんかできっこない。
そう思ったシュンは、じっと顔をうつむけた。
その時だった。
首筋のかみを、風がなでていった。がばっと起き上がると、目の前に草原が広がっていた。
「ええっ!」
シュンは椅子から立ちあがる。
ぐるりと見わたすと、四方八方、地平線まで緑が続いている。
そしてシュンは、机と椅子と一緒に、ぽつんと大草原の中に取り残されている。
「ここ、どこだよ?」
というか、何が起こったんだ?
突然のことで、立ち尽くすしかない。が、むくむくと、心の弾みが広がってきた。
シュンは走りだした。めいっぱい走りだした。
「くくっ。ははは!」
シュンは笑っていた。
むねの中にたまっていたヘドロみたいなものを、力一杯放り投げたようだった。
檻の中から解放された小鳥のように、シュンは笑い、走って、草の上に転がった。
シュンは草のこしょぐったさと、虫のむずがゆさに、身をよじらせてまた笑った。
空を仰ぐと、すみわたった青空が広がっていた。
その次の日、シュンは再びこの草原をおとずれた。
昨日と同じように、草原をかけまわった。その後、一緒についてきた勉強机につく。
そして、鉛筆をにぎって宿題をやり始めた。
「よーし、やるぞ」
草の香りをふくむ、さわやかな風が、「さあ書け書け」と背中を押していく。
バッタが跳びはね、ちょうちょが頭上を飛び、テントウ虫が鉛筆の先にとまる。
きっと虫たちも応援してくれている。
シュンはその日、真剣に机に向かった。
そうして宿題はあっという間に終わった。次の日も、また次の日も、宿題はちゃくちゃくと進み、のびのびと運動できた。
そんなある日だった。
その日もあの草原を頭の中で想像して出かけようと思ったけれど、気持ちがどんより沈んでいる。
顔を上げると、草原には雨が降っていた。
机の上にもぽつぽつと雨がふりおち、宿題がしめっていく。シュンは無言のまま、机のものをよせ集め、引き出しにぶちこんだ。
そして立ち上がり、ぬかるんだ地面を歩く。
水と土がすぐに肌にまとわりついてきた。しかし、シュンはそれほど気にならなかった。
雨が次々とシュンの頬をぬらしていった。
一週間後、久しぶりにここの土をふんだシュンは、目を大きく見開いた。
目の前に、花畑が広がっていた。
原っぱ一面が色とりどりに様変わりしていて、虫たちもたくさん集まっている。
「わあー!」
シュンはスキップ気取りでかけだした。
雨が降れば花が咲く。
シュンはたんぽぽの香りをかいだり、にじいろトカゲをつかまえたりして、花畑の散歩を楽しんだ。
それから机につく。
鉛筆と宿題を机の上に広げた。その隅には、つんでさた花が鉛筆立てにさしてある。
シュンはすみわたった青空を見上げてから、背筋を伸ばして最後のページを開く。
今日で、こことはお別れだ。明日からまた学校が始まる。
楽しいことと、嫌なこと、いっぱいあるけれど、やっと元の日常が戻ってくる。不安だけれど、最高に楽しみだ。
なぜ草原が現れたのかは、不思議なままだ
家でひとりぼっちのシュンをはげますため、それとも宿題をほったらかしにするシュンを応援するため。はたまた神様のきまぐれか。
理由はどうでもいいけれど、この場所に出会えてよかった、そう思う。
青空のもと、シュンは長い休みを終わらせた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
そうして、女の子は人形へ戻ってしまいました。
桗梛葉 (たなは)
児童書・童話
神様がある日人形を作りました。
それは女の子の人形で、あまりに上手にできていたので神様はその人形に命を与える事にしました。
でも笑わないその子はやっぱりお人形だと言われました。
そこで神様は心に1つの袋をあげたのです。
悪女の死んだ国
神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。
悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか.........
2話完結 1/14に2話の内容を増やしました
青色のマグカップ
紅夢
児童書・童話
毎月の第一日曜日に開かれる蚤の市――“カーブーツセール”を練り歩くのが趣味の『私』は毎月必ずマグカップだけを見て歩く老人と知り合う。
彼はある思い出のマグカップを探していると話すが……
薄れていく“思い出”という宝物のお話。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です*
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
人柱奇譚
木ノ下 朝陽
児童書・童話
ひたすら遣る瀬のない、救いのない物語です。
※デリケートな方は、閲覧にお気を付けくださいますよう、お願い申し上げます。
昔書いた作品のリライトです。
川端康成の『掌の小説』の中の一編「心中」の雰囲気をベースに、「ファンタジー要素のない小川未明童話」、または「和製O・ヘンリー」的な空気を心掛けながら書きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる