あおぞらきょうしつ

春冬 街

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あおぞらきょうしつ

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 シュンは机の上にぐーっと伸びた。
「あーあ、疲れた。」
 こうなったのはあのせいだ。感染症とかいう奴。そのせいで宿題もたんまり、ひとりぼっちの時間もたんまりだ。
 左頬を机にくっつけて窓を見あげると、どんよりとした灰色の天気だった。
 こんな天気で、晴れ晴れと勉強なんかできっこない。
 そう思ったシュンは、じっと顔をうつむけた。
 その時だった。
 首筋のかみを、風がなでていった。がばっと起き上がると、目の前に草原が広がっていた。
「ええっ!」
 シュンは椅子から立ちあがる。
 ぐるりと見わたすと、四方八方、地平線まで緑が続いている。
 そしてシュンは、机と椅子と一緒に、ぽつんと大草原の中に取り残されている。
「ここ、どこだよ?」
 というか、何が起こったんだ?
 突然のことで、立ち尽くすしかない。が、むくむくと、心の弾みが広がってきた。
 シュンは走りだした。めいっぱい走りだした。
「くくっ。ははは!」
 シュンは笑っていた。
 むねの中にたまっていたヘドロみたいなものを、力一杯放り投げたようだった。
 檻の中から解放された小鳥のように、シュンは笑い、走って、草の上に転がった。
 シュンは草のこしょぐったさと、虫のむずがゆさに、身をよじらせてまた笑った。
 空を仰ぐと、すみわたった青空が広がっていた。

 その次の日、シュンは再びこの草原をおとずれた。
 昨日と同じように、草原をかけまわった。その後、一緒についてきた勉強机につく。
 そして、鉛筆をにぎって宿題をやり始めた。
「よーし、やるぞ」
 草の香りをふくむ、さわやかな風が、「さあ書け書け」と背中を押していく。
 バッタが跳びはね、ちょうちょが頭上を飛び、テントウ虫が鉛筆の先にとまる。
 きっと虫たちも応援してくれている。
 シュンはその日、真剣に机に向かった。
 そうして宿題はあっという間に終わった。次の日も、また次の日も、宿題はちゃくちゃくと進み、のびのびと運動できた。
 
 そんなある日だった。
  その日もあの草原を頭の中で想像して出かけようと思ったけれど、気持ちがどんより沈んでいる。
 顔を上げると、草原には雨が降っていた。
 机の上にもぽつぽつと雨がふりおち、宿題がしめっていく。シュンは無言のまま、机のものをよせ集め、引き出しにぶちこんだ。
 そして立ち上がり、ぬかるんだ地面を歩く。
 水と土がすぐに肌にまとわりついてきた。しかし、シュンはそれほど気にならなかった。
 雨が次々とシュンの頬をぬらしていった。

 一週間後、久しぶりにここの土をふんだシュンは、目を大きく見開いた。
 目の前に、花畑が広がっていた。
 原っぱ一面が色とりどりに様変わりしていて、虫たちもたくさん集まっている。
「わあー!」
  シュンはスキップ気取りでかけだした。
 雨が降れば花が咲く。
 シュンはたんぽぽの香りをかいだり、にじいろトカゲをつかまえたりして、花畑の散歩を楽しんだ。
 それから机につく。
 鉛筆と宿題を机の上に広げた。その隅には、つんでさた花が鉛筆立てにさしてある。
 シュンはすみわたった青空を見上げてから、背筋を伸ばして最後のページを開く。
 今日で、こことはお別れだ。明日からまた学校が始まる。
 楽しいことと、嫌なこと、いっぱいあるけれど、やっと元の日常が戻ってくる。不安だけれど、最高に楽しみだ。
 なぜ草原が現れたのかは、不思議なままだ
家でひとりぼっちのシュンをはげますため、それとも宿題をほったらかしにするシュンを応援するため。はたまた神様のきまぐれか。
理由はどうでもいいけれど、この場所に出会えてよかった、そう思う。
青空のもと、シュンは長い休みを終わらせた。
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