DRAGOON LEGEND

レオパッド

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〜〜リュウの少年とヒトの少女〜〜

魔の手

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 ヴァナディス保有の水空戦艦『フリング』の全長は
300mに及ぶ。瑠美の世界のとある大国が所有している空母戦艦並みの大きさを誇るものの、かの艦を付け狙い追って来るその存在は、ざっと見てもその二倍の
大きさを有していた。

『●●●●●ーーーーーーーーーーッッ!!!!』

 甲高く、猛々しい咆哮。
 その振動がビリビリと艦全体を伝わっていき、中にいる者達の身体をほんの数秒程度硬直させた。

「な、なに!?」

「……敵だ。しかも最悪な部類の」

 最悪な部類。
 ジークアの放つ言葉の意味に比喩はない。艦外にいるソレは紛れもなく、圧倒的と呼べる巨大さと破壊力を秘めた存在なのだ。
 ジークアが見えたのは艦体に絡みつく触腕の部分だけだが、それだけで今この艦を襲っている存在が判明できた。
 クラーケン。
 地球におけるタコやイカなどの生物の枠組みである頭足類に似た姿をしており、とりわけ目を引くのは、頭部に見える円筒状の胴体。
 そこには無数の人のソレに似た目玉がいくつもあり
、ギョロリとフリングを捉えている。
 更に奇怪なのは触腕で、先端には鋭く何重にも並んだ口部が備わり、艦の壁を食い破ろうと噛み付いている。

「拙いな…ここを出よう!」

「え、ちょっ!!」

 瑠美の手を引き、すぐに部屋を後にしようとするジークアは瞬間、部屋の壁が破壊される音を発生から1秒という速さで聞きつけ、後ろを振り返る。
 その際、手を変形させ収納。
 代わりにレヴァトを形成させ、牙を剥いて襲いかかる触腕の先端を斬りつけ、後退させる。
 痛覚があるらしく、それらしい悲鳴を上げて暴れるように引っ込む姿を確認した上で、今度こそジークアは瑠美を連れて去っていく。

「な、な、なな何、あの化け物わぁぁ!!」

「だから敵だよ!! アレスの殲滅用大型殺戮兵器、クラーケンだ!!」

「殲滅に殺戮?! おもくそ物騒なんですけどぉぉッ!!」

「そりゃアレスが造った代物だからね!!」

 アレスには技術部門というものがある。
 基本的にアーティスの製造・量産、研究を主な活動とし、更には生物兵器の開発にも着手している。
 この世界における生物兵器は、細菌・ウィルスを利用した人類のソレとは異なり、ハーフメルを実験体として改造、調整を施こすことで生み出す代物だ。
 実験体に選ばれるハーフメルは基本的に戦場で捕縛したイージスの戦士か、アレスの法を破った違反者のいずれかになる。
 どちらにせよ、クラーケンのような悍ましい化け物へと変えられてしまうことを思えば、悲惨と言う他にないが。

「ジークア殿! ご無事ですか!!」

 向かう先は管制室。その扉を勢いよく、乱暴に叩くと生体認証システムが作動。自動で開いた扉の先にはゼウとフレイアがおり、様々な情報を伝えるスタッフの怒号が飛び交っていた。

「005、006区画の外壁部のルシド(※ユグジスで生成したバリア)が持ちません!」

「他の区画のユグジスを回せ!あくまで支障がない程度に!!」

「動力部のルシドが消滅!外部壁に穴が開き、そこからクラーケンの触腕が侵入していきます
!!」

「今すぐ近くにいる隊員に向かわせろ!!火力の高いアーティスの使用は禁じ、絶対に動力部に傷一つさえ付けさせるなと伝えろ!!」

 スタッフの対応を求める喧騒の如き声よりも遥かに大きく、心の臓を震わすような怒号をフレイアは放ち、間髪入れずに答えて指示を出していく。
 この艦の指揮系統を担う者であれば、当然の
対応力だ。
 ここで何も言えず右往左往しているようでは話にならない。

「ゼウ隊長!」

「おう、ジークアに娘っ子か。状況か?ヤバめって感じだな」

 間髪入れず淡々と答える。そこには不自然にも焦燥感というものがまるでない。

「いや、そんな簡単に…」

「事実だからしょーがねぇーだろ」

 身も蓋もなく、具体性のないアバウトな言い方だが何も間違ってはいない。
 フリングよりも一回り巨大なクラーケンに襲われ、動力部の外壁に穴が開き、あまつさえ穴を開けた犯人であるクラーケンの触腕が侵入して来る始末。
 かなり最悪な部類に入るのは確実だ。

「ねぇ! なんかこう、脱出する為のシステム的なヤツないの?!」

「あるにはある。けどな、娘っ子よ。今出ていったところで、あの軟体野郎とは別の奴等の餌になるのがオチだぜ?」

「奴等?クラーケン以外にも何が…」

 ダァァンッッ!!

 突如として管制室のカラティア・ウィンダー(※この世界においてガラスに相当する物資を利用した製品。この場合はフロントガラスに当たる)に何かがぶつかる。
 全員が音のした方を見てみれば象牙色の不定形に蠢く謎の物体がへばり付いていた。
 それだけなら問題は無いのだが、その物体がへばり付いている箇所のフロントガラスがジュクジュクと音を立てて煙を出し、ゆっくりと溶けていく。
 
「"マクロファート"?!」

 その謎の物体の名をジークアが叫ぶように言う。

「な、何アレ!キモい!!」

「あのクラーケンっつー、クソデカい軟体野郎と同じもんだ。悪趣味な生物兵器って言えば、お前さんでも分かるか?」

 呑気に説明をするゼウだが、そんな事言っている間にマクロファートなる不定形の物体は、アメーバに似た軟体質で変形的な動きで溶けて出来た穴から侵入しようとしていた。
 拙い!誰もが思った直後。

 バチィィッ!!

 弾け飛ぶ火花の音と共にマクロファートは瞬きする間も無く炭化し、そのまま煤くれに変わって消え去ってしまう。
 何が起こったのか。ソレを逸早く理解したのはフレイアとジークアだった。

「お見事です!!」

「……相変わらずの早撃ちですね」

 二人の視線の先には掌をマクロファートがいた位置に向けているゼウの姿があり、その掌には稲妻の余剰エネルギーが迸っている。
 雷撃を飛ばし、消し炭へと変えたのを物語っていた。

「的が鈍かっただけだ。それより……1匹だけ、じゃねぇーよな?」

 ゼウの予想を孕んだその言葉は、嫌というほど非常に正確に。現実になるという形で的を得ていた。
 直後。


 ババババババッ!!


 何かを激しく叩きつけるかのような、そんな類の連続的な音がしたかと思えば、なんと大量のマクロファートがその視界を遮るレベルでびっしりと。
 それこそ隙間なく、埋め尽くさんばかりに張り付き、蠢き犇いていた。

「ひっ!」

 瑠美がその悍ましい光景に軽く悲鳴を漏らす。
 これがただ驚かす程度のモノなら、どれだけ
良かったことだろうか。しかし残念なことに今し方、消し炭にした個体がこの生物らしき物体の凶悪性を長々と語る必要もなく教えてくれてしまった。
 どうやらこのマクロファートというモノは、無色透明且つ無臭の強力な酸性粘液を分泌。
 ソレを利用して、敵対する者や障害となる物を容赦なく溶かず形で破壊するようだ。
 そして。コレも、ゼウの台詞を察するにどうやらクラーケンと同じで、アレスが産んだ負の産物らしい。

「むむ!このままでは…」

 かなり、非常に拙い。
 そう判断したフレイアはすぐに指示を飛ばす。

「至急告げる!!カラティア・ウィンダーの上に"エナジス・ウィンダー"を張れ!」

「了解!」

 フレイアの指示に応え、スタッフの一人が端末機器を操作する。
 すると、フロントガラスに相当するカラティア・ウィンダーの上にユグジス粒子が放つ特殊なエネルギー『エナジス』で構成されたバリアフィールドが展開される。

「ゼウ殿!雷撃を頼む!!」

 それを確認し、すかさず今度はゼウ指名で指示を飛ばした。
 聞き届けたゼウは反論も文句も何も言わず。
 ただ掌を前に出し、雷撃の閃光を目掛けて放つ。すると、雷撃はカラティア・ウィンダーとエナジス・ウィンダーの間で凄まじく、燦々と火花を発し次々とマクロファートを黒い塵屑へと変えていく。
 雷撃は闇雲に縦横無尽に暴れ狂っている訳ではなく、ゼウの思念できちんとコントロールされており、穴から内部へ漏れ出すということはまずない。

「いやはや見事ですな!!」

「俺は指示通りのことしただけだ」

 フレイアの賞賛を贈る声にゼウは興味なさ気に淡々と答えるものの、それは暗に彼女の判断力を褒めている風にも聞こえた。
 実際、あの状況下で躊躇せず。高々と確信を持って指示を飛ばせたのは、この艦の指揮者としては正しい判断であり、艦長としてそれ相応の素質を持っている事への証だ。
 あの場面で混乱して冷静さを失い、悪手としか言えない間違った指示を飛ばしてしまうのなら、無能以外の何者でもない。

「さて!危機は相変わらず続いていますが、他のファブラの方々はどちらへ行かれたのでしょう。正直手が欲しいところなのですが……」

『ゼウ隊長!!聞こえますか?!ルガです!』

なんと。まさに丁度いいタイミングでルガから通信が入った。

「おう、聞こえてるぞ。他の連中は?」

『みんな色んな場所に湧き出て来たマクロファートの対処に行ってる!!しかも、なんか普通のと違うみたい!!』

「……マジかよ」

 苦虫を噛み潰したような渋い顔になる。
 ルガの報告が真実なら、この艦の頑丈なルシドや装甲壁を容易く突破し、侵入した事を意味している。
 ルガの発言通り通常の個体と違うということは恐らくそれらは何かしら改良が施されたマクロファートなのだろう。
 少なくとも、二重の防御を突破できるのならかなり強化しているのだと推測できる。
 だが……。

「??妙です!動力源区画以外に装甲壁の損傷が見受けられません!!」

 スタッフの一人がそれを否定した。
 
「間違いないのか?」

「何度もチェックしていますが、確認できません!!」

「こちらでも確認できません!!」

「こっちでも同じです!」

「おいおい……どーなってやがる?」

 深刻に眉間に皺を寄せて呟くゼウの言葉に誰も反応することはなく。
 その呟きに対する答えはなく、この場の喧騒へとただ飲み込まれるだけだった。








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