DRAGOON LEGEND

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〜〜リュウの少年とヒトの少女〜〜

狩人、始動

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 マクロファート。
 アレス保有の生物兵器で、その役割は奇襲や撹乱。
 形状は不定形の白いアメーバのような物体で酸性の粘液を分泌し、襲って来る。
 そのマクロファートが艦内の様々な場所に突如として出現し、しかも侵入した痕跡が全くないと言う異常事態。それ故にフリング艦内は現状、危機に晒されていた。

「ゼウ殿。ジークア殿。すみませんが艦内に侵入したマクロファートの排除を、お願い致します。私はここの指揮を」

「とっくに承知の上だ。行くぞ、ジークア」

「はい。瑠美はここにいてね。フレイアがいるから大丈夫!」

 そう言って出て行く2人。
 取り残された瑠美はかなり不安な気持ちで2人の去った方向をじっと見つめていたが、そこにフレイアが声をかける。

「失礼。瑠美、と言う名で宜しいですか?」

「え?は、はい……」

いきなり声をかけられた事に戸惑いつつ、答える。

「貴方の身はジークア殿に代わって私が守ります!なのでご安心を!!」

 実に気持ちいい位に活気良く宣言するフレイアの顔は自信に満ちた笑顔そのもの。それを見た瑠美の中に自然と"任せても大丈夫かも"とある種の信頼が芽生え始めていた。

「とは言え、このままでは艦ごと落とされて、元も子もないですが! あっはっはっはっはっは!!」

「……」

 前言撤回。やはり不安しかなかった。











 フリングの中央動力室では、装甲壁に開いた穴からクラーケンの触手がいくつも侵入。数人の戦士と精鋭が対処に当たっていた。

「ハァァッ!!」

 トライポトフを振るい、クラーケンの触手を貫くとそのまま深くまで抉り込ませ、一気に引き千切る。
 意外なパワープレイを見せるが触手は他にもあり、そこからセイネを喰らおうと迫る。
 が、白閃の光弾が触手の口部へもろに直撃したことで、その牙は届くどころか無残に砕け散った。

「ふぅ~危なかった~……助かったよルグル」

 あと一歩早ければ確実にあの牙の餌食になっていただろう。光弾を放ち、窮地を救ってくれたルグルに礼を述べる。

「この程度問題ないわ」

セイネの礼に対し、淡々と返す。

「それより、あちこちにマクロファートが出現してるみたいよ」

「まぁ、そうだよね。ここにもウジャウジャいるし」

 そう言って、トライポトフから液体の弾丸を多数射出し、放たれた弾丸は丁度壁の穴から侵入して来ようとした何匹かを貫き、駆除する。

「ここはともかく、それ以外で装甲壁の損傷が無いってのに侵入しちゃってるっておかしくない?」

「おまけに出入り口から侵入した形跡は無い。不可思議よ」

 マクロファートは不定形である事とバスケットボールの一回り大きい程度のサイズを活かして、狭い場所や隙間にすんなり侵入できてしまう。
 しかし。艦全体はエナジス・フィールドが覆っている。出入り口などからの侵入は不可能。
 小型戦闘艇の射出口もだ。
 
「そうなると可能性としては……すり抜けてる?」

「……馬鹿な話って否定したいけど、こんなんじゃそう思いたくなるわね」

 エナジス・フィールド。
 特殊金属配合の装甲壁。
 この二つによって守れた艦内に何の痕跡も残さず容易に侵入できる方法は一つ。
 二重の守りを壊さず、そのまま"すり抜ける"しかない。
 埒外で突拍子もない予想だ。
 けど、実は不可能ではない。

「馬鹿な話って訳でもないさ。俺たちハーフメルや生物兵器の構成する物質の大本はユグジス粒子だ。ユグジスはそれ同士が複雑に結び付くことで存在を維持しているけど、粒子を一定のエネルギー波長に晒すとその結び付きが弱くなったり、あるいはバラバラになることで存在が不安定になる」

「それ確か、"不協和現象"ってヤツよね?」

「うん、それそれ!アレスの連中のことだからその現象を人為的に発現できるモノを開発してても不思議じゃないよ」

 理屈としては筋に沿っているかもしれない。
 とは言え、現状はあくまでも仮説。その域を出てはいない。

「セイネ様。ルグル様。こちらの討伐は完了しました」

 戦士の1人が2人へ報告を述べる。
 セイネとルグルがクラーケンの触腕相手に奮戦している間、穴から大量に入って来たマクロファートの対処していた、ヴァナディスの隊員だ。
 彼と他十数名の活躍で、ここのマクロファートは完全に駆逐された。
 とは言え、あくまでこの場所のみだが。

「君らも頑張ってくれてありがとうね」

「いえ。我々はフレイア様直轄の部隊、ヴァナディスのイージス戦士として、その役目を果たしただけです」

 セイネの感謝に対し、真摯にそう答える。
 フルフェイスタイプのヘルメットで頭部全体を覆っているので表情は分からないものの、声に含まれた少し嬉し気な感情から容易に読み取れた。

「では、我々は別の区画へ。他はまだマクロファートに対処していると思われるので」

「分かったわ。気をつけて」

 頭を下げ、急足で去って行く隊員達。
 セイネとルグルは此処に残ることにした。
 艦の心臓部である此処に穴が開いている以上もはや侵入は容易だ。
 艦内動力源は文字通り命綱で、この艦に乗る全員の命も同然。
 そう言っていい程、直結している。
 動力源に何か起きれば、それは最悪な結末を約束されることになる。
 そうならないよう此処を守る必要があるのだ。

「(……にしても妙だな。この展開は)」

 セイネは、ふと疑問に思うことがあった。
 突然敵に奇襲されるというのは、まぁ、よくある事だ。
 イージスとアレスは戦争を繰り広げる関係。
 戦争という過程の中には、奇襲などの軍事行為は常にあり、日常茶飯事と言ってもいい位だ。
 なのでそこは別段気にする事ではない。
 問題なのは、奇襲の仕方だ。
 通信ではクラーケンは前方にてフリングの進路を遮るかのように待ち構えていたらしい。
 特に隠れていた訳でもなく、堂々と前方にだ。
 アレスが過去、戦場で行って来たクラーケンの運用から鑑みると、いくつか不可解な点が浮き彫りになって来る。
 まず、クラーケンの行動。
 戦場に駆り出される兵器である以上、その為の目的があり、クラーケンの場合は"敵の死角を突いた奇襲"である。
 戦艦並の巨体とそれに見合わせた体重・力はある程度の数の差をどうにかでき、ただ突貫しただけでも相手側に与えられる損害は大きいからだ。
 しかし、奇襲というのは大抵死角から攻めるのが基本だ。
 姿を丸出しに、そこから正面突撃など。 
 もはや奇襲でも何でもない。
 にも関わらず、クラーケンは待ち伏せこそしたものの、堂々と正面切って襲って来た。
 本来とは真逆の、加えて戦略性もない行動。
 勿論これだけではない。どうやって待ち伏せできたのかも気になる。
 イージス本部の場所が特定されるのを避ける為、本部へのルートは毎度変え、三重から成る隠蔽工作を施している。
 にも関わらず、まるでフリングの先行ルートを予め知っていると言わんばかりに待ち伏せていたのは納得がいかない。
 よって、最悪の可能性が出てくる。
 "スパイ"だ。
 このフリング艦内に仲間の姿を偽ったアレスの工作兵…あるいは、裏切り者が潜んでいる。

「(……一応、念の為ってことで伝えておくか)」

 口には出さず、心中で呟く。
 この可能性は組織としても、仲間を信頼し協調し合うという、組織の方針としても最悪と言っていいものだ。
 できることなら勘違いであってほしい。現状ではこの可能性が現実的で、且つ数字としても高いが……それでも。
 セイネは仲間を信じたいのだ。











「いや~相変わらずデカいな~コレ」

 凶暴。醜悪。不気味。
 そんな三つの要素を併せ持つ、アレスの生物兵器クラーケン。
 その生物兵器に触腕でホールドされ、思うように先行できないイージスの戦艦フリング。
 この二つの巨体同士が鬩ぎ合う場所から、ほんの少し、20m程度離れた場所から高い位置
で見下ろすように鑑賞している一人のハーフメル。
 浮力を作る為の翼、あるいは装備。もしくは道具。その類が全く見えないにも関わらず、何もない遥か上空の空中に立っている。
 異様だ。
 おそらく粒果式ラーニメントの恩恵によるものだろうが……。
 それを考慮しても、そのハーフメルは出立ちからして異様さを醸し出していた。
 身体を覆い尽くす、黒いコートタイプの服装。柄も装飾品の類もなく、ただ黒いだけのソレは、まるで影が覆っているのかと錯覚してしまいそうな程に光沢が一切ない。
 そして、頭には陣笠のような円錐状の被り物をしている。
 色はコートと同じく黒だが、紫と黄の二色によって描かれた目玉模様が四つ、一つ一つがくるりと囲うように描かれている。
 性別は不明。顔は帽子から垂れ下がる黒い布で隠されているからだ。頭部を見て分かることと言えば、帽子とコートの長めの襟から見える頭髪の色が淡い紫ということだけだ。

「はてさて。の作戦は失敗したけど、その次……の方は上手く行くのかなぁ~?」

 その声音は、心底楽しいとばかりに喜色に満ちている。
 まるでゲームの展開を愉しむ子供の様な無邪気さだが、この状況ではミスマッチもいい所だ。
 
「まぁ~僕ちゃんとしては~、楽しければ何でもイイけど!!」

 だからこそ、分かることがある。
 いかに顔を隠そうともその下は…醜悪な笑みをこれでもか、と浮かべている事が。











 コアの封印というのは、最初の工程自体は臓器摘出の手術とほぼ同じだ。
 対象に麻酔的処置を施し臓器であるコアを専用の機械で取り出し、専用の収容ボックスに入れる。
 専用、とあるように材料である素材は、通常の収容ボックスに使われるような一般的なものではない。
 コアの放つエネルギー…エナジスの波長を遮断する特殊素材を使用したものとなっている。
 何故そうするのか?
 それはコア内部にある"感情を司るユグジス粒子"が関係している。
 肉体から離れることで不安定になり、それがある種の力場に近い性質へと変貌し、ハーフメルに悪影響を及ぼすからだ。
 波長は精神の強い者であればあるほど、より広範囲に渡る。
 その症状は個々によって違い、精神的錯乱や意識の混濁。一時的な記憶喪失。頭痛。不快感等々。
 こうなってしまう原因は感情を司るユグジスの性質にある。
 コアは物質的な実体がない粒子とエナジスの塊。
 無論それはただの塊ではなく、その中にある感情、記憶、知性、この三つを司るそれぞれの粒子が共鳴反応を起こし、個における自我意識を生み出す。
 ハーフメルを一つの生命体として確立するのに重要な中枢核。それがコアである。
 そんなコアを取り出せば、ハーフメルは忽ち抜け殻と化す。死にはしないが。
 あくまで意識のない仮死状態である為、コアが在り続ける限り肉体は生存を確立でき、きちんと肉体に戻せば目を覚ます。
 逆に言えば、コアが消失したその時こそ、ハーフメルにとって本当の死になるが。
 ともあれ、コアを抜かれたバルセルクは文字通り意識を有さない抜け殻の身体のままだ。
 コアを再び身体に移植しない限り、二度と覚醒することはない。それ故に艦内にある簡素な謹慎の為の牢に入れられていた。
 
「!! 識別コードを確認」

「こちらもさせて貰おう」

 丁度その牢室の前に隊員2名が遭遇。互いに鎧型のパワードスーツに登録されている識別コードを手甲に備わった識別用端末で確認する。
 端末は楕円形をしており、前方に識別コードを読み取る為の光を放射する黒いライン状の部位がある。
 その部位を相手に向けると、そこから緑色の薄い光の膜が対象の全身を覆い、識別コードを読み取るといった仕様である。
 結果は双方共に『白』。
 識別コードの読み取り以外に内部まで分析できる機能もある為、鎧を盗んで纏った変装や隠蔽に特化した粒果式を使ったとしても無駄である。

「そっちはどうだ?」

「なんとか片付いたが……他の区画から応援要請が出てる。今からそこに向かうところさ」

「そうか。丁度いい、俺もマクロファートの掃除が片付いたところだ。一緒に…ッ!!」

「?!ッ」

 行くぞ。
 最後にそう言うつもりだったが、すぐ側にあるドアから異様な気配を感じ、瞬く間に槍を構えて臨戦態勢を取る。
 気配を感じたのはもう一名の隊員もだ。
 これまで味わった事ない、背筋を得体の知れない何かが這いずり回るような、そんな気持ちの悪い感覚が嫌でも湧いて来る程のレベルだ。

「俺が先行する。お前は援護を」

「あ、ああ。分かった」

 一方が先行。もう一方が援護。
 そのような役割を決めて承諾できる程度にはまだ冷静は保てる。
 正直、気がどうにかなってしまいそうな気配なのだが、ここで気が狂えばそれこそ終わりだ。

「よし、行くぞ!!」

「おう!」

 ドアを開ける。ロックは掛かっているが、隊員の生体識別によって開く仕様の自動ドアなので、隊員が近づけば容易に開く。
 だから入る事自体は何の問題もなかった。
 その中にいる気配の大元である相手とやり合うことが問題だった。

「ざぁ~んねん♪ 仲良く死にました、とさ」

 2名の隊員の命は、戦闘という時間を数秒さえ挟まず呆気なく奪われた。
 コアのある中央を何かに貫かれたのだ。
 それは有り得ないことにオオウルの腕が剣状に変化したものだった。
 だが。それを証明するように2名の隊員を殺した下手人は紛れもなくオオウルだった。

「おーおー、よっわいな~。精鋭だったらこうはいかないってのによぉ」

「ふむ。まぁ一般の戦士より少し上程度といったところ、か。ならば早々に死ぬのは道理だ」

 オオウルの愚痴に応えるように、背後から姿を現したのは……カミフ。
 そして同じように姿を現す何者かがいた。

「無駄口はそこまでにしろ。初手でしくじった分を今、この次の手で取り返す」

 バルセルク・リーダー、ベアヌス。
 どう言うことかコアを摘出され、意識のない抜け殻と化した筈のバルセルクの3名が立っている。
 おまけに知性を宿した意味のある言葉を放つ。
 何の冗談かと思うレベルで、異常極まりない光景だ


「さぁ、"予備プラン"の開始だ」

 一切の笑みのない冷徹な表情と声で、ベアヌスはこれから起きる虐殺ショーの開催を宣言した。






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