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1章 最強のウィザード様

嗚呼、私のウィザードさま 「神聖なるウィザード様?」

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 マリアが思う
 (――ウィザードさまに お願いしなきゃっ!)

周囲に炎の魔力が暴走する中 幼いマリアが周囲を見渡し 目的の人を見付け叫ぶ
『お母さん!』
幼いマリアが走って向かうと マリアの声にソニアが振り向き娘の存在に驚くと慌てて向かおうとするが ソニアの体が隣に居たウィザードに抑えられる ソニアが言う
『マリア!』
幼いマリアがソニアへ向かおうとするが 目に見えない結界に弾かれ 僅かに悲鳴を上げて腰を打つ マリアが慌てて顔を上げて言う
『お母さんっ!?』
周囲の炎は増し 何処かで上がった悲鳴に 幼いマリアが顔を向けるとマリアの視線の先 建物の外壁が崩れ落ち人々が埋まる マリアが目を見開き ソニアの横に居るウィザードへ叫ぶ
『助けてっ ウィザードさまっ!』
幼いマリアの声にウィザードが一度視線を向ける マリアが必死に叫ぶ
『お願いっ!皆を助けてっ!ウィザードさま!お願いっ!』
幼いマリアの必死の呼び掛けに ウィザードは冷たい視線を返してから顔を逸らす
幼いマリアが驚いて言う
『ウィザードさま… どうしてっ!?』
幼いマリアの上部で異音が鳴る マリアが見上げると施設の屋根にヒビが入っている マリアが驚きソニアへ向いて叫ぶ
『お母さんっ!ウィザードさまっ!?』
施設上部で破壊音が鳴り響く 幼いマリアが再び上部を見上げると施設の屋根が破壊され 炎と共に瓦礫が落ちて来る マリアが悲鳴を上げる
『キャァアアーーッ!』
ソニアの声だけが聞こえる
『マリアッ!』

14年後――

マリアが飛び起きて息を切らせる
「はぁ… はぁ… はぁ…」
マリアが肩で息をしながら周囲を見る 朝日の差し込む窓 静かな女子の部屋 マリアがいつもと変わらない部屋の様子に息を整えホッとして言う
「…夢?もう ずっと見ていなかったのに… どうして?」
マリアがふとカレンダーを見ると マリアの視線の先 カレンダーに印がつけられている マリアがそれを見て微笑して言う
「そっか?やっぱり…」
マリアが思う
(もうすぐ  私も…)
マリアが微笑した後 ハッとして言う
「あっ  時間は…?」
マリアが枕元の目覚まし時計を見て 驚いて叫ぶ
「きゃぁあっ 遅刻っ!」
マリアが慌ててベッドを出て 慌しく準備に走る

会社

課長が叫ぶ
「マリア君っ!」
マリアが慌てて言う
「はいっ!課長っ!」
課長が言う
「これで何回目かねっ!?」
マリアが頭を下げて言う
「すみませんっ!」
課長が溜息を付いて言う
「全く… 君は仕事は出来るのだから 後は その遅刻癖を 何とかしたまえ」
マリアが頭を下げて言う
「はいっ すみませんでした…っ」
課長が立ち去る マリアがホッとする リナが苦笑して言う
「マリア どうしちゃったの?3日も連続で 遅刻だなんて?」
マリアが苦笑して言う
「うん… ちょっと この所寝不足で?今日は特に 朝方夢を見ちゃったものだから…」
マリアが席に座る マキが言う
「まぁまぁ?そう言う時もあるよね~?」
マリアが言う
「いつの間にか 目覚ましも止めちゃってたみたいで…  けど!明日は 絶対っ 遅刻は出来ないからっ!今夜は 手の届かない位置に置いて寝るつもり!うん!」
マキとリナが疑問して言う
「明日ー?」
「やだ?マリア 明日は休みでしょ?」
マキとリナが笑う マリアが頷いて言う
「会社は休みだけど…」
マリアが微笑して言葉を止める リナとマキが疑問して言う
「休みだけどって…」
「もしかして マリアっ!?」
マキとリナが声を合わせて言う
「「デートォ~~!?」」
マキとリナがキャッキャッと騒ぐ マリアが慌てて言う
「ち、違う違うっ!違うったら!」
課長が遠くで咳払いをする マキとリナとマリアが衝撃を受け慌てて仕事に掛かる

昼休み

マリアとマキとリナが手作り弁当を食べている マキとリナが話していると マリアがぼーっとしている マキとリナが気付き顔を見合わせてから言う
「マリア?」
マリアがハッとして言う
「はいっ!?…え?あれ…?」
マキとリナが顔を見合わせてから苦笑して言う
「マリア 本当に大丈夫ー?」
「顔色も余り良くないし… 早退した方が良いんじゃない?」
マリアが慌てて言う
「あ、ううんっ!?大丈夫!違うの!ちょっと 緊張してて…っ」
マキとリナが顔を見合わせてから マキが言う
「緊張?だって デートじゃないって?」
マリアが苦笑して言う
「デートじゃないけど あ… でも…」
リナが言う
「でも?」
マリアが言う
「やっぱり2人には言って置くね?あのね 私 実は… ”奉者”になるの」
マキが呆気に取られて言う
「奉者って…?」
リナが驚いて言う
「それじゃ マリア!?ウィザード様に お仕えするって事っ!?」
マリアが頷いて言う
「うん」
マキが言う
「”ウィザード様”?」
リナが言う
「凄いじゃない!どうして今まで教えてくれなかったの?あ、ひょっとして?本当は秘密にしないといけない事だ とか…っ?」
マリアが顔を左右に振って言う
「ううんっ そんな事は無いんだけど その…」
マキが言う
「ウィザード様かぁ~?ふふっ 何か知らないけどさー?”ナニナニ様~” なんて言われる人に仕えるだなんて 凄いじゃーんっ!あ!それじゃ もしかして これからは マリアも マリア様ー みたいな!?」
マリアが顔を左右に振って言う
「ううんっ!そんな事無い!友達は友達のままだよっ!?だから 私に様なんて付けないでっ!?」
マキとリナが微笑し頷いた後 リナが言う
「でも 確か 奉者様になるのだって 色々と勉強して 大変なんじゃないの?」
マリアが言う
「えっと… うん、勉強はね?会社が終わった後に 奉者協会の講習会に参加したの …でも、会社の後だと 講習会も後半だけしか受けられなくて」
マキが疑問して言う
「講習会なんて言うのがあるんだ?それじゃ 希望者もそれだけ一杯居るって事じゃない?その中から選ばれたって事はぁ~ やっぱり マリア凄いよっ!」
マリアが苦笑して言う
「私も まさか 自分が選ばれるだなんて 思って居なかったんだけど  …今回はきっと 同じ講習会の人たちから 何人か選出されたから そのお陰だったんだと思う」
リナが言う
「でも 選ばれたって事は やっぱり マリアはそっちを本職にして こっちの会社は…  辞めちゃうって事よね?」
マキが言う
「えー!嘘ぉ~っ そうなの!?そう言う事なら なんで もっと早くっ!?」
マリアが言う
「あ、ううんっ まだ その辺りはハッキリしていなくて」
マキとリナが疑問して言う
「「え?」」
マリアが言う
「奉者になろうと思った時は そのつもりだったのだけど… 何だか 講習を受けてみたらね?奉者のお仕事って ちょっと頑張れば 副業としてもやっていけそうなの だって 数日に一度の儀式の手配と それに同行するだけだから!」
マキとリナが顔を見合わせてから リナが言う
「そうなの?」
マリアが言う
「うん しかも、ウィザード様が町に ご到着してから 最初の頃は 特に 最低でも5日から1週間は お部屋で安静にしていないと いけないらしくて」
マキとリナが疑問して言う
「安静にって?そんなんじゃ まるで…」
「病気か何か…?」
マリアが苦笑して言う
「病気って訳じゃなくて ウィザードになるには 魔力を身体に取り入れる処置をするから その魔力が体に定着するまでは 安静にしていないといけないんだって」
マキとリナが表情を歪めて言う
「ひえぇ…」
「魔力を取り入れる処置なんてあるのね… 何だか怖いわ…」
マリアが苦笑して言う
「確かに そう言う部分は ちょっと怖いけど… ウィザード様は 人と神様の間の存在って言われてて 人の扱える力を 遥かに越える魔法を扱う事が出来る人 …だから、私は ウィザード様こそ 今の この世界の救世主様だと思うの!」
マリアの脳裏に過去のウィザードの姿が過ぎる マリアが意志を固める マキが言う
「…そっか?マリア… 頑張ってね!」
マリアがマキを見る マキが言う
「私は その ウィザード様ー!の事は 何も知らないけどさ?マリアの事は!応援してる!」
マリアがマキを見て微笑して言う
「ありがとう マキ!」
リナが苦笑して言う
「もちろん 私もよ?」
マリアがリナを見て微笑して頷く マキが言う
「マリア 話 聞かせてね!?」
マリアが微笑して言う
「うん!」

講習会

マリアが駆け込んで来る 講習仲間と講師が振り向くと マリアが言う
「あ、遅れて… 失礼します…」
講師が苦笑して言う
「マリア奉者?これまでは 仕方無しとしていたが 正式に奉者として選ばれたからには 今までのお仕事の方は 辞める手続きは進めているのかな?」
マリアが言う
「あ… その… まだ ですが… もちろん!奉者の仕事を 優先する事にしていますので!」
講師が言う
「うん… 奉者は 副業を禁止されている訳ではないが くれぐれも お仕えするウィザード様に 不手際の無い様に 君は特に この町のウィザード様に お仕えする奉者なのだから この町の講師である 私からも よろしく頼むよ?」
マリアが表情を困らせつつ言う
「は… はい…」
講習仲間たちがコソコソ話す 講師が咳払いをして言う
「ううんっ では、いよいよ明日…」
マリアが表情を落として思う
(やっぱり …会社は辞めなきゃダメなのかな…?)
マリアが溜息を吐く 講習仲間たちが横目にマリアを見る

自宅

マリアが帰宅して玄関で言う
「ただいまー」
ソニアの声がする
「お帰り マリア 遅かったわね?」
マリアが微笑してリビングを覗いて言う
「うん、実はね お母さん?」
ソニアが言う
「うん?どうしたの マリア お風呂沸いてるわよ?」
マリアが一瞬呆気に取られた後苦笑して言う
「あ… うん… …それじゃ 入っちゃうね?お風呂!」
ソニアが微笑して言う
「ええ 良く温まって 最近貴方疲れているみたいだから 明日はお休みでしょ?ゆっくり休みなさい」
マリアが微笑し頷いて言う
「う、うん そうだね?…そうする」
マリアが立ち去る

浴室

マリアが湯船に浸かりつつ言う
「やっぱり お母さんには… もう少し後にしよう… もしかしたら 私 奉者として半人前だって ウィザード様に 断られちゃうかもしれないし…」
マリアが湯船に深く浸かって思う
(それに… 私が奉者になる理由 お母さんが聞いたら…)
マリアが視線を落とす 間を置いてマリアが湯船から上がる

廊下

マリアが髪を拭きつつ歩いて来ると ソニアが顔を出して言う
「マリア?」
マリアが立ち止まり振り返ると ソニアが微笑して言う
「そう言えば さっき 何か言い掛けていたでしょう?”実は”って?」
マリアが気付き微笑して言う
「あ、ううんっ 何でもない!早く寝るね?」
ソニアが言う
「そう?それなら良いけど」
マリアが言う
「うんっ …あ、そうだ お母さん?私、明日用事があって もし、9時になっても起きて来なかったら 起してもらえないかな?」
ソニアが言う
「ごめんなさい マリア 明日はお母さんも 奉者のお仕事で朝は早いのよ」
マリアが疑問して言う
「え?でも お母さん 明日は月に数回しかない お休みの日なんじゃ?」
ソニアが微笑して言う
「ええ、でも 明日は急遽 ウィザード様の外出の予定が入ったものだから そんな時はいつもより早くに行かないといけないから 朝は5時には出ちゃうわね?」
マリアが苦笑して思う
(そうなんだ… お母さん たまの休日まで…)
マリアが言う
「お母さん やっぱり 奉者のお仕事って… 大変?」
ソニアが一瞬呆気に取られた後 微笑して言う
「そうね?大変と言えば 大変かもしれないけれど…」
ソニアが微笑する マリアが呆気に取られた後 微笑して思う
(折角の休日を潰されちゃうのに… 全然 大変って感じじゃないみたい)
マリアが言う
「お母さんは 奉者のお仕事 好きなんだね?」
ソニアが微笑して言う
「ええ、そうね?奉者のお仕事には 誇りも持てるし それに ウィザード様に お仕え出来る事は とても 光栄な事だから お母さんは 大好きよ?」
マリアが微笑して頷いてから言う
「うん!それじゃ お休みなさい お母さん」
ソニアが微笑して言う
「ええ、お休みなさい マリア」
マリアが立ち去る

夢の中

施設上部で破壊音が鳴り響く 幼いマリアが上部を見上げると 施設の屋根が破壊され 炎と共に瓦礫が落ちて来る マリアが悲鳴を上げる
『キャァアアーーッ!』
ソニアの声だけが聞こえる
『マリアッ!』
幼いマリアが強く目を閉じて怯える 間を置いてマリアが疑問して目を開くと 強い光の存在に気付きマリアが顔を上げ 正面へ視線を向ける 

視線の先  ウィザードの持つ杖が強く光っている マリアが驚きハッとして周囲を見る 暴走していた炎が強い風に巻き上げられている マリアがウィザードを見る 

ウィザードの顔は見えないが ソニアが驚いている マリアが言う
『ウィザードさま… 助けてくれた…!やっぱり お母さんの ウィザードさまが…!』

幼いマリアが微笑する 周囲の風が炎や瓦礫を収め やがて辺りに静けさが戻る 無くなった天上から日の光が差し込み 柔らかな光にマリアがホッとするとウィザードの杖が光を失い倒れる

マリアが一度杖を見てから何となく振り返ると マリアの視線の先 幼い男の子が倒れている マリアが一歩向かってから ふと周囲を見渡して驚く 多くの負傷者が居る

マリアが怯えて改めて男の子へ視線を向ける 男の子の額から血が流れている マリアが表情を落として言う
『皆も… この子も…  私がっ もっと早く お願いすればっ 皆…っ』

幼いマリアが目を瞑って思う
《助かったかもしれなかったのに!》
幼いマリアが目に涙を浮かべる


マリアがハッと目を覚ますと 落ち着いて言う
「また あの夢…」
マリアが息を吐き周囲を見る 見慣れた自室の朝 マリアが思う
(お母さんのウィザード様は やっぱり あの時 私のお願いを聞いてくれたのかな?お母さんは お願いは出来なかったって言ってた… 奉者はウィザード様に仕える者 お願いなんて 出来ないんだって… でも だからこそ!)
マリアが言う
「私は!奉者に許される 最初の1度きりの お願いにっ!」
マリアが意を決して頷き ハッとして言う
「あっ!いけないっ!時間はっ!?」
マリアが目覚まし時計を探し いつもと違う場所に置かれた目覚まし時計を見付けると 一瞬呆気に取られた後 苦笑して言う
「私も お母さんと同じ ”奉者の素質” が あるのかな?…なんちゃってねっ?」
マリアが微笑して言う
「目覚ましが 鳴る前に起きたのなんて 久しぶり!」
マリアが嬉しそうに伸びをする

玄関

マリアが走って飛び出して来る マリアが慌てて言う
「早く起きれたと思ってったら もう こんな時間っ!」
マリアが走って行き 大通りで慌ててタクシーを止める

マンション前

タクシーが到着し マリアが降りると周囲に人だかりが出来ている マリアが周囲を見てから近くの男性に聞く
「あのっ ウィザード様はっ?もう いらっしゃいましたかっ?」
男性が言う
「いや、まだ来てないよ アンタも見に来たのかい?見学はこのロープの後ろじゃないと ダメなんだぞ?」
マリアが言う
「あ、いえ… 私は その…」
講師が言う
「マリア奉者っ!」
マリアがハッとして振り返って言う
「あ!先生っ!?」
講師がマリアの腕を引いて言う
「ほらっ 急いで こちらへ…!もうすぐご到着されるっ …相変わらず 君は 時間に余裕が無いな?そんなで本当に 大丈夫かね?」
マリアが困って言う
「す… すみません」
講師が言う
「とにかく 今は間に合ったから良い そんな顔はするな ウィザード様の奉者として 相応の態度を取る様にっ …良いね?」
マリアが気を取り直して言う
「はいっ 先生」
マリアが迎えの場に立つと 講師が脇に退く やがて遠くから声が上がる マリアが反応すると 視線の先に車が見え ゆっくりとマリアの前まで来て停車する 

マリアが緊張する 周囲がざわめく中 講師が一度マリアを見てから車のドアを開ける マリアが息を飲んで見詰める先 マリアと人々の視線の先 開かれたドアから ウィザードのレイが現れる 

人々とマリアがレイの神々しい姿に言葉を失う レイが車を降り視線を向けた先マリアが居る マリアがハッとして 言葉を言おうとするが 緊張でぎこちなく言う
「あっ あの…っ ウィ… ウィザード… 様…っ」
マリアが僅かに怯える レイがマリアへ向かいゆっくり歩き マリアの前で立ち止まる マリアが動けずに居ると講師が小声で言う
「マリア奉者っ」
マリアがハッとして言う
「は、はいっ!あのっ 私がっ!あ、貴方様のっ 奉者… です!…えっと?あっ それでは 早速!お、お部屋へっ ご案内致しますっ!」
マリアがやっと身動きして言う
「こ、こちらですっ」
マリアが足早に先へ向かう レイがゆっくりと後を追う 

マリアがエレベータのスイッチを押してから 思わず胸を押さえて息を切らす レイがマリアの後ろに到着すると マリアの胸がドキッと高鳴る 

マリアが顔を上げるとエレベータのドアが開く マリアがエレベータへ乗り込み開扉延長ボタンを押したまま表情を困らせて思う
(ど、どうしようっ!?こんなに緊張する…っ!こんな状態で 私…っ ちゃんと お願い を言えるかなっ!?)
マリアがハッとして顔を上げる レイは既にエレベータ内に居てマリアを見る マリアが慌てて最上階のボタンを押し閉ボタンを押す エレベータが上昇する

マンション最上階

エレベータが到着してドアが開くとマリアが飛び出し 同時に思い出したように慌ててエレベータのボタンを押す レイがエレベータを出ると マリアが部屋のドアへ向かい鍵を開け ドアを開けて言う
「こちらがっ お、お部屋で御座います…っ」
レイが入る マリアが入りドアを閉めて言う
「えっと… 間取りの方は こちらのキッチンの奥にリビングが…っ リビングの右側に 寝室が有りまして 逆側が…っ」
マリアが言いながら室内へ入って行き リビングの入り口に立って 左右を示しつつ言う
「そちらが 瞑想室となっております…っ 結界製造装置等の点検は 全て済まされていますのでっ …えっと 何か不備が御座いました際はっ ほ、奉者であります 私の方へ何なりと…っ!?」
マリアが早口に言い終えて ハッと振り向くと すぐ横にレイが立って居て マリアがレイの顔を見上げる レイがマリアへ向いて言う
「この部屋に 2人きりで居る間は 言動に気を張らずとも良い …そうであろう?」
マリアが一瞬呆気に取られた後慌てて言う
「は、はい…っ そ、そうっ です…っ!?」
レイが言う
「それは 我も 同じく なれば その 稚拙ちせつな言葉も必要ない 慣れた言葉で話したら良い」
マリアが言う
「あ、いえっ!私はウィザード様に お仕えする 奉者ですのでっ」
レイが言う
「我もこの外にて 言葉を放つ事は  許されず なればこそ  この場所に居る間は 気兼ねなく 話をしたい」
マリアがホッとして言う
「は… はい…」
マリアが思う
(良かった… 優しい人みたい …これなら)
レイが言う
「まずは 1つ教えて欲しい 我の奉者とある その方の名を」
マリアがハッとして思う
(き、来たっ!ウィザード様から 奉者への問い掛けっ!これに 私が答えたら きっとっ)
マリアがレイの顔を見上げる レイがマリアを見つめる マリアが頷いて言う
「わ、私は…っ!私の名前は マリア と申しますっ ウィザード様!」
レイが微笑して言う
「マリアか 良い名だ」
マリアが微笑する レイが言う
「では マリア ウィザードの古き契約に従い 我は 我が奉者 マリアの望みを1つ受け入れよう 何でも良い 望みを申せ」
マリアが驚きレイの目を見つめる レイが言う
「何か あるか?」
マリアが言う
「は… はいっ!ウィザード様っ 私っ 1つ ウィザード様へ お願いがありますっ!」
レイが静かに頷く マリアが思う
(そうっ このお願いをする為にっ 私は 奉者になる事にしたのっ!お母さんっ 私 言うわっ!)
マリアが意を決して言う
「1度だけ… 1度だけですっ!私のお願いを聞いて下さいっ!私がいつか お願いをする その時にっ!ウィザード様の お力を 貸して欲しいんですっ!」
レイが言う
「そうか  我が名は  …ん?…あれ?」
マリアがレイの法衣を掴んで言う
「お願いしますっ!ウィザード様!ウィザード様のお力が 必要な時が きっとある筈です!その時 私が お願いしたらっ 1度だけっ 私のお願いで 魔法を使って下さいっ!」
レイが呆気に取られた状態から 気を取り直して言う
「…ウィザードは 己の奉者は守るもの その様な願いをしなくとも マリアは我に守られる」
マリアが顔を左右に振ってから必死に言う
「違うんですっ!私だけじゃなくてっ!皆を守って欲しいんですっ もう二度と… あんな事故が起きない様にっ!」
マリアがレイの目を見つめる レイが間を置いて言う
「…分かった」
マリアが微笑して言う
「有難う御座いますっ!ウィザード様!宜しくお願いしますっ!」
マリアが勢い良く頭を下げる レイが言う
「だが 本当に その願いで良いのか?」
マリアが反応する レイが言う
「では マリア?マリアは我の事は 何と呼ぶつもりだ?」
マリアが呆気に取られて言う
「え?あ… それは…」
レイが言う
「マリア?」
マリアが微笑して言う
「は、はいっ では… 私はっ 外に居る時と同じ様に 何処であっても  ウィザード様の事は ”ウィザード様”と お呼び致します!」
レイが表情を顰めて言う
「…っ 本気か…?」
マリアが苦笑して言う
「はい 本来 ここで私が言うべきお願いは 貴方様のお名前をお伺いする 奉者だけの特権ですが… でも 良いんです!私が1人だけ知る事が出来る ウィザード様のお名前は 他の人に伝える事も許されませんし 他の人の前で呼ぶ事も出来ません!それなら!?私は 私以外の人の役にも立つ こっちのお願いの方が!絶対 良い筈ですから!」
マリアが微笑む レイが頭を押さえて不満そうに言う
「あぁ… そう…?…うーん 何か  すげぇ 予定 狂った」
マリアが驚き言う
「え?」
マリアが思う
(い、今?す… 『すげぇ』って…?)
レイがマリアの肩を抱いて言う
「なぁ マリア?やっぱ そのお願い やめようぜ?」
マリアが思わず言う
「はいっ!?」
レイが言う
「だってさぁ?考えてもみろよ マリア?折角 ウィザードと奉者なのに マリアが俺を 外でも内でも ”ウィザード様”だなんて呼んだらさぁ?何も始まらないジャン?」
マリアが固まっている レイが言う
「唯でさえ お互い 人の代表だの 人と神様の間だのって 外では 硬っ苦しく居なくちゃ いけないんだ だったら せめてここに居る時くらいは お互い名前で呼び合わなきゃ 良い関係も 始まらないって?マリアも  そう思うだろ?なぁ?マリアー?」
マリアの中のウィザードへの認識が崩壊する レイが疑問して言う
「マリア?」
マリアがぎこちなくレイを見て言う
「あ…あの…?」
レイが軽く言う
「ん?何だ?マリア?」
マリアが言う
「貴方 本当に ”ウィザード様” …ですよね?」
レイが軽く笑って言う
「え?あははっ この姿 見て そんな質問するのか?ここまで完璧な偽物が居たら 逆に すげぇって!」
マリアが言う
「いえ… その… 外見は完璧なんですが」
レイが言う
「ん?外見は?あぁ なら 中身の心配か?今は正直 なんかデカイ魔法を1発 見せろって言われてもな 結構キツイけど 俺の魔力はすげぇって!皆も言ってるから!」
マリアが言う
「いえ… そちらの方でもなくて… つまりその…」
レイが言う
「だからさ マリア?」
マリアが疑問して言う
「はい?」
レイが言う
「俺が居れば 儀式の失敗なんて有り得ない!儀式で起きる魔力の暴走は ウィザードの技量不足が原因なんだ けど俺は 5大属性魔法において 最も扱いが難しいとされている 風を操る!その時点で 歴代のウィザードの中でも上位に入るんだ!な?これで 安心しただろう マリア?マリアが仕えるウィザードは 最強のウィザードだ!俺には その自信と実力がある!」
レイがマリアを見る マリアがレイを見上げる レイが微笑して言う
「だから 望みを撤回しろ!それで!」
マリアがハッとしてから言う
「い、いいえっ!駄目ですよっ!?」
レイが言う
「え?何で!?」
マリアが言う
「何でも何もっ 撤回はしませんっ!絶対っ!」
レイが言う
「ここまで言っても 信じられないのか!?」
マリアが顔を左右に振ってから言う
「そ、そうじゃないんですっ!私は ウィザード様の 実力ではなくてっ 私は!えっと…っ あれ?」
レイが言う
「だからっ ”ウィザード様”じゃなくてっ!」
マリアが言う
「”だからっ” お願いはっ 絶対変えませんっ!私 その為にっ!」
レイが言う
「”その為に”!?」
マリアが視線を泳がせてから言う
「…いえ?なら?…ウィザード様は?何でウィザード様に なったんですか!?」
マリアがレイを見る レイが一瞬呆気に取られた後微笑して言う
「それは もちろん!」
マリアが疑問して言う
「”もちろん”?」
レイがマリアを抱きしめて言う
「”マリアのウィザードさま”になる為だよ!マリア!」
マリアが呆気に取られて言う
「は?…はぁあっ!?」


続く
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