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外伝8話

アールスローン戦記外伝 アールスローン真書 メイリス兄弟の決意

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【 政府研究局 】

研究員がネックセンサーを調べている ラミリツがやって来て様子を見て言う
「あのアクセサリーについて 何か分かった?」
局長が言う
「ナノマシーンが込められていると言う事は確認出来ました しかし ナノマシーンではありましても 恐らく補填用のものではなかろうかと」
ラミリツが疑問して言う
「その”補填用の”って?」
局長が言う
「ナノマシーンは人体の血中に混入させる物である為 不慮の事故や その他によって 体外へ排出され回収が不可能になる場合があります その他にも何らかの要因によって ナノマシーンが減ってしまったりなどした際に それを補う為に取り入れるものが 補填用のナノマシーンです」
ラミリツが言う
「それじゃぁ 補填用のナノマシーンがあれば 本物のナノマシーンのコピーを作れるって事?確かナノマシーンって 増産出来ないんじゃなかったっけ?」
局長が言う
「はい 補填用のナノマシーンは 元のナノマシーンの補助程度の物ですので 本物のナノマシーンとは 比べ物になりません コピーにもならないと考えて頂ければ」
ラミリツが考えて言う
「ふーん… なら 他には?」
局長が言う
「他には… 強いて言うのであれば 内側の素材に金が使用されています」
ラミリツが言う
「え?内側にって…?外側は 黒なのに?」
局長が言う
「金は もっとも伝導性の高いものです 熱伝導と共に電気信号なども… 機械でも最も重要な箇所には 金を使います」
ラミリツが言う
「それじゃ 補填用のナノマシーンからの情報を… その人の身体に?それで マスターみたいな力が得られるの?」
局長が言う
「いえ 確かに理論的にはそうですが 先ほどもお伝えしましたように 補填用のナノマシーンでは…」
ラミリツが言う
「うん そうだよね?それじゃ 何の意味もない…」
局長が言う
「しかし、補填用のナノマシーンではなく 別の… それこそ 本物のナノマシーンが入っていたら もしかしたら 可能であるのかもしれません」
ラミリツが言う
「可能って?マスターになれるって事?」
局長が言う
「過去 ルイル・エリーム・ライデリアが研究していた 政府のマスタートップシークレットの復元です」
ラミリツが言う
「それって 帝国のマシーナリーを操るって事?」
局長が言う
「はい そうです」
ラミリツが考えてからネックセンサーを見る

【 国防軍総司令本部 総司令官室 】

アースが電話をしている 受話器からラミリツの声がする
『…って感じで 分かったのはそれだけ』
アースが言う
「そうですか… それで 現物の方は?」
ラミリツが言う
『悪いけど 政府のマスタートップシークレットに関わってる可能性があるから 国防軍へは渡せないって』
アースが苦笑して言う
「先のお約束では こちらでも調べさせて頂けると言う お話だったと思いますが?」
ラミリツが言う
『それは 悪かったと思ってるけど…』
アースが言う
「まぁ 良いでしょう 政府のマスタートップシークレットに関わっていると言う事が聞けただけでも 本来でしたら 隠さねばならない部分です そして その方法も…」
ラミリツが言う
『僕としては そっちでも調べてもらいたいって思ってるけどさ?やっぱ… けじめとかは ちゃんと付けて置かないと いけないでしょ?』
アースが言う
「そうですね 攻長閣下の仰る通りかと」
ラミリツが言う
『…もしかして …怒ってる?…って言うか 最初っから怒ってるよね?その口調』
アースが苦笑して言う
「さぁ…?これからの 貴方次第だろうな?」
ラミリツが言う
『うわぁ… 嫌な感じ… 怒ってるなら そうだって言ってくれれば良いのにさ?』
アースが一瞬間を置いてから言う
「…”そうだな”」

【 政府研究局外 】

ラミリツが衝撃を受けて言う
「さ… 流石… 凄い似てるよ…」
ラミリツの携帯から アースの声がする
『伊達に23年も 家族ではないさ』
ラミリツが苦笑して言う
「うん… なら 本当に…」

【 国防軍総司令本部 総司令官室 】

アースが電話をしている 受話器からラミリツの声がする
『…ゴメン』
アースが呆気に取られた後 ぷっと吹き出し笑い出す
「ふ…っ はははははっ」
ラミリツが言う
『えぇええっ!?何で!?そこって笑うトコ!?』
アースが言う
「貴方と話していると調子が狂う やはり…」
ラミリツが言う
『分かってるよ どうせ子供だからって 言いたいんでしょっ?』
アースが一瞬呆気に取られた後苦笑してから 気を取り直して言う
「それから 当の ユラ…」

【 車内 】

ラミリツが車内後部座席に座っている 携帯からアースの声がする
『…いや、メルフェス・ラドム・カルメス元長官の取調べの方は?』
ラミリツが一瞬反応してから言う
「うん、間違いなく あいつが本物じゃないって事は 僕でも分かったよ …でも アイツが誰か?って事よりさ?今はアイツが事件を起こした犯人だって事は間違いないから 逮捕罪状のままに取調べをしているんだけど…」
アースが言う
『その上であっても何か問題が?』
ラミリツが言う
「うん… なんか良く分からないんだけど ハブロス総司令官が言ってた様に ユラ・ロイム・ライデリアがアイツの偽者を演じていたって言う その間に僕は一度会ってるんだ でも、その時と 先日… いや、今もだけど… 何か全然違う感じがするんだよね?」
アースが言う
『違うとは?』
ラミリツが言う
「見た目は一緒だけど 以前会って兄上を人質にされて アイツを長官にしろとか アンタの弟からアールスローン戦記の原本を奪って来いとかって 脅迫された時は… 僕はアイツが偽者だって事が分からなかった… 本物のアイツと同じみたいに 色々考えがあるって感じで 下手に動けないなって…?言われるままにするしかなかったんだけど… でも、今のアイツは」
アースが言う
『今の奴は?』
車が到着して ラミリツが車を降りながら言う
「ハッキリ言って… ただの馬鹿?」
ラミリツが政府警察本部を見上げる

【 政府警察本部 留置所 】

ユラが檻を掴んで言う
「おいっ!聞けっ!政府の防長は!あのラミリツ・エーメレス・攻長は 偽物の攻長だぞ!アールスローン戦記の原本に記された 悪魔の兵士は 別の者なのだっ!」
ユラの檻の前に居る警官1が軽く息を吐く 別の警官2がユラを見て言う
「なんだ?あれ?」
警官1が苦笑して言う
「アールスローン戦記の 熱狂的ファンか何かじゃないのか?あんなのが 政府の長官だったなんて 恥ずかしいよなぁ?」

【 政府警察本部 通路内 】

ラミリツが歩きながら携帯で話している
「面会して話をしたんだけど 本物のアイツとは全然別物 …それこそ本物を知る人が今のアイツと面会したりしたら 誤認逮捕だって提訴されそうだよ?」
携帯からアースの声が聞こえる
『ほう?では… 私が面会をしてみるか』
ラミリツが呆気に取られて言う
「え?」
アースが言う
『生憎 私は操られている際の奴とは 面と向かって話をしてはいないが… その分 ユラ・ロイム・ライデリアとは話をしていた 是非とも会って もう一度話しをし …今度は マスターブレイゼスの事を聞き出したい』
ラミリツが言う
「じゃぁ わざわざこっちに来るの?国防軍の総司令官様が?」
アースが言う
『ご迷惑だと?国防軍総司令官であるなら 拘留者が元政府長官であろうとも 面会は許可される筈だが?』
ラミリツが言う
「いや 別に 面会したいなら構わないけどさ…?けど、一応 監視が付くよ?それに会話も録音されるけど?」
アースが言う
『それは 後に公にされるものであると?』
ラミリツが言う
「それはないけど… 会話の内容に不審な部分があった場合は 鑑識に回されたり政府の上層部で審査される事もあるよ」
アースが言う
『なるほど… では 攻長閣下?私からネックセンサーの情報を渡し その礼として こちらで調べさせて頂けると言う取引が 不意になりましたので』
ラミリツが困って言う
「それは… だから代わりに情報は渡したじゃない?」
アースが言う
『その内容は こちらで現物を調べれば分かった事だ …ですので その補填として政府長攻長である 貴方のお力を少々貸して頂けないだろうか?』
ラミリツが疑問して立ち止まって言う
「え?僕の力って?」

【 面会室 】

ユラが連れて来られて ハッとして駆け寄って言う
「ハブロス総司令官!」
ユラの前にアースが座っていて言う
「久しぶりだな 偽カルメス」
ユラが驚き慌てて周囲を見渡す アースが苦笑して言う
「心配はない 今ここには貴方の正体を知る者しか居ない」
ユラがホッとして言う
「それでは…」
アースの後ろからラミリツが歩いて来る ユラがハッとして言う
「ルイルか!?」
アースが疑問する ラミリツがユラの目に見えて ユラが驚いて言う
「お、お前はっ!」
アースが言う
「偽カルメス… いや、ユラ・ロイム・ライデリア」
ユラが慌てて言う
「ハ、ハブロス総司令官っ 何故 そいつの前でっ!?」
アースが言う
「ルイル・エリーム・ライデリアは 死んだ」
ユラが驚いて言う
「え…?」
アースが言う
「覚えていないのか?お前が殺させたのだぞ?お前が自分の弟を殺せと部下に命じて」
ユラが呆気に取られて言う
「わ、私が…?ば、馬鹿なっ そんな…っ!?」
アースが言う
「その場で取り押さえられた犯人が供述しているが?お前に脅迫をされ用済みとなった ルイル・エリーム・ライデリアを始末しろ と命じられたそうだ」
ユラが頭を抱えて間を置いた後ハッとして言う
「私がルイルを…?そ、そうだ 私が… 私が言った…?言った… 用済みだと…?奴を始末しろと?ルイルを!?私が…!?」
ラミリツが言う
「覚えているんだか居ないんだか…?」
アースが言う
「記憶が混乱している様だな …どちらにしろ 今の奴は間違いなく”操られていない方の奴”だ」
ラミリツが言う
「ネックセンサーも外してるしね?…なら 今付けたら また操られるのかな?」
アースがユラを見る ユラが頭を抱えて困惑して言う
「私は…?私は何をしていた…?…そうだっ 奴と一緒に 奴が手を貸してくれるとっ!私が王になる世界を…っ!このアールスローンも帝国もっ 私の物になるっ!?なのに… 何故 私は ここに居る!?おいっ!?何処に居るんだ!?どうしたら良い!?誰が助けに来てくれるんだ!?…おいっ!?」
ユラがネックセンサーを付けていた首の辺りを掴もうとしてハッとして言う
「な、ないっ!?無いぞっ!?マスタートップシ-クレットがっ!?私の力がっ!?」
アースが言う
「まずいな 完全にパニック状態だ」
ユラがアースとの間にある透明パネルに両手を付いて言う
「ハブロス総司令官っ!?どうなっている!?私は 政府の長官になったぞ!?だから!一緒に!…私をここから出してくれっ!ハブロス総司令官っ!」
ラミリツが言う
「これじゃ話にならないよ 取り合えず 落ち着かせないと… 看守を呼ぶよ?」
アースが言う
「その者に 余計な事を聞かれては困る …となれば仕方が無い」
アースが立ち上がりユラへ言う
「…落ち着け 偽カルメス これは作戦だ …順調に行っている」
ユラが困惑して言う
「さ、作戦…!?」
アースが微笑して言う
「ああ、そうだ 何も問題はない …大丈夫だ」
ラミリツがスイッチを押して 小声で言う
「囚人がパニック状態になってる 鎮静剤を」
ユラが言う
「作戦… そ、そうなのか…?本当に…?だ、だがっ 私はルイルをっ!?ルイルを…?これも… さ、作戦…?」
看守がドアから入って来て ユラの腕に注射をする ユラが困惑している 

【 面会室 外 】

ラミリツとアースがドアを出て通路を歩く ラミリツが言う
「鎮静剤のせいもあっただろうけど 結局何も聞き出せなかったね?」
アースが言う
「ああ、だが あの様子では 鎮静剤の効力が無くとも同じかもな… 奴は思っていたより 気の弱い男だった様だ」
ラミリツが苦笑して言う
「気が弱いって… 自分で弟を殺させたなんて事を 2回も言われたらさ?誰だって ああなっちゃうんじゃない?ハブロス総司令官って 結構 残酷だよね?」
アースが言う
「総司令官だからな?」
ラミリツが言う
「それって 理由になる?」
アースが言う
「ふっ… どうだろうな」
ラミリツが苦笑した後言う
「…所で 良かったの?アイツと国防軍の繋がりを 僕に知らせちゃってさ?あれって 普通”隠す所”じゃない?」
アースが言う
「政府長攻長閣下が同席すると言う条件で 録音や看守を退ける事が出来た 奴の罪状を考えれば 話を出来るのはこれで最後だろう 一応 何も聞き出せないと言う情報を得られたのなら その価値はあった」
ラミリツが言う
「僕が アンタとアイツの犯罪を 公にしちゃうとは思わなかったの?」
アースが言う
「貴方もそれなりに 犯罪を犯しているだろう?…偽の悪魔の兵士として」
ラミリツがバツの悪そうに言う
「う…っ でも それは… あの時 アンタから陛下を守ろうとして…」
アースが言う
「それを証明する物も人も もう居ないが …だが、貴方の方が 一枚上手だったな?」
ラミリツが言う
「え?」
アースが言う
「貴方の正体を知らされた際 私が 調べなかったとでも?」
ラミリツが言う
「あ…」
アースが言う
「政府長攻長が罪を犯していると その裏付けを取られれば貴方を脅迫するのに好都合だった… 言葉だけで信じる信じない等と言っても やはり確証は持てないからな?」
ラミリツが言う
「…それで 調べたんだ?」
アースが言う
「ああ しかし 残念な事に 貴方は皇居にて 自分が攻長であると言う事を言っただけで ”悪魔の兵士”だとは言わなかった その証拠に 国防軍の国家家臣第3者の署名をしていない つまり 貴方は アールスローンの法律が 政府のものでも国防軍のものであっても どちらであっても 攻長としてアールスローンへ尽くす と言っていたに過ぎない …これでは 悪魔の兵士を装ったと言う罪には 問えなかった」
ラミリツが驚いて思い出して言う
「あ…っ それ…っ」

メルフェスが微笑して言う
『上手く行きました 例え主権を失おうとも 元皇居宗主からのお願いと言う事で 皇居における国家家臣第3者としての ラミリツ殿の名前の登録は 免除して頂けました』
シェイムが微笑して言う
『それは良かった』
ラミリツがシェイムへ向いて言う
『それってどう言う事?国家家臣第3者には 登録しなきゃ 駄目なんじゃないの?』
シェイムがラミリツへ向いて微笑して言う
『まぁ 今は深く考えなくて良い ちょっとした トリックと言う奴だ』
メルフェスが微笑して言う
『ええ、そう言う事です 私の持つ知識を 実力以上に用いて編み出した方法です お陰で説明は少々難しいので 今はそうと言う事で ご了承下さい』
ラミリツがメルフェスを見上げ不満そうに言う
『…分かった けど、大丈夫なの?アンタ知能補佐のマスターじゃないんだから あんま調子に乗ると失敗するし』
メルフェスが衝撃を受け笑う シェイムが慌てて言う
『こらっ エーメレスっ!』

ラミリツが苦笑して言う
「…そう言う事だったんだ」
アースが言う
「うん?何か?」
ラミリツが言う
「あ、ううんっ!別に?」
アースが言う
「それはそうと 奴が解任逮捕された今 政府の長官はどうなる?貴方が兼任するのか?」
ラミリツが言う
「僕が?…それは 政府に主権が無いと 兼任は出来ないんでしょ?」
アースが言う
「国防軍と政府が共同協力協定を結べば 主権と言うものは 実質無効とされる そうとなれば どちらの組織も 長の兼任を許される」
ラミリツが言う
「そうなんだ…?でも 良いの?国防軍にとっては 主権を持っているのままの方が…?」
アースが苦笑して言う
「何を今更…?それとも?攻長閣下は公務が急がしく 国防軍の公式記者会見を見ている暇も無かったのか?」
ラミリツが言う
「いや、それは 見てたけどさ?記者会見のアンタって何か違うって言うか… あの言葉が アンタの本心だって思えなかったし」
アースが衝撃を受けて言う
「うっ… それは何故…」
ラミリツが疑問して言う
「え?」
アースが気を取り直して言う
「いや、何でもない… まぁ どちらにしろ 長官が決まったら知らせてくれ」
ラミリツが苦笑して言う
「うん、どうせ 夜には 同じ屋敷に帰るんだからね?」
アースが一瞬疑問した後苦笑して言う
「同じと言っても 祖父上の… 離れの屋敷だろう?」
ラミリツが苦笑する 出口の前に迎えの車が来ている ラミリツが立ち止まり アースが車に乗って去る

【 面会室 2 】

マスターが座っていると 扉が開きマリが連れて来られる マスターが顔を上げると マリが気付いて言う
「…来てくれたんだ」
マスターが微笑して言う
「うん、今回は 待たせたくなかったからね?」
マリが微笑して言う
「ありがとう… いつも 本当に…」
マスターが苦笑して言う
「けど、実は 今回もまた お供のハイケルに諭されてさ?」
マリが言う
「え…?」
マリが呆気に取られ周囲を見渡す マスターが言う
「ここまで 連れて来て置きながら 本人は 国防軍として政府の管轄内には入りたくないってね?…変な所で 堅物なんだよ アイツ」

【 政府警察 拘留所 前 】

ハイケルがくしゃみをする
「へっくし…っ …?」
入り口前の警察官がハイケルを見る

【 面会室 2 】

マリが苦笑して言う
「なんだか… 分かる気がする」
マスターが苦笑して言う
「だろう?」
マリが微笑する マスターが微笑して言う
「はは… あ、それで… どう?大丈夫?その… ショックだったとは思うけど 俺も… まさか こんな事に」
マリが言う
「グレイ君 あのね…っ」
マスターが疑問して言う
「ん?」
マリが困って言う
「あの…っ その… …」
マスターが言う
「何?何でも言って?俺は… 何があってもマリちゃんの味方だから」
マリが看守の目を気にしてから 間を置いて言う
「…あの お屋敷は…?」
マスターがマリの様子を気に掛けつつ言う
「うん… カルメス邸は… 全焼しちゃったよ 良い思い出もあっただろうけど… でも、一応 旦那さんも 無事だった訳だし」
マリが言う
「違うのっ その…っ」
マスターが言う
「うん?」
マリが困って言う
「えっと… 何処から言ったら良いのか… 私…」
マスターが言う
「大丈夫だよ マリちゃん 落ち着いて?」
マリが間を置いて言う
「…お屋敷に居た人たちは?皆 無事だったのかなって… そう言う事は 分かったり する?」
マスターが言う
「うーん 特別調べた訳じゃないけど ニュースや新聞では 彼の部下だと思われる 男性の遺体が2体見つかったってさ」
マリが言う
「男性の…?他には?」
マスターが言う
「うん、他は マシーナリーを含む 大量の機械の残骸があったって事くらいで 帝国の機械だから 詳しく調べを進めるって 警察がね?」
マリが表情を落として言う
「女性の… 遺体は見つかっていない?」
マスターが言う
「女性の?…いや、それは載ってなかったな …あぁ、メイドや使用人なんかは 事件の前に 屋敷の外へ締め出されたらしくて 警察が保護をしたって 今は事情聴取を受けているらしいよ」
マリが言う
「その中に エレンさんって方が居るかどうかは 分からないかなっ?」
マスターが言う
「エレンさん?」
マリが言う
「うん… 元々はメルフェス様の秘書をしていた方なの 私と一緒に お屋敷へ様子を見に行って…っ その後 調べ物をしていた時に 見つかってしまってっ それで…っ!」
マスターが疑問して言う
「お屋敷へ 様子を?調べ物って… それは?」
マリが困って言う
「それは…」
マリが看守の目を気にする マスターが言う
「分かった …マリちゃんは その エレンさんって言う女性の消息を調べて欲しいんだね?そう言う事なら 任せておいてよ!調べものなら自信あるからさ?」
マスターがわざと明るく振舞う マリが微笑して言う
「ありがとう…っ グレイ君」

【 ハブロス家 アースの部屋 】

アースが言う
「貴方の仰った通り 奴の首に付けられていたネックセンサーには ナノマシーンが込められていたとの事だった しかし そのナノマシーンは補填用のものであったと…」
カルンゼスが言う
「補填用の?…そうでしたか おかしいですね 確かに ルイル・エリーム・ライデリアの残したデータには マスターブレイゼスのナノマシーンを込めたとありましたが…」
アースが言う
「他には?奴の使っていた あの設備を調べて 分かった事は?」
カルンゼスが苦笑して言う
「それは昨日お伝えしました通り 陛下のナノマシーンの研究データと ネックセンサーの情報だけです」
アースが言う
「医者である貴方が どうして その2つに対して 国防軍総司令官へ依頼してまで 調べようとしているのか… そろそろ お聞かせ願いたいのだが?」
カルンゼスが一瞬呆気に取られた後笑って言う
「っはははっ 随分とハッキリ仰る 国防軍総司令官であるのなら尚更 そういった方は本心を口にしてはならないのでは?」
アースが言う
「マスターの貴方に 隠し事をした所で すぐに見破られてしまうだろう?私は無駄な事はしない主義だ」
カルンゼスが言う
「なるほど 賢い方だ… うかうかしていれば 私の方が見破られてしまいそうだな?」
アースが苦笑して言う
「ご冗談を マスター?」
カルンゼスが言う
「マスターとは言え 同じ人間ですよ?ハブロス殿?」
アースが息を吐いて言う
「…そうだったな」
カルンゼスが言う
「このアールスローンを守りたいと思う気持ちは同じです」
アースが言う
「それはマスターブレイゼスも 同じだったと言う事か?」
カルンゼスが言う
「方法は違えども 恐らくは…」
アースがカルンゼスを見る カルンゼスが苦笑する アースが言う
「マスターカルンゼス 教えて頂きたい」
カルンゼスが言う
「何をでしょう?」
アースが言う
「貴方の勤めていた病院に入院していた 本物のメルフェス・ラドム・カルメス …マスターシュレイゼスは 今 何処に居る?」
カルンゼスが言う
「彼は… マスターの力を失いました 何処に居ようと もう 貴方の敵ではないでしょう?」
アースが言う
「では 彼の協力者などに 心当たりは?」
カルンゼスが言う
「さて… 私は存じません 何故 その様な事を?」
アースが間を置いて言う
「…貴方が仰っただろう?ネックセンサーは恐らく2つか3つ 1つは見つかったが 残りの行方は分からない もしかしたら 彼が… と 私は思ったのだが?」
カルンゼスが言う
「なるほど… 確かに政府に精通する彼ならば 手にする方法はあったかもしれない しかし、彼がそれを手に入れて何の得が?そもそも 彼なら政府のマスタートップシークレットの その脅威を知っていたのではなかろうか?だとすれば尚更 彼が手に入れようとする理由はありますまい?強いて言うなら 国防軍や政府への脅し程度でしょうか?」
アースが考えて言う
「そうだな では その線は薄いか…?」
カルンゼスが苦笑する アースが言う
「分かった では 今後もし再びラミリツ攻長より情報を得た際には 貴方にもお伝えしよう… その代わり」
カルンゼスが微笑して言う
「アーケスト殿の事でしたら 手を尽くすとお約束します」
アースが言う
「ふん… 宜しく頼む」
カルンゼスが軽く頷いてから立ち去る 

カルンゼスが居なくなると アースが言う
「やはり マスターが相手では 難しいな」
執事が言う
「左様に御座いましたか アース様はお分かりになられて おられるものかと」
アースが言う
「怪しいと感じる箇所はあったが それがフェイクなのか 本心の表れなのか…」
執事が言う
「なるほど では マスターカルンゼス医師は アース様のお力に感付かれていると?」
アースが言う
「その可能性も否定は出来ないだろう?だが、それでも彼の嘘は 1つは分かった」
執事が言う
「そちらは?」
アースが言う
「間違いなく 彼は マスターシュレイゼスの居場所を把握している そして 恐らく奴に協力をしているのだろう」
執事が言う
「そこまでお分かりに?」
アースが言う
「ああ… 何しろ 奴らは 連帯感の固まり …マスターだからな?」
執事が苦笑する

【 ハブロス家 医療室 】

カルンゼスが言う
「やれやれ 気付かれたやもしれん」
イリンゼスが言う
「えぇえっ!?」
メルフェスが言う
「十分気を付けると言って置きながら…」
カルンゼスが言う
「無茶を言うな 私は精神科医として相手の心を考える事はしても 逆を考えた事は無かった まさか 自分の心を探られる日が来ようとは」
シェイムが言う
「やはり ハブロス総司令官へネックセンサーの情報を伝えたのは リスクがありましたね?」
メルフェスが苦笑して言う
「しかし… 例え そのハブロス殿に我々の事が気付かれようとも」
シェイムが言う
「はい ラミリツに気付かれる訳には行きません」
イリンゼスが言う
「なぁ~?もう 良いんじゃないか?全部知らせれば 今のあいつらなら それこそ全部受け入れてくれるんじゃね?」
カルンゼスが言う
「いや、ハブロス総司令官は 今も日々アーケスト殿の容態を心配している 共に ラミリツ殿も毎晩シェイム殿を見舞いに来られる …今はどちらも精神的には まったく同じ状態だ 現状は互いの心理を合わせるのに最も適している」
メルフェスが言う
「このまま上手く行ってくれると良いのだが」
シェイムが言う
「その為にも 続けなくては… 私の冤罪が公に知られる事も 今はまだ」
メルフェスが言う
「国防軍と政府の共同協力協定が締結するまでは 少なくとも 隠しておくべきです」
シェイムが言う
「はい」
イリンゼスが不満そうに言う
「ふ~ん?そんなもんなのかねぇ…?」
カルンゼスが苦笑する

【 病室 】

TVに 国防軍、政府 対話会場建屋外の映像が映っていて 左サイドに警機 右サイドにレギストが並んでいる 隊員Aが表情を顰め唾を飲む 隣で隊員Bが笑っている 続いて 室内 左サイドにラミリツとミックワイヤー 右サイドに軍曹とアースが居る映像が映り キャスターが言う
『先ほど終わりました 国防軍、政府の組織長による公式会合の中で 国防軍と政府は 両者による共同協力協定を締結したとの事です これによりアールスローン国における法律は アールスローン戦記とアールスローン信書 その両方を認め 互いの信念を尊重すると共に 本日の協定締結時間を持ちまして 両組織は陛下の下に 1つの組織として…』
ドアがノックされ 開かれると アースが入って来て言う
「遅くなって すまない」
エレナが微笑して言う
「いいえ… こちらの会合へ 行ってらしたのでしょう?とっても大切な…」
エレナがTVを示す アースが苦笑して言う
「私にとっては こちらの初会合の方が何よりも大切さ?」
エレナが軽く笑って言う
「まぁ…?うっふふ…」
アースがエレナの隣のベビーベッドを見て言う
「予定通り 男の子か」
エレナが言う
「抱いてあげて下さいな?貴方と私の息子です」
アースがファーストを抱き上げて言う
「良くやってくれた …ハブロス家の時期当主だ さっそく 名前を考えなければな?」
エレナが微笑して言う
「ハブロス家の長男として 立派なお名前を」
アースがファーストを見て言う
「ああ 何か良い名前を… 君は何か考えているのか?」
エレナが言う
「さぁ… どうでしょう?」
アースが言う
「その言い方は 候補があるな?」
エレナが笑う アースが言う
「言い給え?」
エレナが言う
「アース様が仰ったら」
アースが言う
「いや こう言うものは レディーファーストだ」
エレナが微笑して言う
「はいっ」

【 国防軍総司令本部 】

アースが入室して来ると 執事が微笑して言う
「お帰りなさいませ アース様」
アースが言う
「問題は無かったか?」
執事が言う
「各駐屯地からの定時連絡の他に 連絡等は御座いませんでした」
アースが言う
「そうか 直後に私と連絡が付かないとなれば 後味が悪くなる 連絡が無かった事はツイていたな… 政府との共同協力協定を締結させたとあれば 誰かしらの連絡があるかとも思っていたが」
執事が微笑して言う
「お子様は如何に御座いましたか?」
アースが席に座って言う
「母子共に健康だそうだ 経過があまり良くないと聞いた時には心配もしたが 体重も何とか標準値以内 少し軽めだそうだが 予定通り男子だった」
執事が嬉しそうに言う
「そちらは喜ばしい事で」
アースが言う
「祖父上にも知らせるべきだろうか?」
執事が言う
「はい もちろんに御座いましょう?曾孫様がお生まれになられたのですから」
アースが受話器をとって言う
「祖父上も お前と同じくらい喜んでくれると良いのだが…」
執事が笑って言う
「そちらの心配は御座いません 僭越ながら私めが保障をさせて頂きます」
アースが微笑して言う
「そうか それなら安心だ」
アースが電話のボタンを押す

【 ハブロス家 ラゼルの屋敷 】

執事2が電話をしていて言う
「はい ただいまお替り致します」
執事2がラゼルへ向いて言う
「ラゼル様 アース様より 喜ばしいお知らせに御座います」
ラゼルが向いて言う
「うん?ほっほっほ… ではきっと…」
ラゼルが受話器を受けとって言う
「メイヴィン?喜ばしい知らせだと聞いたが…?うむ… そうか!それは良かったのだ!一時は少々心配もしたが 健康とは何よりなのだ!それで名前は?…ほう?ほっほっほ… そうか エレナ殿らしいのだ」
エルムが疑問する 受話器からアースの声がする
『エレナらしい?そうでしょうか?彼女は 私の息子であるからだ …と言っていましたが 正直私には思い当たる節がありませんでして…』
ラゼルが言う
「いやいや… メイヴィンは子供の頃から よく言っておったではないか?何に対しても… 勿論 国防軍総司令官となる上に置いても」
エルムが言う
「『私は歴代一番の 国防軍総司令官になります』」
ラゼルが言う
「共に 総司令官としてのあり方も」
エルムが言う
「『私は誰よりも隊員たちを一番に考える 総司令官になります』」
ラゼルが微笑して言う
「メイヴィンの考え方は 何事においても いつも一番を目指し その為に力を尽くす… エレナ殿は 昔から そんなメイヴィンの事を ずっと見ていたのだろう?」
受話器からアースが苦笑して言う
『そう言えば… なるほど しかし その国防軍総司令官への道が閉ざされ掛けた事で 私自身 その様な自分の性格さえも忘れていました エレナと祖父上と… エルム少佐のお陰で 今思い出した所です』
ラゼルが笑う
「ほっほっほ…」
エルムが言う
「ここまでの会話から 推測される アース・メイヴン・ハブロスの 子息の名は…」
ラゼルが言う
「うん?そうかミドルネームを?しかし ファーストネームをエレナ殿が考えたのなら ミドルネームはメイヴィンが考えた方が良いのではなかろうか?…うむ、確かに メイヴィンとアーヴィンのミドルネームを考えたのは 自分であるが… …うむ、なるほど 確かにミドルネームは 遠い者に与えられるほど… 何とやらと 自分も聞いた事があったような…?」
エルムが言う
「”最も近い親から 最も遠い知り合いへ その間に携わる人々の分だけ かの者へ祝福があらん事を ここへ2つ目の名を与える” 神の声 第18章抜粋」
ラゼルが言う
「孫のメイヴィンとアーヴィンの名を考えるだけに終わらず 曾孫の名まで考える事が出来て 自分はとても幸せ者なのだ… う~む…では 折角であるから 2人にも近くして… …ライヴァインではどうだろうか?今度は略すと ライヴィンなのだ!ほっほっほ…」
エルムが言う
「…ライヴァイン・ハブロス」
ラゼルが言う
「そうか 気に入ってもらえたのなら 良かったのだ… …うむ、あさってか?うむ 問題ないのだ!自分も この手に抱かせてもらえるのを 楽しみにしているのだ 有難う メイヴィン 私の最初の孫 そして次は 最初の曾孫なのだ!ほっほっほ…」
エルムが言う
「かの者の 1つ目の名は… 恐らく ファースト」
ラゼルが受話器を置く

【 国防軍総司令本部 】

アースが微笑して言う
「ファースト・ライヴァイン・ハブロスだ 私の最初の子供の名が決まったぞ!」
執事が微笑して言う
「おめでとう御座います アース様」

【 マスターの店 】

コーヒーが沸いている マスターがPCを操作していて悩んで言う
「うーん… エレン・アリーシャ… 確かに 奴の秘書を辞めてからの足取りが掴めていない マリちゃんは エレンさんと一緒にあの屋敷へ様子を見に行ったって言っていたけど あの事件の時に保護された者たちの中にも その名前は無い…」
マスターが一度PCを離れてコーヒーを調整する マスターがPCへ戻り操作をしながら言う
「マリちゃんの話だと エレンさんは何かを調べていて それで… その何かは分からないが あの屋敷でって事は 彼女が調べていたのは 政府の力を使い悪事を行っていた メルフェス・ラドム・カルメス元長官に関する事だろう …だとしたら奴が逮捕された今 彼女が身を隠す必要は無い筈 それなのに…?」
マスターがPCの操作を止めて息を吐いて言う
「駄目だな… 何処にも彼女の痕跡が無い これは既に… 秘密裏にでも…?そうだとしたら マリちゃんは きっと悲しむだろうな…」
マスターが窓の外を見る 窓の外にマーガレットの花が揺れている

【 政府研究局 】

ラミリツが言う
「また何か分かったって?」
ラミリツが遠くにあるネックセンサーを見る 局長が言う
「更に調べを進めました所 補填用のナノマシーンだけではなく 微量ではありますが 通常のナノマシーンも混入していると言う事が分かりました」
ラミリツが言う
「もしかして それって マスターブレイゼスのナノマシーン?」
局長が言う
「生憎 我々の下には ナノマシーンのサンプルやデータなどが無い為 誰のナノマシーンであるのかは分かりかねます」
ラミリツが言う
「そうなんだ?」
局長が言う
「ナノマシーンのデータは 全て 以前の政府研究局の局長であった ルイル・エリーム・ライデリアが持ち去ってしまいましたので」
ラミリツが言う
「それなら 今は ハブロス総司令官の研究所に ありそうだね?」
局長が言う
「攻長閣下 ナノマシーンの研究は 元々政府の管轄です ハブロス総司令官から それらのデータを返してもらう事は 出来ないでしょうか?元を正せば それは我々政府研究局の物なのですから」
ラミリツが言う
「うーん… そうだね… けど 難しいかも」
局長が苦笑して言う
「やはり… そうですよね」
ラミリツが苦笑して言う
「でも、今は 政府も国防軍も 1つの組織として協力する事になっているんだから 一応 話をしてみるよ」
局長が微笑して言う
「はい、宜しくお願い致します 攻長閣下」
ラミリツが微笑して言う
「うん それじゃ また何か分かったら知らせて?」
ラミリツが立ち去る

通路

ラミリツがドアを出るとエルムβが居る ラミリツが歩くとエルムβが付いてくる ラミリツが言う
「そう言えば 今頃 警機のマイルズ部隊と国防軍レギスト機動部隊が合同訓練してるんだ… どうなんだろ?その2つがって …エルムがレギストの隊長だった時も そう言う事ってあったの?」
エルムβが言う
「『国防軍レギスト機動部隊 及び 政府警察機動部隊マイルズ部隊の 合同訓練を行う』」
ラミリツが微笑して言う
「ふふっ 以前に その台詞を 言った事があるんだ?他には?」
エルムβが言う
「『これが私のレギストのやり方だ 悪かったな』」
ラミリツが噴き出して言う
「あっはははっ ねぇ?それって 誰に言ったの?警機の隊長?」
エルムβが言う
「『異なる訓練と異なる戦術… 両者が共に訓練をする事は不要だ しかし 共に戦う事は 歓迎する …メイリス隊長 これからも共に』」
ラミリツが反応した後 微笑して言う
「…そっか そう言えば メイリス部隊は マシナリーの保管を受け持つまでは マイルズ地区の担当だったっけ…」
エルムβが言う
「『そうだな』」
ラミリツが視線を落として言う
「”これからも共に”か… 共に… 在り続ける事を…」
エルムβがラミリツを見る ラミリツが言う
「僕だって そう思ってたのに…」
エルムβがラミリツを見て沈黙する ラミリツが気を取り直して言う
「あ、そうだ ネックセンサーの事 ハブロス総司令官に伝えないとね?それから 局長に頼まれた事も… でも ハブロス総司令官って ちょっと意地悪そうだからさ?政府にデータを返してくれたりなんかは やっぱしないかな?」
ラミリツが苦笑する エルムβが言う
「『…そうだな』」
ラミリツが呆気に取られた後 ぷっと吹き出し笑う
「ぷ…っ あはははっ」
エルムβが僅かに微笑する

【 国防軍総司令本部 】

アースがくしゃみをする
「…くしっ」
秘書が書類を読んでいた状態からアースを見る アースが言う
「失敬 …それで 国防軍レギスト機動部隊と 政府警察機動部隊の合同訓練は?」
秘書が書類を見て言う
「はい、国防軍レギスト機動部隊隊長 ハイケル少佐より これ以上の合同訓練は不要であると」
アースが言う
「不要であると?訓練は昨日の半日と今日の1日のみだったな?それで 全て分かったとでも言うのか?」
秘書が資料を見て言う
「ハイケル少佐からは そちらの報告のみで 明日の部隊予定は国防軍レギスト駐屯地における 通常訓練とされています」
アースが言う
「そうか… まぁ 隊長である彼がそう判断したと言うのであれば構わない 取り合えず国防軍と政府の両部隊が 互いの訓練施設で合同訓練を行ったと言う記録はされただろう …これで今後もし合同作戦を展開するとなった時には その記録のある両部隊が抜擢される筈だ」
秘書が言う
「国防軍レギスト駐屯地からの本日の報告は以上です 続きまして国防軍マルック駐屯地からの報告は…」
アースが言う
「いや、他の駐屯地は いつもと特別変わった報告が無いかの それだけで良い」
秘書が一瞬呆気に取られた後 資料をめくりながら言う
「は、はい… え~ 他の駐屯地は… 特に 変わった報告などは…」
アースが立ち上がって言う
「分かった では今日はこれで上がる 何かあれば連絡を 後は通常通りで良い …レミック」
執事が言う
「はい、お車の準備は 既に」
秘書が呆気に取られていると アースとレミックが出て行く 秘書がハッとして言う
「お、お疲れ様で御座いました ハブロス総司令官」
ドアが閉まる 秘書が首を傾げる

【 病院 】

ファーストが抱き上げられる アースが腕に抱いたファーストを見て微笑する エレナが気付いて微笑して言う
「うふ…っ やはり ご家族ですね?普段は感じませんが 今のアース様は ラゼルお爺様にそっくりです」
アースが反応し苦笑して言う
「うん?そうか?祖父上にはアーヴァインの方が よっぽど似ていると思うが?」
エレナが言う
「本当に嬉しい時の微笑み方が そっくりですよ お昼にいらした ラゼルお爺様も その子を抱いて 今のアース様と同じ様に微笑んでいらっしゃいました」
アースが気付いて言う
「そうか …うん?しかし 祖父上の定期健診は今日だったかな?それに いつもなら 担当医を問診させていた筈だが?」
エレナが微笑して言う
「この子に会う事が前提で ついでに問診の日を前倒しにして 検診を受けると仰っていました ですので ファーストに会う為にわざわざいらして下さったのでしょうね?」
アースが言う
「そんなに急がなくとも あさってには 君と一緒に屋敷へ来ると言うのにな?祖父上にしては 珍しい …それで 何か言っていたか?」
エレナが言う
「立派な 国防軍総司令官にならなければならない と…」
アースが言う
「うん?祖父上か?それもまた 珍しいが…」
エレナが軽く笑って言う
「そちらは エルム少佐が」
アースが呆気に取られる エレナが可笑しそうに笑って言う
「ラゼルお爺様は 元気に育ってくれれば それでなによりと …しかし そちらへ対しましても エルム少佐は 立派なハブロス家の当主にも ならなければいけない …と?相変わらず お厳しいですね?ふふっ」
アースが呆れて言う
「相変わらずタイミングが悪いな?エルム少佐は…」
エレナが笑う アースが微笑して ファーストを見て言う
「こんなに無垢であどけない姿を見て その様な硬い物言いなど… エルム少佐以外では 言えないだろう?」
アースがファーストの頬を撫でる エレナがアースを見て微笑する

【 ハブロス家 アースの部屋 】

アースが書類を見ていると ドアがノックされ ラミリツの声がする
「あの… ラミリツだけど… 例のネックセンサーの件で」
アースが執事を見る 執事が頷いてドアを開けに行く ラミリツが部屋に入って来ると アースが言う
「また何か?」
ラミリツが言う
「うん、詳しく調べたら 補填用のナノマシーンだけじゃなくて 普通のナノマシーンも入ってたって …それで」
アースが言う
「それが マスターブレイゼスの物であると?」
ラミリツが言う
「僕もそう思ったんだけど 政府に再編成した研究局じゃ ナノマシーンのデータとかが無いから それが誰のだって言うのは分からないって …そう言うデータは前局長のルイル・エリーム・ライデリアが 持って行っちゃったんだってさ?だから」
アースが言う
「では こちらの研究所には ありそうだな」
ラミリツが言う
「うん 僕も そう思う」
アースが言う
「分かった では それらのデータは 全て政府へお返ししよう」
ラミリツが驚いて言う
「え?良いの?」
アースが言う
「一応 データのコピーは取らせて貰うが あの施設は閉鎖をする予定だ 必要なら研究員だけでなく 設備なども譲るが?」
ラミリツが驚いて言う
「えぇええっ!?」
アースが疑問して言う
「何だ?そんなに…?」
ラミリツが言う
「あ… いや… えっとぉ… アンタって そんなに良い人だったっけ?」
アースが衝撃を受けた後言う
「貴方の中の私はどれだけ卑屈なのか…?」
ラミリツが言う
「あ、いや ゴメン… だって その… ずっと 政府とは喧嘩してただろ?兄上やアイツの事… 凄い嫌っていたみたいだったし…」
アースが反応する ラミリツがうわべ目線に見て言う
「だけど それって 国防軍と政府としてって事だったの?」
アースが視線を逸らしてから言う
「彼らには… 一度 私の家族を… 父上を奪われた それだけではなく このハブロス家から 国防軍長の地位を」
ラミリツが言う
「それって… アイツは兎も角 兄上じゃなくて …僕らの父上じゃ?」
アースが言う
「…そうかもな?しかし 今はどちらも私の下へ戻った そして…」
アースがラミリツを見る ラミリツが疑問する アースが苦笑して言う
「私は 貴方の兄上殿を信じる事は出来ないが 貴方の事は信用出来ると思っている」
ラミリツが呆気に取られて言う
「え?」
アースが不満そうに言う
「確かに偽の悪魔の兵士として 騙されはしたが?」
ラミリツが衝撃を受けて言う
「あっ!だ、だからっ それは ゴメンって…っ!」
アースが苦笑して言う
「まぁ そんな所だ… 何にしろ今は国防軍も政府も1つの組織だ ミックワイヤー長官とも話は合っている 貴方とも… 寝食を共にする位だ」
ラミリツが呆気に取られた後微笑して言う
「…うんっ!」
アースが言う
「いつまで居候するつもりかは知らないが…」
ラミリツが衝撃を受けて言う
「うっ …ゴ、ゴメン だって今 僕 エルムから色々教わってて… そのエルムがラゼル様の側に 居たいって言うからさ?」
アースが息を吐いて言う
「エルム少佐も 相変わらず分からない人だ… ラミリツ攻長?貴方は政府の攻長ではあろうとも 国防軍の悪魔の兵士ではない …と言うのに エルム少佐は貴方に教えを説くのだろう?」
ラミリツが苦笑して言う
「だってエルムは 国防軍の悪魔の兵士であると共に 政府の攻長だからね?」
アースが言う
「では 彼は貴方へ 政府の攻長としての教えを説いていると?」
ラミリツが言う
「うん 多分 そうだと思う だって僕 エルムからは剣しか教わってないし」
アースが驚いて言う
「うん?それは…?」
ラミリツが言う
「銃は国防軍の力だから 僕には政府の剣を教えるんだって …それに エルムは銃の事は 教えられないんだってさ?」
アースが言う
「それは 政府の貴方に対して 国防軍の事は教えられないと言う意味か?」
ラミリツが言う
「うーん 良く分からない… けど 銃は狙って撃てば当たるから 教える事は何も無いって?」
アースが衝撃を受けて言う
「は?」
ラミリツが言う
「そんなモンかな?銃って…」
アースが言う
「そんな事は無いと思うが… いや、私もエルム少佐から 習った事は無いが…」
ラミリツが苦笑して言う
「まぁ そう言う訳だからさ?まだしばらく お世話になるって事で!…あ、えっと それじゃ 研究局の件は」
アースが言う
「近い内に そちらから人を送ってくれ 今はもう あの場所には警備の者しか置いていない 強いて言えば たまに マスターカルンゼスが出入りする位だ」
ラミリツが言う
「分かった それじゃ 明日連絡する …って こういうのって やっぱ 攻長として総司令官に 連絡した方が良いのかな?」
アースが言う
「そうだな 形式的に行っておいた方が 後々面倒も無いだろう」
ラミリツが言う
「なら 国防軍総司令本部の方に連絡するね?あ、でもさ 今日居なかったでしょ?夕方 連絡したんだけど?」
アースが言う
「ああ… 今は少し 早めに上がっているんだ 明日もその予定だ 従って そちらの連絡も早めに頼む」
ラミリツが疑問して言う
「そうなの…?今って 共同協力協定を締結させた後だからさ?そっちも色々立て込んでると思って それで夕方にしたんだけど…?」
アースが言う
「夕方は 面会の時間が…」
ラミリツが疑問して言う
「面会?」
アースが視線を逸らして 咳払いをしてから言う
「う、うんっ… ああ …子供が生まれたんだ」
ラミリツが言う
「子供って…?え?つまり それって…?あ!もしかして!それで 今日 ラゼル様とエルムが病院に!?」
アースが言う
「ああ、2人も… いや、エルム少佐はどうせ 祖父上の護衛だろうが 会いに行ってくれたらしい」
ラミリツが微笑して言う
「そうだったんだ!?道理で ラゼル様が凄い嬉しそうにしてると思ったんだ!凄いね 曾孫でしょ?ラゼル様にしてみたらさ?」
アースが言う
「そうだな…」
ラミリツが言う
「何時生まれたの?全然そう言う知らせなかったけど?だって こういうのって 普通 パーティーとか開いてさ!?高位富裕層なら尚更 盛大にやるもんじゃないの!?」
アースが言う
「高位富裕層では 古い仕来りに置いて 長男の際は行わず その分も 次の子供の時に 盛大に行うそうだ」
ラミリツが言う
「え?そうなんだ?…なんだ それじゃ やらないの?」
アースが言う
「まぁ 古い仕来りではそうなのだが 最近は変わりつつある それに 国防軍に属している高位富裕層の場合は その危険性も薄いからな 私の時には 戦争中であった為 行わなかったそうだが 父上の頃には それこそ 祖父上が政府の者まで招待し 盛大に行ったそうだが」
「そうなんだ?…それならさ!?」
ラミリツが思い立つ アースが疑問すると ラミリツが微笑して言う
「もしパーティーをするなら 今回は政府の方からも人を入れて ラゼル様みたいに盛大にやろうか!?今政府は 以前やってたお見合いパーティーが廃止されて 長官の就任パーティーもやらなかったから 何か寂しいって話になってるみたいで 僕も相談されて 困ってたんだよね?」
アースが言う
「そちらの政治の道具にされるつもりは無いが?」
ラミリツが苦笑する アースが苦笑して言う
「だが そうだな …少し考えてみるか 共同協力協定も締結され 祖父上にも以前から 政府とも仲良くしろと 言われている…」
ラミリツが微笑して言う
「ラゼル様もきっと喜ぶよ!」
アースが言う
「とは言え そちらの話は 後で良いが 研究所の件は早めに頼むぞ もし、あの一件が片付いていないとなれば 悠長にパーティーなどを 開いている場合ではないからな?」
ラミリツが言う
「あ、そっか そうだよね?それじゃ 明日の午前中にでも連絡するよ」
アースが言う
「ああ」
ラミリツが部屋を出て行こうとして振り返って言う
「あ、忘れてた えーっと… おめでとう御座いますって言うの?こういうのって…?」
アースが呆気に取られた後苦笑して言う
「では 一応 有難う御座いますと?」
ラミリツが苦笑した後言う
「それじゃ 何か… やっぱ他人行儀って感じ でも しょうがないか…?ねぇ?名前は?」
アースが言う
「これから戻る屋敷で 祖父上やエルム少佐から聞いたら良いだろう?」
ラミリツが言う
「教えてくれても 良いじゃない?ね?折角だしさ?その子の… 父上様から!」
アースが呆気に取られて言う
「父上…?…あ ああ …そうだな」
アースがわずかに頬を染め 一度視線を逸らす

【 面会室 2 】

マスターが言う
「一応 今も調べを進めているけど その… もしかしたら って事も あるから…」
マリが表情を落として言う
「そうなんだ…」
マスターが言う
「うん… ああっ で、でもっ!…ただ隠れているだけって言う可能性もあるからさ!?そう… 気を落とさないで 可能性を信じて…っ ね?」
マリが苦笑して言う
「うん ありがとう …でも 少し覚悟しておいた方が良いよね?だって あの人は… とっても怖い人だったから」
マスターが言う
「あの人って… あぁ… 俺も まさか あんな男だったとは… やっぱり政府のマスターは通常ではないのかな…?」
マリがハッとして慌てて言う
「違うわっ!シュレイゼスじゃないっ!あの人はっ!」
マスターが呆気に取られて言う
「マリちゃん…?」
マリがハッとして言う
「あ…っ ご、ごめんなさい…」
マスターが言う
「あ、いやっ 俺の方こそ マリちゃんの旦那さんに 失礼な事を」
マリが言う
「違うの…っ あの人は違う…」
マスターがマリを見る マリがマスターを見てから視線を泳がせて言う
「こんな事言っても信じてもらえないと思うけど… あの人は違うの あの人は 偽者で…」
マスターが言う
「偽者?」
マリが言う
「私とエレンさんは メルフェス・ラドム・カルメスの偽者を調べようとしていたの」
マスターが驚いて言う
「それは… 一体っ!?」
看守が視線を向ける

【 政府警察本部 武器開発局 】

ラミリツがプラズマセイバーを手に取る 局員が言う
「これで 後は定期的にチャージを行っていれば 常に100%のチャージが可能となります」
ラミリツが言う
「分かった ありがと 長い事チャージしないで居たから それで 劣化しちゃってたのかな?」
局員が言う
「そうですね それもありますが やはり 数年に1度位は 各部品の交換を行わなければ 折角の超高温プラズマの出力が落ちてしまいますので …しかし、そちらのセイバーは しっかりと手入れがされていましたお陰で 部品類はそのままでも 今まで保っていたのでしょう」
ラミリツがプラズマセイバーを見て苦笑して言う
「流石 エルム… 攻長は引退しても 剣の手入れは欠かさなかったんだ…」
看守が周囲を見渡しながら現れて ラミリツを見つけると敬礼して言う
「失礼致します 攻長閣下っ!」
ラミリツが反応して看守へ振り返る

ラミリツが言う
「収監しているメルフェス・ラドム・カルメス元長官が偽者?そんな筈無いだろ?あいつは 僕たちの目の前で逮捕したんだから」
看守が言う
「はい しかし、そのメルフェス・ラドム・カルメスの妻が 面会に来ていた友人へ その様な話を」
ラミリツが言う
「メルフェス・ラドム・カルメスの妻って…?」
看守が言う
「マリーニ・アントワネット・ライネミア・カルメスです」
ラミリツが驚いて言う
「えぇえっ!?彼女 ホントに結婚してたのっ!?」
看守が言う
「はい 正式に婚姻届が出されております 当人は カルメス邸襲撃の際に保護をされ 今は 一応 共犯の容疑で 収監しております」
ラミリツが言う
「そう… あ、でも それって もしかして?彼女 直前まで あの屋敷に一緒に住んでたって事?」
看守が言う
「はい その様に供述しております」
ラミリツが言う
「なら 僕が直接話をする 面会を!」
看守が言う
「え?攻長閣下が自ら?…あ、はい それでは」
看守とラミリツが立ち去る

【 ハブロス家 ラゼルの屋敷 】

メルフェスがノートPCを操作している イリンゼスが来て言う
「お?か~わいい!」
メルフェスがハッとしてイリンゼスを見る イリンゼスがニヤニヤしながらノートPCを覗き込んで言う
「何々?何処のサイトのプロマ見てんの?」
メルフェスが苦笑して言う
「そんな事はしていない」
イリンゼスが言う
「隠さなくったって~?…って ん?これ… もしかして?」
メルフェスが苦笑して言う
「戸籍謄本だ」
イリンゼスが驚いて言う
「えっ!?しかも他人の…っ!?そんなの 個人のPCで見られるものなのかっ!?」
メルフェスが言う
「見られないさ …普通はな?」
イリンゼスが言う
「じゃあ 何でっ?」
メルフェスが言う
「この端末は マスターブレイゼスが作ったものなんだ …流石は 天才と言われた男 お陰で 政府でも国防軍でもトップシークレット以下の情報なら これで いくらでも閲覧出来る」
イリンゼスが言う
「まじかよ…っ けど それって犯罪だろ?良いのかよ?」
メルフェスが苦笑して言う
「良くは無いだろうな?だから 私もどうしてもと言う時以外は使わない もちろん 私的な事にも使った事は無い」
イリンゼスが言う
「なら これは?」
メルフェスが衝撃を受けてから苦笑して言う
「あ、ああ… そうだな?これは… どうしても心配で…」
イリンゼスが言う
「何かあったのか?この子?マリーニ・アントワネット・ライネミア?…アーミレイテス?長いな…」
メルフェスが軽く笑って言う
「女系4構想の高位富裕層さ 最下層の我々マスターにとっては 高嶺の花だ」
イリンゼスが言う
「けど ちょっと前の フレイゼスなら 同等だったんだろ?」
メルフェスが言う
「ああ だから 婚約していた」
イリンゼスが言う
「いぃいっ!?」
メルフェスが軽く笑って言う
「っははは だが 破棄されてしまったようだな?…良かった」
イリンゼスが言う
「はぁ?…どういう意味だよ?」
メルフェスが苦笑して言う
「彼女と婚約していたのは マスターの私ではなく 高位富裕層のメルフェス・ラドム・カルメスだった …だから 私がその地位と名を返上する際に 婚約を破棄するようにと言って置いたのだが その確認が出来ず仕舞いで 今まで心配していたんだ」
イリンゼスが言う
「そんなんじゃ あの偽者のメルフェス・ラドム・カルメスが現れて 危なかったんじゃないか!?むしろ もっと早く確認して置かないと 駄目だろっ!?」
メルフェスが言う
「確認はしたかったのだが この端末を使うにしても セキュリティがしっかりしていなければ 足が付いてしまう …だから このハブロス家程のセキュリティなら 安心して確認出来たと言う訳だ」
イリンゼスが言う
「あぁ… そうなのか 確かに こっちも見つかっちまう訳には 行かなかったもんな?」
メルフェスが微笑して言う
「彼女は 今 警察に収監されているだろうが 婚約もしていないと言う事は 奴とは一時的な接触があったとされても 事件には無関係の者として 近い内に釈放されるだろう」
イリンゼスが言う
「そいつは良かった こんな可愛い子を 牢屋に閉じ込めておくなんて 可愛そうだからな?」
メルフェスが言う
「ああ… 彼女には 幸せになってもらいたい… 我々マスターの名を持つ者にとっての お姫様だ」
イリンゼスがニヤケて言う
「へぇ~?」
メルフェスがハッとして言う
「あ、いや…っ」
イリンゼスが笑って言う
「フレイゼスって… 実は ロリコン趣味なのか!?」
メルフェスが怒って言う
「違うっ!」
イリンゼスが言う
「隠すなって~?」
メルフェスが怒って言う
「隠してなどっ!」
イリンゼスが言う
「そうだよな~?隠してないよな~?堂々と婚約していた位だもんなぁ~?」
メルフェスが怒って言う
「それはっ!」
カルンゼスがやって来て言う
「おいおい 仲良くやっているのは構わないが 今は攻長閣下も総司令官殿も居ないとは言え 床に伏しておられる方が居るんだ もう少し声を押さえて置いてはどうか?」
メルフェスが言う
「あ… そうだったな つい…」
イリンゼスが言う
「あ~… ラゼル様は 調子悪いのか?」
カルンゼスが言う
「いや 調子が悪いと言うより そろそろ… お身体が休みたいと言っているのだろう 後はゆっくりと その時を待つと言った所だ」
メルフェスが視線を落として言う
「そうか… 仕方が無いとは言え」
カルンゼスが微笑して言う
「昨日は 曾孫様をその手に抱かれたとの事 孫の2人も 立派な国防軍総司令官と防長閣下になられた 息子のアーケスト殿も… 何とかな?…これで思い残す事はあるまい?」
イリンゼスが言う
「曾孫?そいつは凄いな?」
カルンゼスが言う
「そちらの 名付けもされたそうだ」
イリンゼスが言う
「へぇ そうなのか…?何て名前なんだ?ナントカ~ハブロス?」
メルフェスが言う
「男子なら3構想 女子なら4構想だな?」
イリンゼスが言う
「4構想って やっぱ 長くねぇ?」
メルフェスが言う
「そうでもないだろう?確かに覚えるのは苦だが それだけ その家の歴史があると言う事だ… それで?」
メルフェスがカルンゼスを見る カルンゼスが苦笑して言う
「いやぁ 勿論聞いておらんよ?高位富裕層の最初の子供は 隠すものだろう?」
メルフェスが苦笑して言う
「それは政府内の話だろう?ここはハブロス家 歴代国防軍長の家だ 国防軍の内で この家の子供を狙う者はまず居ない」
カルンゼスが言う
「うん?そうだったか?確か 以前の時は… アース・メイヴン・ハブロス殿の時は 隠しておったと思ったのだが?」
メルフェスが言う
「それは戦争中であったからでは?」
イリンゼスが言う
「…なぁ?それって もしかして… これで見られたりしないか?」
メルフェスが言う
「イリンゼス 先ほども言ったが 私はこれを…」
イリンゼスが苦笑して言う
「良いじゃんかよ?別に 何も悪い事は無いだろ?ハブロス家でハブロス家の戸籍を ちょっと拝見する位~?」
メルフェスが言う
「駄目だ どうしてもと言うのであれば ラゼル様にお許しを頂いて来い!」
イリンゼスが言う
「え…?それは…」
ドアがノックされ シェイムが入って来て言う
「なにやら 盛り上がっている様ですね?」
メルフェスが言う
「シェイム殿 お体は もう?」
シェイムが言う
「はい、もう 十分に回復しました 今は少し動きたい位で それで エルム少佐にご協力を頂き こちらへ」
エルムβがドアの外に立っている メルフェスが言う
「そうでしたか エルム少佐は 母屋の方の警備部隊の動きも 把握されていますから 安心ですね」
イリンゼスが言う
「まったく 凄い老人だよなぁ?」
メルフェスが苦笑して言う
「確かに そうだな?」
シェイムが言う
「それで あれから何か情報は?」
カルンゼスが言う
「政府の調べで 補填用以外のナノマシーンの存在を確認したそうだが それが マスターブレイゼスの物であるかの確認は出来ないと… しかしそれも 今日明日にでも ハブロス総司令官から 政府へ資料の返還を行うとの事だ 近い内に判別されるだろう」
メルフェスが言う
「ハブロス総司令官の国防軍と ラミリツ殿の政府は 上手く手を結べている様ですね?」
シェイムが微笑して言う
「はい… あ、でも一応 ラミリツの政府ではなく 今はミックワイヤー長官の政府 …ですね?」
カルンゼスが言う
「いやぁ ハブロス殿のラミリツ殿への信頼は 相応のものであると 私は思うがね?」
シェイムが言う
「そうですか マスターカルンゼスから見て そう仰るのでしたら 何よりです」
メルフェスが言う
「ラミリツ殿の事は 彼の対とされる 防長閣下を通じてのものになるかと思っていましたが 良い意味で 変わりましたね?」
シェイムが言う
「そうですね まさか あのハブロス総司令官が メイリス家のラミリツを受け入れて下さるとは… これが 境遇の一致と言うものですか?マスターカルンゼス?」
カルンゼスが言う
「うむ、それに ラミリツ殿は まだ子供と言えるほどにお若い そこに 子供を得たばかりのハブロス総司令官は 気を許したのかもしれないな?」
シェイムが呆気に取られて言う
「子供を得た?」
イリンゼスが言う
「ハブロス総司令官の 子供が生まれたんだってさ?」
シェイムが言う
「そうでしたか それは…」
イリンゼスが言う
「名前を調べちゃえって言ってるのに 自分の婚約者の事は調べても ハブロス総司令官の事は調べないんだよな~?」
メルフェスが苦笑して言う
「人聞きが悪いな イリンぜス?私は プライバシーを尊重すると」
シェイムが言う
「名前を調べられるのですか?」
メルフェスが苦笑して言う
「私がマスターブレイゼスの私物を拝借しているので お陰で少々… しかし そちらを覗くつもりは有りませんよ?」
イリンゼスが言う
「ケチィ~」
メルフェスが言う
「しばらくすれば 公表されるだろう?」
イリンゼスが言う
「それって 確か5歳とか6歳とか…」
シェイムが気付いて言う
「それが 今 覗こうと思えば 出来ると言う事ですか?」
メルフェスが言う
「はい 戸籍謄本を拝見する事が」
シェイムが言う
「それではっ 危険ではないでしょうかっ!?」
メルフェスが言う
「え?」
シェイムが言う
「子供の名前が分かれば その子の出生した病院も調べられます 万が一 マスターブレイゼスが 国防軍の力を狙うとしたら ハブロス総司令官の子供を狙うと言う可能性は 十分にあるのではっ!?」
メルフェスとイリンゼスが呆気に取られる カルンゼスが言う
「そうか!病院の警備は 政府警察の警備部隊が全て担当している 万が一 彼らが守りきれなければ それも また 政府と国防軍の協力体制に水をさす事になり兼ねんっ アールスローンの防衛力を落とされる …これは 好機と取られるやも知れんぞ!?」
イリンゼスが言う
「じゃ、じゃぁっ!?どうするっ!?」
メルフェスが言う
「だからと言って 今の我々が 出来る事は…っ」
イリンゼスが言う
「カルンゼスからハブロス総司令官へ言って 病院に国防軍の警備を付けるとか!?」
メルフェスが言う
「政府警察の警備隊が付いている以上 そこへ国防軍の警備を付けると言う事は 政府への信用が無いと言う事になる 共同協力協定を組んでいる今なら尚更 そんな事は出来ない」
イリンゼスが言う
「それなら その政府警察へ言って 警備を強化させるとかさ!?」
シェイムが言う
「現状でも 国防軍トップの妻子が居る以上 警備体制は最大級で行われている筈です これ以上は… 事件が起きた際に 警機を動員する事位しか出来ません」
メルフェスが言う
「そして、その事は 政府の者であった マスターブレイゼスなら知っている事ですっ そこへとなれば 奴は全てを知った上で 裏をかいて来る筈です!我々は その先を読まなければ…っ」
イリンゼスが言う
「そんなのどうやってっ!?」
メルフェスとシェイムとカルンゼスが考える イリンゼスが心配している



【 病院 】

出入り口に警備が居る 警備員1が言う
「よう 交代だ」
警備員2が言う
「ああ、よろしく …それにしても 何時まで続くんだ?この強化体制は?」
警備員1が言う
「国防軍のお偉いさんが居るんだろ?最大級だから 相当上の方だろうな?」
警備員2が言う
「国防軍の?なら別に大丈夫だな?政府と違って身内内のイザコザが無いからさ?」
警備員1が言う
「なんだ それじゃ 形だけの強化体制か?道理で隊長も自宅待機な訳だ」
警備員2が軽く笑って言う
「っはは そう言う事だな?…ん?」
車が1台来る 警備員1と2が見ると 車が止まり 窓が開いてエレンが言う
「夜勤の看護婦です お疲れ様です」
警備員1と2が微笑して言う
「あぁ お疲れ様です!」 「大変ですね 看護婦さんは!」
エレンが微笑して言う
「警備員さんも 大変じゃないですか?お互い様ですね?」
警備員1が言う
「いや こっちは…」
警備員2が言う
「まぁ 夜だから 眠いっちゃ眠いですけど」
警備員たちが笑う エレンが微笑して言う
「では 通して頂いても良いです?」
警備員1が言う
「もちろん 今開けますよ」
警備員2が言う
「あ、一応IDを…」
エレンが言う
「それが… 急いでいたもので 忘れてしまって… いつもの警備員さんなら 顔見知りなのですけど…」
警備員1と2が顔を見合わせる エレンが困って言う
「やっぱり …取りに戻らないといけないですかね?」
警備員1と2が言う
「どうする?」 「そうだなぁ… 強化体制だし」 「けど、そのせいで 顔見知りの奴と変わっちまってるんだろ?」
エレンが苦笑して言う
「ご迷惑を掛けてしまってはいけないですから… ごめんなさい 一度取りに帰ります」
警備員1が言う
「あ~ いや… 良いですよ!今日だけって事で」
警備員2が言う
「え?良いのか?」
警備員1が言う
「明日からは ちゃんと持って来て下さいね?」
エレンが言う
「有難う御座います 助かります」
警備員2が苦笑して言う
「まぁ… いっか?看護婦さんだもんな?」
門が開かれ車が入る エレンが口角を上げる 車内で隠れていた人影が複数動き出す

【 病院 病室 】

エレナがベッドに眠っている ファーストが隣のベビーベッドで眠っている 病室のドアが開かれる

【 道中 】

大型輸送車が大きな物を荷台に乗せて走り去る

【 病院 病室 】

ファーストがぐずり泣き出す ファーストを抱き上げている人物が一瞬焦る エレナが目を覚まして言う
「…誰?看護士さん?」

【 病院 受付 】

ナースコールが鳴る 看護士が言う
「はい、こちらナースセンター どうしま…?」
ナースコールに エレナの声が届く
『誰かっ!誰か来てっ!子供がさらわれてしまうっ!』
看護士が驚く

【 病院 病室 】

ナースコールに 看護士の声が響く
『さ… さらわれっ!?すぐに警備を向かわせますっ!』
ファーストが泣いている エレナが男にしがみつきながら言う
「急いでっ!早くっ!きゃぁっ!」
エレナが男に振り払われる エレナが床に倒れつつ言う
「お願いっ!子供を返してっ!!」
男が片手にファーストを抱え エレナへ銃を向ける エレナが驚くと 開かれているドアに警備員と医者と看護士が駆け付ける 男が警備員へ銃を向け撃つ 警備員がとっさにうずくまると 銃弾がその後ろの壁に着弾する 看護士が悲鳴を上げる
「きゃぁあーっ!」
男が一瞬看護士へ銃を向けると 医者が壁にある緊急ボタンを押す 病院内にサイレンが鳴り響く 男がハッとして走り 過ぎ様に警備員を殴る

【 ハブロス家 アースの部屋 】

執事が急いで来て 寝室のドアをノックして言う
「アース様っ!緊急事態に御座います!」
執事がドアを開けて入って行く

【 病院 通路 】

サイレンが鳴り響く中 男がファーストを抱えたまま走っている 警備員たちが駆け付けて銃を向けると 男がファーストへ銃を向けて言う
「退け 邪魔をすれば こいつを撃つ」
警備員たちが怯む 男が笑んだ後 警備員たちを次々撃つ

【 ハブロス家 通路 】

アースが上着を着ながら足早に歩いて言う
「状況はどうなっている!?警備はっ!?」
執事が言う
「警備は 政府警察の警備部隊が 最大警備体制にて行っている筈に御座います」
アースが言う
「状況は掴めていないのか!?」
執事が言う
「管轄が政府で御座いますので」
アースが言う
「では、政府長へ連絡を!いや時間の無駄だ!国防軍の部隊を招集しろ!」
執事が言う
「病院の御座います ランル地区の駐屯地には 18部隊が夜間体制に御座いますが そちらを招集するには 政府長からの委託か もしくは政府警察機動部隊の出動後でなければ」
アースが言う
「では 警備部隊の隊長へ繋げ!直接 現場の隊長から支援要請を受ければ可能だ!」
執事が言う
「警備部隊の隊長は 現在 現場へ向かっている道中であると」
アースが言う
「今向かっているだと!?クソッ 役立たずの隊長がっ!もう良い!エルム少佐を起こせ!私の護衛として共に向かわせる!」
執事が言う
「しかし エルム少佐は夜はお薬でお休みの為…」
アースが言う
「緊急事態だ!私が許可を出す!薬を打て!それで目を覚ます!」

【 ハブロス家 ラゼルの屋敷 ラミリツの部屋 】

ラミリツが疑問して目を覚まして言う
「うん…?何か騒がしい?」
ラミリツがベッドを出てドアを開けて 通路へ顔を出す 通路の先でアースの声がする
「エルム少佐っ!」
エルムの声がする
「何だ アース・メイヴン・ハブロス」
ラミリツが疑問して言う
「ハブロス総司令官?こんな時間に…?」
ラミリツが向かう

【 ハブロス家 ラゼルの屋敷 エルムの部屋 】

開きっぱなしのドアから ラミリツが顔を覗かせる アースがエルムへ言う
「すぐに武装招集だ!病院に奇襲があった!」
エルムが言う
「医療施設の警備は…」
アースが言う
「分かっているっ!だが今は そんな形式事はどうでも良い!ファーストが奪われた!」
ラミリツが驚いて言う
「ファーストが…っ?子供が奪われたのっ!?誰にっ!?」
アースが一度ラミリツを見てからエルムへ言う
「政府の管轄だ 犯人も状況も何も分からんっ だが まだ病院内に居るのなら ここから緊急車両で5分で着く!エルム少佐!」
エルムが言う
「了解 緊急武装招集を発令 同行者は?」
アースが言う
「私が行く」
ラミリツが言う
「僕も行くよっ!」
エルムがイヤホンを付け 準備をしながら言う
「保護対象者は3名 デコイは3体連れて行きたい 緊急車両にはハブロス総司令官並びに運転手が乗る ラミリツの同行は不可能だ」
ラミリツが言う
「分かった なら僕は自分で行くから」
エルムが言う
「了解 準備完了 出動する」

【 ハブロス家 ラゼルの屋敷 メルフェスの部屋 】

メルフェスが窓から外を見ている 屋敷の前に止まっている緊急車両にアースとエルムたちが乗り込む メルフェスがエルムを見ると エルムがメルフェスと視線を合わせる メルフェスが頷く メルフェスの耳にイヤホンが付けられている

エルムがトランクを閉めて車に乗り込むと 車が発車して門を出てからサイレンを鳴らして走り去る

【 病院 外 】

周囲に警察車両がパトランプを回している 警備隊長が無線に叫ぶ
「犯人はっ!?国防軍のビップはどうなっている!?」
無線に隊員の声が届く
『隊長!犯人は赤ん坊を人質にしているとっ!人質が居ては…っ』
警備隊長が言う
「ええいっ!警機を要請しろ!人質を取られていては 我々では無理だ!」
隊員が言う
「隊長!国防軍のハブロス総司令官が!」
警備隊長が言う
「言い訳を考えている暇が無いっ 政府の上層へ回して時間を…っ!」
隊員が言う
「こちらへ いらっしゃいました!」
警備隊長が言う
「な、なにっ!?こんな時間に総司令官が!?」
アースがエルムを連れて来て言う
「隊長は貴方かっ!?状況はどうなっているっ!?」
警備隊長が言う
「は、はっ!国防軍総司令官様!このような夜更けに…っ」
アースが言う
「挨拶も言い訳も不要だ!状況を伝えろ!」
警備隊長が言う
「は、はっ!現在 犯人は 赤ん坊を人質にしているとっ!」
アースが言う
「他には!?今は何処に居る!?篭城しているのか!?何か要求は!?」
警備隊長が言う
「は、はっ!ただいま 確認を…っ!」
アースが言う
「警備体制はどうなっている!?作戦は!?」
警備隊長が言う
「け、警備体制は 最上階に3名と各階に2名…っ 作戦は…っ け、警機へ応援を要請しましたっ!」
アースが言う
「他にはっ!?」
警備隊長が言う
「わ、私も 先ほど到着したばかりの為…っ」
アースが表情を怒らせて言う
「ク…ッ!」
警備隊長が困り怯える エルムが言う
「現場の状況を確認したい 警備部隊の無線周波数を要求する」
警備隊長がエルムを見る アースが言う
「答えろっ!」
警備隊長が言う
「は、はいっ 周波数は29… いや、19ですっ!」
エルムが無線イヤホンを調整する イヤホンから声が聞こえる
『…3階まで 後退しよう!後は 警機が来るまでっ!』 『う、撃つなっ!我々は降伏す… ぐあっ!』 『おぎゃぁー おぎゃぁー!』
アースがハッとする エルムがイヤホンをつけながら言う
「犯人は現在施設3階付近に居るものと推測 共に 銃火器を所持しており 攻撃気性ランクはAランクからSランク ファースト・ライヴァイン・ハブロスを人質に移動中」
警備隊長がエルムを見て呆気に取られる エルムが警備隊長を見て言う
「情報の補填を要求する 犯人の使用している非常階段は施設にある3箇所の内の何処だ?現場の隊員へ確認を行え」
警備隊長が慌てて言う
「警備部隊 応答を!犯人の使用している非常階段は何処だっ!?」
無線に隊員の声が届く
『こちら警備部隊!階段は北側です!』
エルムが言う
「了解  これより人質の救助へ向かう」
エルムの後方でエルムβ3体が銃をセットする 警備隊長が言う
「ま、待って下さいっ!総司令官!国防軍の部隊を使う事はっ 警機の到着を待ってからでなければ!」
アースが言う
「彼らは私の護衛だ 私が直接 救助へ向かう!」
警備隊長が言う
「なぁあっ!?い、いけませんっ!それでは 警機の 保護対象者を増やす事にっ!」
アースが言う
「エルム少佐!任務開始だ!」
エルムが言う
「了解」
アースに続きエルムとエルムβたちが走る 警備隊長が焦って言う
「あぁあっ!わ、私は知らんぞ!?私は 止めたのだっ それを国防軍総司令官が 私の制止を振り切って 向かったのだからなっ!?」

【 病院 北側 】

アースとエルムたちが北側非常口へ到着する エルムが言う
「お前は ここで待機しろ」
アースが言う
「私も共に向かう 万が一の際は ファーストの救護を第一に考えろ!」
エルムがアースを横目に見てから言う
「了解」
エルムが非常口を蹴破る エルムβが2体先行し 1体が出入り口に待機する エルムが入るとアースが続く

【 病院 外 】

バイクが走って来て止まる 警備隊長が顔を向けると ラミリツが病院を見上げてからヘルメットを外して 警備隊長を見る 警備隊長が衝撃を受けて言う
「こっ!?攻長閣下っ!?」
ラミリツが駆け寄って来て言う
「状況はっ!?犯人は何処にいるの!?」
警備隊長が言う
「は、はいっ 攻長閣下!現在 犯人は人質を取って 建物北側の階段を使って 移動中です!3階か2階ではないかと!?」
ラミリツが言う
「警備部隊の作戦と 応援は!?」
警備隊長が言う
「警機の応援を要請していますっ 作戦は…っ 特にありません!」
ラミリツが言う
「無いってっ!?それじゃどうやって 人質を救助して 犯人を逮捕するのさっ!?」

【 病院 1階 】

アースとエルムが階段を目指して走って来ると 隊員たちの声がする
「お、おいっ!犯人を刺激するなっ!」 「何をしているんだっ 武器を下ろせっ!」
アースが顔を向けると 階段を降り終えた場所 警備隊員たちの前でエルムβが男へ銃を向けている アースがエルムへ向いて言う
「エルム少佐 どうするつもりだっ!?作戦は!?」
エルムが言う
「その場で 構築する」
アースが驚いて言う
「そ、その場ではっ!?」
男が言う
「おい!お前!仲間の言葉が聞こえないのか?武器を捨てて そこを通せ!」
エルムβが言う
「『無理だな』」
男が驚いて言う
「な…っ!?」
アースが驚いてエルムへ向くと同時に エルムが走り出す アースがハッとすると エルムが隊員たちの間を抜け男へ向かう 男が驚き慌ててエルムへ銃を向けて発砲する エルムが片手に持っていた刀を抜き 銃弾を全て弾くと刀を振るい男の銃を弾き飛ばす 皆が驚き言葉を失う 続けてエルムが柄で男の腹を突き上げ 男が目を見開いて言う
「がぁっ!?」
エルムが刀を鞘へ戻して 男が倒れる間際にファーストを片手に奪う 男が倒れる エルムが言う
「そのお前が 倒れていては 通られない」
隊員たちが言葉を失っていると エルムがアースの下へ行き ファーストを向けて言う
「任務完了だ ハブロス総司令官」
アースが微笑して言う
「ご苦労 エルム少佐」
エルムが言う
「元少佐 …だ」
アースが一瞬呆気に取られた後 苦笑して言う
「そうだな?」
アースがファーストを見る 隊員たちが顔を見合わせると ラミリツが言う
「ほらっ 政府警察警備部隊 何してるんだよ?すぐに犯人を現行犯逮捕!罪状は 誘拐未遂及び公務執行妨害!」
隊員たちが慌てて言う
「こ、攻長閣下っ!?」 「は、はいっ 直ちに!」
ラミリツがエルムとアースの下に来て言う
「折角急いで来たのに 僕が来た意味 無かったって感じ?」
エルムが言う
「問題ない お前への最後の指導が行えた」
ラミリツが言う
「え?最後のって?」
エルムが言う
「剣を教えるのは 先ほどので最後だ」
ラミリツが苦笑して言う
「あんなの 1度見た位じゃ 真似出来ないよ… って言うか 人間業じゃない」
エルムが言う
「私は…」
ラミリツが言う
「分かってる 悪魔の兵士だから …でしょ?」
エルムが言う
「人間から習った」
ラミリツが言う
「え…?そうなの?」
エルムが立ち去ろうとしながら言う
「従って お前も可能だ」
ラミリツが困って言う
「うん~ それじゃぁ…」
エルムが振り返って言う
「伏せろ ラミリツ」
ラミリツがハッとして言う
「えっ?」
アースがエルムを見ると エルムがアースを庇って壁へ押し付ける ラミリツが飛び退くと 通路に無数のマシンガンが放たれて マシーナリー1が突入して来る エルムβがM90を放つ 銃弾がマシーナリー1の顔にヒットするが弾かれ顔が砲台に変わる ラミリツが驚いて言う
「改良型っ!?」
エルムが言う
「回避っ」
ラミリツが走り エルムがアースを抱えて走る マシーナリー1がミサイルを放つ

爆発が起きる ラミリツが病院裏口から弾き飛ばされて地面に叩き付けられて言う
「う…っ!」
エルムが着地した状態で後方を振り返る エルムに守られていたアースがエルムを見ると エルムの後方で盾になっていたエルムβが倒れる 病院裏口前に集まっていた警備隊員たちが怯える アースが言う
「マシーナリーがっ!?何故!?」
ラミリツがプラズマセイバーを構えて言う
「エルム!僕がやるよ!」
エルムが言う
「了解 援護する」
エルムβがM90を持って立つ ラミリツとエルムβがマシーナリー1へ向かう アースがそれを見送ると エルムが言う
「最上階フロアにて エレナ・レイン・フラーソワ・ハブロスを確認 警護する」
アースがホッとして言う
「ああ それなら これで…」
男2が言う
「全員動くな!」
皆が声の方を向く エルムが目を細める

ラミリツがマシーナリー1へ向かって行くと マシーナリー1がラミリツへマシンガンを向ける ラミリツがマシンガンを回避して マシーナリー1へ向かいながら叫ぶ
「やぁああーっ!」
マシーナリー1がマシンガンをラミリツへ向ける エルムβがラミリツとマシーナリー1の間に入ってマシンガンの銃撃を受ける ラミリツが言う
「ゴメンっ!」
ラミリツがエルムβの肩を踏み台に マシーナリー1の上空へ飛び上がり マシーナリー1の首を切り裂き マシーナリー1が仰け反ると 続けてプラズマセイバーを右胸へ突き刺す マシーナリー1が動きを止め脱力して倒れる ラミリツがそれを確認するとプラズマセイバーを収め エルムβの前に行く エルムβが膝を付いた状態で言う
「『上出来… だ』」
ラミリツが苦笑して言う
「有難う… でも ゴメン… もっと訓練しなきゃだね?」
エルムβが言う
「『当然 だ…』」
エルムβが生気を失い倒れると 青白い炎に焼かれて白い灰になる ラミリツが一度表情を落としてから立ち上がって言う
「さて…」
ラミリツが歩き出す

ラミリツが裏口へ出てくると アースの声が聞こえる
「ふざけるなっ!貴様らは それでも政府警察の部隊かっ!?」
ラミリツが驚いて言う
「え… 何っ?」
ラミリツが顔を向けて驚く 男2が警備隊長を人質にしていて言う
「聞こえなかったのか?その赤ん坊を寄越せと言っているんだ さもなくば…」
男2が警備隊長のこめかみに突き付けた拳銃の引き金に掛けている指を強める 隊員たちが困り焦っている ラミリツが呆気に取られてから ハッとして身を隠して言う
「何!?どうなってるのっ?」
イヤホンにエルムの声が聞こえる
『先ほどの犯人の仲間と思われる者から脅迫を受けている この場所では他にも仲間が居る可能性がある 応援を要請したい』
ラミリツが言う
「僕はどうしたら良い!?」
イヤホンにエルムの声が聞こえる
『屋外のため 数の把握が困難だ 警機へ応援要請を行った との報告から到着可能時間を 2分21秒超過しているが 警機の応援が未だ現れない 要請はされているのか?』
ラミリツが携帯のディスプレイを見てから言う
「警機の緊急出動の連絡は受けてない… 攻長の僕に連絡が来てないって事は…っ」
エルムの声が聞こえる
『要請はされていない 更に この警備部隊では 被害を拡大させる可能性がある …作戦は困難だ』
ラミリツが言う
「政府の失敗は攻長である僕の責任っ 僕が負うよ!何をしたら良い?」
エルムが言う
『上出来だ 共に 奴にも責任を負わせる それが 隊長の務め …だ』
ラミリツが言う
「”当然だ”」
ラミリツが振り返り剣を抜く

男2が言う
「聞こえなかったのか?その赤ん坊を渡せ さもなくば…」
他方から銃声がして 隊員の1人に被弾して隊員が悲鳴を上げて膝を付く
「ぐあっ!?」
隊員たちが怯える 男2が言う
「言い忘れていたが 命を預かっているのは こいつだけではない 我々は お前たち全員の命を 預かっている …さあ そこのお前!」
男2に視線を合わせられた隊員が焦り周囲を見渡す 男2が笑んで言う
「そう お前だ 赤ん坊を連れて来い」
男2が警備隊長へ銃を突き付ける 隊員が困りアースへ向く アースが言う
「お前たちの任務は何だ!?この病院に居る者を!この子供を守る事だろう!?」
隊員が言う
「し、しかし 今はっ …隊長と共に ここに居る全員の命がっ」
アースが言う
「お前たちはそれでも 警備隊員かっ!?任務には 命を賭して討ち込め!」
隊員が言う
「しかし…っ」
他方から銃声がして 隊員が被弾して悲鳴を上げる
「ぐあっ!」
隊員が怯える 男2が舌打ちをして言う
「チッ 役立たずか …ならば お前が行け!」
男2が警備隊長を突き出して銃を向ける 警備隊長が一度銃を見てから怯えてアースを見る アースが言う
「隊長の貴方が何をしている!?命じろ!隊を動かせ!数の上では こちらが有利だ!」
警備隊長がアースの前に来て アースを見る アースが視線を強めると 警備隊長が困りつつ言う
「ど、どうか… この場だけでも…っ …お子さんは 警機が あ、後で 必ず…っ?」
アースが言う
「ふざけるなっ!」
エルムが沈黙する 警備隊長が隊員へ目配せを送る 隊員が頷き アースの後方から打撃を与える アースが目を見開き悲鳴を上げる
「がっ!?」
アースが薄れる視界で倒れ掛ける 警備隊長がファーストを奪う ファーストが泣き出す アースが必死に耐えて言う
「ま…て… …っ」
アースが地に膝を着きつつ顔を上げる 警備隊長がファーストを抱え男2へ向き直る 男2が言う
「良し そのまま連れて来い」
警備隊長が男2へ向かう エルムのイヤホンにラミリツの声がする
『エルムっ!?』
エルムが言う
「待機だ」
ラミリツの声がする
『けどっ!?』
警備隊長が冷や汗を流しつつ 男2の前に立つ ファーストが泣いている アースが顔を向ける霞む視界に 情景が見えている 警備隊長が言う
「ど、どうか これで…っ!」
警備隊長がファーストを男2へ向ける エルムが目を細めて言う
「ラミリツ」
ラミリツが走り向かいながら叫ぶ
「このっ!政府の恥さらしーっ!」
男2がハッとしてラミリツへ銃を向ける エルムが銃を取り出しM82を放ち 男2の銃を弾く 警備隊長が驚く ラミリツが男2へ剣を振り上げて言う
「やぁあーっ!」
他方から銃声が響く エルムが反応してM82を放つと 双方の銃弾が重なって散る 男2が斬り付けられた箇所を押さえて悲鳴を上げる
「ぐあぁあっ!」
ラミリツが男2へ剣先を向けて言う
「仲間は何人居るっ!?答えろ!」
男2が言う
「仲間ならっ 周囲に沢山居るっ!」
エルムが両手に銃を持ち2方へ構えて言う
「フェイクだ 仲間は1人 押さえるのなら 急げ」
ラミリツがエルムへ向いて言う
「だけどっ!?」
男2が警備隊長の銃を奪う ラミリツが驚くと 男2が銃を警備隊長の後方に居るエルムへ向ける 警備隊長が悲鳴を上げて言う
「ひぃいっ た、助けてくれぇえっ!」
警備隊長が腰を抜かす 男2がハッとすると 銃声が鳴る ラミリツが驚く ファーストが悲鳴を上げる
「ぎゃぁあー!おぎゃーっ!おぎゃーっ!」
アースが目を見開いて叫ぶ
「ファーストーッ!」
ラミリツが驚きに目を見開いている エルムが走って来て男2を蹴り上げ 上がった背を両手で叩き付ける 男2が悲鳴を上げる
「があっ!」
男2が地に伏して気を失う エルムが警備隊長へ視線を向ける 警備隊長が怯えたまま ファーストの両肩を両手で抱えて居る ファーストの腰に被弾していて大量の出血がしている エルムが言う
「保護対象を盾にした お前の評価はランクE 降格除名処分だ」
警備隊長が震えていると エルムがファーストの止血処置をする アースが駆け付けて言う
「ファーストはっ!?」
エルムが処置をしながら言う
「対象は新生児 失血許容範囲が想定出来ない しかし ここは病院前だ 間に合う」
エルムがファーストを抱き上げて言う
「優先順位に従い 私はこちらの保護を優先する」
アースが言う
「それで良い 頼む!」
エルムが一度他方を見てから病院へ走る アースが他方へ向く 草木が一瞬揺れる アースが目を細め銃を用意する ラミリツがハッとして言う
「追う気っ!?護衛も無しに危険だよ!」
アースが言う
「お前はここを片付けろ 私は奴の仲間を追う!」
アースが走る ラミリツが叫ぶ
「駄目だよっ!ハブロス総司令官っ!」
アースが走り去る

アースが追い駆けると話し声が聞こえる アースがハッとして木陰に隠れて言う
「他にも仲間がっ!?」
アースが気付かれない様に注意しながら向かう アースの視線の先エレンが誰かと話している アースが声に気付いて思う
(女?…犯人らの1人は女だったのかっ!?相手は…っ!?)
アースが相手を確認しようとする 話の最中エレンが密かにアースを確認して言う
「では 後はお願いする 知り合いだろう?助かったよ」
アースがハッとして疑問して思う
(気付かれたっ!?…知り合いだと?)
エレンが逃げようとする アースが木陰から飛び出して銃を向けて叫ぶ
「二人とも動くなっ!」
アースがエレンの話していた相手を見て驚いて言う
「な…っ!?お、お前はっ!お前たちはっ!!」
アースの視線の先 振り返っているエレンの向かいに シェイムが居て驚いて言う
「ハブロス総…っ!」
エレンが微笑して言う
「気を付けてね?シェイム?」
エレンが逃げる アースがハッとして言う
「待てっ!お前は あの マスターシュレイゼスの!」
アースの脳裏に メルフェスと一緒に居るエレンの姿が思い出される シェイムが逃げようとする アースがシェイムへ向けて発砲する シェイムがハッとするとマスターのスピードで回避して消える アースが驚いて慌てて追い駆け 2人の逃げた方へ銃を交互に向るが 2人とも居なくなっている アースが呆気に取られて言う
「奴らが… 奴らがまたっ!?やはり 奴らがっ!?お… おのれぇえ!マスターシュレイゼスっ!そして…っ!!」
ラミリツが走って来て アースを見付け呼びながら駆け付ける
「ハブロス総司令官!大丈夫っ!?」
アースがラミリツへ振り返って怒りの視線を向ける ラミリツが驚いて言う
「え…っ!?」
アースが言う
「お前もか…?」
ラミリツが呆気に取られて言う
「…な、何?何の事?どうしたの?何怒ってるのっ?」
アースがラミリツへにじり寄る ラミリツが後ず去る アースが言う
「やはりお前もっ 仲間なのかっ?奴らと共にっ!?また 私を…っ!?私から 奪うつもりかっ!?」
ラミリツが言う
「わ、分かんないよっ!?何っ?何があったのっ!?あいつは?犯人は…っ?」
アースが怒って言う
「とぼける気かっ!?」
アースがラミリツへ銃を向ける ラミリツが驚いて息を飲む
「っ!」
ラミリツが一瞬目を閉じる アースの引き金を引こうとした指が止まる ラミリツが意を決して目を開き アースの銃に掴み掛かる アースがハッとすると 次の瞬間 アースが地に押さえ付けられている アースが痛みに歯を食いしばりつつ ラミリツへ視線を向ける ラミリツが言う
「ゴメンっ でもっ 何か誤解だよっ!?僕は…っ 僕はハブロス総司令官とっ 喧嘩なんかしたくないからっ!折角 仲良くなったのにっ!だから お願い…っ」
ラミリツが涙目になる アースが気付き視線を逸らして言う
「…では まさか?奴も… 偽… メイリス… なのか?」
ラミリツが言う
「偽… メイリスって?」
アースが落ち着いて言う
「放せ …肩が外れる」
ラミリツがハッとして手を放す アースが立ち上がり頭を押さえて息を吐く

【 ハブロス家 医療室 】

部屋の前に エルムβが立っている

室内

ベッドに座っているシェイムが言う
「メルフェス殿の秘書であった彼女が マスターブレイゼスの洗脳を受けていたとは… それに驚いたのも束の間 今度はハブロス総司令官が彼女を追って来て 私と彼女が話している所を見られてしまいました …しかも 彼女は さも私が彼女の仲間であるかの様に振舞って… あれでは 私が彼女の仲間ではないと言う方が難しいでしょう…」
カルンゼスが言う
「やられたな… まさか そこまでを計算されていたか…」
シェイムが言う
「私は 自分の子供が銃で撃たれた以上 ハブロス総司令官は 当然 そちらへ付き添うものと思ったのですが」
カルンゼスが言う
「通常の精神ならばそうだろう  だが 託したのが 祖父の養子とは言え家族であり 信頼の置けるエルム少佐であった …そこで 彼は自分に出来うる最大限の事をしたのだろう 流石は 国防軍総司令官だ」
シェイムが言う
「うかつでした… これでは もう誤魔化し様が…」
ドアの外からエルムβの声が聞こえる
「『何の用だ?ラミリツ?』」
シェイムとカルンゼスがハッとする ラミリツの声がする
「兄上は?居る… よね?」
エルムβが言う
「『シェイム・トルゥース・メイリス は 在室 …だ』」
カルンゼスが小声で言う
「演技を続けろっ」
シェイムが小声で言う
「しかし もうこれ以上はっ」
カルンゼスが小声で言う
「私が誤魔化すっ 早くっ!」
ラミリツが入室してベッドへ向く カルンゼスが振り向いて言う
「おや?ラミリツ攻長閣下 貴方も 事件のあったという病院へ向かわれたそうだが 何処かお怪我でも負われたかな?」
ラミリツがシェイムの前へ来る カルンゼスがラミリツの様子を見て言う
「ふむ…?特に お怪我などを負われた様子は なさそうだが?」
ラミリツがカルンゼスを見て言う
「アンタ… こんな時間に いつも居るの?」
カルンゼスが言う
「いや?いつもは もう少し後なのだが 今日はあの騒ぎのお陰で 目が覚めてしまった為に   少し早いが… とは言え 患者の床擦れを防ぐために いつも数時間置きに 寝返りをさせているのだよ」
ラミリツが言う
「そうなんだ…?それじゃ… 兄上の事 いつも 見てるんだよね?僕より ずっと…」
カルンゼスが苦笑して言う
「もちろん 今の私は このお屋敷に専属医として雇って頂いている様なもの そうである以上 受け持っている患者のお2人に もしもの事があっては 言い逃れが出来ないかならなぁ?」
ラミリツが言う
「そう… 兄上は… …まだ 意識が戻らないんだよね?」
カルンゼスが苦笑して言う
「そうではあるが… 希望は捨ててはいかんよ?彼は強い男だ きっと いつか… 貴方の兄として戻って来られるだろう」
ラミリツが苦笑して言う
「うん… それなら… …それならさ?ずっと前の状態で 戻って来てくれる なんて事 …無いかな?昔みたいに… 父上に殴られて泣いてる僕を 慰めてくれた …あの 優しい兄上で…」
カルンゼスが苦笑して言う
「政府の長官になられてからは お厳しかったのかな?」
ラミリツが言う
「うん… 何か… いつも隠し事をされているみたいで… それに もし追求したら 兄上は アイツの方に行っちゃうって… もう戻って来てくれないんじゃないかって… 何度も思ったんだ だから 怖かった …僕もハブロス総司令官と同じかもしれない …失いたくない 兄上は 僕に残された …たった一人の家族だから」
シェイムが毛布の中で手を握り締める カルンゼスが静かに言う
「失ったりなどはしない 彼は貴方の兄であり家族だ ラミリツ殿が そう思っている限り」
ラミリツが苦笑して言う
「うん そうだよね?だって目の前に居るんだもん いつかきっと… 目を覚ましてくれる …だから 僕が守らなきゃね?僕らのメイリス家を!」
カルンゼスが微笑して頷いて言う
「うむっ それでこそ ソロン・フレイス・メイリスの息子だ」
ラミリツが苦笑して言う
「父上の事は あんまり好きじゃなかったんだけど… 今は 同じ位 強くなりたいって思ってる …父上と同じ仲間も居るし」
カルンゼスが言う
「エルム少佐かな?」
ラミリツが言う
「うん!それに ハブロス総司令官も!…父上は ヴォール・アーケスト・ハブロス様の事 最期まで 信じてた だから… 僕も それが出来る位 強くなりたいって思ってる」
カルンゼスが頷いて言う
「うむ 確かに 強い男だ」
ラミリツが苦笑して言う
「まだ 子供だけどね?」
カルンゼスが軽く笑って言う
「はっはっは その若さで 大した者だとも?流石は攻長閣下 政府もこれで安心だろう」
ラミリツが苦笑する

ラミリツが退室すると カルンゼスが肩の力を抜いた後 振り返らずに言う
「彼も今は頑張っている… 貴方も 頑張らなければな?シェイム殿?」
シェイムが苦しそうに言う
「…はいっ」
カルンゼスが苦笑する

【 国防軍総司令本部 総司令官室 】

アースがデスクに両肘を突いて額を押さえている 執事が言う
「アース様… 少しお休みになられては?」
アースがそのままの姿で言う
「命が助かっただけでも 良かったと思うべきか…」
執事が表情を落として言う
「はい… 一歩間違えば 取り返しの付かない事になっていたとも」
アースが顔を上げて言う
「障害は残るだろうとの事だ… ともすれば 一生歩けないかもしれない」
執事が言う
「精一杯 ご奉仕を させて頂きます」
アースが言う
「ああ… 国防軍総司令官には なられないかもしれないが ハブロス家の人間である事は変わらない …その分だけ 救われたか?…もしくは ハブロス家の子として生まれなければ このような目に合わなかったと思うべきか… どちらにしろ あの子には詫びのしようもない 私が 守りきられなかったんだ」
執事が言う
「政府からは 今回の責任を取り 昨夜の警備担当をしていた 政府警察警備部隊の隊長の辞任を聞いております 共に 被害賠償の方も 用意があると」
アースが息を吐いてから言う
「賠償などを用意する位ならっ その分で 警備部隊の強化を行えと言って置け!根本的に叩き直せとっ それが駄目なら…っ!」
アースが立ち上がって言う
「いや… 今は 協定を結んでいる 警備を任せないとは言えない…」
執事が言う
「現在も 警察は犯人らの行方を追っていると 警備に関しましては 政府警察機動部隊が特別警備を行っているとの事に御座います 更には 今後万が一の奇襲の際は すぐに国防軍へも援軍の要請を行い 合同で対処をすると」
アースが言う
「では レギストと… それなら安心か?いや… 隊長は エルム少佐ではない… やはり彼に頼むべきか… いや、そんな事は もう … …  … 少し休む…」
執事が言う
「お疲れ様で御座います」
アースが部屋を出て行く

【 ハブロス家 ラゼルの屋敷 】

ラミリツが玄関を開けつつ あくびをして言う
「ふあ… やっぱ 眠い… 昼寝をした位じゃ足りないや…」
ラミリツが顔を向けると 玄関前の警備にエルムβが立っている ラミリツが言う
「エルムは寝なくて平気なの?今朝だって 帰ってからずっと寝てないんでしょ?」
エルムβが言う
「『問題ない』」
ラミリツが言う
「”私には睡眠欲が無いからだ”って言うの?でも だからこそさ?ちゃんと寝なきゃ駄目なんでしょ?薬を飲んででも」
エルムβが言う
「『問題ない』」
ラミリツが言う
「それって つまり1日くらい大丈夫って事?けど唯でさえ 10人分の神経使ってるんだから やっぱ 休まないと…」
エルムβが言う
「『訓練の開始は 13時10分…だ 通常訓練を開始 する』」
ラミリツが嫌そうに言う
「うあ… 寝不足で走れって 凄いヘビーなんだけど…?」
エルムβが言う
「『残り…45週だ』」
ラミリツが疑問して言う
「あれ?何でそんなに少ないの?」
エルムβが言う
「『訓練の開始は 13時10分…だ 遅れた場合は 通常訓練を 全て100追加 する』」
ラミリツが衝撃を受けて言う
「あぁあっ!わ、分かった分かったよ!折角45週になったのに 倍以上増やされるなんて 冗談じゃないよっ」
ラミリツが走り出す

【 ハブロス家 医療室 】

メルフェスが言う
「そうですか エレンがマスターブレイゼスに… 何故 彼女がそんな事になってしまったのか…」
シェイムが言う
「私も最初は まさかと思いました しかし…」

【 回想 】

ラミリツが男2へ剣先を向けて言う
『仲間は何人居るっ!?答えろ!』
男2が言う
『仲間ならっ 周囲に沢山居るっ!』
エルムが両手に銃を持ち2方へ構えて言う
『フェイクだ 仲間は1人 押さえるのなら 急げ』
シェイムがエルムの銃の先を見ると人影が逃げる シェイムが言う
『はい エルム少佐!』
シェイムが人影を追って走る

シェイムが余裕で追い掛けて思う
《この距離なら 十分か…?》
シェイムが視線を強め 逃げていた人影の前に現れて言う
『そこまでだ マスターブレイゼス』
シェイムが相手の首に付けられているネックセンサーを見てから顔を見て驚いて言う
『…あ、貴女はっ!』
エレンが言う
『おや 誰かと思えば シェイム・トルゥース・メイリス …いや、今の動き もしや?』
シェイムが言う
『…マスターブレイゼスっ 彼女を解放してもらう!…だが その前に 白状しろ お前の目的は何だ?その為に用意したネックセンサーは 残りいくつある?』
エレンが言う
『答えると?だが そうだな?ナノマシーンを得て 私と志を同じくしようと言うのであれば …元長官であるお前なら 利用価値はいくらでもある 歓迎しよう』
シェイムが言う
『目的は何だ?』
エレンが言う
『私の目的は ナノマシーンを持つ者の本来の役目… このアールスローン帝国 皇帝陛下のお力になる事だ』
シェイムが言う
『皇帝の?…では お前が行っている事 それが皇帝の望みか!?アールスローン国民の虐殺が!?』
エレンが言う
『違うな 陛下はその様な事は願っていない… しかし、陛下をお救いするには もうその方法しか残っていないのだ だから 私は…』
シェイムが言う
『帝国の皇帝は このアールスローンの地を守っている!そして 彼の要求は ペジテの姫 アールスローン国の女帝陛下を 探し出す事である筈だ!』
エレンが言う
『確かに …しかし その約束をした筈の お前たちはどうだ?姫を探す所か 己の欲望のために 権力や財力を求めるだけ …お前たちなど 陛下がその身を賭して守る価値など無いのだ だから 私は お前たちを全て排除する』
シェイムが驚く エレンが言う
『そうすれば お優しい陛下は永遠の苦しみから 救われるのだ』
シェイムが言う
『欺瞞だ!貴方のその様な勝手な想いだけで 許されると思っているのか?皇帝を助けたいのなら 方法はいくらでもある筈だ!そして 皇帝やこのアールスローンを守りたいと願うのなら 貴方は別の方法を考えるべきだ!』
エレンが言う
『別の方法?そんなものは とっくに試したさ だが出来なかった… お前たちは 他者の苦しみなどお構いなく 自分さえ良ければ それで良いのだろう?だから お前たちの邪魔になった私を 政府と国防軍の力を使って… 殺したのだ!』
シェイムが言う
『それは…っ 』
エレンが密かにアースを確認して言う
『…では 後はお願いする 知り合いだろう?助かったよ』
シェイムが疑問して言う
『知り合い?』
エレンが逃げようとする シェイムが言う
『待てっ!』
アースが木陰から飛び出して銃を向けて叫ぶ
『二人とも動くなっ!』
シェイムがハッとして アースを見て思う
《しまったっ!何故…っ!?》
アースがシェイムを見て驚いて言う
『な…っ!?お、お前はっ!お前たちはっ!!』
シェイムが言う
『ハブロス総…っ!』
エレンが微笑して言う
『気を付けてね?シェイム?』
エレンが逃げる アースがハッとして言う
『待てっ!お前は あの…っ!』

【 回想終了 】

シェイムが言う
「お陰で エレン殿を助ける事も ネックセンサーの残りを確認する事も出来ませんでした …しかし マスターブレイゼスの行おうとしている事は やはり アールスローン国民の虐殺… したがって 今はそれの邪魔となる 国防軍の力を奪うか 潰すかを狙っているのではないかと」
イリンゼスが言う
「だから 国防軍の総司令官の子供を 狙ったって言うのか?んで… その子を使って ハブロス総司令官を脅して 国防軍を潰すか 使おうって?」
メルフェスが言う
「いや、例え ハブロス総司令官の子供を人質に取ったとしても 国防軍を手に入れる事には繋がらないだろう 国防軍は 総司令官の命令で動くとしても 私情に使って良い物ではない」
シェイムが言う
「ハブロス総司令官が もしその様な事をするなら 国防軍総司令官は 別の者となる筈だ 以前の様に…」
イリンゼスが言う
「それじゃ 何で マスターブレイゼスは マシーナリーまで使って ハブロス総司令官の子供を狙ったんだ?」
メルフェスが言う
「きっと そこには何か理由があった筈だ… そうだな…?国防軍と政府の 現状の協力体制を崩す為か…?それとも…?」
シェイムが気付いて言う
「そう言えば フレイゼス殿」
メルフェスがシェイムを見る シェイムが言う
「マスターブレイゼスは 以前 偽者の貴方を操って 国防軍の力を… アールスローン戦記の原本を奪おうとしました もしや 今回も奴は それを狙って ハブロス総司令官の子供を奪おうとしたのでは?」
メルフェスが言う
「なるほど その線はありそうですね マスターブレイゼスの力は政府のマスタートップシークレット 帝国のマシーナリーを操る力です そして、国防軍のマスタートップシークレットは そのマシーナリーを倒す力 彼がマシーナリーを使って アールスローン国民の虐殺を考えるなら 一番邪魔になる力です」
シェイムが言う
「では やはり奴の狙いは…!」

【 国防軍総司令本部 総司令官室 】

緊急を知らせるランプが光り ブザーが鳴る アースが顔を向けると スイッチを押して言う
「ハブロス総司令官だ 何事だ?」
スピーカーから 声がする
『こちらマルック駐屯地情報部!駐屯地に奇襲です!帝国のマシーナリーが!』
アースが驚いて言う
「なんだとっ!?」

【 ハブロス家 ラゼルの屋敷 】

ラゼルが僅かに苦しそうにする エルムが顔を向け沈黙する

ラミリツがエルムβと剣術の稽古をしている ラミリツがエルムβへ斬り込んで言う
「やぁあーっ!」
エルムβが気付き ひょいと後ろへ避ける ラミリツが衝撃を受け慌てて言う
「えっ!?わわわーっ!」
ラミリツがつんのめり転んで言う
「テテ… 酷いよ エルム!?急に戦意を落とすなんてっ!そんなの 無しでしょ!?」
エルムがやって来て言う
「マシーナリーも 命令を変更されれば 攻撃を行わなくなる」
ラミリツがエルムへ向き直り 溜息を吐いて言う
「それは そうかもしれないけどさ? そんな急なのに対応しろなんて言われても… 僕は機械じゃないんだから」
エルムが言う
「訓練を中止する」
ラミリツが衝撃を受けて言う
「…って?はぁあっ!?な、何でそんな急に?」
エルムが立ち去る ラミリツが言う
「あっ!ちょっと エルム!?」
エルムの携帯が鳴り エルムが着信させて言う
「何だ?」
携帯からロンドスの声がする
『お待たせ致しました 少佐 ご要望のMT77の試作銃が完成致しました』
エルムが間を置いて言う
「了解 …納品には お前も来い」
ロンドスが言う
『はい?私もですか?お届けと説明の方は いつも通り ザキルが…』
エルムが言う
「これで最期になる お前も来い 屋敷で待っている」
ロンドスが言う
『最後…?はい 畏まりました それでは後ほど』
エルムが携帯を切る ラミリツが言う
「誰か来るの?…それじゃ 僕は 政府本部に行こうかな?昨日の件が まだ 片付いてないし」
エルムが言う
「お前も 屋敷にて待機しろ」
ラミリツが言う
「え?訓練は中止なのに?」
エルムが黙って屋敷へ入る ラミリツが疑問して言う
「エルム…?」
エルムβが屋敷の警備に就く ラミリツがそれを見てから屋敷に入る

エルムが部屋に戻り受信機を操作して周波数を合わせると アースの声がする
『…の状況を確認しろ!それから …何だとっ!?』
エルムが目を細めて言う
「アース・メイヴン・ハブロス総司令官は 任務中」
エルムが受信機の電源を消そうとする ラミリツが入って来て言う
「さっきの電話の人が来るならさ?僕は…?」
受信機からアースの声がする
『レギストに緊急招集を掛けろ!その作戦は最終手段だ 彼らを失いたくない レギストの力を使え!』
エルムが受信機の電源へ向けていた手を外す ラミリツが呆気に取られて言う
「何?今の…?レギストにって?」
エルムが沈黙する

【 国防軍レギスト駐屯地 情報部 】

ハイケルが視線を細めて言う
「バックス中佐 出動命令を」
アルバートがバックスを見る バックスが間を置いて言う
「ハイケル少佐 命令だ」
ハイケルがバックスを見る バックスが言う
「君と共に向かう 国防軍レギスト機動部隊 隊員たちを 全員 生きて戻らせろ 以上だ」
ハイケルが視線を細めて言う
「…了解」
ハイケルが走って出て行く アルバートがバックスを見て言う
「対帝国との戦いへ出動命令を下せるのは 総司令官だけだ …良いのか?」
バックスが言う
「責任は 私が…」
バックスの携帯が鳴る バックスが気付き着信させると 携帯からオペレーターの声がする
『国防軍レギスト駐屯地 国防軍17部隊へ 総司令官より緊急出動命令です』
バックスが呆気に取られてから苦笑して言う
「どうやら 助かった様だ」
アルバートが微笑する

サイレンが鳴る スピーカーからアナウンスが流れる
『緊急指令 緊急指令 国防軍17部隊 直ちに 武装装備を行い 車両収納所へ集合せよ 繰り返す 緊急指令 緊急指令 国防軍17部隊 直ちに 武装装備を行い 車両収納所へ集合せよ』
隊員たちが顔を上げ 隊員Bがイヤホンを押さえて言う
「少佐ぁーっ!レギスト機動部隊 準備万端であります!」
ハイケルが走りながらイヤホンを押さえて言う
「バイスン隊員 了解だ」

【 ハブロス家 ラゼルの屋敷 】

受信機から ハイケルの声がする
『国防軍レギスト機動部隊 出動!』
エルムが受信機を操作する 受信機から アースの声がする
『…の情報を メディアへ流せ!共に マルック地区住民へ避難勧告を!』
受信機から電話の音がする ラミリツが呆気に取られて言う
「この無線機って 複数の回線を同時に流せるんだ?」
エルムが言う
「無線受信機 …だ 従って こちらからの発信は不可能だ」
ラミリツが言う
「へぇ…?でも それって 便利なんだか 不便なんだか…」
エルムが言う
「私と同じ …だ」
ラミリツが言う
「エルムと同じって?」
ドアがノックされ 執事2が入って来て言う
「エルム少佐 ロンドス殿とザキル殿がいらっしゃいましたが どちらへお通し致しましょう?」
エルムが言う
「この部屋だ」
執事2が言う
「宜しいのですか?」
エルムが言う
「当然だ」
ラミリツが言う
「え?このままで?国防軍の無線を 聞かれちゃっても良いの?」
執事2が微笑して言う
「畏まりました それでは…」
ラミリツが通信機と ラゼルの様子を見てからエルムへ言う
「部外者なら 別室で応対した方が良いんじゃない?」
部屋にロンドスとザキルが入って来る エルムが言う
「問題ない 彼らは 仲間 …だ」
ラミリツが言う
「仲間…?」
ラミリツがロンドスとザキルを見る ロンドスが微笑して一礼する ザキルがラミリツを見て驚いて言う
「えっ!?もしかして…?攻長閣下っ!?せ、政府の攻長閣下が 何で国防軍の ここにっ!?」
エルムが言う
「仲間 …だ」
ザキルが言う
「仲間っ!?政府なのに?」
ラミリツがムッとする ロンドスが笑う
「フォッフォッフォ…」

【 ハブロス家 医療室 】

メルフェス以外の3人がTVを見ている TVからキャスターが言う
『そして、たった今入った情報です 国防軍総司令官は この事態に 国防軍マルック駐屯地に近い住民 国防軍マルック駐屯地より半径20キロ圏内の住民に 避難勧告を要請 これを受け 政府より その区域へ向けた 緊急避難命令が出されました 緊急避難命令 国防軍マルック駐屯地より 半径20キロ圏内の住民は 速やかに避難して下さい 緊急避難命令です 対象の住民は 速やかに避難して下さい』
メルフェスがノートPCを操作して言う
「これは…っ!」
イリンゼスが言う
「どうした?」
メルフェスが言う
「シェイム殿 こちらを」
メルフェスがシェイムへノートPCを見せる シェイムが驚いて言う
「これは政府警察本部のデータへ アクセスされた記録…?私のIDでっ!?」
メルフェスが言う
「政府警察本部のデータには 警察長や警機隊長のみが閲覧を許される 政府警察のみのトップシークレットがあります シェイム殿は警察長ではなく 長官でしたので そちらのロックは掛けられていた筈ですが」
シェイムが言う
「しかし、そもそも私は 長官の任を失ったのですから このIDは既に無効化されていたのでは?」
メルフェスが言う
「シェイム殿は ”行方不明”と言う形で処理がなされているので IDは残っていたのでしょう それでも 通常であれば何に対しても使用は出来ない筈の物が 現状では さまざまなロックを外され 政府のマスタートップシークレットも 政府警察本部のデータも閲覧が可能な状態です」
シェイムが言う
「私は そんな事になっている事は知りませんでしたし 意識不明を装っている今 IDを使って政府の情報にアクセスなど」
メルフェスが言う
「IDのログは今朝からです …従って 恐らく」
シェイムが言う
「…マスターブレイゼスの仕業ですね?」
イリンゼスがTVを見て言う
「じゃぁ ひょっとして これもか?」
TVからキャスターが言う
『更に 今入った情報です この襲撃に対し 国防軍総司令官は マイルズ地区にある 国防軍レギスト駐屯地のレギスト機動部隊へ 出動命令を出しました』
カルンゼスが言う
「レギスト機動部隊…」
シェイムが言う
「レギスト機動部隊は 元々帝国との戦争用に召集される部隊 エルム少佐が居た部隊です その彼らなら マシーナリーが相手でも 大丈夫でしょう」
メルフェスが微笑して言う
「そうですね 彼らは先日のサーカス会場でも アールスローン国民を守り マシーナリーを殲滅させたと…」
メルフェスが気付いて言う
「ん?そうでした… その事件はマスターブレイゼスが引き起こしたもので 彼にしてみれば レギスト機動部隊の活躍によって 既に失敗に終わったものです もし、この襲撃が 再び そのマスターブレイゼスが引き起こしている事であるなら 以前に失敗に終わったそれと 同じ事を繰り返すでしょうか?あのマシーナリーだけでは レギストが居る限り 国防軍を倒せないでしょう?」
シェイムが気付いて言う
「そうですね?天才と言われた程の 彼の行う事にしては 安易過ぎる… では 何か裏があると言う事でしょうか?」
メルフェスが言う
「場所は 国防軍マルック駐屯地 このアールスローンの中で 最も帝国に近い地区です 恐らく国防軍は レギストではなくとも 相応の装備を整えている筈です そこへレギストも入るとなれば それこそ サーカス会場よりもずっと…」
カルンゼスがメルフェスのノートPCを操作して言う
「なるほど 奴め… 帝国から更なるマシーナリーを呼び寄せる気だな?」
メルフェスとシェイムが驚いて言う
「「なっ!?」」

【 マスターの店 】

TVに映像が映っていて レポーターが言う
『我々は今!敵襲がされている 国防軍マルック駐屯地の上空に来ています!しかし 皆様 ご覧下さい!国防軍の戦車部隊の力で あの恐ろしい機械がことごとく粉砕されています!国防軍からは未だ交戦中との連絡ですが この状況なら 更なる襲撃にも 我々アールスローン国 国防軍の完全勝利と!』
マスターがPCを操作して言う
「駐屯地周辺に見えるあのマシーナリーの残骸は 政府のデータから引っ張った所の RTD210マシーナリーといわれるタイプだ …それが どれも戦車部隊の前方100メートルで防がれている と、それにも拘らず 国防軍からは未だ交戦中の連絡… つまりこれは」
マスターがモニターを見て言う
「戦車部隊と同等の戦力を持つ あの駐屯地内に それ以上の戦力が 既に 入り込んじまってるって事だ」
モニターにマシーナリー2とマシーナリー3の写真が表示される

【 ハブロス家 門前 】

国防軍の緊急車両が発車する

【 車内 】

助手席に居るカルンゼスが言う
「マシーナリーは戦力の低い RTD210マシーナリーと呼ばれるものから引き寄せられ 一定の数を数を超えても尚 要請がある場合は 更に戦力の高いマシーナリーが向かう事となっているらしい 急がなければっ」
メルフェスが言う
「今は国防軍が押さえていても やがては 押さえ切れなくなるまで 帝国からマシーナリーが送られてしまう」
イリンゼスが言う
「な、ならよっ?戦わせない方が良いんじゃないか!?国防軍に連絡して…っ!?」
カルンゼスが言う
「戦わなければ そのマシーナリーがアールスローン国民の虐殺を 始めてしまうだろう!?」
イリンゼスが言う
「ゲッ!?そ、そうなのかっ!?もう 訳わかんねぇえよっ!?大体 それで 何で俺たちがっ!?」
メルフェスが言う
「今、国防軍の基地にマシーナリーを引き寄せているのは 恐らく マスターブレイゼス… もしくは 奴からネックセンサーを渡されている誰かだ 国防軍がマシーナリーを押さえている間に 我々で その者を押さえる!」
イリンゼスが言う
「お、俺たちがっ!?だって そいつはマシーナリーを操れるんだろう!?そんな所へ行って探すなんてしたら いくらエルム少佐が一緒でも 危険じゃないか!?」
エルムβが沈黙している カルンゼスが言う
「大丈夫だ イリンゼス マシーナリーはナノマシーンを持つ者を 襲う事はしない」
イリンゼスが呆気に取られて言う
「え…?」
シェイムが言う
「だからこそ 今 マシーナリーがはびこっている 国防軍マルック駐屯地へ向かい そこで 犯人を捜すのは 我々が一番適している」
イリンゼスが言う
「な、なるほど…っ」
エルムβが沈黙して車を運転している 車が走り去る

【 国防軍マルック駐屯地 】

ハイケルが言う
「マイク少佐 爆破地点に到着した ロックを」
イヤホンにマイクの無線が入る
『了解っ!ロックを解除します どうか お気を付けてっ!』
ハイケルが言う
「了解」
ハイケルの視線の先 ロックシグナルが赤から緑に変わる 重い扉が開かれる 隊員たちが武器を構える 開かれたドアの先 防御壁に身を隠していた第1第2部隊員たちが言う
「レギストがっ!?」
扉が開き切り 広い場所に4機のマシーナリー2が点在している 

【 ハブロス家 ラゼルの屋敷 】

受信機からハイケルの声が聞こえる
『レギスト機動部隊 作戦を開始する』
隊員たちが言う
『了解っ!』
ラミリツが言う
「隊長のハイケル少佐の手が空くまで 隊員たちでマシーナリーを引き付けて置く… これって マシーナリーが鈍間で 単純だから出来る作戦だよね?」
エルムが言う
「そうだな」
ラミリツが言う
「エルムの時もさ?こんな作戦だったの?」
エルムが言う
「私は奴とは異なる」
ラミリツが言う
「異なるって?…でも 同じ悪魔の兵士なんでしょ?」
エルムが言う
「奴は悪魔の兵士… 私はその改良型 …だ」
ラミリツが言う
「改良型?」
エルムが言う
「私は奴の欠点を補って作られた人形だ」
ラミリツが言う
「人形って… マシーナリーじゃないんだからさ?で、具体的に どんな風に違うの?作戦は?」
エルムが言う
「奴は自分で戦う 私は 仲間の補佐を行う」
ラミリツが言う
「じゃぁ エルムは 隊員たちに戦わせたって事?」
エルムが言う
「そうだな」
ラミリツが言う
「ふ~ん?」
エルムが沈黙する ロンドスが苦笑する ザキルがロンドスを見て疑問する

【 国防軍マルック駐屯地 】

国防軍の緊急車両が到着すると エルムβ、カルンゼス、イリンゼス、メルフェス、シェイムが降りる カルンゼスが言う
「では 見付け次第 すぐに連絡を」
シェイムが言う
「はい!」
イリンゼスがイヤホンの調子を整える エルムβがトランクを開けると エルムβが1体トランクから降りる カルンゼス、イリンゼス、シェイムが走って行く メルフェスが一度エルムβへ目配せを送ってから メルフェスとエルムβ1体が走って行く エルムβ1体が車の護衛に付いてM90をセットする

【 国防軍レギスト駐屯地 情報部 】

スピーカーからハケイルの声が届く
『国防軍レギスト機動部隊 国防軍マルック駐屯地内に潜入した マシーナリー全5体を破壊した これより帰還する』
情報部員たちが表情を明るめる マイクが言う
「了解っ!お疲れ様でしたっ!」
マイクがバックスとアルバートを見る 2人が顔を見合わせ苦笑して肩の力を抜く バックスが気を取り直して言う
「おっと 戦いはまだ終わっていない マイク少佐 19部隊の状況を確認だ」
マイクが慌てて言う
「あっ!はいっ!そうでしたっ!国防軍リング駐屯地情報部 応答を こちら 国防軍レギスト駐屯地情報部 19部隊の現状を教えて下さい」
スピーカーから リング駐屯地情報部主任の声が届く
『こちら国防軍リング駐屯地情報部 19部隊の任務は完了 押し寄せていたマシーナリーは全て破壊した!現在は再来に備え警戒中』
マイクが表情を明るめて言う
「了解!国防軍リング駐屯地情報部 引き続き宜しくお願いします!」

【 国防軍マルック駐屯地 】

エルムβがM90を3連射する マシーナリー1が動きを止め脱力して倒れる メルフェスがホッとして言う
「助かります エルム少佐」
エルムβが言う
「『そうでもない』」
メルフェスが一瞬呆気に取られた後苦笑して言う
「いえ、私はもう ナノマシーンを保有していませんので エルム少佐がマシーナリーを退治して下さらなければ 私は…」
エルムβが言う
「『そうではない 弾切れ …だ』」
メルフェスが衝撃を受けて言う
「えぇえっ!?」
エルムβが言う
「『問題ない 直ちに補給要請を行う』」
メルフェスがホッとする

【 ハブロス家 ラゼルの屋敷 】

エルムが言う
「ロンドス 発注を頼みたい」
ラミリツとザキルが衝撃を受ける ロンドスが苦笑して言う
「少佐 申し訳ありませんが 私は このMT77をもって 引退すると」
エルムが言う
「M90の弾薬を 1ダース有れば良い」
ラミリツが溜息を吐いて言う
「あのさぁ エルム… 少しは大人になろうよ?」
ザキルが呆れて言う
「エルム少佐は 見た目はともかくとして とっくに大人を越えてるんですけどね」
ロンドスが笑う エルムが沈黙する

【 国防軍マルック駐屯地 】

エルムβが言う
「『却下された』」
メルフェスが慌てて言う
「はっ!?そ、それはっ どういう意味でっ!?」
エルムβが言う
「『銃弾が無いと言う意味だ』」
メルフェスが言う
「そうでは無くてですねっ!?」
エルムβが言う
「『回避』」
メルフェスが言う
「えっ!?」
エルムβがメルフェスを庇って回避する マシーナリー1が襲って来る

【 国防軍総司令本部 総司令官室 】

オペレーターの声が聞こえる
『国防軍レギスト駐屯地情報部より 国防軍マルック駐屯地内へ入り込んだ マシーナリーの破壊が 全て完了したとの事です』
オペレーター2の声が聞こえる
『国防軍レファム駐屯地情報部より 同じく 国防軍マルック駐屯地への襲撃と思われるマシーナリーは 全て破壊したとの事です』
アースが言う
「よし、国防軍レギスト駐屯地情報部へは 国防軍レギスト機動部隊の撤収命令を レファム駐屯地情報部へは 19部隊と共に引き続き マルック駐屯地への襲撃に備え 待機させて置け」
オペレーターの声が聞こえる
『了解しました』
アースが軽く息を吐いて言う
「これで一息か… 帝国は再びマシーナリーを送って来るのだろうか?皇帝は何故…?」
アースの携帯が鳴る アースが疑問してディスプレイを見て言う
「エルム少佐から?珍しいな…?」
アースが着信させて言う
「どうした?エルム少佐?」

【 ハブロス家 ラゼルの屋敷 】

エルムが言う
「帝国からのマシーナリーの襲撃は まだ終わらない」
携帯からアースが言う
『何っ?それはどう言う?』
エルムが言う
「恐らく次はRTD420マシーナリーが投下される 現状のレギストでは勝てない レギストの隊長を囮に残し 駐屯地の全てを撤収させろ」
アースが言う
『それでどうするつもりだ?外の19部隊で対応させると言う事か?』
エルムが言う
「19部隊では間に合わない 19部隊の隊員たちも撤収させろ 戦車はそのままに 戦力を有したデコイ …奴らの標的として放置する」
アースが言う
『それで どうやって勝とうと?』
エルムが言う
「時間を稼ぎたい」
アースが言う
『時間を?何の時間だ?』
ラミリツが言う
「エルム?それって どう言う事?」
無線機から声が聞こえる
『こちら19部隊っ!マシーナリーが現れた!我々の攻撃では 間に合わないっ!』
エルムが言う
「遅かったか」
ラミリツが慌てて言う
「な、何っ!?」
受信機からマイクが言う
『国防軍リング駐屯地情報部 及び19部隊より 国防軍レギスト駐屯地 レギスト機動部隊へ 応援要請!国防軍マルック駐屯地 に現れた 新型マシーナリーの撃破を!』

【 国防軍マルック駐屯地 】

エルムβが言う
「『状況報告を要求する』」
メルフェスの前にシェイムが居て両手を広げて庇っている マシーナリー1がシェイムを確認して脱力する シェイムがエルムβへ向いて言う
「犯人らしき者はまだ見つかっていません」
メルフェスがエルムβへ向いて言う
「犯人は 駐屯地内に 入り込んで居るのでしょうか?」
エルムβが言う
「『無理だな 国防軍マルック駐屯地 は 最上級セキュリティ を 採用』」
シェイムが言う
「では やはり 外に…?」
イヤホンにイリンゼスの声が聞こえる
『見つけたぞ!ネックセンサーを付けた女が居る!』
シェイムとメルフェスが驚く イヤホンにイリンゼスの声がする
『どうする!?押さえるか!?』

【 ハブロス家 ラゼルの屋敷 】

ラミリツが言う
「別の武器が必要なら!届けないとアイツら やられちゃうよっ!?」
ロンドスがエルムを見て言う
「少佐…」
ラミリツとザキルがエルムを見る エルムが言う
「奴は悪魔の兵士だ それを知る機会としては 丁度良い相手だと言える」
ラミリツが言う
「エルムっ それって どう言う意味っ!?アイツを見殺しにしろって事!?」
ロンドスが言う
「少佐 M90は私が少佐の為に作った銃です 少佐とは戦い方の異なる ハイケル少佐には合いません」
エルムが言う
「私のレギストが初めて マシーナリーと対峙した時には 国防軍の標準装備にて 隊員たちの命を懸けて戦った 現状M90と言う銃があること自体 奴は十分恵まれている この状態で対処が出来ないのであれば 後の戦いには 勝利出来ない」
ラミリツとザキルが顔を見合わせる ロンドスが視線を落とす 受信機とエルムの携帯からアースの声が聞こえる
『エルム少佐 では 貴方であるのなら現状であっても 勝利出来ると言う事か?』
エルムが受信機を見る ラミリツが言う
「助けられる仲間が居るのに ここで聞いてるだけなんて 僕には出来ないよっ」
ラミリツが立ち上がり携帯を掛ける ザキルが言う
「攻長閣下っ?」
ラミリツの携帯が着信する ラミリツが言う
「コートハルド警察長 悪いけど すぐに高速ヘリを用意して 僕を迎えに来て」
エルムが言う
「ラミリツ お前は…」
ラミリツが携帯を切って言う
「僕が行ったって 役に立たないかもしれないけど その銃を運ぶ事ぐらいは出来る …それがあれば あいつらでも勝てるんじゃない?」
ザキルが言う
「む、無理だよっ!この銃は 今までのエルム少佐のデータを元に作ってるんだっ それを 普通の人間が撃ったりしたら!」
受信機からアースの声がする
『銃?エルム少佐の新しい銃か?』
エルムが言う
「MT77 対マシーナリー試作銃だ 調整が不十分であると推測される …だが」
エルムがMT77を手にとって眺めて言う
「ロンドスからの 最後の銃だ 私が試す価値はある」
ラミリツが言う
「エルムが…?」
受信機からアースの声がする
『エルム少佐 命令だ 今すぐその銃と共に 国防軍マルック駐屯地へ向かい 国防軍の仲間を全て救助しろ!』
エルムが横目にラゼルを見る 受信機からアースの声がする
『エルム少佐っ!』
ラゼルが薄っすら目を開き微笑して言う
「少佐…」
エルムが言う
「了解 総司令官」

【 国防軍マルック駐屯地 】

イリンゼスがエレンへ銃を向けている メルフェス、シェイム、カルンゼスがやって来る イリンゼスが視線を向けずに言う
「こいつで良いんだよなっ!?」
シェイムがエレンを見て言う
「はい 彼女です」
メルフェスがエレンを見て言う
「エレン 何故君が…?」
カルンゼスが言う
「今はそれよりも 急ぎ やらせる事が あるだろう?」
メルフェスがカルンゼスを見て頷く シェイムが言う
「マスターブレイゼス!すぐに マシーナリーの襲撃を止めさせろ!さもなければっ」
エレンが言う
「さもなければ… この女を殺すか?」
エレンが自分の頭へ銃を向ける シェイムたちが驚き メルフェスが言う
「な…っ!?」
エレンが笑んで言う
「出来るのか?この女は お前たちの… 仲間だろう?マスターシュレイゼス 彼女は お前を助けようと 私の研究を探っていたのだ… それを捕らえ 使わせてもらっている フフフ… クククク…」
メルフェスが驚き悔しそうにする シェイムが悔しそうに言う
「どうすれば…っ!?」

【 ハブロス家 ラゼルの屋敷 】

高速ヘリにMT77を持った エルムとエルムβが乗り込む ラミリツが言う
「僕も行くよ!エルム!」
エルムが言う
「お前は待機しろ」
ラミリツが言う
「けど 僕だって!」
エルムが言う
「ラミリツ 軍曹の側に居ろ …奴を頼む」
ラミリツが驚いて言う
「え…?」
エルムが操縦士に言う
「出せ」
高速ヘリが離陸する ラミリツが突風から身を守りつつも 離陸したヘリを見上げて言う
「それって…?どう言う 意味…?」

【 国防軍マルック駐屯地 館内 】

無線イヤホンにマイクの声が届く
『新型マシーナリー接近中!到着まで 5秒前4・3・』
ハイケルと隊員たちが出入り口へ向け銃を構える ハイケルが言う
「放てっ!」
隊員たちが一斉に射撃する 出入り口からマシーナリー3が突入してくる ハイケルが驚いて言う
「回避っ!」
ハイケルと隊員たちが左右に回避する 隊員Aが言う
「速いっ!」

【 高速ヘリ内 】

エルムが目下の視界に マルック駐屯地へ向かうマシーナリー3を見て言う
「RTD420マシーナリーの集団を 目視にて確認」

【 国防軍総司令本部 総司令官室 】

スピーカーからエルムの声がする
『国防軍マルック駐屯地への到着は およそ6分後と推測』
アースが言う
「貴方は間に合うか?エルム少佐!?」
エルムが言う
『到着はほぼ同時 しかし、こちらは デコイ2体の回収 及び 上空からの潜行となる為 タイムロスが生じる 国防軍レギスト機動部隊へは 隊長を囮に 隊員たちの退避を命じろ 更に マルック駐屯地爆破許可と その指示を行って置け』
アースが言う
「マルック駐屯地を?マシーナリーの殲滅は 貴方であるなら可能ではないのか?」

【 高速ヘリ内 】

エルムがMT77へ銃弾を込めながら言う
「こちらは試作銃の為 銃弾に限りが有る 銃の完成度も今回は不鮮明だ 銃火器によるマシーナリーの殲滅を優先するが 不可能と判断された際は 駐屯地の爆破を行い マシーナリーを道連れにする」
イヤホンにアースの声がする
『分かった では その作戦を採用する だが… 出来れば 駐屯地を守ってもらいたい エルム少佐』
エルムが言う
「了解 優先順位の上位として設定しておく」
イヤホンにアースの声がする
『最上位は貴方の帰還だ 生きて戻ってくれ もう… 蘇る事は出来ないのだろう?』
エルムが言う
「そうだな」
アースが言う
『私は…  家族を失いたくはない』
エルムが間を置いて言う
「…了解」

【 国防軍レギスト駐屯地 情報部 】

マイクが電話をしていて驚いて言う
「えっ!?それはっ どう言う事ですか!?総司令官っ!?」
バックスとアルバートがマイクを見る マイクが言う
「それでは ハイケル少佐をっ!?レギスト機動部隊の隊長を囮にしようと言うのですか!?そんな事っ!」
受話器からアースの声がする
『総司令官命令だ 従え レギスト機動部隊は 隊長を残し 隊員たちを全員退避させろ その後は ハイケル少佐か もしくは 私からの連絡を待ち 必要と有れば 現在マルック駐屯地へオンラインであるそちらから マルック駐屯地の爆破処理を行え』
マイクが言う
「そ、そんな… それではハイケル少佐がっ!?…はっ!?そうだ!それならっ!」

【 国防軍マルック駐屯地 館内 】

軍曹が立ち上がって言う
「次は盾も持ちません もう一体でも来る前に 退避しましょう 少佐」
ハイケルが言う
「…そうだな」
隊員たちが顔を見合わせ頷き合う ハイケルがイヤホンを押さえて言う
「任務完了 レギスト機動部隊 帰還する」
無線イヤホンにマイクの焦った声が届く
『ハイケル少佐っ!急いで下さいっ!』
ハイケルが驚いて言う
「どうしたっ!?」
突然轟音が響き隊員たちが驚く 隊員Bが怯えて言う
「まさか またっ!?」
イヤホンにマイクの声が届く
『先ほどのマシーナリーが複数接近っ!総司令官より 国防軍マルック駐屯地爆破許可を得ています!レギスト機動部隊は 南方の脱出路より 直ちに』

【 国防軍総司令本部 総司令官室 】

スピーカーからマイクの声が聞こえる
『退避して下さいっ!退避確認と共に こちらで駐屯地の自爆処理を行います!』
アースが目を細めて言う
「勝手に指示を…」
アースが気を取り直して言う
「…まぁ良い ハイケル少佐は 彼らにとって大切な仲間… 例え責任を負うべき隊長であるとは言え 囮には出来ない… と、きっとそれは アーヴィンも同じだろうからな?」

【 国防軍マルック駐屯地 】

イリンゼスが困って言う
「え… え~と…?」
イリンゼスが構えている銃をどうしようか迷ってからカルンゼスを見る カルンゼスが言う
「本気で撃つつもりなら 間に合わない 止めて置け」
イリンゼスが言う
「…だよなぁ?」
イリンゼスが銃を捨てて降参する シェイムが言う
「ク…ッ 目の前に追い詰めていながら…っ!」
轟音が響く シェイムたちが顔を向けると 戦車部隊がマシーナリー3の集団へ向けて発砲している シェイムが言う
「このままでは アールスローンが…っ 帝国のマシーナリーに…っ!」
メルフェスがシェイムと同じく悔しそうにしてからエレンへ向き直る エレンが自分へ銃を向けて微笑している状態から 苦しそうに言う
「メ… ルフェス… 様…っ」
メルフェスがハッとして言う
「エレンっ!君かっ!?」
エレンがハッとして言う
「なっ!?馬鹿なっ!?」
エレンが苦しそうに言う
「う、撃って… 撃って下さい 私 は…っ」
メルフェスが言う
「エレン!」
シェイムが瞬時に動きエレンの持つ銃を掴み上げる エレンが悲鳴を上げる
「あぁあっ!」
イリンゼスが向かおうとすると カルンゼスが言う
「待てっ!ネックセンサーには触れるな!」
イリンゼスがハッとして言う
「…ととっ!そうだったっ!」
メルフェスが向かう イリンゼスが慌てて言う
「あ!お、おいっ!」
メルフェスがエレンの首からネックセンサーを剥ぎ取る エレンが言う
「うっ!」
エレンがそのまま気を失う メルフェスがネックセンサーを見る イリンゼスが言う
「あ… そっかぁ?フレイゼスはもう…」
カルンゼスが言う
「ナノマシーンを身に持たず 且つ マスターブレイゼスとは 相反する者 彼なら触れても心配ない」
カルンゼスがエレンの容態を見る イリンゼスがホッと息を吐いて言う
「なら これで 一件落着か?」
シェイムが言う
「これで2つ目 だが もしかしたらもう1つ もしくは…?」
皆がメルフェスの持つネックセンサーを見る

【 国防軍マルック駐屯地 館内 】

隊員NがM80を放ちながら叫ぶ
「少佐ぁーっ!」
ハイケルがM80を 軍曹に攻撃を行っているマシーナリー3へ放つ 銃弾がマシーナリー3の装甲に弾かれる ハイケルが周囲を見渡すと 隊員たちが被弾間近で武器を構えている ハイケルが表情を顰める

【 高速ヘリ内 】

エルムのイヤホンにメルフェスの声がする
『エルム少佐!こちらは 完了です!』
エルムが言う
「了解 そちらの任務は完了と認識した」
メルフェスが言う
『え?”そちらの”とは…?』
エルムがイヤホンの周波数を変える イヤホンにハイケルの声が聞こえる
『…ク少佐 扉をロックしろ!』
エルムが言う
「こちらは 元国防軍レギスト機動部隊隊長 エルム少佐だ」

【 国防軍レギスト駐屯地 情報部 】

スピーカーからエルムの声がする
『これよりアース・メイヴン・ハブロス総司令官による 特務命令に従い 作戦を開始する』
マイクが呆気に取られて言う
「元国防軍レギスト機動部隊 隊長…?」
バックスとアルバートが一瞬驚いた後 微笑して バックスが言う
「エルム少佐か」
アルバートが言う
「これは心強い」
スピーカーにアースの声がする
『宜しく頼む エルム少佐』
エルムの声が聞こえる
『了解』
マイクが疑問している

【 高速ヘリ内 】

エルムがイヤホンの周波数を変える イヤホンにハイケルの声が聞こえる
『任務… 失敗 か…』
エルムが立ち上がり 高速ヘリから下を見て言う
「レギストの隊長に 任務の失敗は許されない」
イヤホンにハイケルの声が聞こえる
『…エルム少佐?』
エルムが飛び降りる エルムβが続く

【 ハブロス家 ラゼルの部屋 】

受信機からエルムの声が聞こえる
『お前たちは退避しろ 任務は私が引き継ぐ』
ラミリツが言う
「エルム… どうして?まさかっ!?」
受信機からエルムの声がする
『何をしている 貴様も行け』
ザキルが言う
「銃弾が…っ …いや!エルム少佐のデコイも 足りないんだ!」
ラミリツが言う
「それじゃっ!?」
受信機からハイケルの声が聞こえる
『お前はどうするつもりだっ?MT77は1人で2体を倒すのが限界 お前が倒せるのは 後一体だろうっ!?』
エルムが言う
『この駐屯地を爆破させる 数は問題ない』
ハイケルが言う
『…悪魔の兵士である お前なら それほどの爆破にも 耐えられると言うのか!?』
エルムが言う
『悪魔の兵士であろうと 防御力は常人と大差ない 耐えられる訳が無い』
ラミリツが慌てて言う
「駄目だよ エルム!本体は守らないとっ!もう デコイも無いのに!」
エルムが言う
『…だが、私は この任務の他にも 既に任務を受け持っている この作戦を完了さえると そちらの任務が果たせなくなる …従って お前がその任務を引き継げ』
ラミリツが悲しそうに言う
「そんな… ラゼル様を頼むって そう言う事だったの…っ!?そんなんじゃ…」
ザキルが言う
「ハイケル少佐に任せたい任務って… 何だろう?」
ラミリツがザキルを見てから受信機を見る 皆が受信機を見つめて間が開く ラミリツが疑問して言う
「無線が…?」
ロンドスが表情を悲しめる 受信機からハイケルの声が聞こえる
『…報酬は既に受け取っている しかし その任務は 引き受けられない 敵は後2体 お前と私で MT77を使えば足りる そちらの任務は お前が行うべきだ』
皆が受信機を見る ハイケルが言う
『お前は 3発目を使用しなければ良い 先の2発がマシーナリーの強化装甲を貫きさえすれば 後はこれでも …なら その為の対策を行え良いんだ マイク少佐っ!』
ラミリツが言う
「何だろ?エルムの無線が聞こえないし… エルムの作戦を変える気?」
ザキルが言う
「ハイケル少佐が?」
受信機にマイクの声が届く
『は、はいっ!ハイケル少佐っ!?』
ハイケルが言う
『今すぐ 防御扉をロックしろ!』
隊員Aと隊員Bの声がする
『『少佐ぁっ!?』』
マイクが言う
『了解っ!成功を祈ります!』
ハイケルが言う
『レギスト機動部隊 作戦を開始する』
エルムが言う
『了解』

――…

【 国防軍レギスト駐屯地 病室 】

エルムが目を開いて言う
「軍曹 作戦はどうなった?」
エルムが疑問して顔を横へ向けて言う
「ここは 国防軍レギスト駐屯地 医療部 103病室と認識 記憶が不鮮明だ 私は… 夢を見ていたのか?」
エルムが起き上がり痛みに表情をしかめてから言う
「負傷を確認 夢ではない 作戦は行った 完了の確認を …軍曹?」
エルムが周囲を見てから 間を置いて言う
「…最重要任務は既に 作戦開始の可能性が生じている 私はそちらの任務の途中だ 現場へ… 帰還する」
エルムがベッドを出る

【 ハブロス家 ラゼルの屋敷 】

ラミリツが携帯で話している
「それじゃ!エルムは無事に戻ったんだね!?」
携帯からアースの声がする
『無事とは言い難いが… 命に別状は無いとの軍医の診断だ しばらく入院が必要だとも』
ラミリツが苦笑して言う
「入院…?そう?それじゃ 僕 お見舞いに行こうかな?ふふ…っ エルムのお見舞いに行くなんてさ?考えた事も無かったよ!」
アースが言う
『確かに 可笑しな気分だな?…だが、本気で行くつもりか?エルム少佐の入院先は 言うまでも無いが 国防軍レギスト駐屯地の医療部だが?』
ラミリツが衝撃を受けて言う
「う…っ!それは… やっぱ 行っちゃ駄目って事?」
アースが言う
『そうは言わないが もし本当に行くと言うのなら 規定に沿った手続きを取ってもらう事になる』
ラミリツが言う
「ねぇ… それって 省略出来ない?」
アースが言う
『”無理だな”』
ラミリツが呆気に取られた後ぷっと吹き出し笑う

【 国防軍総司令本部 総司令官室 】

アースが鼻で笑い電話を置くと 秘書が言う
「ハブロス総司令官 暫定ではありますが 国防軍マルック駐屯地の被害状況です」
アースが書類を受け取りながら言う
「ああ 駐屯地内の設備は… ほぼ全滅か… とは言え 元々あの基地は 設備ではなく建物自体に価値がある 自爆装置を使わずに済んだのは大きい …流石はエルム少佐か」
アースが棚に置かれているエルムの人形を見てから 苦笑して書類をめくりながら言う
「最も… 今回は もう1人の少佐も 頑張ってくれた様だが?」

【 ハブロス家 ラゼルの屋敷 】

ラミリツがラゼルへ言う
「ラゼル様 エルムは入院するかもしれないって 何か用とかあったりしますか?それなら 僕が… えっと ハブロス総司令官を経由する事になるかもしれないけど… って言うか それなら ハブロス総司令官へ直接言った方が 早いかな?」
ラミリツが苦笑する ラゼルが微笑して言う
「有難う御座います 攻長閣下 しかし 少佐は… すぐに ご帰還なさると 思うであります…」
ラミリツが言う
「え?でも…?」
ラゼルが言う
「それより 攻長閣下もお忙しい筈であります… 帝国との戦いが… マシーナリーとの戦いが 始まるであります… そうとなったら…」
ラミリツが言う
「うん 超高温プラズマ発生装置だよね?大丈夫 そっちの方は 進めてる …ただ、それを込める 銃火器の開発が マスターブレイゼスが全部抹消しちゃったらしくてさ?だから エルムに手伝ってもらうつもり!政府の元攻長としてね?」
ラゼルが軽く笑い言う
「はい… 少佐には これからも 攻長閣下のお力に…」
ラミリツが言う
「デコイも無くなっちゃったから これからは 僕らの指導役になってもらうって感じかな?ふふっ 僕らも頑張らなきゃ …いつまでも エルムに頼ってちゃ駄目だよね?」
ラゼルが微笑して言う
「はい… 自分は少佐には 出来れば ごゆっくりと…」

【 国防軍レギスト駐屯地 通路 】

エルムが歩いている イヤホンにラゼルの声が聞こえる
『老後を過ごして頂き… オルガンの演奏を満喫して頂いて… そして、ラミリツ攻長や メイヴィンや… ハイケル少佐とも…』
ラミリツの声が聞こえる
『あっはは 駄目だよ?エルムはもう1人の悪魔の兵士とは やっぱ仲良くは出来ないみたいだから?…あ、でも今日は その2人で作戦を完了 出来たけどね?』
エルムが言う
「作戦の完了を確認」
駐屯地の出口で 門兵たちがエルムを見て ハッとして敬礼する エルムが立ち去る 

【 ハブロス家 ラゼルの屋敷 】

ラゼルが言う
「では… 自分は少々… 休ませて頂きます 攻長閣下…」
ラミリツが言う
「あ、はい… エルムには ここに居てくれって言われたんだけど …やっぱ 僕じゃ 落ち着かないよね?エルムじゃないと」
ラゼルが言う
「攻長閣下には… デコイはありませんので…」
ラミリツが言う
「うん、有難う 気を使ってくれて」
ラゼルが言う
「お疲れ様で… ありました ラミリツ・エーメレス・攻長閣下… どうかこれからも…」
ラミリツが言う
「お疲れ様でした ラゼル様!今日はゆっくり休んで下さい それで、また 明日は 一緒に紅茶を飲みましょうね?今日は あの襲撃のせいで 飲めなかったから」
ラゼルが微笑する ラミリツが微笑した後 部屋を出て行く ラゼルが言う
「イーイング」
執事2が言う
「はい、ラゼル様」
ラゼルが言う
「お前も 下がってくれて良い 少佐は ご帰還される… 自分はそれまで… 少し休むのだ …今まで とても世話になった 本当に」
執事2が言う
「滅相も御座いません ラゼル様… 私こそ 大変お世話になりました… それでは」
執事2が部屋の明かりを消して静かに出て行く ラゼルが静かに目を閉じる

【 ハブロス家 医療室 】

ラミリツが部屋を出ながら言う
「それじゃ よろしく …あ、僕も 手伝いに来た方が良いかな?一日中じゃ大変でしょ?」
カルンゼスが微笑して言う
「いえ、私はこの部屋で のんびり過ごしながら たまに 寝返りを打たせている程度ですので どうぞ お気遣い無く」
ラミリツが言う
「そう… それじゃ やっぱ 頼むよ!」
カルンゼスが軽く礼をして言う
「はい 攻長閣下 お兄様は 私めにお任せを」
ラミリツが言う
「うん」
ラミリツが出て行く 間を置いて カルンゼスが息を吐き シェイムが目を開いて身を起こして言う
「…危ない所でした」
カルンゼスが苦笑して言う
「ああ、見張り役のエルム少佐が居て下さらんと 肝を冷やすな?」
イリンゼスとメルフェスが物陰から現れて イリンゼスが言う
「ホントに 危うく見つかる所だったぜ… 俺は兎も角 …フレイゼスがさ?」
メルフェスが苦笑して言う
「助かった イリンゼス …だが 何も…」
ラミリツが急に戻って来てドアを開けて言う
「けど もしあれだったら…?」
カルンゼスが慌ててシェイムの前に立って言う
「は、はいっ 何でしょうか!?」
シェイムがマスタースピードで身をベッドへ戻す ラミリツが疑問して言う
「え?」
物陰にメルフェスを床に押し付けてイリンゼスが身を隠している メルフェスが苦しそうにして言う
「く、苦…っ!」
イリンゼスが人差し指を顔の前に立てて言う
「しーっ!」

【 ハブロス家 エントランス 】

高級車が到着すると 使用人たちが集まり礼をする 開かれた車からアースが降りて来て 使用人へ言う
「エルム少佐は 戻っているか?」
使用人が言う
「エルム少佐のご帰宅は まだ伺っておりません」
アースが疑問して言う
「ん…?そうか…?駐屯地からは出て行ったとの知らせだったのだが… まぁ あの エルム少佐だ 心配は無いだろう」
アースが歩き出すと 使用人が言う
「お食事の準備が整っておりますが?」
アースが言う
「ああ、待たせて悪かったな 食事にする」
アースと執事が歩いて行く

【 ハブロス家 ラゼルの屋敷 】

ラゼルのベッドの横にある椅子に座っているエルムβの瞳に光が射す ラゼルが目を開いて言う
「少佐…?」
エルムβが言う
「『帰還中…だ』」
ラゼルが微笑する

【 ハブロス家 食堂 】

ラミリツが言う
「ラゼル様と一緒に 通信聞いてたんだけどさ?ちょっと 焦っちゃったよ …だって エルムの悲鳴なんて 聞いたの初めてだったし?」
アースが言う
「ああ、私もだが  …お陰で あの人が 人であると言う事を 24年経ってようやく確認出来た」
ラミリツがぷっと吹き出して笑ってから言う
「ぷっ あはははっ 何それ?でも ちょっと 分かるかも?…ん?あれ?24年って…?」
アースが言う
「先日 24になったものでな」
ラミリツが言う
「23なら まだ若いなって感じだけど 24って聞くと 流石にもうオジサンだよね?」
アースが言う
「うるさい 総司令官としては十分若い方だ まぁ 子供の攻長よりは良いだろう」
ラミリツが言う
「あ 酷いの 僕だって 先日14歳になったんだからっ」
アースが衝撃を受けて言う
「じゅ…14…っ?ガキだな…?」
ラミリツが言う
「うるさい 分かってるってばっ …あ、そうだ 年上ならさ?誕生日プレゼント 頂戴よ?」
アースが言う
「なんだそれは?誕生日プレゼントに 年上も下も無いだろう?それに 過ぎた誕生日にプレゼントなど」
ラミリツが言う
「なんだぁ?ハブロス家の当主なのに ケチなの~?」
アースが言う
「うるさい 居候 …それで いつだったんだ?誕生日は?」
ラミリツが言う
「そう言う そっちは?」
アースが言う
「くれるのか?プレゼントを?」
ラミリツが言う
「考えとく… で?」
ラミリツとアースが同時に言う
「「いつだった」「の?」「んだ?」
ラミリツとアースが顔を見合わせてから そっぽを向いて同時に言う
「「一昨日だ」よ」
ラミリツとアースが衝撃を受けて顔を見合わせて同時に言う
「「えっ!?」」

【 ハブロス家 ラゼルの屋敷 】

エルムが部屋へ入って来て 暗い部屋の中を進むと 棚にエルムの人形を置き エルムβの横に立って言う
「帰還した」
ベッドの上でラゼルがゆっくり目を開き微笑して言う
「お疲れ様でありました 少佐… お怪我を?」

【 ハブロス家 ラミリツの部屋 】

ラミリツが椅子に座りイヤホンを付け大音量でデスメタを聞いている ラミリツの後方で部屋のドアが開く ラミリツが言う
「うん?エルム?」
ラミリツがイヤホンを外して振り返る テーブルに置かれたグラスに出入り口付近のエルムβの姿が映っている ラミリツが言う
「あ デコイの方?そうだよね 今は入院してるんだもんね?」
ラミリツがエルムβへ向かう エルムβがラミリツの前で立ち止まると言う
「『帰還した』」
ラミリツが言う
「え?そうなんだ?大丈夫なの?それに… わざわざ それを知らせに?そのデコイは 両腕を損傷しているから伝達係だもんね?…うん?」
ラミリツがエルムβの左手に 銃身を持っているM82に気付いて言う
「M82… エルム専用の…」
エルムβがラミリツへ向けて言う
「『他のと色が違うだけだ 気にするな』」
ラミリツが軽く笑って言う
「でも、ずっとそれ使ってるでしょ?そう言うのって ”お気に入り”って言うんだよ?エルム?」
エルムβが言う
「『了解』」
ラミリツが苦笑する エルムβがラミリツへM82を押し付ける ラミリツが疑問して受け取って言う
「え?何?」
ラミリツがM82を見てから言う
「明日からは この銃の訓練をするって事?」
エルムβが沈黙する ラミリツが疑問した後言う
「でも エルムは銃は教えられないって 言ってなかったっけ?それじゃ…?あ、そっか エルムが僕に訓練を付けられない間に 銃は自分で訓練してなさいって事?」
エルムβが言う
「『そうだな』」
ラミリツが苦笑して言う
「うん 分かった …けど 狙って撃てば良い って言われてもなぁ?」
ラミリツがM82を構えてみる エルムβが言う
「『銃は 相手の心を狙え』」
ラミリツが言う
「え?」
エルムβが言う
「『命を奪うのではない 相手の心にある悪を 撃ち抜くんだ』」
ラミリツが言う
「それは 誰の言葉?エルムが昔 レギストの隊員たちに言ったの?」
エルムβが言う
「『そうだな』」
ラミリツが苦笑して言う
「そう… 分かった 訓練してみる!…けど、やっぱ エルムも居てよね?そのデコイで良いからさ?ね?良いでしょ?」
エルムβが沈黙する ラミリツが言う
「明日の訓練開始は何時?…いつもと同じ?」
エルムβが言う
「『そうだな』」
ラミリツが言う
「エルム?」
エルムβが言う
「『任務の途中だ』」
ラミリツが言う
「あ そうなんだ?ゴメン それじゃ… また明日!いつもと同じくらいの時間に 行くね!お休み エルム!」
エルムβが言う
「『お休み ラミリツ』」
ラミリツが呆気に取られる エルムβが言う
「『…以上だ』」
エルムβが立ち去る ラミリツが呆気に取られたまま言う
「お休みって… 初めて返されたよ?なんか… 変なの?」
ラミリツがM82を見る

ラミリツが椅子に座り テーブルに置かれたM82を見る イヤホンはテーブルに置かれたままである ラミリツが言う
「何だろう?この感じ… 何か…」
ラミリツが胸を押さえた後 窓の外を見てハッと気付いて立ち上がる

【 ハブロス家 ラゼルの屋敷 玄関前 】

アースが玄関のノブに手を掛けると 室内から銃声が1発響く アースが驚き慌ててドアを開け 通路を走り ラゼルの部屋の扉を開け言う
「エルム少佐っ!…っ!」
アースが驚き息を飲む アースの前方 エルムが銃を持った手を下ろすと 人形の様に倒れる アースが目を見開き呆気に取られる エルムが人形のように目を開いたまま ベッドを背に座り込む様に倒れている 床に赤い血の池が出来て行く アースが言葉を失いながらエルムの前にしゃがみエルムの顔を見て言う
「エルム 少佐…っ?何故…っ?」
アースが悲しみを堪えて歯を食いしばり俯くと 流血の中に何かが光る アースが気付くと 血溜りの中にマイクロチップが落ちている アースが驚いて言う
「これは…っ!?」
アースが片手に握り締めたままでいた アールスローン戦記の原本を見る 足音が近付いて来る アースがハッとしてマイクロチップを取り立ち上がると ラミリツが部屋へ飛び込んで来て アースを見て言う
「ハブロス総司令官!何か!?…っ!?」
ラミリツがエルムを見て息を飲んでから 叫ぶ
「エルムッ!!」
アースが表情を落とす ラミリツがエルムにしがみ付いて言う
「エルム!?嘘っ!?何で…っ!?何でこんなっ!?う… 嘘だよねっ!?答えてよっ!本体でしょっ!?エルム…!エルムーっ!!」
ラミリツがエルムにしがみ付いて泣く アースが顔を逸らし目頭を押さえてから顔を正面へ向けて気付く 棚に エルムの人形が置かれている アースが疑問してから手に持っているマイクロチップを見る

【 国防軍レギスト駐屯地 情報部 】

マイクがPCを操作して言う
「う~ん… これは…」
アースが言う
「どうだ?」
マイクがハッとして慌てて言う
「は、はいーっ!総司令官!こ、この マイクロチップには 遠隔操作用のプログラムが 登録されていますでありますっ!」
アースが言う
「遠隔操作?では…」
マイクがエルムの人形を見てからPCを操作しつつ言う
「こちらの人形に入っていた マイクロチップも同じです …しかし、この人形では プログラムの方が出来が良過ぎて 折角のプログラムも猫に小判です …このプログラムなら きっと人と同じ形のロボットに 人と同等の動きを再現させる事だって出来ると思いますよ?…もっとも プログラムの再現が可能なほど 高性能なロボットは… それこそアニメの中位でしか 私は見た事が無いですが …総司令官もご存知ですか?ガン●ムとか?」
アースが言う
「それは確か 巨大ロボットだろう?そうではなく… このプログラムは 人と同じ大きさのガン●ム… いや、言うなればサイボーグを動かしていたと言うべきか?」
マイクが疑問して言う
「サイボーグ?あぁ… そうですね?でも 折角ですから ここまで高度なプログラムなら ガン●ムだって行けますよ!」
アースが言う
「そこまで行かなくても良いんだ つまり これがあるという事は エルム少佐の人形さえ 手に入れば もう一度…」
マイクが言う
「は?人形…?」
アースがエルムの人形を手に取って言う
「こちらではなく 等身大の人形だ 国防軍のマスタートップシークレット… その 隠し場所は?それは こちらのマイクロチップに記されていると思うのだが?」
マイクが言う
「あ~ いやぁ~ それが… こちらのマイクロチップに関しましては さっぱりで…」
アースが言う
「どういう意味だ?」
マイクがPCを操作して言う
「抽出出来るデータは どれも 医学的な資料みたいなんです 正直 私は医学に関してはさっぱりなので まったく理解が出来ません」
アースが言う
「では 医療部へ行くか 確か この駐屯地のベリハース院長は 歴代の国防軍 軍医だったな?…ともすれば」

【 国防軍レギスト駐屯地 医療部 】

ベリハースがPCを操作して言う
「ほう… これはまた …何と言う 生命への冒涜か」
アースが言う
「冒涜?」
アースがベリハースへ向こうとすると アースの携帯が鳴る アースが携帯を着信させると ベリハースが咳払いをする アースがベリハースを横目に見てから 部屋を出ながら言う
「ミックワイヤー長官 如何でしたか?帝国へ向かった こちらからの使者は?」
携帯にミックワイヤーの声がする
『それが 残念な事になりました 事前に 拘留しているカルメス元長官に 話を聞くべきだったのか…』
アースが反応して言う
「彼から何か?…いや、良しければ ミックワイヤー長官 直接お会いして お話をしたいのですが」

アースが部屋に戻って言う
「どうだ?内容は分かりそうか?」
ベリハースが言う
「通常の使用方法は 一応は分かりました しかし その方法では時間が掛かってしまいますので …そもそも 医者としては 実に気に入らないので お望みの物の場所を どうしてもと言う事でしたら 情報部のマイク少佐と協力して 直接このチップから読み取る方法で 出来ないかを試してみようかと?」
アースが言う
「出来そうか?帝国との戦いは始まっている 急務だ」
ベリハースが言う
「生憎 出来るかどうかは… 相手はロストテクノロジーですので」
アースが言う
「やれるだけ やってみてくれ」
ベリハースが言う
「分かりました 結果をご連絡します」
アースが部屋を出て行く

【 メイリス家 シェイムの部屋 】

カルンゼスが言う
「ラゼル様とエルム少佐の葬儀が終わった今日には 攻長閣下も このお屋敷に戻ると言っておった」
イリンゼスが言う
「なんだよ~ 折角 安心して 作戦会議が出来るようになったと思ったら たった1日で終わりかよ」
カルンゼスが言う
「今度は 私も一日中居る事が出来ない 自宅へ戻ったとは言え シェイム殿は逆に大変になってしまったな?」
イリンゼスが言う
「それ所か 俺らが入るのも難しくなるんじゃないか?攻長閣下が戻ったらさ?」
メルフェスが言う
「そうですね 特に 私が入る事は難しくなりますので …イリンゼスは カルンゼスの助手だとでも言ってはどうか?」
カルンゼスが言う
「とても 私の助手には見えんがなぁ?」
イリンゼスが言う
「それってどういう意味だい?」
カルンゼスとメルフェスが笑う シェイムが言う
「あれから考えてみたのですが… そろそろ私も 止めにしようかと思います」
皆が疑問してシェイムを見る イリンゼスが言う
「止めるって?」
シェイムが言う
「お芝居をする事をです」
メルフェスが言う
「しかし そうしますと シェイム殿は重罪人として 指名手配犯にされてしまいます この屋敷に居る事は勿論 警察に追われる事に」
シェイムが言う
「今の私には シュレイゼスの力があります それなら 警察に捕まってしまうという事は まずありません …確かに この屋敷には居られなくなってしまいますが マスターブレイゼスは 以前の彼が捕まる前に別の者へ 自分のナノマシーンを込めたネックセンサーを渡していた …つまり 戦いはまだ終わっては居ません これを終わらせなければ アールスローンはマスターブレイゼスのせいで 帝国のマシーナリーに破壊される事になります」
イリンゼスが言う
「確かに アールスローンが破壊されちまったら この屋敷に居られる居られないだなんて言ってもいられないもんな?」
シェイムが言う
「それに 弟があれ程に頑張っているのです …兄の私が 意識不明のお芝居で ベッドで寝ているだけなど耐えられません」
メルフェスが苦笑して言う
「ラミリツ殿にとっては シェイム殿が側に居てくれるという事は 大きな支えであると思いますが」
シェイムが言う
「大丈夫です 彼は若くとも強い男です それに今は ハブロス総司令官と言う後ろ盾まであります ですから 私は これを機に 行動を起こそうと思います」
イリンゼスが言う
「行動をって?」
メルフェスが言う
「何か作戦が?」
シェイムがノートPCを開いて言う
「マスターブレイゼスが使った 私のIDを確認して作った作戦です このIDで調べられた情報から 奴の次の狙いが分かりました」
メルフェスが言う
「奴が閲覧したログを辿ったのですね?…それで?」
シェイムが言う
「はい、マスターブレイゼスは どうやらその為に先日の作戦を行った様です 奴の狙いは国防軍のマスタートップシークレットが眠る その場所へ向かう事… 先の事件は その為の力を得る事が目的だった様です」

【 マスターの店 】

マスターがPCを操作して言う
「国防軍マルック駐屯地への襲撃で 帝国からは 今までのRTD210マシーナリーより 2つも上のマシーナリーが起用される事になってしまった …これじゃ 国防軍でマシーナリーを破壊出来るのは 実質 国防軍レギスト機動部隊のみ… しかも 2つ上のRTD420マシーナリーを破壊出来るMT77は 未だ未調整… 厳しいな」
店の来客鈴が鳴る マスターが顔を向けて言う
「いらっしゃいま… よう、ハイケル」
ハイケルが言う
「…ああ」
マスターがPCの電源を落とし コーヒーを淹れながら言う
「なんだか色々あったが とりあえず 無事に戻ったか」
ハイケルがカウンター席に座って言う
「”そうだな”」
マスターが苦笑しコーヒーを出す マスターが言う
「それで?」
ハイケルがコーヒーを持って言う
「1週間の任務及び訓練の禁止だ」
マスターが軽く笑って言う
「最初に言う事がそれかよ?」
ハイケルがコーヒーを飲んで言う
「”悪かったな”」
マスターが自分の分のコーヒーを淹れながら言う
「相変わらず レーベット大佐の真似か?」
ハイケルが言う
「レーベット大佐の真似ではなかった」

【 メイリス家 シェイムの部屋 】

イリンゼスが言う
「マスターブレイゼスが政府だけじゃなく  国防軍のマスタートップシークレットまで 手に入れちまったりしたら!」
メルフェスが言う
「マスターブレイゼスの操る帝国のマシーナリーだけでは無く それ以外のマシーナリーを破壊する事も出来なくなる つまり 前回の様に皇帝の助けを行う事も出来なくなり 結果として全てが破滅してしまう」
イリンゼスが言う
「マスターブレイゼスは何を考えているんだよっ!?あいつは帝国の皇帝を助けたかったんじゃなかったのか!?」
シェイムが言う
「それから もう1つ 気になる事が」
皆がシェイムを見る シェイムが言う
「政府警察のデータに 悪魔の兵士に関わる研究資料がありました 作成者は不明ですが 国防軍レファム駐屯地に眠る 悪魔の兵士を操る方法が」
イリンゼスが呆気に取られて言う
「操るって… まるで」
シェイムが言う
「はい、この方法こそ マスターブレイゼスが行っている 現在の方法の基礎となったものでしょう」
カルンゼスが言う
「私が調べた所 エレン殿の身体には 以前マスターブレイゼスに奪われた 陛下のナノマシーンが取り入れられていた そして ネックセンサーには補填用のナノマシーンの他 マスターブレイゼスのものが」
メルフェスがカルンゼスを見て言う
「ネックセンサーへ込める量が少なくとも 人体へ陛下のナノマシーンを込め 受領作用を使えば 宿主の意識を抑え マスターブレイゼスの意思を 宿主へ行わせる力を持つと言う事に繋がる」
シェイムが言う
「政府警察のデータには 過去ナノマシーンを使って 悪魔の兵士を操る実験を行ったとありました 国防軍レファム駐屯地に眠る悪魔の兵士には エルム少佐のような遠隔操作能力が無く それを補う為の実験だったそうです」
メルフェスが言う
「では マスターブレイゼスは それこそ政府の力と国防軍の力 その両方を操ろうとしていると?」
シェイムが言う
「それらの力は 両組織の下にあり 共に力を合わせなければ アールスローンも帝国も守られません マスターブレイゼスが力ずくで手に入れようというのなら 我々のやるべき事は」
シェイムとカルンゼスとメルフェスが頷く イリンゼスが疑問する

【 メイリス家 訓練施設 】

ラミリツがM82を構えて狙いを付けているが 視界が霞む ラミリツの目に涙が溜まっている ラミリツが銃を下ろして言う
「…駄目だ 銃って 構えていると 余計な事ばっか思い出しちゃう …僕にはやっぱ」
ラミリツが銃を仕舞い 剣へ手を伸ばしかけてから 止めて言う
「剣も気分じゃない… 走ろっかな?一番嫌いな訓練だから 今は丁度良いかも?」
ラミリツが場所を変えて走り出す

【 国防軍総司令本部 総司令官室 】

アースが電話をしていて表情を落として言う
「そうか 原本の内容を確認する事は出来なかったか …しかも その通常の使用方法と言うのが その様な…」
受話器からベリハースの声がする
『はい とても 非人道的な方法です 正直 私自身としては とても自分の子供に行おうとは思えません この方法は 下手をすれば 生まれ来る生命へ危険さえ 与えかねません』
アースが言う
「しかし アールスローンにとって必要な力だ それ故に 我がハブロス家では 代々当主となる者へ受け継がれ 私の曽祖父は私の祖父へ そして 私の父は アーヴァインへ だから 私は…」
アースが視線を向けるとその先に エレナとファーストの写った写真がある アースが視線を変え 気を取り直して言う
「それで?アーヴァインへその処置をしたのは…?もしやとは思うが?」
ベリハースが言う
『いえ 私や私の父ではありません そもそも作業内容は 生命の誕生前の受精卵への移植作業です これほど精密な作業を行えるのは マスターの名を持つ脳外科医でなければ 不可能ではないかと』
アースが言う
「心当たりは無いか?」
ベリハースが言う
『無くもありませんが… それよりも 総司令官 原本とされる物は2つあるのですから もしや とは思いますが… 悪魔の兵士は 先代のエルム少佐の他にも もう1人… 現代の悪魔の兵士が居るのでは?』
アースが言う
「うん?現代の?…そうか そう言えば エルム少佐は ”もう用済みの悪魔の兵士”であった筈… と言う事は…」
アースが写真の横に置かれているエルムの人形を見る

【 メイリス家 シェイムの部屋 】

シェイムがベッドに寝ている シェイムのイヤホンにメルフェスの声が聞こえる
『シェイム殿 確認が取られました 帝国からアールスローンへ 不審な運搬車両が… 恐らく 中身は』
シェイムが目を開いて言う
「分かりました では 私は一足先に …国防軍レファム駐屯地へ向かいます」
メルフェスが言う
『はい 我々も これから向かいます では 現地でお会いしましょう』
シェイムが起き上がり ベッドを出て周囲を見渡して言う
「もう一度 …ここへ戻ってくる事が 出来るだろうか?」
シェイムがデスクの上の写真立てを見て目を細める シェイムがデスクへ向かう

【 レギスト移動トラック 車内 】

軍曹が困って言う
「えー… プロポーズと言うのは… でありますね 少佐ぁ…」
ハイケルが言う
「ああ、プロポーズと言うのは?」
隊員Eが言う
「普通に求婚で良いんじゃねぇか?」
隊員Fが言う
「けど それだけとは限らないんじゃないか?」
軍曹が悩んで言う
「えぇ~とぉ~…っ」
ハイケルが気付いて言う
「目的地に到着した 知らないのなら結構だ 軍曹」
軍曹が言う
「は、はっ!それではっ 機良く到着したという事でっ」
隊員Bが笑って言う
「にひひっ ざ~んね~ 後5分くらい有れば チョー面白かったのに~?」
隊員Aが言う
「バイちゃんっ!」
トラックが駐屯地へ入って行く

【 国防軍レファム駐屯地 外部 】

シェイムが身を隠して伺う 国防軍のトラックが入って行く シェイムが反応して身を隠しイヤホンを抑えて言う
「こちら シェイム 国防軍レファム駐屯地前です たった今 国防軍の車両が入って行きました」
イヤホンにメルフェスの声がする
『え?もうですか?しかし… こちらの追っている 不審車両は まだ レファム地区へ入っていませんが…?』
イヤホンにイリンゼスの声がする
『こっちの 不審車両も まだ手前のラファム地区だぜ?』
シェイムが様子を見て言う
「騒ぎが起きている様子はありませんので もうしばらく様子を見ます」
メルフェスが言う
『シェイム殿 そちらの周囲には 既に マスターブレイゼスが潜んでいるかもしれません 十分お気を付けて』
シェイムが言う
「はい」
イリンゼスが言う
『身体補佐能力のマスターに そんな心配は必要ないって 言ってやれよ?マスターシュレイゼス?』
シェイムが一瞬呆気に取られる メルフェスが苦笑して言う
『ふふっ… 確かに 失礼しました』
シェイムが苦笑して言う
「いえ、相手は 知能補佐のマスター 裏を取られないよう 十分気を付けます」
カルンゼスが言う
『素晴らしい 実に謙虚で正しい返答だ 見習う事だな?マスターイリンゼス?』
イリンゼスが言う
『先輩の俺からすれば もっと自信を持てって 言ってやりたいけどな?』
シェイムが微笑して言う
「そちらの自信も持てる様 精進します 先輩」
イリンゼスが言う
『よぉ~し 素晴らしい 実に謙虚で正しい返答だ!後輩ー!』
カルンゼスが言う
『やれやれ』
メルフェスが言う
『どちらが先輩なのやら』
シェイムが苦笑する

【 車内 】

メルフェスが運転している 助手席に居るカルンゼスが言う
「帝国からマシーナリーを持ってくる事が出来るとは… まさかとは思うが 皇帝はマスターブレイゼスの行動を了承しているという事か?」
メルフェスが言う
「分からないな 陛下は… ひたすらに待っていた ペジテの姫が戻る事を」
カルンゼスが言う
「とは言えなぁ?その陛下と言えども 姫が行方不明である事は知っておるのだろう?それでも 待っていると言うのか?我々が探し出してくるのを?」
メルフェスが言う
「どうかな… もしかしたら 陛下はただ 我々アールスローンの民と 約束をして 共に在ろうとしているだけなのかもしれない」
カルンゼスが言う
「共に?」
メルフェスが言う
「陛下は 帝国内にある玉座から離れる事を許されない 従って 我々の方から向かう以外に 陛下の周囲に在る者は居ない…」
カルンゼスが言う
「だからと言って 偽とは言え ペジテの姫として向かわされた ご令嬢の精神を壊すのはどうか?」
メルフェスが言う
「陛下が壊している訳ではないんだ 彼女たちは… この世界の現状を知ると 皆」
カルンゼスが言う
「現状とは?」
メルフェスが言う
「現状とは… この通りだろう?」
メルフェスが視線を向ける カルンゼスがその視線を追うと 大型輸送車が停車していて荷台が開かれる 荷台にマシーナリーたちの光が灯る

【 国防軍総司令本部 総司令官室 】

アースがノートPCを操作する モニターにエラーの表示が出る アースが息を吐いて言う
「やはり マスタートップシークレットの情報は得られないか… アーヴィンの持つ原本には 国防軍レファム駐屯地の位置に眠っていると書かれていたが あの原本の情報が間違っていたのか?それとも…?」
アースがノートPCを操作すると 再びモニターにエラーの表示が出る アースが言う
「国防軍総司令官の私のIDでも マスタートップシークレットの該当は無いと表示される …もしや 何らかの処理がされているのか?」
アースが椅子に身を沈めて言う
「それに もし その場所にあったとしても そこに眠る悪魔の兵士は エルム少佐の世代ではなく 前世代の悪魔の兵士… それでは 戦力も劣るのではないか?…いや?そもそも 私は…」
アースがデスクに置かれているエルムの人形を見てから デスクの引き出しを開け原本のマイクロチップを取り出し眺めてから 目を細める 緊急を知らせるランプが光り ブザーが鳴る アースが驚き顔を向け スイッチを押して言う
「ハブロス総司令官だ 何事だっ!?」
スピーカーから 声がする
『こちらレファム駐屯地情報部!駐屯地に奇襲です!帝国のマシーナリーが!』
アースが驚いて言う
「何だとっ!?」

【 国防軍レファム駐屯地 正門前 】

辺りにサイレンが鳴り響いている 正門前に 国防軍の隊員2人が倒れている レファム駐屯地の隊員たちが攻撃を行っている 正門が壊されていて マシーナリー2が周囲を射撃する マシーナリー3が周囲を確認する マシーナリー2が後ろを振り返る マシーナリー2とマシーナリー3が複数進入して行く シェイムが顔を出し言う
「私は国防軍のマスタートップシークレットへ向かいますので ここは頼みますっ」
イヤホンにメルフェスの声がする
『どうかお気を付けて シェイム殿』
シェイムが微笑して言う
「今だけは 私の事はマスターシュレイゼスと呼んで 応援をして下さいね?フレイゼス殿」
メルフェスが苦笑して言う
『そうでしたね 分かりました マスターシュレイゼス …作戦の成功を願います』
シェイムが言う
「有難う御座います」
シェイムが向かおうとすると 白バイがサイレンを鳴らしながら到着する ラミリツが飛び降りて白バイ隊員へ何か言った後 駐屯地内へ走って行く シェイムが表情を強めて言う
「…必ずっ」
シェイムが消える

【 国防軍レファム駐屯地 マスタートップシークレト 入り口 】

衛兵たちが対マシーナリー固定マシンガンを放っている 衛兵が携帯で言う
「こちら 国防軍レファム駐屯地 マスタートップシークレト入り口  駐屯地防御を破り マシーナリーがやって来たっ!これより自爆装置を使用し マスタートップシークレトの入り口を閉鎖する!」
携帯からハイケルの声がする
『待てっ!内部にはまだ レギストの隊員たちが居るんだっ!マスタートップシークレットの自爆装置を使用しては 全員生き埋めになるっ!』
衛兵が言う
「例え隊員たちが生き埋めになろうと ハイケル少佐!あなたを蘇らせる事は出来ますっ!どうかしばらく 隊員たちと共に眠っていて下さい!」
シェイムが身を隠しつつ様子を見ていて言う
「ハイケル少佐を蘇らせる…?では もしやあの彼がっ!?」
シェイムの脳裏にハイケルの事が思い出される 衛兵が言う
「それは出来ませんっ!悪魔の兵士は アールスローンの最後の希望!我々は 何があろうと!…申し訳ありません お許しを!ハイケル少佐!」
携帯からハイケルの声がする
『止めろぉおっ!』
衛兵が強く目を閉じ 装置のスイッチを押そうとする シェイムが視線を強めて消える 衛兵が目を見開く 衛兵の手からはスイッチが無くなっている シェイムが言う
「失礼」
シェイムが衛兵へスタンガンを当てる 衛兵が視線を向けつつ倒れる シェイムが携帯を拾い上げて言う
「ハイケル少佐 以前の借りは お返ししました… フッ… 最も 私にとっても 好都合でしたが」
携帯からハイケルの声がする
『…その声はっ お前はっ!』
シェイムが通話を切り 衛兵の横へ置くと 視線を向ける マシーナリーたちが  マスタートップシークレトの入り口を攻撃し ミサイルで破壊する

【 国防軍レファム駐屯地 正門前 】

メルフェスとカルンゼスが走って来ると イリンゼスが現れて言う
「駐屯地の周囲を見て来たが ネックセンサーを付けた奴は見当たらないぜ!?」
メルフェスが言う
「国防軍と警察によって周囲の閉鎖が行われている この辺りに人影はない そして イリンゼスが確認した範囲でも それらしき人物はなかった …となればっ!?」
カルンゼスが言う
「いや、ともすれば 奴は マシーナリーに乗り込んでおるのかもしれんぞ?」
メルフェスが呆気に取られて言う
「マシーナリーに 乗り込んだとは?」
カルンゼスの前でマシーナリー3が脱力して止まり ハッヂが開く メルフェスが呆気に取られる

【 国防軍レファム駐屯地 マスタートップシークレト 内部1 】

マシーナリー3がマシーナリー2を引き連れ滑走している マシーナリー3の中で イリンゼスが言う
「このマシーナリーに乗っちまってたらっ!?間違って  奴らに撃たれちまうんじゃないのかぁ!?」
イリンゼスのイヤホンにメルフェスが言う
『その時は 身体補佐能力の先輩として 全力で逃げろ マスターイリンゼス!』
イリンゼスが泣きながら言う
「こんな時だけ 言ってくれるよっ!?」
イヤホンにシェイムの声がする
『シェイムです!ネックセンサーを付けた者を見付けました!…あっ 貴方はっ!』
メルフェスが言う
『シェイム殿!今 囮が向かっています!どうか!』
イリンゼスが衝撃を受けて言う
「囮って言った!?今 囮って言ったあっ!?」
メルフェスが言う
『急げ!マスターイリンゼス!』
イリンゼスが言う
「ひでぇえ!俺の扱い 酷過ぎるー!」
マシーナリー3とマシーナリー2が滑走して行く

【 国防軍レファム駐屯地 マスタートップシークレト ファーム 】

シェイムがラムスの手を掴み上げている シェイムが言う
「貴方も マスターブレイゼスに操られているのかっ!?」
ラムスが苦笑して言う
「操られてなど居ない 私は マスターブレイゼスと共に このアールスローンを手に入れる その為に…っ」
ラムスが リセットレバーへ手を伸ばす シェイムが言う
「愚かな 操られるまでもなく 自ずから 奴の策に陥るとは」
シェイムがスタンガンをラムスへ押し付ける ラムスが目を見開いて言う
「ぐあああっ!」
ラムスが倒れる シェイムがラムスのネックセンサーを手で引き剥がす シェイムたちの下階に居るハイケルβたちが倒れる シェイムが顔を向けると 扉から軍曹が入り込んで来て叫ぶ
「なぁっ!?き、貴君はっ!」
シェイムがハッとして言う
「…しまったっ」
シェイムが視線を向けるとラミリツに続きハイケルと隊員たちが入って来る シェイムが視線を強めてイヤホンを押さえて小声で言う
「作戦を行います フレイゼス殿っ」
イヤホンにメルフェスの声がする
『マスターシュレイゼス 貴方なら出来ます!』
シェイムが言う
「はいっ」
シェイムが意識を強めるとハイケルβたちが立ち上がる 軍曹が叫ぶ
「少佐のデコイに何をしたのだっ!?」
ハイケルが顔を向け驚く ハイケルβたちが銃を持ち軍曹へ向けている ハイケルが軍曹を見る 軍曹が上階を見上げて叫ぶ
「答えよっ!メイリス元長官っ!」
ハイケルが驚き軍曹の視線の先を見る 上階にシェイムが居て微笑して言う
「何をした とは 酷い言い様ですね?私は… 捨て置かれた彼らに 魂を与えてあげたのですよ?」
シェイムの足元 ラムスの手の近くに空の注射器が転がっている

【 国防軍レファム駐屯地 正門前 】

カルンゼスのイヤホンにシェイムの声が聞こえる
『我々の使命は アールスローンの力 悪魔の兵士を 全て消し去る事ですから』
カルンゼスが言う
「早くせねばっ 後からの言い訳も立たなくなるぞ!?」
メルフェスがイヤホンへ言う
「イリンゼス!」

【 国防軍レファム駐屯地 マスタートップシークレト 内部2 】

イリンゼスのイヤホンにメルフェスの声が届く
『まだ到着しないのか!?』
イリンゼスが言う
「2つ目の扉は越えた!…あ、3つ目が見えたぞ!?シェイム!」
イリンゼスのイヤホンにシェイムの声が聞こえる
『エーメレス 誰に銃を向けている?お前に私が撃てるのか?』
イリンゼスが言う
「やめろっ それ以上は…!もう良い!早く逃げて来い!」

【 国防軍レファム駐屯地 マスタートップシークレト ファーム 】

シェイムが密かに手を握り締め 微笑して言う
「撃てる筈がない お前の負けだ エーメレス」
一瞬の沈黙 シェイムがレバーを下ろそうとする ラミリツが視線を強め引き金を引く 重い銃声 シェイムが表情を顰める

【 国防軍レファム駐屯地 正門前 】

メルフェスのイヤホンに シェイムの悲鳴が聞こえる
『ぐあぁっ!』
メルフェスが叫ぶ
「シェイム殿っ!」
イヤホンにイリンゼスの声が届く
『戻って来い!マスターシュレイゼス!』

【 国防軍レファム駐屯地 マスタートップシークレト ファーム 】

ハイケルが隊員たちへ叫ぶ
「捕らえろっ!」
隊員たちがシェイムの居る場所へ向かう道を探し走り始める シェイムが表情を顰め逃げ出す

【 国防軍レファム駐屯地 マスタートップシークレト 内部2 】

シェイムが逃げ出して来ると イリンゼスが手を伸ばして言う
「こっちだっ!乗れ!」
イリンゼスとシェイムがマシーナリー3へ乗り込みハッヂが閉まると 隊員たちがやって来て 隊員Cが言う
「マシーナリーが!」
隊員Aが言う
「ならこいつでっ!」
隊員AがMT77を見せる 隊員Cが言う
「よしっ!」
隊員Bが言う
「フッちゃん!撃って!」
隊員ABCがMT77を押さえる 隊員Fが言う
「分かった!」
隊員Fがマシーナリー3を狙って撃つ マシーナリー3の中 シェイムが痛みを堪えつつ後方へ視線を向ける MT77とマシーナリー3の間にマシーナリー2が入り込み銃撃を受けて壊れる マシーナリー3が逃げて行く 隊員Cが言う
「良し!もう一丁!…って …あら?マシーナリーが 逃げたぞ?」
隊員たちが疑問する

【 カルンゼスの家 】

シェイムが表情をしかめて言う
「痛っ…!」
カルンゼスがシェイムの傷の手当てをしながら言う
「やれやれ 無茶をしおって」
イリンゼスが言う
「ホントだぜ… 何も あそこまでやる必要は無かっただろ?あれじゃ ホントにシェイムがマスターブレイゼスの仲間みたいだったぜ?」
シェイムが苦笑して言う
「すみません しかし… 他の駐屯地への警告を行うには 最も効果的であるかと…」
イリンゼスが言う
「だからって やり過ぎだろ?この後どうやって…?」
シェイムの上着が椅子に掛けられている 上着から写真が落ちる メルフェスが気付き拾い上げると苦笑して言う
「ラミリツ殿の為… いえ?メイリス家の為 ですか?」
メルフェスがシェイムへ写真を見せる 写真にはフレイスとシェイムとラミリツが映っている シェイムがハッとして言う
「あっ!」
メルフェスが苦笑して言う
「重罪人の自分を メイリス家から… 追い出そうと言う作戦ですね?」
シェイムが苦笑して言う
「…はい」
メルフェスが言う
「通りで シェイムではなく マスターシュレイゼスと 呼んで欲しいと?」
シェイムが苦笑して言う
「いえ それは… あのデコイを操作するナノマシーンの原動力に出来ればと …しかし」
シェイムがイリンゼスを見て微笑して言う
「マスターシュレイゼスとして 戻って来いと 言って頂けたお陰で 私は あの時 逃げ遂せたのかもしれません 助かりました 先輩」
イリンゼスが一瞬呆気に取られた後 苦笑して言う
「え?…ま、まぁな?まったく… 世話の掛かる後輩だぜ!」
シェイムが微笑する メルフェスが言う
「やれやれ…」
カルンゼスが言う
「立場を奪われたな?フレイゼス?」
メルフェスが苦笑して言う
「まったくだ」

【 国防軍総司令本部 総司令官室 】

秘書が言う
「国防軍レファム駐屯地からの報告は以上です 駐屯地の被害状況は先日のマルック駐屯地よりは軽微の為 復旧は可能 情報部の方は被害は無かったとの事で セキュリティチェックが済み次第 復旧処理を開始するとの事です」
アースが言う
「分かった それで 国防軍レファム駐屯地に マスタートップシークレットは…」
アースの前で ノートPCのエラー表示が消え 表示が現れる アースが気付いて言う
「うん?」
秘書が言う
「はい?マスター?」
アースが言う
「…いや、良い では 他に無ければ」
秘書が言う
「それと レファム駐屯地のランドリック大佐より 直接総司令官へのご報告をしたい事があるとの事で お越しですが」
アースが言う
「聞こう 通せ」
秘書が内線電話を操作する 出入り口が開かれ ランドリックが入って来て敬礼する

【 国防軍レギスト駐屯地 】

隊員たちがトラックを降りる ハイケルが言う
「軍曹 総司令官への報告はどうする?」
軍曹が言う
「はっ 総司令官からの指令を受けたのは 自分でありますので 今回は自分の方から報告を!」
ハイケルが言う
「…良いのか?」
軍曹が疑問して言う
「は?」
ハイケルが顔を逸らして言う
「その… 戦利品と言うべきか …”私”を 持って行かなくて…?」
軍曹が衝撃を受けて言う
「のおっ!?い、いえっ そ、そんなぁっ 自分は 少佐を持って行くなどっ!」
ハイケルが言う
「そうか では…」
ハイケルが考えて首を傾げる 軍曹が苦笑して言う
「少佐は… 何も変わらず!今まで通りにしていらして 宜しいのではないかと…っ!あっ!あのー エルム少佐も… そうでありましたのでっ!」
ハイケルが言う
「ああ、そうか… そうだな… では 総司令官から何か言われたら その時は…?」
軍曹が言う
「少佐 少佐はどうか…」
ハイケルが軍曹を見る 軍曹が慌てて言う
「どうか そちらのお怪我をっ 早急に治療して頂きたいと!」
ハイケルが衝撃を受けて言う
「むっ!?あ… ああ そうだったな 分かっ… いや …了解 …だ」
ハイケルが館内へ向かって行く 軍曹が苦笑してから振り返るとラミリツがいて言う
「なんだ アイツ…」
軍曹が衝撃を受け驚いて言う
「ラ、ラミリツ攻長!?」
ラミリツが苦笑して言う
「軍隊用語で話すの あれ わざとでしょ?もしかして エルムの真似?」
軍曹が苦笑して言う
「あ、いや~… 確か 少佐は この駐屯地に昔いらしたと言う レーベット大佐の真似をされていると?」
ラミリツが言う
「ふーん?でも やっぱ 真似なんだよね?そんな感じ …エルムとは全然違うもん 分かっちゃうよ」
軍曹が苦笑して言う
「うむ… しかし 自分は 自分の好きな方の真似をする事は 何も 悪い事では無いと思うのだ!」
ラミリツが言う
「まぁね?僕もそう思う …それよりさ?アンタこれから 総司令官に報告に行くんでしょ?」
軍曹が言う
「うむ 自分はそうするつもりなのだが その… ラミリツ攻長は?自分は てっきり」
ラミリツが言う
「うん、だから あっちの駐屯地を出る時に 言っただろ?僕を送ってってさ?」
軍曹が言う
「は?う、うむ では 先ほど通り過ぎてしまったのだが 兄貴の所へ行く前に 一度メイリス家へ戻る形で…」
ラミリツが言う
「だからっ そうじゃなくてっ!送るのは これからアンタが行く 国防軍総司令本部に決まってるだろ?」
軍曹が驚いて言う
「えぇええっ!?」
ラミリツが言う
「なに?」
軍曹が言う
「あ、いや、その…っ 自分はてっきり ラミリツ攻長と兄貴は 仲が悪いものと…?」
ラミリツが言う
「何言ってんの?少なくとも 僕とアンタの関係より 僕とハブロス総司令官は 仲良かったよ?」
軍曹が驚いて言う
「なんとっ!?」
ラミリツが言う
「けど… あの国防軍レフォム駐屯地で メイリス家の面汚しが 酷い事したからさ?今じゃ 僕1人だと 会わせてもらえないと思うから… だから アンタに頼んでんの 連れてってって?」
軍曹が呆気に取られてから言う
「う、うむ… あれは きっと… 何かの間違えなのだ ラミリツ攻長…」
ラミリツが言う
「もう良いんだっ 言い訳はしたくない… 言い訳は… メイリス家の信条に反するからね ?僕も 決めたんだ」
軍曹が言う
「ラミリツ攻長…」
ラミリツが言う
「だから連れてって!攻長として… いや、ラミリツ・エーメレス・メイリスとして アンタに お願いするよ」
軍曹が言う
「う、うむ そこまで言われるのなら… それではっ 自分はラミリツ攻長と共に 向かうのであるっ!」
軍曹とラミリツが歩いて行く

【 国防軍総司令本部 総司令官室 】

ランドリックが敬礼してから立ち去る アースが資料を見てから息を吐いて一度顔を上げた後 内線ボタンを押して言う
「…私だ 先日の謁見希望者と話しをしたい 連絡を取られるか?」
電話機から秘書の声がする
『はい、連絡先を伺っておりますので』
アースが言う
「いつでも良い 話を聞きたいと伝えてくれ」
秘書の声がする
『畏まりました』
アースが息を吐きノートPCへ向き直ると内線が鳴り 秘書が言う
『ハブロス総司令官 ヴォール・アーヴァイン・防長閣下が…』
内線に軍曹の声がする
『あっ!違うのだ!そうではなく 今の自分はっ アーヴァイン軍曹としてっ!』
アースが呆気に取られた後苦笑すると 続いて内線からラミリツの声がする
『どっちだって 同じだろ?』
アースがハッとする 軍曹が言う
『いや、しかしっ!?』
アースが考えながら言う
「出来れば あちらを先に聞いて置きたかったが… その彼まで来てしまっているとなれば 仕方が無い…」
ラミリツが言う
『何で アンタって いつも そう言う余計な所でさ?そう言う所が…っ!』
軍曹が言う
『し、しかしっ!?指令を受けたのは 軍曹の自分であって…っ 従って 報告を行うのも…!?』
秘書が言う
『アーヴァイン軍曹 兼 ヴォール・アーヴァイン・防長閣下と ラミリツ・エーメレス・攻長閣下が お越しですが』
軍曹が言う
『のわっ!?』
ラミリツが言う
『ほら だから言ってるのに… ただ 手間を掛けさせるだけだって 分かんない訳?やっぱ アンタって…』
アースが内線ボタンを押して言う
「通せ」
アースがノートPCを閉じる ドアが開かれ 軍曹とラミリツが入って来る

――…

軍曹が叫ぶ
「その様な言い方はっ やめて欲しいのだっ!」
アースが軍曹を見る 軍曹がアースを見て怒って言う
「少佐もっ!エルム少佐もっ!2人とも 悪魔の兵士であろうとも 自分たちと同じ人なのだっ!戦いの為の道具などでは 決してないのであるっ!それから!自分たちの世代の レギストの隊長は やはり 少佐なのだっ!自分たちは今までも!そして これからも 少佐と共に戦うのであるっ!」
軍曹が怒りのままに部屋を出て行く ドアが閉まるとアースが軽く息を吐いてからラミリツを見る ラミリツが言う
「そっちの話は 僕は話すつもりは無いよ… 僕がここに来たのは」
アースが言う
「報告は聞いている 初世代の悪魔の兵士… 国防軍のマスタートップシークレットを 破壊しに現れたそうだな?貴方の兄 シェイム・トルゥース・メイリスが」
ラミリツが表情を強めて言う
「うん 僕もこの目で確認した …それに これで分かった アンタが言ってたの …あの事件を起こしたのも 今回の事件を起こしたのも どっちも そう …シェイム・トルゥース・メイリス …だ」
アースが言う
「貴方は?」
ラミリツが言う
「僕は共犯じゃない …って 言っても信じてくれないでしょ?」
アースが言う
「さぁ… それは…」
ラミリツが言う
「”これからの 貴方次第だろうな?”」
アースがラミリツを見る ラミリツが言う
「それを証明するよ 今は どうあっても 政府と国防軍の協力体制を崩す訳には行かない… 僕はそう思うから」
アースが言う
「その証明が出来ると?」
ラミリツがM82を見せて言う
「やるよ この銃と」
ラミリツがプラズマセイバーを見せて言う
「この剣に誓って」
アースが間を置いて言う
「…分かった 貴方を信用しよう」
ラミリツが苦笑して言う
「今は その言葉だけ 受け取って置く」
ラミリツが剣と銃をしまう アースが言う
「ふん?言ってくれる… 私にとっても エルム少佐は…」
ラミリツが言う
「…そう そのエルムの事 さっきの言葉だけどさ?」
アースがラミリツを見る ラミリツが言う
「いくら国防軍総司令官でも あの言い方は気に入らないな?総司令官なら尚更… 一緒に戦う仲間の事は 大切にして欲しい」
アースが呆気に取られた後苦笑して言う
「政府の者に言われるとはな?」
ラミリツが言う
「アンタは国防軍の人でしょ?」
アースが微笑して言う
「その国防軍で 唯一 政府の相手をする者だ」
ラミリツが言う
「…そ?…なら もう良い」
ラミリツが立ち去ろうとする アースが言う
「ラミリツ攻長」
ラミリツが立ち止まって振り向かずに言う
「その政府にだって 分かる証明をするから!それが僕の決意 …もう …迷わない」
ラミリツが立ち去る アースが息を吐いてから椅子へ腰掛け タバコに火をつけ 吹かしてから言う
「フー… 決意か…」
アースがデスクの上にある写真を見てからエルムの人形を見て 目を閉じてから デスクの引き出しへ視線を向ける

【 政府政府警察本部 】

ラミリツがやって来て言う
「コートハルド警察長は居る?」
警官が言う
「はい ただ今」
警官が内線を掛けると コートハルドがドアを開けて言う
「攻長閣下 お待ちしておりました」
ラミリツが言う
「さっきは急にゴメン 大丈夫だった?」
コートハルドが微笑して言う
「はい 大丈夫です 元々 国防軍のそちらに関するデータは残さないと言う決まりがあります 従って 今回はそれに漏れてしまっていたデータがあったと言う事で ご連絡を受けてすぐに消去をさせました」
ラミリツが言う
「それから… もう1人の方のデータは 本当に無かった?」
コートハルドが言う
「はい、ございませんでした 改めての確認も済ませてあります」
ラミリツが言う
「そう ありがと …それから 実は もう1つ頼みがあって来たんだ」
コートハルドが言う
「はい、何なりと 攻長閣下」
ラミリツが言う
「シェイム・トルゥース・メイリスの保留処置を 全て解除 今すぐ 指名手配にして」
コートハルドが僅かに驚いてから言う
「は…?はい …しかし …本当に宜しいのですか?」
ラミリツが言う
「勿論だよ …あ、そうそう 残念ながら 今日は 時間が間に合わなくて駄目だったんだけど 明日の早い内にでも 彼を メイリス家から追放するから」
コートハルドが驚いて言う
「えっ!?」
ラミリツが言う
「だから 名前の記載は シェイム・トルゥース・メイリスではなくて シェイム・トルゥース 当然 元長官の特権もいらない アールスローンへの重罪人として 指名手配にして」
コートハルドが言う
「し、しかしっ!」
ラミリツが言う
「これは 政府長 攻長からの 命令だよ?」
コートハルドが言葉を失ってから言う
「…畏まりました」
ラミリツが言う
「うん、それじゃ よろしく」
ラミリツが立ち去る コートハルドが敬礼して見送る

【 病院 】

アースが表情を落とす 視線の先 エレナがファーストへ授乳しているが ファーストの背には痛々しい包帯が巻かれている アースが部屋を出て行く 

部屋の外

アースが息を吐いてから言う
「最初の子供に あのような危害を与えた上で… 一体 何と言ったら良い?」
アースが手を開くと原本のマイクロチップがある アースが手を握り息を吐く

【 ハブロス家 アースの部屋 】

アースが軍曹を強く見て言う
「メイリス家は 元々 そう言った薄汚い連中なんだ ラミリツ攻長も 何時お前を裏切り ともすれば アールスローン戦記の原本を奪おうとも …2世代目の悪魔の兵士が眠る マスタートップシークレットを餌に 我々を揺すって来るとも分からない」
軍曹が表情を落として言う
「じ… 自分は そんな事は…」
アースが言う
「良く考えるんだ アーヴィン お前にとって 誰が味方なのか 敵なのかを」
軍曹が表情を困らせて言う
「う… うーん…」
アースが言う
「下がって良い」
軍曹がアースを見てから 部屋を出て行く アースが息を吐き 付けかけていたタバコに火を付けようとして 止めると息を吐いて言う
「…分かっている 誰が味方なのか 敵なのか …私にとって」
アースが視線を向けた先 資料が置かれていて ラムスの写真と空の注射器の写真がある アースが頭を押さえて考える

【 回想 】

《 国防軍総司令本部 総司令官室 》

アースの前に エレンとマリが居る アースが言う
『先日はすまなかったな 是非 貴女方のお話を聞かせて頂こう 彼の… メルフェス・ラドム・カルメスの お話を』
マリが言葉を飲む エレンが言う
『その前に 先にお伺いします ハブロス総司令官』
アースがエレンを見る エレンが言う
『貴方様の仰る メルフェス・ラドム・カルメスは ”どちらのお方” でしょう?』
アースが目を細める エレンが言う
『私が秘書を務めていた そちらのお方の名前は メルフェス・ラドム・カルメス… またの名を マスターシュレイゼス様です ハブロス総司令官の仰る メルフェス・ラドム・カルメスは 恐らく ”ユラ・ロイム・ライデリア”では?』
アースが言う
『…なるほど それで?』
エレンが言う
『更に言いますと 私たちは その ”ユラ・ロイム・ライデリア”を操っていた ”マスターブレイゼス”と言う名の者も知っています その上で 私はお伝えします マスターシュレイゼスは国防軍の… 貴方方の”味方”であると そして 彼と共に戦う シェイム・トルゥース・メイリスも 同じく』
アースが僅かに反応する アースのデスクの横に資料がある エレンが言う
『彼らは今 戦っています ”マスターブレイゼス”と… ですから どうか…』
アースがエレンを見る エレンが微笑して言う
『ご安心下さい?マスターブレイゼスは 彼らが捕らえます』
アースが呆気に取られた後 苦笑して言う
『恐ろしい女性だな?貴女は… もしや貴女もマスターの名を持つ者なのか?』
エレンが苦笑して言う
『いいえ?私は ただ… そのマスターを 愛しただけの女です』
マリが驚きエレンを見る エレンが微笑する

【 回想終了 】

アースが資料を手に取って言う
「奴らが マスターブレイゼスを捕らえる か… マスターの名を持つ者が 同じ仲間を …つまり 奴らは もう、とっくに …私の敵では無くなっていたのだな」
アースが資料をめくる 資料にハイケルとハイケルβの写真がある アースがタバコをふかしてから考えて言う
「…彼女の話が事実なら 私の憶測は間違えとなるのか?シェイム・トルゥース・メイリスは 帝国へ行った事は無いと… だが、だとしたら 何故 奴がナノマシーンの力を?奴は弟のラミリツ攻長とは異なり 訓練などは受けていない 私と同じ非戦闘員だ それが マシーナリーとの戦闘が行われていた マスタートップシークレットのファームに現れ レギストの報告によれば ハイケル少佐のデコイを動かしたと…」
アースが資料を見る ラムスの写真と空の注射器の写真がある アースが文章を読んで言う
「注射器からは ラムス元政府局長の指紋… ハイケル少佐のデコイには その注射器によって入れられたと思われる ナノマシーン…」
ドアがノックされる アースが顔を向けると執事が現れて言う
「失礼致します アース様 マスターカルンゼス医師が お話をなさりたいとの事で」
カルンゼスが顔を覗かせて言う
「頼まれていた ナノマシーンの照合結果を お知らせに来たのだが …少々 時間が遅過ぎるかな?」
アースが言う
「いや、こちらこそ」
執事がドアを開く カルンゼスが入って来て 資料を渡して言う
「結論から言わせてもらうと あのナノマシーンは… 陛下の身に使われていたナノマシーンだった」
アースが資料を受け取りつつ驚いて言う
「どう言う事だ?では… 奴が?ルイル・エリーム・ライデリアが 共犯だったと言う事かっ?」
カルンゼスが言う
「いや… 実は ハブロス総司令官 貴方に伝えてはいなかったが 陛下のナノマシーンは減少作用と言うトリックを使い 以前の内に 約19.84%のナノマシーンが奪われていたのだ ルイル・エリーム・ライデリアとやらには そのトリックを見破る力は無かった筈 その点においては 彼は貴方へ嘘は言っていなかった」
アースが言う
「…そうか では そのトリックと言うのは 一体誰が?…もしや マスターブレイゼスか?」
カルンゼスが言う
「恐らくそうだろう この19.84%と言う数値は とても繊細な数値だ 陛下のナノマシーンを長年見ていた私であったから この数値に気付けたが そうでなければ 同じ精神科医のマスターであっても気付かない …それほどの数値だ」
アースが言う
「それが 今回の事件で使用されたと… その19.84%全てがか?」
カルンゼスが言う
「いや、私が伺った量では その量には足りていない そして そのナノマシーンは 既に他でも使用されている そちらの量と合せても まだ少し… 恐らく 後1人分… もしくは 今回のように使うのであれば 更にもう一度分は…」
アースが目を細めてから言う
「”今回のように使うのであれば”?…マスターカルンゼス?」
カルンゼスが疑問してアースを見る アースが軽く笑って言う
「何故貴方が ”今回の使われ方”を知っている?私は ナノマシーンのサンプルと その量を示した資料を 渡したに過ぎないが?」
カルンゼスがハッと気付き苦笑して言う
「おっと… しまったな?思考の方へ 意識とナノマシーンを向けていたら つい」
アースが言う
「マスターシュレイゼスからの情報か?」
カルンゼスが苦笑して言う
「私が彼と繋がっておると …気付いておられたのか?」
アースが言う
「もちろん?…最も それは気付いていたのではなく 貴方方が”マスター”であるから だが… それにしては随分と近い位置で 繋がっているようだな?もしやと思うが 今回の事件にも関与しているのか?…貴方が?」
カルンゼスが言う
「私は後にも先にも 彼に多少の手を貸しているだけ 実際にマスターブレイゼスを捕らえよう… もしくは 倒そうと 戦っているのは ”彼ら”だ」
アースが言う
「彼ら… 本物のメルフェス・ラドム・カルメス いや、マスターシュレイゼスと… シェイム・トルゥース・メイリス …か?」
カルンゼスが微笑して頷く アースが言う
「彼らが マスターブレイゼスを倒すと …それは アールスローンの為に?」
カルンゼスが頷いて言う
「うむ 彼らは今 その為だけに 戦っている …そこには もはや 政府も国防軍も無い」
アースが言う
「政府も国防軍も?」
カルンゼスが言う
「ああ… 貴方も 同じであろう?ハブロス殿?」
アースが言う
「同じ?…いや、違うな」
カルンゼスがアースを見る アースが言う
「私は彼らとは異なる …私は どうあっても 失う訳には行かない …守らなければならない どのような手段を使ってでも」
カルンゼスがアースを見る

【 イリンゼスの家 】

メルフェスが言う
「では ハブロス総司令官は…」
カルンゼスが言う
「彼は 守る と言った それは 恐らく 彼の国防軍と彼の… 今までに得て来たものを 全てと言う事だろう」
イリンゼスが言う
「その”今までに得て来たもの”って言うのは?」
メルフェスが言う
「今の彼には 国防軍の力は勿論 ラミリツ攻長やミックワイヤー長官との繋がりから 政府の力も多少はそこに入ると言える つまり これは 逆に考えれば 政府は今の彼にとって 既に得ているもの ”守るべきモノ”であると言う事になるだろう」
イリンゼスが疑問して言う
「じゃぁ… ハブロス総司令官は …政府も守ってくれるって事か?」
メルフェスが微笑して言う
「流石は 国防軍長… またの名を防長閣下 と言った所でしょうか?」
メルフェスがシェイムを見る シェイムが微笑して言う
「国防軍は 陛下の盾… アールスローンを守る者 対する 政府は 陛下の剣 アールスローンの為に戦う者 アールスローン信書の通りと言う事で?」
メルフェスが言う
「守りの兵士が居る限り 攻撃の兵士… 悪魔の兵士は何度でも蘇る アールスローンが守られていれば アールスローンの為に戦う者は 何度でも現れると言う アールスローン戦記とも 同じですね?」
イリンゼスが言う
「結局 どっちも 同じだって事か?」
シェイムが言う
「どちらも 結局は アールスローンの歴史ですから」
カルンゼスが言う
「それが分かれば 例え そのどちらを信仰しようとも やる事は 同じだと言う事も分かる」
イリンゼスが言う
「…で、やる事って?」
カルンゼスが衝撃を受ける メルフェスとシェイムが苦笑し シェイムが言う
「やはり… 信仰書は1つの方が良いのでしょうか?」
メルフェスが言う
「いや、もう少し… 分かりやすい本にした方が 良いと言う事なのかもしれません」
イリンゼスが疑問する

【 ハブロス家 アースの部屋 】

アースがノートPCを操作している モニターに政府のマークが現れ IDとパスを入力すると画面が開かれ ラミリツとミックワイヤーの写真や 警機の写真と資料が見られる アースが溜息を吐いて言う
「国防軍の私のIDで 政府の情報が見られるようになった つまり 彼らは私を…」
アースの携帯が鳴る アースが携帯を見て着信させて言う
「どうした アーヴィン?」
携帯から軍曹の声がする
『あ、兄貴 実は ラミリツ攻長から』
アースが反応して言う
「エルム少佐の… 2世代目のマスタートップシークレットの場所を 聞き出したのか?」
軍曹が言う
『あ、いや…っ そちらは…っ』
アースが息を吐き モニターを消そうとしながら言う
「では何だ?」
軍曹が言う
『そちらではなく 帝国の!』
アースがモニターを消そうとしていた動作を止めて言う
「帝国の…?」
軍曹が言う
『うむ!帝国の情報を提供してくれると言うのだ!それも!昔 父上や その他の者が 帝国へ向かった その時の物であると!』
アースが一瞬驚く 軍曹が言う
『だ、だが しかし…っ その~ と、取引と言う事で ラミリツ攻長も 兄貴が持っていると言う レコーダー記録を聞きたいと… 父上が 丁度 同じ頃に 祖父上とお話しをした時の物だと言うのだが… 兄貴は知っているだろうか?祖父上は 兄貴が持っていると 言ったらしいのだが?』
アースが言う
「あの頃のレコーダー記録…」
アースがデスクの引き出しを開き 奥の方にあるメモリースティックに目を細めてから言う
「…分かった そちらは保管してある その取引に応じてくれ アーヴィン」
アースが通話を切ると 引き出しの奥からメモリースティックを取り出し ノートPCへ取付操作するとアーケストの声が聞こえる
『父上 ご無沙汰しております』
ラゼルが言う
『ああ… やはり同じ敷地内であっても 別の屋敷に居るのでは 会う機会も減ってしまうな?』
アーケストが言う
『国防軍総司令官の任と共に 母屋の方も預けていただけた事は 光栄に思っております 父上 今後はどうか その私が ハブロス家の良き当主となる事をご期待下さい ヴォール・アーケスト・ハブロス 誠心誠意 邁進いたします事を誓いますので』
アースが苦笑して言う
「この時までは… 父上は何も疑っておられなかった 御自分の力を …ハブロス家の当主として 国防軍総司令官として…」
ラゼルが笑って言う
『ほっほっほ お前に喜んでもらえたなら 私も嬉しいが あまり力み過ぎる事も無い様にな?私に出来る事が有ったら いつでも声を掛けなさい』
アーケストが言う
『では、早速なのですが 父上』
ラゼルが言う
『うむ 何かな?アーク?』
アースが視線を落として言う
「だが…」
アースが一度目を閉じてから ノートPCを操作して再生を停止して言う
「…いや もう 過ぎた事だ 父上は… 例えご自分の命令を聞かなかったとは言え あのエルム少佐の強さを信じていた… だが この時 それを否定された事により 帝国は自分以上の者であると… 父上は恐れを抱いてしまった …そこに追い討ちをかけ 自分と共に戦ってくれると信じていたメイリス長官が 自分以上の者になると… 父上はこれで ご自分に力が無いという事を 悟ってしまった」
アースがメモリースティックを抜き 言う
「私にも 力などと言えるものは無い だが 今の私には… 国防軍が… そして、祖父上の頃と同じく 政府も… マスターたちは居ないが それでも私は祖父上からアールスローン戦記の原本を頂いた それらを 守る為の力は… 心配は無い 私には アーヴィンが居る 例え私が父上と同じ事になろうとも 父上の時とは異なり きっと あいつのレギストが… あいつの国防軍が…」
アースが息を吐きメモリースティックを引き出しにしまって カルンゼスから受け取った資料へ視線を向けて言う
「マスター… カルンゼス マスターシュレイゼス …そして あの国防軍レギスト駐屯地情報部に在籍していた マスター… グレイゼス 恐らく奴が 今まで 私に情報を送っていたマスターだ …ハイケル少佐の友人でもあると言う 悪魔の兵士を知っていたマスター だがその奴でさえ 現状の国防軍には戻らない それは 恐らく私が…」
ノートPCのモニターにシェイムの写真がある ドアがノックされ 執事が言う
「失礼致します アース様 ラミリツ・エーメレス・攻長閣下と ヴォール・アーヴァイン・防長閣下が お見えです」
軍曹が衝撃を受けて言う
「のおっ!?な、何も 屋敷でまで その様に自分を呼ばずとも 良いではないか!?レミック!?」
執事が微笑して言う
「お客様をお通しする際は この様にお伝えいたします事が 正式な作法に御座いますので」
軍曹が言う
「うむぅ~ そうは言おうとも ラミリツ攻長はつい先日まで この屋敷に居た訳で…」
ラミリツがアースの前に来て言う
「先に言っとくけど 渡すのはコピーだから」
アースが苦笑して言う
「それは当然でしょう?…その様にして カルメス元外交長を?」
ラミリツが言う
「そうだよ」
アースが苦笑する
「フフフ… 随分と素直ですね?メイリス家ご出身の 攻長閣下」
軍曹が衝撃を受け困って言う
「あ、あのっ 兄貴?ラミリツ攻長は 折角 帝国の情報を提供してくれるのであるからにして… そ、その様な敵対的な言葉は やめて欲しいのだが…」

【 マスターの店 】

マスターが片付けを終えて言う
「よし 明日の仕込みも終ったし 帰りますかね?」
マスターが店を出て施錠をし 車へ向かい乗り込みエンジンを掛けラジオを操作すると ふと顔を上げる マスターの脳裏に言葉が聞こえる
『国防軍に戻りたいと思っている』 『俺も同意見だ 誰か情報を』 『ハブロス総司令官は 我々と共に在る事を望むのか 利用を目論むのか 誰か教えて欲しい』 『関わった者は 情報を』
マスターが表情を困らせ ラジオを操作しようとする マスターがハッと目を見開く マスターの指先からマスターの声で言葉が聞こえる
『俺は関わった ハブロス総司令官は 我らの仲間のマスターをっ!』
マスターが胸を押さえて言う
「止めろ!言うな グレイゼスッ!」
マスターの脳裏に言葉が聞こえる
『仲間のマスターを?』 『我らのマスターの仲間へ危害を与える者へは 近寄らず… 力を貸すべからず…』 『国防軍は …危険』
マスターが表情を困らせて言う
「危険じゃない 良くなろうとしているっ 人はお前たちほど完璧では無いんだ 誰だって間違える 失敗をする…っ …だからこそっ!」
マスターの脳裏に言葉が聞こえる
『強くなれる』
マスターが驚く マスターの脳裏に言葉が聞こえる
『国防軍と政府 その2つが力を付けた時 再び 陛下をお助けに行こう その時は …我らも共に』
マスターが目を細める
『その時は何時だ?』 『その時は… 恐らく とても近い』
マスターが言う
「誰だ?誰かが 知っているのか?両組織の状態を!?」
マスターが思う
(国防軍の内情を知るマスターは 俺以上の奴は居ないと思っていたが… 政府の事まで知っている?一体誰だ?)
マスターが考えていると 脳裏に声が聞こえる
『…では 彼の 行いはどうする?』
マスターが疑問する 脳裏に声が聞こえる
『彼の行い?』 『彼の… マスターブレイゼスの 行い』
マスターがハッとする

【 イリンゼスの部屋 】

音声をミュートにされたテレビを前に シェイムが沈黙している シェイムの脳裏に声が聞こえる
『それは 陛下の願いにあらず』 『陛下の願いに在らず』 『では…?』
シェイムが目を細める メルフェスがシェイムを見上げる シェイムがテレビに指を触れる 指先からシェイムの声がする
『俺は 今戦っている マスターブレイゼスと …諸君の賛同を求める』
シェイムの脳裏に声が聞こえる
『マスターが マスターを?』 『30年前と同じだ』 『それには…』 『…』
シェイムが息を吐いて意識を開放する メルフェスが言う
「仲間たちの声が聞こえましたか?マスターシュレイゼス?」
シェイムが苦笑して言う
「はい 最初は驚きましたが 音声会議と言った所でしょうか?自分の意見ではなく シュレイゼスの意見しか述べられないと言うのは 少々 歯痒いですが」
メルフェスが苦笑して言う
「そうですね 時には宿主とは異なる意見を 言ってしまう事もありますからね?」
シェイムが言う
「はい、自分では絶対に口外しないような事を 言われてしまうので 驚いてしまいます その内 政府のトリプルトップシークレットでも 言われてしまうのではないかと?」
メルフェスが軽く笑って言う
「っはは その点に付いてはご安心を そう言った一組織の重要情報は 言えない様になっていますので」
シェイムが呆気に取られて言う
「え?そうなのですか?」
メルフェスが言う
「はい、今後 もし うっかりとシュレイゼスが口を滑らそうとするなら その時には シェイム殿にも分かりますよ」
シェイムが言う
「私にも 分かる …とは?」
メルフェスが頭を指差して言う
「物凄い頭痛がしますから その次の瞬間には シュレイゼスが黙ります まるで… その痛みで言うつもりであった言葉を 忘れてしまったかの様に」
シェイムが顔をしかめて言う
「それはまた… 相当な痛みのようですね?」
メルフェスが苦笑して言う
「えぇ… それはもう」
シェイムとメルフェスが軽く笑う イリンゼスがやって来て言う
「一応 飯出来たけどさ…?本当に食うのか?庶民の夕食を…」
遠くからカルンゼスの声がする
「おーい イリンゼス?お湯が出ないのだが~?」
イリンゼスが顔を向けて言う
「はぁ?ちゃんと 種火付けたか~?」
カルンゼスの声がする
「種火とは何か?」
イリンゼスがテーブルに食器を置いて向かいながら言う
「何って… 湯沸かし器なら常識だろぉ?」
イリンゼスが立ち去ると メルフェスとシェイムが食器の中を見て メルフェスが言う
「これも… 常識だろうか?」
シェイムが疑問して言う
「ビーフシチューと ライス… ですかね?随分と… 刺激臭の強い…?」
メルフェスとシェイムの前にカレーライスが置かれている

【 ハブロス家 アースの部屋 】

ノートPCにメモリースティックが付けられていて 音声が再生されている アーケストが言う
『さよならだ フレイス そして エルム少佐』
フレイスが呆気に取られて言う
『な… 何を…?アークっ!?』
銃声が鳴る アースが目を細める エルムが驚き呆気に取られて言う
『『… メイリス 隊 長…』』
ラゼルの声が聞える
『少佐ぁーーっ!』
エルムが微かに言う
『軍…そ… …』
モニターに終了のマークが出ている アースが息を吐いて言う
「何度聞こうが変わらない これが真実… メイリス家は何故これを公表しなかった?公表していれば 今頃 このハブロス家は…」
アースが目を閉じる ドアがノックされ 軍曹の声が聞こえる
「兄貴 話があるのだが…」
アースが目を開き言う
「…ああ 入れ」
ドアが開かれ軍曹が入って来る アースが言う
「今戻ったのか?遅かったな?」
軍曹が言う
「うむ… 遅い時間ではあったが ラミリツ攻長の屋敷で レコーダーの記録を聞かせてもらっていたのだ」
アースが言う
「そうか… それで?」
軍曹が言う
「兄貴も… 帝国内の物のみとは言え 聞いたのだろう?」
軍曹がアースの前にあるノートPCへ視線を向ける アースが言う
「ああ」
軍曹が言う
「では…」
アースが言う
「理由はともあれ この情報が公開されなかった事は ハブロス家の我々にとっては とても大きかった」
軍曹が言う
「うむっ そうなのだ!それもこれも ラミリツ攻長のお父上が!ハブロス家との繋がりは今まで通りにしたいとの事で この情報を隠し 我々ハブロス家を守って下されたお陰なのだ!…であるから!」
アースが言う
「この情報を隠し 我々ハブロス家を守った?…それはどうかな?」
軍曹が衝撃を受けて言う
「なぁあっ!?あ、兄貴?兄貴はまだ疑われるのか!?」
アースが言う
「攻長閣下より ご提供頂いたこの記録に関しては 一応明日早くにでも 専門家に依頼し 紛い物でない事を確認させる しかし、現状であっても これは信じるに値するものであると 私は思っている… だが」
軍曹がアースを見る アースが軍曹を見て言う
「お前がラミリツ攻長から聞いた そちらの話に関しては 私は信じる事はしない 従って 今後もメイリス家 …いや、攻長閣下の行いには 目を光らせるつもりだ」
軍曹が驚いて言う
「そんなっ!兄貴っ ここまで来て まだ兄貴はメイリス家を 疑うのであるかっ!?」
アースが言う
「もちろんだ メイリス家の者が政府の長官ではないにしろ 同等の権力を有する攻長である以上 気を抜く事は出来ない」
軍曹が怒って言う
「自分には そんな事は出来ないのであるっ ラミリツ攻長は 間違いなく 自分たちの仲間であるっ!」
軍曹がデスクを叩く アースが言う
「お前がそうしたいのなら お前はそうすれば良い アーヴィン」
軍曹が驚く アースが言う
「私は お前が攻長閣下を信じる事を 否定も肯定もしない お前はお前の考えで行動をすれば良い」
軍曹が呆気に取られて言う
「し、しかし…っ」
アースが言う
「但し」
軍曹が反応する アースが軍曹を見て言う
「私もお前も ハブロス家の者 共に 国防軍の者だ 従って その2つを守る事だけは 決して忘れるんじゃない 分かったな?アーヴィン」
軍曹が言う
「もちろんなのだっ!」
アースが微笑して言う
「それで良い …では、今日はもう遅い 話はこれで終わりにしよう」
アースが席を立ち寝室へ向かう 軍曹が出口へ向かおうとして言う
「あ、兄貴?」
アースが立ち止まり向き直って言う
「うん?なんだ?まだ何があるのなら また明日に」
軍曹が言う
「いや、そうでは無いのだが…」
アースが疑問する 軍曹が言う
「兄貴や俺が ハブロス家の者で 国防軍の者でもあるからにして それら2つを守るのは勿論なのだが その… やはり 俺は兄貴と違って馬鹿であるから あまり難しい事は分からないのである だから これからも 色々と教えて欲しいのだ」
アースが一瞬呆気に取られてから苦笑し言う
「ああ …私から見れば 本当にこれが自分の弟であるのかと 不思議に思うほどだが」
軍曹が衝撃を受ける アースが軽く笑う 軍曹が苦笑し頭を掻く アースが言う
「しかし、メイリス家の兄弟とは違い 我々は列記としたハブロス家の兄弟であり …私は父上に お前は祖父上に 良く似ている」
軍曹が呆気に取られる アースが微笑して言う
「そして 私には父上の時とは異なり 弟のお前が居る アーヴィン?お前は ラミリツ攻長閣下やレギストの隊員たちだけではなく 国防軍総司令官であり お前の兄でもある私の事も いざと言う時は 守ってくれるのだろう?」
軍曹が言う
「それはっ もちろんであるっ!兄貴っ!」
アースが微笑して言う
「それを聞いて安心した それなら 頭の方は私に任せておき お前は お前に出来る事をしてくれ …だが くれぐれもっ!」
軍曹が苦笑して言う
「分かっているのだ 兄貴 自分にとっては ハブロス家も、国防軍も もちろん兄貴も レギストの皆も 少佐も それから ラミリツ攻長も え、えっと… マスターも?」
軍曹が困り始める アースが軽く笑って言う
「それらを全て守るには やはり 相応の財力と権力が必要だ ハブロス家が 今後も現状のまま在り続ける事が 大切であると言う事が 分かるだろう?」
軍曹が苦笑して言う
「う、うむ…」
アースが背を向けて言う
「では、そう言う事だ おやすみ アーヴィン」
軍曹がアースを見て言う
「う、うむっ おやすみなのだ 兄貴」

【 国防軍総司令本部 総司令官室 】

秘書が言う
「レファム駐屯地の復旧作業はほぼ終了したとの事です 共に マルック駐屯地の復旧作業も既に70%が完了しているとの事で… しかし こちらの駐屯地を使用していた 第1第2第3部隊の再編成には 少々時間が掛かりそうであるとの事です」
アースが言う
「確か その3部隊の約3割の隊員が 先の襲撃の際に犠牲になったのだったな?」
秘書が言う
「はい そちらの補填をするには マルック駐屯地に近い リング駐屯地か …もしくは プロイム駐屯地の隊員から 兵を集める形が宜しいかと」
アースが考えて言う
「リング駐屯地は 国防軍において 唯一 戦闘機を使用する部隊だ そちらの隊員を 機動部隊へ向かわせるのは あまり好ましくは無い」
秘書が言う
「では プロイム駐屯地のバルック大佐へ レファム駐屯地へ送る兵の選定を命じますか?」
アースが考えて言う
「…だが プロイム駐屯地は…」
秘書が言う
「…更に他の駐屯地からと言う事になりますと 大分 距離が離れてしまうので 常駐させるには 宿舎を用意する必要性が出ると思われますが?」
アースが言う
「国防軍は 兵たちの赴任を行わせない事で その土地へ対するの防衛への意識を高める事としている 従って 彼らの故郷から遠い駐屯地への 強制召集を掛ける訳には行かない …部隊数を減らしてでも 現行の隊員で賄うようにと伝えてくれ」
秘書が言う
「しかし それでは 防衛能力の低下をもたらすと思われますが?マルック駐屯地は アールスローン内に置いて 最も帝国に近い地区で御座います 従って 必要常駐部隊数は3部隊であると」
アースが言う
「その点に付いては問題ない 帝国は…」
アースが一度秘書を見てから軽く息を吐いて言う
「…帝国と戦う時には ほぼ全部隊を最前線へ向かわせる 現状の部隊数は気にしなくて良い」
秘書が呆気に取られた後 気を取り直して言う
「…あ、はい …畏まりました では ご指示の通り部隊数を減らしてでも 現状を維持すると伝えて参ります」
アースが言う
「ああ」
秘書が立ち去る アースが息を吐き視線をテレビへ向け リモコンを操作する テレビが付きニュースが流れる
『…では 次のニュースです 昨日 再度 指名手配とされた 元政府長官シェイム・トルゥース・メイリス容疑者は 本日付で 富裕層名家 メイリス家から除名され 指名手配犯シェイム・トルゥースとされました この事から 今までの富裕層への特権は解除されると 共に…』
アースが目を細めて言う
「シェイム・トルゥース・メイリスが メイリス家から除名… …これが ラミリツ攻長の決意と言う事か 養子とは言え 家族を切り捨てるとは…」
アースが視線を向けると視線の先 デスクの上にエルムの人形が置かれている アースが苦笑して言う
「私は14歳の子供以下だと言う事か?それとも 彼が それ程の決意を持っていたと?貴方なら どちらへ ”そうだな”と 言うのだろうか?エルム少佐」
エルムの人形に動きは無い アースが苦笑して言う
「どちらにも ”そうだな”か?フッ… ならば私も負けては居られないな?奴が今後どう出るかは 分からないが… 私は 今の私に出来る事を行うしかない」
アースがテレビを見る テレビにシェイムの写真と名前が出ている

【 イリンゼスの部屋 】

テレビにニュースが流れる
『…元政府長官の名誉も消滅し 指名手配犯シェイム・トルゥースへの 有力情報に対しては懸賞金が掛けられる事から 早期の逮捕へ繋がると…』
メルフェスが言う
「作戦成功… ですね?シェイム殿?」
シェイムが苦笑して言う
「そうですね しかし… 本当にそうなってみると 流石に少し…」
シェイムが写真を見て表情を悲しませる メルフェスが苦笑して言う
「…きっと いつかは 取り戻せます」
シェイムが辛そうに苦笑して言う
「はい… 何を隠そう 全ては作戦… 私の罪は冤罪なのですから …何も私が 後ろめたく感じる必要などは…」
シェイムが俯いて目を閉じる メルフェスが表情を悲しめて言う
「頭では分かっていようとも 心ではそう簡単に割り切れるものではありません 貴方はとても勇敢ですよ シェイム殿」
シェイムが苦笑して言う
「親兵攻長が 涙など見せる訳には行きません この剣が折れるまで 戦い続けなければ…っ」
シェイムが写真を持った手で胸を押さえる メルフェスが静かに頷いて言う
「…はい 戦いは まだ続いています 貴方の事は 反逆の兵士が… 貴方と共に在る シュレイゼスが守ってくれます」
シェイムが驚いて言う
「…そう言う 事だったのですか?」
メルフェスが言う
「はい?」
シェイムがメルフェスへ向いて言う
「親兵攻長と共に戦った 反逆の兵士は… それは ナノマシーンだったと言う事で?」
メルフェスが苦笑して言う
「さて どうでしょうか?確かに ナノマシーンは共に居たと思います 攻撃の兵士は 悪魔の兵士と 同一人物とされる時もありますからね?」
シェイムが言う
「では 親兵攻長と反逆の兵士が 同一人物…?親兵攻長はナノマシーンを得ていた…?」
メルフェスが苦笑して言う
「アールスローン信書にも 原本があれば良いのですが」
シェイムが苦笑して言う
「そうですね…」
イリンゼスが言う
「なぁ?そんな事よりよ…?本当に大丈夫なのか?」
メルフェスが言う
「うん?大丈夫とは?」
イリンゼスがテレビを指差して言う
「指名手配犯にされちまってさぁ?これじゃ 下手に外だって歩けないぜ?何しろ懸賞金が掛かってるんだ それこそ…」
シェイムが苦笑して言う
「何を言います 身体補佐能力の先輩 マスターイリンゼス?この能力がある限り 私が捕まるなどという事は…」
イリンゼスが言う
「だから その先輩たちがさぁ?」
シェイムが疑問して言う
「は?その先輩たち?」
イリンゼスがテレビの音をミュートにする シェイムが疑問すると脳裏に声が聞こえる
『マスターの仲間たち 何処かに シェイム・トルゥースは居ないか?』 『指名手配犯シェイム・トルゥースの情報をくれ 今月の家賃が危険だ!』
シェイムが衝撃を受けて言う
「なっ!?」
イリンゼスが言う
「指名手配犯の懸賞金って その殆どが マスターたちの財布に入るんだぜ?知ってたか 後輩?」
シェイムの脳裏に声が聞こえる
『誰か教えてやれ マスターの仲間の 家賃が危険だ』 『助けてやるべきだ 仲間だから』 『マスターは 仲間のマスターを 助けるべし』
シェイムが慌てて言う
「ちょ、ちょっと待って下さいっ!その指名手配犯シェイム・トルゥースは マスターの仲間ですから!?そして その指名手配も作戦でっ!」
シェイムがテレビを掴んで揺する 脳裏に声が聞こえる
『昨日見かけたぞ?』 『何処でだ?』 『家賃が危険な奴に教える』 『俺の家賃は 今月は大丈夫だから譲る』 『マイルズ地区の…』
シェイムが慌てて言う
「あぁあっ!何やってるんですか!?シュレイゼス!早く私の釈明をっ!マスターの仲間たちへ伝えて下さいっ そうしないと!」
イリンゼスが言う
「こりゃ 駄目そうだな?」
メルフェスが苦笑して言う
「シュレイゼスは とても優しいんです… その… 特に… 宿主以外の者に」
シェイムが慌てて言う
「宿主にまで 反逆してどうするんですかっ!?早く釈明を!シュレイゼスー!!」


続く
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