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19章

アールスローン戦記Ⅱ 悪魔祓いの赤林檎

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シェイムが口ずさむ
「ヴォール・アーケスト・ハブロス殿…」

シェイムが思う
(フレイゼス殿は話をしたのも数回 会ったのは それこそあの事故が起きた 帝国へ向かった その時が一度きりと 言っていたが… 私は… その実 誰にも話したくはないが あの人とは 会った事も話をした事も 数回ある ヴォール・アーケスト・ハブロス… あの人は 正に… 悪魔…っ …彼 そのものだった)
シェイムの脳裏に現れた アースの姿がアーケストの姿へと変わる

《 過去 メイリス家 》

メイドが言う
「ようこそメイリス家へ おいで下さいました ヴォール・アーケスト・ハブロス様 只今 私どもの主 ソロン・フレイス・メイリスへ伝えて参りますので どうぞサロンの方へ」
アーケストが言う
「必要ない… フレイス!出迎えはどうしたっ?この時間になると 連絡は入れて置いただろうっ?」
フレイスがやって来て言う
「ああ、待っていたよ アーク」
アーケストが言う
「待っていた?以前は エントランスで聞いた言葉だ」
アーケストが見下す フレイスが軽く笑って言う
「ははは 御免御免 まったく 君は相変わらずだな?アーク?」
アーケストが不満気に言う
「ふんっ」
通路の角に身を潜めて 子シェイムが覗いていて表情を困らせる

シェイムが思う
《初めて会った時の感想は 率直に 悪… … …何故?》

アーケストとフレイスが話をしながら通路を歩いている

シェイムが思う
《何故?あの 正義の父と 話しをしているのか?隣を歩いているのかさえ 不思議に思えるほど 父や私たちとは 別の人間だと思った》

アーケストが話の途中で子シェイムに気付き言う
「うん?」
フレイスが気付かずに言う
「だから 私としては やはり 警機のマイルズ部隊を…」
アーケストが子シェイムを見て言う
「あの子供は?」
フレイスが話の途中で反応して言う
「まずは向かわせようと… うん?ああ、そうだった トルゥース こちらへ来なさい?」
子シェイムがハッとして言う
「あ、はいっ 父上!」
アーケストが言う
「父上?」
子シェイムがフレイスの下へ辿り着くと フレイスが子シェイムの肩に手を置いて アーケストへ言う
「ああ、この子が 教会から引き取って来たと話した 私の養子で 名前は シェイム・トルゥース・メイリスだ …トルゥース?彼はヴォール・アーケスト・ハブロス様だ 私の親友でもある さぁ ご挨拶を?」
子シェイムが一瞬驚いてから 微笑してアーケストへ言う
「はいっ お初にお目に掛かります ヴォール・アーケスト・ハブロス様 私はシェイム・トルゥース・メイリスと申します 宜しくお願い致します!」
アーケストが言う
「ほう?中位富裕層の子供だな?」
子シェイムがドキッとする フレイスが苦笑して言う
「相変わらず 良く分かるなぁ?」
アーケストが言う
「目と態度で分かる …それで?」
フレイスが言う
「うん?」
アーケストが言う
「その子供を引き取り どうするつもりだ?」
フレイスが言う
「ああ、だから 君にも伝えただろう アーク?私の妻 エーメレスは体が弱い だから 私たちには子供を授かる事は出来ないだろうと それで 教会から養子を得る事にしたのだと?」
アーケストが言う
「そちらは聞きはしたが… その子は とっくに5歳を 超えているだろう?それなら当然 警機の訓練は行っているのか?その細い腕 芯の無い姿勢 とても その様には見えないが?」
アーケストが子シェイムを見下ろす 子シェイムが怯える アーケストが言う
「それに…」
フレイスが言う
「トルゥースには 訓練をつけていないんだ」
アーケストが言う
「どう言う事だ?メイリス家の養子にしたのだろう?」
フレイスが言う
「ああ そうなんだが… トルゥースの事は エーメレスがとても可愛がっていてね?それこそ 私の方が トルゥースに嫉妬をしてしまいそうになる位だよ?」
フレイスが子シェイムの頭を撫でる 子シェイムが微笑する

シェイムが思う
《私は確かに母上に とても優しくして頂いていた …しかし むしろ 私には こうしてごく自然に 頭を撫でたり肩を叩いてくれる 父上の優しさに 深い愛情を感じていた》

アーケストが言う
「では お前の跡継ぎはどうするつもりだ?優秀な剣術を持つ 歴代政府警察メイリス家の歴史を潰す気か フレイス?そうならそうと言え 私は帰らせてもらうぞ?」
子シェイムが驚く フレイスが言う
「怒らないでくれよ アーク?君にも分かるだろう?君だって 我が子が可愛くて堪らないと 言っていたじゃないか?」
アーケストが言う
「そちらは言いはしたが その彼へはハブロス家のヴォールのファーストネームは与えずに そして 歴代国防軍長ハブロス家の長男として 高位富裕層の定めを守らせる事としている 従って 昼食を共にした事もない」
フレイスが言う
「ああ、それは 本当に尊敬に値するよ 自分が行うより 愛する子供に行わせる事の方が 何倍も辛いだろう?だが それは私も…」
エーメレスがやって来て立ち止まる アーケストが気付くと 子シェイムが気付いて言う
「母上!」
エーメレスがアーケストへ向き直り礼をして言う
「ヴォール・アーケスト・ハブロス様 ようこそ メイリス家へおいで下さいました」
子シェイムがエーメレスの様子に心配してフレイスを見る アーケストが言う
「…なるほど 理解した」
子シェイムが疑問する フレイスが苦笑して言う
「私がトルゥースへ 厳しい訓練を強いたり等したら…」
アーケストが言う
「それ以上を言うな フレイス」
フレイスが言う
「…その代わりと言ってしまうのもなんだが 養子はもう1人得ようと考えているんだ そちらは もちろん君の言う通り 厳しく育てるつもりだよ 我がメイリス家の正義の為にも …そして トルゥースには 同じく メイリス家の正義の名の下に 彼には 私以上に優秀な政府警察の警察長… いや?もし許されないというのなら 顧問官でも良い メイリス家の信条のままに 政府警察を率いる者に なってもらいたいと考えている」
アーケストが言う
「顧問官…?人を扱う者にすると?」
フレイスが言う
「ああ、だから トルゥースには 私は機動部隊の訓練の代わりに チェスを教えているよ?これなら 君も許してくれるだろう?アーク?」
アーケストが不満そうに言う
「お前の正義が 妻への愛に負けるとは 聞きたくは無かったが」
フレイスが衝撃を受け 苦笑して言う
「うっ!言われてみれば… そう言う事?」
子シェイムが呆気に取られる エーメレスが隠して笑う フレイスがエーメレスの様子に微笑する アーケストが言う
「分かった では そうと言うのなら お前が認めた この子供に 指導者としての素質が有るのかを この私が 見極めてやろう」
子シェイムが呆気に取られる

サロン

フレイスが言う
「犯人と思われる者の特長として 現段階で分かっている事は…」
黒のチェスの駒が置かれる 子シェイムが一瞬驚いた後 白の駒を捜しながら考えている アーケストが寛ぎながら言う
「その前に まず お前の言う そちらの情報は 一体何処からのものだ?」
フレイスが言う
「え?それは もちろん…?」

シェイムが思う
《私は父の教えと 独学にてチェスを学んではいたが 当時はそれこそ ごく稀に父上の手加減の下 勝利出来るかどうかと言う程度の知識 それを前に》 

アーケストが時計を傾ける 子シェイムがハッとして慌てて駒を考える

シェイムが思う
《アーケスト殿は 父と共に 政府警察の作戦構築へ対する話を行いながらも 私との対局へは容赦なく駒を進め そして そちらの話で忘れていた訳では無いであろう 私の焦りを助長するかの様に 気まぐれに時計を動かす とても…》

アーケストが子シェイムを見下す 子シェイムが困り焦りつつ駒を捜して動かすと アーケストが鼻で笑う
「フッ…」
子シェイムがアーケストの反応に不快感を感じる

シェイムが思う
《とても とても 不快な人だったっ》

アーケストが駒を進め さっさと時計を動かす 子シェイムが衝撃を受け慌てて駒を考える アーケストが言う
「作戦の前に 準備が必要だ まずは相手を見る事… 事件を見ると言っても良い そこにある人間を使う他に お前に道は無い …従って 先ずは そちらを見る為の その目を下げている様では 戦いは 行う前に負けが決まっている」
子シェイムが時計に焦って思わず駒を進めると アーケストがさっさとその駒を取って自分の駒を置く 子シェイムが衝撃を受ける フレイスが言う
「私が確認をしたのは 地区警察が行った現場検証の報告書だが… それじゃ アーク?君はそれを疑えと言うのか?」
アーケストが言う
「私はここへ来る前に お前の言う地区警察の様子を この目で見て来た ついでに 事件が起きたと言う リング地区の地区警察署長へも… もちろん 事件の事などは聞いていない 正直な所 お前たちの警察長は優秀か?と聞いて来た」
フレイスが言う
「相変わらず 意地悪だなぁ 君は?…それで?」
アーケストが駒を置く 子シェイムがハッとして自分の駒を動かす アーケストが言う
「定型通りに 『組織内の事は ご返答は出来兼ねる』と?私は何も…」
アーケストが子シェイムの動かした駒を取る 子シェイムが衝撃を受ける アーケストが言う
「その様な定石が聞きたかった訳ではない それに その様な対応しか出来ない者は 役には立たない」
アーケストが駒を置く 子シェイムが困る フレイスが言う
「それは… うん、そちらの署長に関しては 確かに 君からすれば 面白くは無かったかもしれないよ?けど 元警機隊長であった私からも言わせてもらえば 必要な時に必要な… それこそ定石と言われても良い 普段の訓練通りに動く事が出来る隊員と言うのは 心強いものであった事も確かだよ?」
子シェイムが表情を明るめて駒を置く アーケストが言う
「そちらは確かに必要な手だ 私が 指示を送る際にも 兵士たちは間違いなく 私の示す座標にて その既存戦力を持って 居てくれなくては 意味が無い」
アーケストが駒を動かす フレイスが言う
「それなら そちらはやはり 役に立つと言う事じゃないか?アーク?」
子シェイムが駒を動かす アーケストが言う
「だから言っただろう?フレイス?私が聞いた相手は 兵士や隊員ではなく 地区警察の署長… 政府警察は基本的に 部隊作戦はその部隊長が構築し実行する 地区警察となればその役目はそちらの署長と言う事になる だから私はそちらの署長に聞いたんだ お前の上官は 優秀か?と …つまり」
フレイスが言う
「つまり?」
子シェイムが顔を上げるとビクッとする アーケストが子シェイムを見ていて言う
「お前たちは 私に勝てるのか?と、聞いているんだ」
子シェイムが怯えフレイスへ向く アーケストが軽く笑って言う
「その問いに 答えられない… 逃げるようでは 最初から 戦いを放棄している …それでは 戦いを行う以前に 兵は勿論 人を使う事は出来ない 人を使えない指導者は 討ち取られるしかない …チェックメイトだ」
アーケストが白のキングを倒し黒のナイトを置く

【 現代 病院通路 】

エレベータが到着してドアが開く シェイムが落としていた視線と表情をそのままに顔を上げると 軽く息を吐いて歩き出す エレベータのドアが閉まり始め シェイムがハッとすると 寸での所でナノマシーン加速で外へ飛び出し エレベータが去って行く シェイムがホッとして 一度手荷物を見てから歩みを開始する 

シェイムが思う
《天使の様に美しい母 正義の名に相応しくアールスローン1の剣豪と称される父 そして…》

病室前の椅子に座って居たラミリツが ふと気付くと顔を上げて言う
「兄上!」

シェイムが微笑して思う
《私がメイリス家の養子として引き取られてから9年後 天使の様に美しかった母上は 本物の天使となり 私と父上の前から飛び去ると 代わりに 私には16才も歳の離れた弟が出来た まるで…》

シェイムが言う
「エーメレス 今日は 政府警察の任務へ 力を貸してくれて 本当に助かった やはり エーメレスは…」

シェイムが思う
《母上の名を継いだ 歳の離れた弟は とても可愛く 名前と同じくその容姿もまた母親に似たエーメレスは 私には まるで…》

ラミリツが疑問して言う
「フレイゼスから 先に連絡を聞いて待ってたんだけど?受付で病室の番号聞かなかったの?随分時間 掛かったみたいだけど?」
シェイムが言う
「ああ、待たせてしまってすまなかった エーメレスは… 元政府警察GPTの隊員たちの所へ 戻らなければいけないのだったな?」
ラミリツが疑問して言う
「え?えーと…?まぁ そうだけど?元政府警察GPTのって… 単純にART2の…」
シェイムが衝撃を受けてから顔を逸らす ラミリツが気付き溜息を吐く

シェイムが顔を逸らしたまま思う
《実の兄弟でもない 私の目にすら 天使の様に可愛いと見えていた程だ 当然 実の父親である 父上にとっては エーメレスは堪らなく可愛かったに違いない しかし 父上は…》

シェイムが手荷物を握り締める ラミリツが言う
「…そんなんで ホントに大丈夫なの?兄上?」
シェイムがハッとして言う
「うん?大丈夫か?…とは?」
ラミリツが言う
「ハブロス司令官の」
シェイムがギクッとする ラミリツが気付きつつも不満そうに言う
「…お見舞いに来たんだよね?しかも フレイゼスから 付き添いも引き受けたって?それなのに…」
シェイムが不満そうに言う
「そちらは 仕方が…」
ラミリツが不満そうに言う
「仕方が…?」
シェイムが思う
(…っ いや?ここでまた 私が ”仕方が無いから行う”と 付き添いを嫌がったり等したら エーメレスが 安心して隊員たちの下へ戻る事が出来ないと…っ その様な心配をかけてしまう訳にはいかないっ!…そうとなれば ここはっ!)
シェイムが手荷物を持つ手に力を入れてから言う
「い、いや?一度… 病室へ向かったのだが 良く考えたら 見舞いの品くらいは 必要かと思い直し ”仕方が無いので” 一度受付へ戻って 購入をして来たんだ それで…っ 少々遅れてしまった 待たせてしまって すまなかったな?エーメレス」
ラミリツが苦笑して言う
「…あぁ なんだ そう言う事?もう… 兄上って 結構 おっちょこちょいって言うの?そう言う所 少し抜けてるよね?」
シェイムが衝撃を受けてから 苦笑して言う
「あ、ああ… そうかもしれないな?エーメレスに そうと言われたからには 気を付ける様にしよう」
ラミリツが疑問して言う
「え?それって …どう言う意味?」
シェイムが言う
「え?あ、いや?何も悪い意味ではない エーメレスに注意を促されるのなら 私は素直に 受け入れる事が出来ると それだけだ」
ラミリツが言う
「そ?なら 良いんだけど?」
シェイムが言う
「あ、ああ… では…?」
ラミリツが言う
「うん それじゃ… 時間も終業時間 間近だから 僕もまた すぐに戻って来るけど…」
シェイムが言う
「あぁ… そうなのか?いや… 特に戻って来る必要も 無いと思うのだが?」
ラミリツが言う
「手術の麻酔と貧血の影響で まだ 意識は戻ってないけど 麻酔が切れれば目を覚ますだろうって もう 命の心配は無いって話だけど そうは言われてもさ?やっぱ もう一度ちゃんと意識のある状態で 声を聞いてからじゃないと 落ち着かないから」
シェイムが言う
「あ、ああ… 命は取り留めたと 私もそちらの報告は聞いていたのだが… そうなのか では 彼はまだ?」
ラミリツが言う
「麻酔は もうそろそろ 切れるだろうって言ってたから」
シェイムが衝撃を受けて言う
「…クッ それこそ 切れてくれなくても」
ラミリツがムッとして言う
「ちゃんと 傍に居てあげて欲しいんだけどっ?…本当に大丈夫かなぁ?兄上だけで…」
シェイムが衝撃を受け慌てて言う
「な、何をっ そんな?大丈夫かなとは?もちろん…!?…と言うより 大丈夫かとは?一体何が?」
ラミリツが言う
「だから?ちゃんとさ?傍に居て… それで、もちろん?喧嘩なんかは絶対しないで!…って事なんだけど?」
シェイムが呆気に取られて言う
「え?それ位は… もちろん!?そのつもりなのだが…?そもそも 喧嘩をする理由も… あっ」
シェイムがハッとする ラミリツが言う
「…今回の作戦って 兄上が構築したんでしょ?だったら…?」
シェイムが思う
(そうだった その件に関しては…)

回想

シェイムが言う
「…と言う事でして 現場にて!エーメ… いえっ!我らが政府長攻長閣下が!現行犯逮捕された2名の犯人らからは 供述も取られております 尚 現在も現場検証並びに 犯人らの潜伏先の調べを進めておりますが!ここまででありましても 事件は解決されたものと!」
ミックワイヤーが頷いて言う
「うむ 分かった …その事件報告の方は 既に コートハルド警察長から聞いているが」
シェイムが衝撃を受ける ミックワイヤーが言う
「とは言え この度の事件解決の程 ご苦労だった メイリス顧問官」
シェイムが敬礼して言う
「はいっ!有難う御座いますっ ミックワイヤー長官!」
ミックワイヤーが頷いてから言う
「それと共に… メイリス顧問官?」
シェイムがハッとして言う
「…あ、はいっ ミックワイヤー長官 この度の…」
シェイムが服の上から手を当て 内ポケットにある警察バッチとIDを意識する ミックワイヤーが頷いて言う
「ハブロス殿への 被害賠償の件だが…」
シェイムが衝撃を受け 自分の手の位置を下げて行く ミックワイヤーがシェイムの手の位置が腹部へ行くと頷いて言う
「体内へ残っていた弾頭の摘出 並びに 損傷された腹部の縫合手術は終了 お命も心配はないと連絡は聞いている しかし それは 事件後の迅速な輸血処置と 銃弾を受ける前に ご本人が出血を抑える為の 心拍数を下げる薬を吸引されていたと言う事や 昼食時間の直後の会合ではあったが 麻酔を行う事が可能な状態であったと それらの条件を満たした上に置いて お命は救われたとの事だ そうとなれば… メイリス顧問官?」
シェイムが言う
「は、はい…?」
ミックワイヤーが言う
「1つ聞きたいのだが 今回の作戦は 事前に ハブロス殿へお伝えをしていたのだろうか?」
シェイムが困る ミックワイヤーが言う
「私も お二人の仲程ではないが ハブロス司令官の作戦や そちらを確認して来た者だ その彼を知る私が見ても 今回の作戦は 出来が悪かったと言える いや、むしろ 私は 今回の作戦を あのハブロス殿が了承したとは思えないのだが?」
シェイムが言う
「…はい ミックワイヤー長官のおっしゃる通り 今作戦は全て私が考え 私が実行を致しました そして 彼の行動に関しましては 私は一切関与しておりません 全て 彼の独断にて そちらによって得られた情報やそれらは 彼から 我々政府警察へ対する 任意の作戦協力でした」
ミックワイヤーが言う
「やはり そうだったか…」
シェイムが言う
「とは申しましても この度の 事件解決へ向けての協力要請の際に用いました依頼書へは 参加協力を頂ける 企業へ対し 我々政府警察による ”身の保証”を記載してしまいましたので 大変申し訳御座いませんが ミックワイヤー長官 何とか そちらの費用を… 恐らく 彼からの被害賠償の額は…」
シェイムが思う
(今度は 一体 何処のストリートが購入出来る程の費用を 請求されるのか…?あぁ… そして 今度こそ 私は…っ)
ミックワイヤーが言う
「そちらに関しては ハブロス殿からの… いや、ハブロス家からの 被害賠償請求へ対し 余す事無く 賠償を行うしかない」
シェイムが頭を下げて言う
「誠に申し訳御座いませんでした!私が彼を作戦へ用いたりなど…っ 彼を使ってやろうなどと 考えなければ…っ!」
ミックワイヤーが言う
「うん?いや…?メイリス顧問官?」
シェイムが頭を下げたまま言う
「私はっ 彼を使う所かっ また 彼に使われっ 政府並びに政府警察から 多大なる賠償を支払わせる事と…っ!これも全ては 私の作戦ミスで…っ!」
ミックワイヤーが言う
「いや それより…?そもそも 我々政府並びに政府警察の被害額に関しては あのまま事件を解決出来ずに 作戦を失敗されていた方が ハブロス殿への賠償を含め 政府系企業の方々が支払った身代金と 事件発生時に身の保護を行う予定であった各地区警察が間に合わなかったと言う事で 保護責任遺棄賠償さえも 負わされる可能性が有った それらを賠償せずに済んだとなれば この度の ハブロス殿お一人への賠償の方が 遥かに安く済む」
シェイムが衝撃を受け顔を上げて言う
「え?」
ミックワイヤーが言う
「従って ハブロス殿へは そちらの礼も兼ねて 十分に補償をすると そう伝えて貰いたい そして 何よりも お命が救われて 本当に良かったと… 危険なお役目を果たさせてしまい 申し訳なかったと 政府長長官として 私個人としても 申し上げていたと 伝えて貰いたいのだが 頼めるかね?メイリス顧問官?」
シェイムが言う
「は、はい!分かりました!必ず お伝えを… 致します…」
ミックワイヤーが微笑して頷いた後 苦笑して言う
「うむ… いや しかし?今度はまた… お1人で 一体 どれ程の賠償額になるのか…?正直に言ってしまえば 恐ろしい限りだなぁ?」
シェイムが衝撃を受けて言う
「やはり 悪魔ですねっ!彼はっ!」

回想終了

シェイムが怒りを押し殺しながら言う
「…そうっ ミックワイヤー長官からも そうと言伝を…っ そして… その他の企業に比べれば 1人に対しては膨大ではあるが そちらの方が…っ」
ラミリツが言う
「…にうえ?兄上?兄上っ!?」
シェイムがハッとして言う
「ハッ!?」
ラミリツが言う
「何か 1人でブツブツ言ってるけど 本当に大丈夫?僕もう時間だし 行っちゃうけど?やっぱ フレイゼスを呼ぶ?」
シェイムが慌てて言う
「ああっ い、いやっ!何をっ!?…いや、違うんだ エーメレス 何も 心配は無い 今のは 少々 ミックワイヤー長官から 彼宛の言伝を思い出していて…っ そう、それだけでっ!?」
ラミリツが言う
「ミックワイヤー長官からの?…そう?そう言う事なら?」
シェイムが言う
「ああ、だから 何も心配は要らない エーメレスは元政府警察… いや、ア… ア、ア…ART2の 皆の所へ… きっと 皆 頼れる隊長である エーメレスの戻りを待っているだろう?」
ラミリツが言う
「うん… それじゃ 行くから?何かあったら すぐ電話して?それから… もう しょうがないから 言っちゃうけどさ?兄上?」
ラミリツがシェイムへ向き直る シェイムが気を取り直して言う
「う、うん?何だろうか?エーメレス?」
ラミリツが言う
「もし 何か嫌な事とか言われても 今はハブロス司令官の方が 体が辛い分 精神的にも参っちゃってると思うから 兄上の方が受け止めてあげるんだよ?文句を言い返したりなんかしたら 駄目だからね?もし 嫌な事があったら… なら もうっ これは 僕からのお願いって事でも良いからさ?絶対 言い返さないでねっ!?分かった?…じゃ!」
シェイムが衝撃を受けて言う
「エ、エーメレス…っ」
ラミリツが去り際に言う
「もぅ ホント 子供なんだから 2人共…」
シェイムが俯いて言う
「あぁ… 16歳も年下のエーメレスに あそこまで心配をされてしまうとは…」
シェイムが病室へ顔を向けてから向き直って思う
(これはもう… それこそ あの悪魔に何を言われても 私が全てを受け入れる位の 覚悟で向かわなければ…っ)
シェイムが唾を飲み込んで言う
「それこそ この魂を… 悪魔に売る程の覚悟で…っ!」
シェイムが一歩踏み出すと思う
(そうだっ それで いざと言う時は…っ!)
シェイムが顔を上げ 病室へ向かう

回想

シェイムが思う
《母上が旅立ち 代わって訪れた新しい家族 小さな弟エーメレスと父上と私の 3人で過ごす様になった メイリス家にも あの悪魔… 父上の親友と言われる ヴォール・アーケスト・ハブロス殿は 時折 我々のメイリス家へと訪れた》

フレイスが言う
「いつも ご足労を頂いて 申し訳ないな?ハブロス様?」
アーケストがタバコを吹かして言う
「そちらは お前より上位である 高位富裕層の私へ対する 敬意なのか 貶めなのか どちらなんだ?メイリス殿?」
フレイスが軽く笑って言う
「敬意を込めて からかっているだけだよ?相変わらず冗談が通じないな?」
アーケストが言う
「本来 敬意を込める相手を からかう事は無いものだ」
アーケストが煙を吹くと フレイスが言う
「分かってるよ?…ああっ それから 今この家には 赤ん坊が居るんだ だから 悪いが タバコは控えてもらえないか?」
アーケストが言う
「オマケに その私へ命令か?」
アーケストがタバコを執事へ渡す フレイスが言う
「命令じゃないよ 心を許す 親友への お願いさ 有難う アーク」
アーケストが言う
「ふん?それなら これからは 作戦構築は ハブロス家で行えば良い」
フレイスが言う
「それは君の方が駄目だと言ったんじゃないか?君の息子が君をチェスで負かすまでは ハブロス家の屋敷に 高位富裕層以外の客人は招かないと?」
アーケストが言う
「歴代政府警察のメイリス殿であるなら 許容範囲だ その代わり 子供だからと言う甘い顔はしてくれるな 高位富裕層は 皆 強い敵であると言う認識を 与えておかなければならない」
フレイスが言う
「私は高位富裕層では無いし 君たち国防軍や 増してハブロス家の敵ではない そもそも 私が強い敵であったなら 君に助力を頼んだりはしないだろう?」
アーケストが言う
「お前は良い 本物の力を持っている 本物は地位に限らず分かるものだ そして それを見分ける目は 既に 彼には養われている」
フレイスが言う
「まだ10歳だと言うのに?そうか… しかし それなら 私もやっと 君の息子に ご挨拶が出来るかな?アース・メイヴン・ハブロス殿に?」
アーケストが言う
「敬称は様だ お前の方が地位が低い」
フレイスが言う
「君と私の間に 地位は関係ないと 言ってくれたんじゃなかったのか?」
アーケストが言う
「私とお前ではなく 彼とお前の間には1階層の差がある 上位富裕層と高位富裕層の 明確な差だ」
フレイスが苦笑して言う
「アーク… どうせ その内 親友として無くなる差だろ?だったら 良いじゃないか?最初から親友… いや 友人であっても?」
アーケストが言う
「知り会う前から友人など 有りはしないだろう …とは言え そうだな?お前が メイヴンの友人になってくれると言うのなら 歓迎してやる 今の彼には お前を使える程度には 知識も付いている」
フレイスが言う
「え?それは 恐ろしいな?流石はアークの息子だ」
アーケストが言う
「彼は賢い 強い意志もある きっと 私以上の国防軍総司令官となるだろう」
フレイスが言う
「それは心強い」
フレイスとアーケストが子シェイムの近くを通る 子シェイムがハッとして思わず一歩下がると アーケストが表情を顰める フレイスが子シェイムに気付くと言う
「うん?ああ、トルゥース 今日も アークにチェスの手ほどきをして頂きなさい?」
子シェイムが言う
「は、はい 父上… 宜しくお願い致します …ハブロス様」
アーケストが子シェイムを見下ろす 子シェイムが困り視線を逸らす アーケストが呆れて言う
「そちらはもう良いだろう フレイス?この子には向いていない やはり中位富裕層の子だ」
子シェイムが視線を落す

シェイムが思う
《その時 私は やはり この人は 高位富裕層の人間しか 好きでは無いのだと思った 私は上位富裕層の父上の養子にして頂いたが 元はと言えば中位富裕層の子供であるから だから この人は… と その瞬間の私は 唯 落ち込むだけだったのだが…》

アーケストが言う
「上でもなく下でもない 真ん中の者は 一番弱い 何故 最下層の子供を選ばなかったんだ?フレイス?」
子シェイムが目を見開く 

シェイムが思う
《驚いた… 私は中位富裕層である事へ 誇りを持っていた 孤児でありながらも その地位を持てていた事を しかし 彼は私のそれさえも否定をした》

子シェイムが怒りを覚える フレイスが苦笑して言う
「…エーメレスが どうしても 良いと言ったんだ この子が良いと」
子シェイムが驚いてフレイスを見る フレイスが寂しそうに言う
「彼女が この子の… シェイムの金色の髪と 柔らかな表情… まるで 天使のような男の子だと …そうと言うから つい…」

シェイムが思う
《私は 生まれて初めて 自分の嫌いだった髪の色を誇れるようになった 弱々しいと言われた事もある 容姿にも自信が持たれる様になった》

アーケストが言う
「私には 理解の出来ない事だ それに 私は忙しい やる気の無い子供のチェスに 付き合ってやる位なら さっさと ハブロス家の屋敷へ戻り 息子へ手解きをした方が 遥かに意義がある」
子シェイムが視線を落し不満を抑える 

シェイムが思う
《それなら そうしてくれればと…っ 私はあの人と行うチェスは好きではなかった 会う事さえ恐ろしかった だから 追い払えるものなら 何とかして… 私を愛してくれた母上との思い出や 今も 私を守ってくれる父上 そして 天使の様な母の面影を持った弟の居る この メイリス家から この悪魔をっ …と》

フレイスが苦笑して言う
「すまない アーク しかし… あぁ そうだ?それなら これからは 君の屋敷で?ハブロス家で 作戦会議をする時に トルゥースと君の息子のメイヴン殿と チェスをしたらどうだろう?それなら?」
アーケストが言う
「彼と行うとなれば その子は 数手の内に打ち倒されるだろう あの子はまだ 相手に合わせた手加減と言うものを知らない そして 知る必要も無い 学べる内は 常に 本物と本気で戦い 負けても尚 立ち向かう力を 養う必要がある その間に 弱い者や 偽者の相手は させられない …それは 本気で戦っている 彼への無礼となる」

シェイムが思う
《弱い者 偽者 …本当に悪魔だと思った エーメレスに近付けたくないと この家にも 父上にも 近付けたくない その方法は無いだろうかと 考えていた その時だった》

フレイスが言う
「そうか 分かった それなら… その今日までなら 良いだろう?いつもの様に?」
フレイスがサロンにあるチェス台を示す アーケストが溜息を吐いて言う
「ふん?仕方が無い 親友殿の頼みだ」
フレイスが微笑して言う
「君なら そう言ってくれると 信じていたよ アーク?」
アーケストが言う
「お前は 私にとって 使える 政府警察の駒だからな?失う訳には行かない それに アールスローン1のナイトの機嫌をそこね その剣で切り付けられれば チェス台の上では ナイトの駒を使いこなす私も 一瞬でチェックメイトだ」
フレイスがムッとして言う
「アーク?いくら君でも その言い方は止めてくれ 私は剣に関しては メイリス家の信条の下に 正義の名の下にのみ 振るうものだと 神に誓っているんだ その剣で 親友の君の命を狙うなどと言う事が ある筈が無い」
アーケストがチェス台へ向かう フレイスが子シェイムへ微笑して言う
「さぁ トルゥース?残念ながら これが最後かもしれない しっかり ご指導をしてもらうんだぞ?」
子シェイムが表情を困らせて言う
「…はい 父上」
アーケストが子シェイムの様子に不満そうに言う
「ふん?神に誓っているか?私はそもそもの その神が居ると言う事は信じて居ない もし その様なものが存在すると言うのなら その神よりも 劣るとされる 我々人類が 生きる価値は無いからだ …では 作戦会議のついでにだからな?まず 今回の… …っ!?」
アーケストがチェス台へ向かっていた足を止め反応する フレイスがアーケストの下へ向かいながら言う
「ああ、今回の連続殺人事件は その被害者の関連性が特に…?アーク?」
アーケストが部屋に置かれている 果実の置物の一箇所に目を奪われている フレイスが疑問しながらやって来て言う
「うん?ああ?今は果物の良く取られる季節だから 部屋の飾り付けや 香り付けに置かれたのだろうが?何か?…あっ!」
フレイスが気付きアーケストへ向くと アーケストが怒りの視線を向けて言う
「神に誓いを立てた剣では斬らずとも 私を これで追い遣ろうと言うのかっ?親兵攻長っ!?」
フレイスが慌てて言う
「あぁっ!いや!これは 何かの間違えだっ アークっ!?」
アーケストが言う
「折角の甘い果実の香りを充たした屋敷に 不快なタバコの匂いを 持ち込んで悪かったな!?二度と来ないから 安心しろっ!」
アーケストが怒って出て行く フレイゼスが慌てて言う
「待ってくれっ アークっ!?」
フレイスがアーケストを追って部屋を出て行く 子シェイムが呆気に取られた状態から 視線を向ける 視線の先複数の果実の中に 赤い林檎が飾られている 子シェイムが疑問する

【 現代 病室前 】

シェイムが意を決して言う
「…それではっ」
シェイムがドアノブに手を掛けドアを開けて入って行く

回想

子シェイムが 見詰める先 フレイスがメイドたちへ言っている
「何故 メイリス家の屋敷へ このような物を?」
フレイスが果実の置物を見てから メイドたちを見る メイドたちの1人が困って言う
「あ、あの… 申し訳御座いません 旦那様 そちらのフルーツは私が手配を…」
フレイスが言う
「君は?見ない顔だが?」
メイド長が言う
「ご挨拶へ差し向けずに 失礼を致しました 旦那様 こちらのメイドは 只今休暇を頂いております その者の代わりとして 用立てを致しました者で… 今までも 他のお屋敷にて ご奉公の経験がある者でしたが 何か 旦那様のお心に沿う事が叶いませんでしたでしょうか?」
フレイスが言う
「他の屋敷へ遣えていた… そうか では 君は こちらの果実が何を示すの物なのかを 理解しているのでは無いのか?」
フレイスが果実の中から赤い林檎を取り出す メイド長が驚き 慌てて謝って言う
「そちらは…っ 大変な失態を犯しまして 誠に申し訳御座いません 旦那様」
メイド長が頭を下げる フレイスが表情を困らせ溜息を吐く メイドが疑問して言う
「あ、あの…?」
フレイスがメイドを見て言う
「君は知らないのか?この林檎の意味を?」
メイドが視線を泳がせてから言う
「ア… アールスローン信書に置きましては 神聖な食べ物 …アールスローンの民の命を守った その 果物であると」
フレイスが言う
「そちらを 知っているのならっ!?」
メイドが言う
「今までのお屋敷では 特に 好まれ 良く置かれていた 果実でしたので… そちらが?何か…?」
フレイスが溜息を吐く メイド長が謝って言う
「大変申し訳御座いません 旦那様 このメイドには しっかりと説明を致して置きますので どうか…」
フレイスが言う
「ああ しっかりと 伝えておいてくれ 今後は二度とこのような事はない様に よろしく頼むよ?」
メイドたちが頭を下げる

メイドたちが出て行くと フレイスが軽く林檎を弄んでから 眺めて苦笑する 子シェイムが疑問して言う
「父上…?」
フレイスが子シェイムへ向いて苦笑して言う
「トルゥースは 林檎は好きか?」
子シェイムが一瞬呆気に取られた後微笑して言う
「…は、はい 甘くて美味しいと思います!」
フレイスが困り苦笑して言う
「そうか… では 食べるか?」
フレイスが林檎を向ける 子シェイムが疑問した後言う
「父上は…?お嫌いですか?」
フレイスが言う
「いや 私も どちらかと言えば トルゥースと同じだよ …しかし」
子シェイムが疑問して言う
「…ハブロス様は 林檎がお嫌いですか?」
フレイスが苦笑して言う
「昔に聞いた話だが 本人は食べた事がないと言っていたよ」
子シェイムが疑問する フレイスが言う
「しかし 彼は 林檎が嫌いなんだ 特に この美味しそうな 赤い林檎が… だから このメイリス家の屋敷には 置いてはいけない 置かないようにしている …これが有ると 私の大切な親友が 逃げ帰ってしまうからな?」
子シェイムが言う
「…悪魔は 林檎が嫌い…」
フレイスが呆気に取られた後 笑って言う
「うん?悪魔?あっはっはっは そうかもしれないな?…ふふっ 面白い言い方だ 今度 アークに言ってやろう!」
子シェイムが衝撃を受ける 子シェイムが思う
(悪魔祓いの… 林檎?これがあれば…?)
子シェイムが赤い林檎と フレイスを見る フレイスが林檎を眺めていた状態から苦笑して林檎をかじる

回想終了

シェイムが手荷物を握り締めてから顔を上げて言う
「失礼致しますっ!」
シェイムが病室へ入って行く

【 病室 】

夕暮れの薄暗い室内 点滴がされている 出入り口の近くに居るシェイムが一度点滴へ視線を向けてから顔を向けると 視線の先 アースが熱にうなされている シェイムがその様子に呆気に取られてから 数歩進み立ち止まって様子を見る アースが苦しそうに息をする
「はぁ… はぁ… …うぅ …っ はぁ…」
シェイムが呆気に取られたまま視線を逸らし思う
(悪魔も…?いや …悪魔では 無いのだろうか…?少なくとも 今は… …今はただ 熱と傷の痛みに うなされている 1人の…)
シェイムの脳裏に 記憶が過ぎる

メイドが視線を泳がせてから言う
『アールスローン信書に置きましては 神聖な食べ物 …アールスローンの民の命を守った その 果物であると』

シェイムが思う
(アールスローンの民…)
シェイムが手荷物を意識してから 苦笑して思う
(私とした事が… やはり 幼少の頃の記憶に 感化され過ぎているのかもしれない 彼が… とても あの人に似ていたから 彼を見ると… どうしても… しかし 今は)
シェイムが顔を向けると アースが荒い息をしている シェイムが思う
(必要ないのかもしれない… そもそも こちらは 本当に唯の気休めで… お守りのような物であって… それに 今は それさえも必要は無い… それならば 隠しておけば良い その為に こうして隠せる様にと 持って来たのだから…)
シェイムが手荷物を後方へ向ける アースが意識を取り戻して言う
「…うっ!?…っ?」
シェイムがハッとして思う
(目を覚ました!?)
シェイムが顔を向ける アースが周囲を見て肩の力を抜くと 気配に気付き言う
「誰だ?」
シェイムがハッとする アースが言う
「そこに居るのはっ?」
アースが身体を起こそうとして苦痛に悲鳴を上げる
「うぐ…っ!」
シェイムがハッとして言う
「あのっ 失礼しましたっ どうか…っ」
シェイムが数歩近付き シェイムの姿が見えるようになると アースが力を抜き ベッドへ身を静めて痛みに耐える シェイムが心配して思う
(あぁ… 本当に 今は… 今の彼は…っ)
アースが言う
「…作戦は?」
シェイムがハッとする アースが痛みに閉じていた目を開いて言う
「事件は?…どうなった?…メイリス顧問官」
シェイムが驚いてから 慌てて気を取り直して言う
「…あっ は はいっ 事件は…っ …解決しましたっ …っ その…」
シェイムが困惑しながら思う
(何処から説明を?いや?…何処まで言ったら良いものか?そもそも この作戦は…っ!)
アースが言う
「犯人は…?」
シェイムが反応する アースが言う
「全員 逮捕したのか?」
シェイムが言う
「は、はい…っ そちらは…!犯人は現行犯逮捕した2名と…っ 追跡先にて検挙の後 容疑を固めた 少年ら6名の け、計8名をっ それから…っ」
シェイムが思う
(えっと…?後は 何を?…そうだっ!メディアにも 公にしている事なら…っ!)
アースが言う
「奴らは… 下位富裕層の孤児…」
シェイムがハッとして驚く アースが言う
「…政府教会の 孤児 …だった 者らか?それで… 政府教会へ… その寄附口座へ 振込を…?」
シェイムが言う
「…何故 下位富裕層の孤児であると?それに…?」
シェイムが思う
(事件から たった今まで眠っていた この人が?何故!?それらの情報を!?…いや、そもそも 彼ら犯人たちの地位や身分は 公にはしていない情報… それを!?)
アースが言う
「…彼らの 目と態度だ」
シェイムが驚いて目を見開く アースが言う
「口座は… いくつかを聞いている内に… 理解した 彼らは恐らく 自滅覚悟の作戦を… 下位富裕層の教会孤児は… 政府の企業に置いては …待遇が悪い 恐らく その腹いせも あったのだろう 政府企業への恨みと …教会に残されている …仲間たちへの …っ」
アースが痛みに言葉を止め呼吸を整える シェイムが唇を噛み 手荷物を持つ手を握り締めて思う
(初めから…?いやっ 彼ら 犯人らに会っただけでっ そこまでを 理解していた!?やはり この人は あの人と同じ…っ 父上が頼ったほどのっ!?…ならば それらも分からなかった 私は…っ?やはり 私には 顧問官などと言う地位は 合わないと言う事か?この人や あの人とは違う とても 敵わないっ …届かないっ これが 中位富裕層の一番弱い私と 高位富裕層の中でも一番強い 彼らとの格段の差っ …この悪魔たちとのっ!?)
シェイムがアースを見ると アースが痛みに苦しんで言う
「う…っ」
シェイムがハッとして思う
(…いや 違う 今は …今だけは …そうだ!エーメレスからの!天使からの 願いでもあるっ!だから…っ!)
シェイムが言う
「あ、貴方様のお陰でっ …この度の 事件は 無事解決を致しました… 政府長長官 ミックワイヤーからもっ 貴方様への感謝を… そ、それから 一日も早い お怪我の完治を願っていると それから…っ」
アースが言う
「…そうか 事件は解決」
シェイムがアースを見る アースがシェイムを見て苦笑して言う
「作戦 成功 か?」
シェイムが呆気に取られて言う
「さ…作戦… は、はい…っ そうですね?作戦は …せ、成功で…?」
アースが微笑する シェイムがハッとして思う
(…あっ!?しまったっ!これが作戦っ!?私がっ!?私のせいでっ 我々政府の作戦で 国防軍の彼を 利用して 怪我を負わせた その賠償をっ!?)
シェイムが慌ててアースへ向いて言う
「あ、あのっ!しかしっ!」
アースが疑問して言う
「…何か 問題か?」
シェイムがハッとして言う
「も、問題?えーと…」
シェイムが思う
(あぁ それでも…っ そうだった!ミックワイヤー長官からは 十分な補償をすると…っ 作戦に携わった政府系企業の全社へ対する賠償よりも 安いものだと…っ しかし この悪魔の事っ 付け込まれれば どれほど その額を上げられるかっ!?そうとなればっ!?)
シェイムが言う
「問題はっ その…っ 貴方様への賠償の方が… …って あっ!?」
シェイムが思う
(しまったっ 考えが纏まっていなかったせいで 思っていた事が口にっ!?敵へ本心を見せるなどと 根本的な失敗をっ!?)
アースが一瞬呆気に取られた後苦笑して言う
「賠償は… 請求しない…」
シェイムが呆気に取られて言う
「…へ?」
アースが言う
「事件は解決したのだろう?政府系企業が… 己の名誉の為に… 事件を利用していた 物証とは言い難いが 過去の入金データや その地域での動き 事件への非協力的態度 そして 奴らが支払った身代金を 教会から返納させると言えば 奴らは それ以上は動かれない 下手に動けば 世論の目に晒される」
シェイムが言う
「あ… はい そちらは その様になるだろうと… 従って 我々政府警察は 政府企業の彼らへは 事件の解決に当たり そちらへの協力感謝としての 礼金は支払いますが 恐らく そちらの礼金さえ 受け取ら無かったと言う 政府発表を 彼らは選ぶだろうと… もし 選ばなかったとしても その額はさしたるものではありません …が、しかしっ!?」
シェイムが思う
(我々 政府警察の事件解決に当たり 怪我を負った その貴方に対しての保障賠償額はっ!?もはやっ 想像だにも出来ないと…っ!)
アースが言う
「そうか では… そちらで 解決だ 私は…」
シェイムが緊張する アースが痛みを堪えてから言う
「…っ そうだな?本来であるなら 国防軍の私が 政府警察へ協力したのだと… 世論へ名を見せるチャンスだが そちらの栄誉は… …お前に 譲ってやる」
シェイムが呆気に取られて言う
「私… に…?」
アースが微笑して言う
「シェイム・トルゥース・メイリス …顧問官」
シェイムが驚く アースが言う
「詰めが甘い」
シェイムが衝撃を受けて言う
「ぐっ!?」
アースが言う
「使えるものは… 確実に 利用しろ 中途半端な作戦は 余計なリスクを負う」
シェイムが呆気に取られる アースが言う
「加えて 自身の駒は その目で確認をするか 同等の目を持つ者を使ってでも 確認を… …作戦は駒が全てだ 確実に役割を果たせる 仲間を」
シェイムの脳裏にアーケストの言葉が蘇る

『作戦の前に 準備が必要だ まずは相手を見る事 事件を見ると言っても良い そこにある人間を使う他に お前に道は無い』

シェイムがハッとする アースが言う
「お前は 仲間を見ようとしない だが それでは 誰も付いては来ないぞ?メイリス顧問官」
シェイムの脳裏にアーケストの言葉が蘇る

『…従って 先ずは そちらを見る為の その目を下げている様では 戦いは 行う前に負けが決まっている』

シェイムが言葉を飲んで思う
(仲間を見ようとしない… 目を下げている それは… 分かっていた 私は …彼ら 高位富裕層が 恐ろしかったから…っ だから 目を逸らして 自分より上の彼らの地位や名誉を見なければ…っ メイリス家から与えられた 強い父上から与えられた 地位や名誉に… それらに守られると思って…っ だから 私は…っ)
シェイムが悔やんで言う
「私には…っ」
アースが言う
「…お前には …私が居る」
シェイムが驚いて言う
「…っ!?」
シェイムがアースを見る アースが言う
「歴代政府警察メイリス家は 強いナイトの駒だ その駒は 我らハブロス家のもの… 敵に奪わせはしない そして 我々歴代国防軍長ハブロス家が 政府の中で 唯一 動かせる有力な駒だ 使いもするが 守ってもやる 下手な作戦を実行する前に 連絡をしろ …事前調査も出来ないだろう?」
シェイムが呆気に取られて言う
「事前調査… …っ!」
シェイムの脳裏に記憶が蘇る

フレイスが言う
『地区警察が行った現場検証の報告書だが… それじゃ アーク 君はそれを疑えと言うのか?』
アーケストが言う
『私はここに来る前に お前の言う地区警察の様子を見て来た ついでに 事件が起きたと言う リング地区の地区警察署長へも… もちろん 事件の事などは聞いていない 正直な所 お前たちの警察長は優秀か?と聞いて来た』

シェイムが思う
(そうかっ あれは… いつもメイリス家へ訪れる前に あの人は 事前調査を行っていた!?だから!?)

フレイスが言う
『いつも ご足労を頂いて 申し訳ないな?ハブロス様?』
アーケストがタバコを吹かして言う
『そちらは お前より上位である 高位富裕層の私への 敬意なのか 貶めなのか どちらなんだ?メイリス殿?』
フレイスが軽く笑って言う
『敬意を込めて からかっているだけだよ?相変わらず冗談が通じないな?』

シェイムが思う
(冗談を言わない父が そちらを使ってまで 伝えようとしていたのは その感謝だったと言う事…っ!?)
アースが痛みに息を飲んで言う
「…うっ」
シェイムがハッとして顔を向けると アースが息を吐いて言う
「…任務報告 ご苦労 メイリス顧問官殿」
シェイムが言う
「あ… あの…」
アースが言う
「下がって良い」
アースが体勢を変え シェイムに隠して痛みに耐える シェイムが表情を困らせて思う
(…まさか このような会話になるとは…っ?賠償は請求しない?私を守ってくれる?…悪魔と思っていた彼の口から その様な言葉を言われては…っ それこそ 恐ろ…っ …い、いや?しかし 本当に…?)
シェイムが言う
「あの… 本当に?」
アースが言う
「本当に とは…?」
シェイムが言う
「で、ですから その… 先ほどお話も含め… その…」
シェイムが思う
(貴方が 私を…?私と 共に…?)
シェイムの脳裏に記憶が蘇る

アーケストが煙を吹くと フレイスが言う
『ああ、それから 今 この家には 赤ん坊が居るんだ だから 悪いが タバコは控えてもらえないか?』
アーケストが言う
『オマケに その私へ命令か?』
アーケストがタバコを執事へ渡す フレイスが言う
『命令じゃないよ 心を許す 親友への お願いさ 有難う アーク』

シェイムが思う
(心を許す 親友…?)
アースが言う
「しつこい奴だ 賠償は請求しないと…」
シェイムがハッとして言う
「あ…」
シェイムが困って思う
(そちらの事ではなく…っ その… 後の言葉を もう一度)
アースが言う
「事件は解決… お前が… 構築した作戦の下 任務は成功 達成ランクはEランクだが… 政府警察に達成ランクは無い そうとなれば これで今回の任務作戦は成功だ メイリス顧問官」
シェイムがアースを見ると アースが言う
「…良くやった」
シェイムが呆気に取られる アースが息を吐くと ふと気付いて言う
「…いや?そちらは ミックワイヤー長官から聞くべき言葉だろう 何故 私に言わせるのだ?お前は?」
シェイムが衝撃を受け気付いて言う
「あ、そ、そうですね?」
シェイムが苦笑して思う
(しかし 何だろうか?この… 胸が温まる感覚は?この感じは とても 懐かしい… そうだっ 昔は良くあった 父上に… チェスで勝たせて頂いた時や 政府警察の法律を全て暗記して見せた時 いつも 父上は 私の頭を撫でて言ってくれていた その言葉… まさか 同じ言葉を …彼から聞くとは)
シェイムが視線を向けると アースが苦しそうにしている シェイムがハッとして思う
(あ…っ 傷が痛むのだろう それはその筈 銃で撃たれて… 地区警察が… いや、エーメレスが助けに向かうまで 犯人らを前に 高位富裕層としての威厳を保ち続けていた… そうだ 彼らにとっての名誉を守り続けていた この人が… いや あのヴォール・アーケスト・ハブロス殿が 伝えていたのは そう言う事なのかもしれない 私の様に弱い人間には とても真似も出来ない… そして 今の彼は)
アースが苦しそうに呼吸をしている シェイムが思う
(先ほどまでは保たれていた そちらも もう限界なのか… もしくは 私になら?そちらも… 必要ないと…?)
アースが閉じていた目を開くと不満げに言う
「…何だ?」
シェイムが反応する アースが言う
「まだ 何かあると言うのか?用が無いのなら…」
アースが息を切らせる シェイムが言う
「用は… ありませんが」
アースが言う
「ならば…」
シェイムが言う
「その…っ むしろ 貴方の方は?私に… …何かっ?」
シェイムが思う
(こんな時は なんと言ったら良いのだろうか?もしこれが 相手が彼ではなく?エーメレスや父上であったなら?それなら…っ!?)
シェイムが閃いて言う
「こ、ここは 政府の医療施設ですっ で、ですので 基本的に国防軍の方が…っ あ、貴方の遣いの方なども 留まる事が出来ませんのでっ」
アースが言う
「私の執事が居らずに 代わりにもならない お前が居ると言う時点で そちらは分かってる」
シェイムが衝撃を受けて言う
「代わりにもならな…っ!?い、いえ それは そうですね… それは その… やはり貴方は… って いえっ そうではなく …ですので?何か 必要なものでもあれば 仰って頂ければ 私が…っ?」
シェイムが思う
(…と 言った所で この人は何も言わないとは思うが… いや?今なら…?…それなら お互い もっと… 距離を縮めるべきなのだろうか?)
シェイムの脳裏にアースの言葉が蘇る

『…お前には …私が居る』

シェイムが唾を飲み込んで思う
(彼がそうと言ってくれるのなら?…私にも その言葉は お返し出来る筈っ そして…!)
シェイムがアースを見る アースの言葉が思い出される

『歴代政府警察メイリス家は 強いナイトの駒だ その駒は 我らハブロス家のもの… 敵に奪わせはしない そして 我々歴代国防軍長ハブロス家が 政府の中で 唯一 動かせる有力な駒だ 使いもするが 守ってもやる 下手な作戦を実行する前に 連絡をしろ …事前調査も出来ないだろう?』

シェイムが手を握って思う
(これからは… その様にと…っ?そうとなれば?お互いに… いや?以前から 彼は 私に 誘いを掛けてくれていた… あれは 私に 友人になろうと言ってくれていたのだろうか?今なら そうとも考えられるっ!だとしたらっ 今こそ!?私がっ!?その… 答えをっ!?)
アースが言う
「…今は 何時だ?」
シェイムがハッとして時計を見て言う
「…って あっ!は、はいっ!今は!?時間は… 17:50程ですが…?」
アースが言う
「そうか では…」
シェイムが言う
「何か?」
アースが言う
「私の… 執事へ連絡を…」
シェイムが言う
「執事の方へ?は、はい… えっと?それで 具体的に 何をお伝えしたら?」
シェイムが携帯を取り出す アースが言う
「…林檎を持って来いと」
シェイムが呆気に取られて言う
「え?林檎を?」
シェイムが思う
(林檎は…?お嫌いなのでは…?)
シェイムが手荷物を背へ隠す アースが言う
「その時間では… 病院の夕食は終わっただろう?今日は… 朝も早かった… 昼には林檎を食べたが」
シェイムが呆気に取られて思う
(林檎を… 食べた?では…?林檎が お嫌いなのは… あちらの父上の親友であった 悪魔だけ…?)
アースが言う
「流石に 持ちそうにない… 政府の病院で 要求を付けると 何倍にも話が膨れ上がる それなら …明日までは そちらで持たせる」
シェイムが言う
「林檎で…?」
アースが溜息を吐いて言う
「夕食の世話にまでなるとは 最悪な林檎の日だ …しかし そうだな?食べ物があるだけマシなのだと 正に アールスローン信書の通りか?その政府の施設で 思い知らされるとは…」
アースが傷の痛みに表情を顰め体勢を変える シェイムがハッとして言う
「あっ は、はいっ では お伝えをして…っ」
シェイムが携帯を操作しようとしてふと気付いて思う
(彼も言っていた様に 政府の病院で要求を …そちらは 直接 医師や看護師へと言う事には留まらない 増して国防軍の者を呼び付けたと言う事だけでも 下手をすれば… それならば?そうだ?そもそも 私は 彼のお見舞いに来たのであって そして!)
シェイムが言う
「でしたら どうぞ こちらを?」
アースが疑問して言う
「うん?」
アースが顔を向けると驚く シェイムが言う
「最初から院内への見舞用とされている為 政府の …ではありますが 検査もパスしていますので このまま召し上がって頂いても ご心配は不要と…」
シェイムが赤い林檎をアースへ差し出す アースが息を飲んでから 怒って言う
「っ!!お、おのれっ!シェイム・トルゥース・メイリスっ!…それ程までにっ 私が憎いかっ!?」
シェイムが驚いて言う
「え?」
アースが叫ぶ
「近付くなっ!」
アースが手を振るうと 気合波が発生してシェイムが吹き飛ばされて壁に叩き付けられる シェイムが悲鳴を上げる
「うあっ!?…な、何を?」
シェイムが顔を向けると アースが身を起こしていて傷の痛みに苦しむ シェイムが言う
「ハ、ハブロス殿っ?」
アースがサイドテーブルに置かれている自分の携帯を取ると 焦って言う
「レミックっ!直ぐに助けに来いっ!私をっ 早くっ!…ぐぅっ!?…がはっ げほっ!」
アースが傷口を押さえてうずくまる 床に血が滴る シェイムが慌てて言う
「あ、あの…っ どうか落ち着いて下さいっ まだ動いてはいけません!血が…?傷が開いてしまったのかもしれません 今 医者を…っ」
シェイムが近付こうとすると アースが怒って言う
「近付くなと 言っているだろうっ!?やはり お前は あの作戦を使って 私を殺すつもりだったのかっ!?」
出入り口が開かれレミックが駆け込んで来て言う
「アース様っ!」
シェイムが驚いて言う
「貴方を 殺…っ!?まさかっ!?そんなっ 違いますっ!私は 決してっ!?貴方を だなんてっ!?」
レミックがアースの横へ膝を着きシェイムを見て シェイムの手に握られている林檎に気付く シェイムがレミックを見て言う
「あ、あの…っ 私は 何もっ!?」
レミックが自身の上着を被せ アースを抱き起こすと アースが言う
「国防軍の医療施設へっ!政府の連中が近づけない場所へっ 私を連れて行けっ!レミックっ!」 
レミックが言う
「御意」
レミックがシェイムへ視線を向けると言う
「失礼致します」
レミックがアースを抱き抱え急いで去る シェイムが呆気に取られて言う
「あ、あの…?」
シェイムだけが取り残された室内 シェイムが呆気に取られて立ち尽した後 言う
「…悪魔祓いの林檎」
シェイムが手に持っている林檎を見た後 床に転がっている林檎を見てから空になったベッドを見て思う
(これほどの効力だったとは…?)
シェイムの脳裏で フレイスが言う

『しかし 彼は 林檎が嫌いなんだ 特に この美味しそうな 赤い林檎が… だから このメイリス家の屋敷には 置いてはいけない 置かないようにしている …これが有ると 私の大切な親友が 逃げ帰ってしまうからな?』

シェイムが言う
「ご教授を頂いておりましたものを… 申し訳御座いません… 父上…」
シェイムが肩を落とす

【 メイリス家 】

エントランス

ラミリツとフレイゼスが話しながら入って来て ラミリツが言う
「それで ARTに戻った時にはさ?もう終業時間も過ぎちゃってて?終業後1時間経過の直前って感じでさ?まぁ 部隊訓練の方は 副隊長のシュナイゼルに任せてたから そっちの心配は無かったんだけど やっぱ 隊長は隊長だからね?部隊の皆を放って どっか行っちゃうのは駄目でしょ?普通?だから ちゃんと事情を報告して 皆に謝って来たんだ?」
フレイゼスが微笑して言う
「そうでしたか そちらはとても 誠意を感じられるお話で 部隊の皆さんも その様な隊長であるからこそ ラミリツ殿に付き従い どの様な過酷な任務にも 立ち向かう事が出来るのでしょうね?」
ラミリツが言う
「え?…そうかな?それは ちょっと大げさじゃない?僕は唯 普通の事をしているだけだよ?ホントに」
フレイゼスが言う
「そちらの普通の事を行う事こそ 一番大切にして一番難しい事なのですよ?ラミリツ殿?」
ラミリツが言う
「あ、そう言えば それって 以前も聞いたよね?ごめん?また同じ様な事 言っちゃったかな?僕」
フレイゼスが言う
「はい 確かに 以前にも… しかし 何も謝る事はありません つまり ラミリツ殿はそちらの難しいとされる普通の事を 本当に 普通の事としてと行う事が出来るのでしょう?意識をせずともそちらを行えるとは 実に素晴らしい事です 正に メイリス家の信条のままに 正義のままに突き進む 流石は 親兵攻長様です」
ラミリツが言う
「そ、そぉかな?ありがと?けど、そう言ってもらえるのは嬉しいんだけどさ?僕って あんま褒められる事には 慣れてないから そう言うの止めてくんない?なんか… 聞いてるとさ?恥ずかしくなっちゃうって言うか?なんか… ね?」
フレイゼスが軽く笑って言う
「そうですか では そちらのお話は この辺りで?」
ラミリツが言う
「うん… あ、それで 今度はさ?面会時間が過ぎちゃうと困るからって 急いで戻ったのに その間に ハブロス司令官 転院しちゃったって?…理由とか聞いてる?」
フレイゼスが言う
「いいえ 私も業務を早めに切り上げ 改めて 様子を伺いに向かおうと思っていたのですが… やはり… 心配でして?」
ラミリツが言う
「それ僕もっ …何しろ 兄上とハブロス司令官だもん 心配だったらありゃしない?まさかと思うけどさ?やっぱ喧嘩しちゃったのかな?それで ハブロス司令官が怒って 国防軍の病院に行くって?」
フレイゼスが言う
「理由の方は伺っておりませんが ハブロス様が国防軍の医療施設へ転院したという連絡は 政府本部にて確認を致しましたので ハブロス様のご希望であったと言う事は 間違いは御座いませんかと?」
ラミリツが言う
「それじゃ 理由は… もし喧嘩じゃなかったら…?政府の医療施設じゃ 信用出来ないから かなぁ…?」
フレイゼスが言う
「いえ、私も ご本人ではありませんので 確実とは言えませんが 恐らく 政府の医療技術へ対し ハブロス様や国防軍の方が信用に値しないと仰る事は無いと思います もしそうであるのなら メイス地区には国防軍の医療施設も割りと近い位置にありますので 事件現場よりの緊急搬送の際に そちらへ向かう事も出来た筈です そちらを行わず政府の医療施設にて治療を受けられたのは この度の負傷が政府警察の作戦の上に起きた事ですので そちらへのご配慮であったものと… ですので」
ラミリツが言う
「それじゃ よっぽどの理由が無いと 転院なんてしないんじゃない?しかも 転院先は国防軍の… それも メイス地区から遠く離れた マルック地区の国防軍医療施設だって?これって どう言う事?」
フレイゼスが言う
「そちらは… そうですね 強いて言うとなれば そちらのマルック地区は 最も帝国に近い地区である為 帝国を恐れていた 予てよりの風習により アールスローン1セキュリティに置いて 力を入れている地区でして」
ラミリツが言う
「アールスローン1のセキュリティ?それって 例えば?」
フレイゼスが言う
「まず言えますのが マルック地区に置かれます 国防軍の医療施設へは 国防軍に従属している者で無ければ 例え 緊急外来であっても 立ち入る事は許されません そちらは同地区に置かれます 政府の医療施設に関しましても同じ事が言えます」
ラミリツが言う
「えっ!?それじゃ まさかっ!?」
フレイゼスが言う
「はい、ですので そちらのマルック地区の国防軍管轄の医療施設へ転院してしまったと言う事で 私も 改めてのお見舞いに参る事は出来ないと言う事でして」
ラミリツが呆気に取られて言う
「それじゃ 僕も お見舞いに行けないって事っ!?」
フレイゼスが言う
「そうですね?例え 国家家臣攻長の名誉を持っておられましても ラミリツ殿は間違いなく 政府長攻長閣下で在られますので 政府の者である以上は…」
ラミリツが慌てて言う
「そんなの困るよっ!?何か方法は無いのっ!?」
フレイゼスが言う
「方法は… あると言えば ありますが…」
ラミリツが言う
「それは何っ!?教えてっ!?」
フレイゼスが言う
「そちらは 1つは 入院患者が動く事が可能な場合は エントランスにあります受付まで迎え出た上で 相手を確認し同意書への署名と認証を済ませる と言う方法か」
ラミリツが言う
「ハブロス司令官は 銃弾を受けて その治療の為に入院しているんだから 動いちゃ駄目だし そもそも ハブロス司令官が僕を迎え出るなんて事する筈無い!他には!?」
フレイゼスが言う
「他には… そうですね?こちらも 相手が相手ですから難しい事ですが 入院患者のご家族の方と ご同伴であれば?」
ラミリツが言う
「…あぁ 何だ?なら それで良いじゃない?アイツ 使えば?」
フレイゼスが衝撃を受けて言う
「ア、アイツ …とは?ラミリツ殿?そちらは もしや…?」
ラミリツが言う
「うん!普段は使えないけど こんな時は使えるよね?」
フレイゼスが苦笑して言う
「あの… お言葉ですが ラミリツ殿?ひょっとして そちらのお方は…?」

食堂

テーブルに夕食の支度がされている ラミリツとフレイゼスが入って来て ラミリツが言う
「そ!アイツには 国防軍の何があるんだか分かんないけど… あぁ アールスローン戦記の原本だっけ?それを持ってるから 国家家臣防長なんでしょ?国防軍長防長!こんな時位 使ってやらないとね?」
フレイゼスが苦笑して言う
「ラ、ラミリツ殿?その… 我らが政府長攻長閣下へ物言いをしてしまうのも 申し訳ないとは思うのですが 防長閣下もまた 紛う事無く国家家臣防長閣下ですので どうかそう…」
ラミリツが言う
「だって 僕 アイツの事認めてないから?」
フレイゼスが言う
「…と 申されますと?」
ラミリツが気付いて言う
「あ、そうだ そんな事よりさ?面会時間過ぎちゃったから お見舞いには行けなかったけど 電話なら?転院出来る位なら 電話で少し話すくらい出来るよね?意識を取り戻したんならさ?やっぱ ちゃんと 話とか… せめて 声くらいは聞いて置きたいからね?」
ラミリツが携帯を取り出し操作をして耳に当てる フレイゼスが苦笑して言う
「あぁ… 本当に ラミリツ殿の このハブロス様へ対するお気持ちの 10分の1でも もう1方のハブロス様へ お分けする事が出来れば…」
ラミリツが疑問して言う
「あれ?出ないや?」
ラミリツが通話を切る フレイゼスが言う
「お休み中なのかもしれませんね?お時間の方は 通常からしませば 電話を致しますのに遅いと言う事はありませんが ご入院をされておられるのですから?」
ラミリツが言う
「それなら そうで 用件を聞いておく為にも 執事が出るのが当然でしょ?普通?この番号は 父上の頃からずっと使ってる番号で メイリス家の僕からだって分かるんだから …あ、そっか つまりそう言う事?」
フレイゼスが言う
「と、言われますと?」
ラミリツが言う
「やっぱ ハブロス司令官 兄上と何かあったんだよ?だから ハブロス司令官は この番号からの… メイリス家からの着信に出てくんないのっ …もう、ホントそう言う所 子供なんだからっ」
フレイゼスが苦笑して言う
「なるほど そう言う事で… …では 仕方がありません しばらく時間を置くなりして お怒りが収まった頃にでも 改めて お掛けすると言う事で?」
ラミリツがもうひとつの携帯を取り出して言う
「けど こういう時は 僕だって負けてらんないのっ 僕からの連絡に出てくれないなんて それは無し!駄目 絶対!」
フレイゼスが衝撃を受けて言う
「そ、そちらは…?」
ラミリツが携帯の画面をタップして 着信を待ちながら言う
「こっちは ARTの携帯 ART2隊長の僕からの連絡だからね?これに出ないって言うのは 無しでしょ?…あ!ハブロス司令官っ!?大丈夫っ!?調子はどうっ?転院したってっ!?何でっ?…っ!」
ラミリツが衝撃を受ける フレイゼスが困って言う
「あの…?ラミリツ殿?」
ラミリツが言う
「切られた…」
フレイゼスが衝撃を受けて言う
「えっ!?そ、そちらは?」
ラミリツが言う
「ハブロス司令官が 就業中以外の電話を 無言で切るのって これ すっごく怒ってる証拠っ!もうっ 兄上 僕の親友に 何言ったんだろう!?帰って来たら 絶対 問い詰めてやるんだからっ」
ラミリツが怒って席へ向かう フレイゼスが席へ向かいつつ苦笑して言う
「ラ、ラミリツ殿?どうか… お手柔らかに?シェイム殿の事です きっと何か 訳が…」
ラミリツが言う
「どんな訳があったって 絶対 許さないっ!」
フレイゼスが衝撃を受けて困る
「えっ!?えー…っと…?何故 ラミリツ殿が そこまで…?いえ 正に そちらの思いの10分の1… いえ、この際 何十分の1でも もう御一方のハブロス様へ 分けて差し上げては…?」
ラミリツがぷいっと顔を背けて言う
「いーやっ!」
フレイゼスが衝撃を受ける 食前酒が注がれると ラミリツが不満そうに一気に煽る フレイゼスが苦笑する 

メイリス家の外に車が到着する シェイムが車を降りると溜息を吐き屋敷へ向かう

ラミリツがデザートのシャーベットをスプーンですくいながら言う
「だからさ?やっぱ僕は思うんだよね?アイツじゃなくて ハブロス司令官が…!」
メイドがやって来て言う
「お話中に失礼を致します 攻長閣下 只今 シェイム様がお戻りに…」
ラミリツがハッとしてスプーンを置いて慌てて席を立ち去る フレイゼスが呆気に取られて言う
「おや…?ラミリツ殿が デザートを召し上がらずに?…どうやら これは 相当に ご心配と言う事の様ですね?」
フレイゼスが苦笑してシャーベットを食べる

リビング

シェイムがソファに身を鎮めて言う
「ふぅ… さて 一体どうしたら…?いや 先ずはそれよりも…」
シェイムが思う
(この事実を 何と…)
荷物が運ばれ テーブルの上に何か置かれる シェイムが視線を落として言う
「エーメレスへ…?」
メイドがやって来て言う
「御寛ぎ中の所 失礼致します シェイム様 お食事の方は如何致しましょう?」
シェイムが言う
「エーメレスは?」
メイドが言う
「はい 攻長閣下とフレイゼス様のお二方は 既にお召し上がりで御座いまして 只今は お食事は終わり 食後のデザートをお召し上がりの頃ですが ご一緒されますか?」
シェイムが言う
「デザートを食べている?それなら…っ!」
シェイムが思う
(エーメレスが食事の中で一番の楽しみとしている デザートを食べている このタイミングであれば!比較的 エーメレスの気に障ることであっても 何とか誤魔化せるだろうっ …この瞬間を見逃す訳にはっ!)
シェイムが言う
「…では 直ぐに!」
ラミリツが現れて言う
「兄上っ!」
シェイムが衝撃を受けて言う
「エ、エーメレス!?」
ラミリツがシェイムへ向かいながら早口に言う
「『ハブロス司令官』が転院しちゃったって!?しかもマルック地区の国防軍の医療施設に!これじゃ 政府の人間はお見舞いにだっていけないんだってっ!?これって『ハブロス司令官』すっごく怒ってるよ!『ハブロス司令官』に何言ったのっ!?兄上が何か言って『ハブロス司令官』を怒らせたんでしょっ!?『ハブロス司令官』は 兄上の事 友人にしてあげても良いって言ってたのにっ!?だから僕が『ハブロス司令官』の親友にしてもらえたって言うのもあるけどっ!?だったら 兄上はちゃんと『ハブロス司令官』の友人にならないと 駄目じゃない!?メイリス家の家族なら 当然なの!そうじゃないと『ハブロス司令官』と親友になった僕が また 友人に降格されちゃうかもしれないじゃない!?そんなの駄目なんだからね!?『ハブロス司令官』の為にもこれ絶対だよ!?兄上っ!?」
シェイムがラミリツの言葉にダメージを受けながら挫折して言う
「うぅ… エ、エーメレスが… あの悪魔に…っ?何故っ 父上もエーメレスも…っ ハブロス家の悪魔になど…っ?私には…っ 私には理解が…っ」
ラミリツが膨れて言う
「ちょっと 兄上っ!?聞いてるっ!?僕 本当に 心配してるんだからねっ!?唯でさえ ハブロス司令官が 今回の作戦で…っ!…うん?っ!?」
ラミリツがテーブルに置かれている物に気付いて 驚いて言葉を止める フレイゼスが部屋へやって来て言う
「ラミリツ殿 どうかそう… お声を上げられませんと 少々 シェイム殿のお話も…」
ラミリツが怒って言う
「ちょっと これ置いたのっ!?誰だよっ!?」
フレイゼスが驚き シェイムが呆気に取られて落としていた視線をラミリツへ向けて言う
「エ、エーメレス?」
シェイムが思う
(エーメレスが 本気で…?)
メイドたちがやって来て緊張して顔を見合わせる ラミリツが真剣に言う
「この歴代政府警察メイリス家の屋敷にっ 赤い林檎を持ち込んじゃいけないってっ そんなの常識だろっ!?」
メイドたちが息を飲み顔を見合わせてから メイド長が慌てて言う
「も、申し訳御座いません 攻長閣下 直ぐに御片付けを致します…っ」
メイド長がテーブルへ向かうと シェイムが言う
「あっ いや?待ってくれ?そちらは 私が…」
フレイゼスとラミリツが驚いて フレイゼスが言う
「え?…あの?シェイム殿 …が?」
シェイムが言う
「あ、その… いえ?持ち込もうと思って 持ち込んだ訳ではないのですが… 折角の物でしたので 捨ててしまうのも 申し訳ないかと?林檎は… アールスローンの民にとっては 神聖な… 神からの贈り物であるとされて居ますので?」
フレイゼスが困って言う
「そ… そちらはそうですが…っ しかし…っ それでしたら 何も…?せめて 他の場所へ?政府警察でも 本部へでも 使いの者へ頼んで 送ってしまうという手も御座いますし?シェイム殿も ご存知ですよね?赤い林檎は…」
シェイムが言う
「はい メイリス家の屋敷には置かないようにと… そちらは その… …知ってはいたのですが やはり それで…?」
シェイムが視線を向けると ラミリツが林檎の入った入れ物にある印を確認して言う
「…政府研究局の検査証明 これ… 政府の病院だけで買える奴… まさかと思うけど 兄上?これ… あの時 病院で持ってた?お見舞いの品だって 言ってたのってっ?」
フレイゼスが驚いて言う
「え?では まさか…!?」
シェイムが困りつつ言う
「あの… いえ?私も… それなりに そちらを用意したのには 理由が有りまして… しかし 渡すつもりは無かったのですが 彼が… ご自分の執事へ 林檎を持って来させるようにと 仰ったので… それならと…?差し上げました所…」
フレイゼスが困って言う
「あぁ… なるほど?そう言った経緯で…」
ラミリツが言う
「最低」
シェイムが衝撃を受けて言う
「うっ!…エ、エーメレス?いや?私もっ まさか 彼が あの様な反応をするとは お、思いもせず!?むしろっ 私は…っ 彼と 仲良くしようと…っ!?しん…っ いや!?友人になろうと 試みたつもりが…っ?」
フレイゼスが反応して言う
「…と 申されますと?もしやと思うのですが?シェイム殿?」
シェイムが慌てて言う
「はいっ フレイゼス殿っ!?どうかお助け下さいっ このままでは 私はっ 得られる筈であった友人を逃す所かっ エーメレスに…っ!」
フレイゼスが苦笑して言う
「シェイム殿は 赤い林檎が ハブロス家の方へ対して 何を示す物なのかの …そちらの内容の方を ご存知ではあられないのでは?」
シェイムが衝撃を受け 慌てて言う
「ハブロス家の 彼ら悪魔へ対し 何らかを 示すものだったのですかっ!?私はてっきり 赤い林檎は 唯の 悪魔祓いとしてっ!…ハッ!?」
シェイムがラミリツを見て慌てて言う
「エ、エーメレスっ 今のは その…っ」
ラミリツが言う
「悪魔祓い?…へぇ?そうだよね?良く言い当ててるんじゃない?少なくとも このメイリス家へ置かない理由としては 正解だよ 兄上?ハブロス司令官は 悪魔に例えられる事 嫌いじゃないみたいだし?」
ラミリツが携帯を手に取ると モニターに悪魔のアイコンが 天使の遠くでへたれている ラミリツが言う
「僕にも 大好きな悪魔が… 居るからね?」
ラミリツが携帯を傾けると 携帯モニターの待ち受けにアニキの写真が表示される ラミリツが言う
「だから その 彼ら… 悪魔が嫌う 赤い林檎は このメイリス家には… …僕の屋敷には 置いちゃ駄目っ!これ 絶対っ!」
携帯モニターがスライドされると アニキのプロフィールの嫌いな物欄に赤い林檎と書かれている ラミリツがメイドたちへ言う
「だから 片付けて!今直ぐにっ!」
メイドたちが言う
「畏まりました 攻長閣下」
メイドたちが林檎を片付ける ラミリツが軽く息を吐いてから シェイムを見て言う
「で?」
シェイムがハッと衝撃を受け言う
「ハッ!?い、いや その… 私は…っ …フ、フレイゼス殿っ!?」
シェイムがフレイゼスへ縋る フレイゼスが苦笑して言う
「あ、はい シェイム殿… では… ラミリツ殿?その… 政府に置きまして 割とその… 上の方に居ります 私などが この様に申しましては 誠に示しが付かない事ではあるのですが… そもそものアールスローン信書と言います 政府の信仰書は 誰しもが 読む事を億劫に思うものでありますので 如何に 政府に属する者でありましても そちらに記載されている内容を… ご存知ではない もしくは?読んだ事が無い …と 仰る方は 割と?居られますので…?」
ラミリツが言う
「それは いくらそうだとしても アールスローン信書で一番多く書かれてる 親兵攻長は 現代の僕なんだし?その親兵攻長の活躍を書いてる様な アールスローン信書を読む事って 政府警察の必須項目だったりするでしょ?その上で 歴代政府警察のメイリス家の人間が?しかも 長男が読まないなんて事 無いよね?兄上?しかも シェイム・トルゥース・メイリスは3代前とは言え 政府の上の方所か 僕と一緒に『政府長の長官』をやってた事も あるんだからさ?」
シェイムが衝撃を受けつつ言う
「そ、それは…っ もちろんっ!?アールスローン信書は何度も読んだ事があるっ!特に 第一章から第二章!親兵攻長が アールスローンの王女と国の為に!アールスローン王国の敵を討つべしと!勇ましく戦いへはせ参じる第二章は何度も読み返したっ!そして 終幕の第四章!親兵攻長が敵国の兵士であった 反逆の兵士を連れて戻り アールスローン王国へ平和と繁栄をもたらす 第四章は実に感銘深いものであると!自慢ではないが 歴代政府警察メイリス家の長男である 私のベッドの横には 正に その アールスローン信書が置かれていると言う程だともっ!」
フレイゼスが苦笑して言う
「あぁ… その… 何と申しましょう?正に…」
ラミリツが言う
「じゃぁ 正に その第三章は?」
シェイムが衝撃を受けて言う
「第三章?…そちらは …正に そちらの三章は アールスローン王国から 出陣した親兵攻長が アールスローン信書に置いて 唯一登場しない章である為… 読んだ事は… 読み切った事が無かった… 様な?」
フレイゼスが苦笑して言う
「やはり そうでしたか?…と言う事ですので ラミリツ殿?」
ラミリツが呆れて言う
「元政府長長官が?…ちょっと それ 有り得ないんだけど?」
シェイムが慌てて言う
「い、いやっ 1度か2度は あったかも知れない!?いや… たまには 読んでみようかと 読み始めた事はあるっ 従って 内容は… そのアールスローンの戦乱の中に置いて 敵国からの攻撃によって 食糧難になっていた アールスローン王国に置いて 神の力によって真冬の雪の中で 林檎の木に実がなったのだとか?…従って それを食べて 親兵攻長が戦いを終えて戻るまでを アールスローンの民は生きながらえたっ! と… その様な内容だった筈だ だから 林檎は神から与えられた 神聖な果実であると?」
フレイゼスが言う
「そう… ですね?概要は合ってます」
シェイムがホッとする ラミリツが言う
「合ってないよ?全然!それじゃ 意味がない!」
シェイムとフレイゼスが衝撃を受けてから疑問して顔を見合わせ ラミリツを見る ラミリツが言う
「それじゃ そもそも アールスローン信書が 政府の信仰書である意味が 無いんじゃない?」
シェイムが言う
「アールスローン信書が 政府の信仰書である意味?…とは?そちらは…?」
シェイムとフレイゼスが顔を見合わせる ラミリツが言う
「え?嘘?フレイゼスまで知らないの?」
フレイゼスが困って言う
「え、えっと… 私にとってのアールスローン信書と申しますのは… その…」
シェイムが言う
「私にとっては アールスローン信書が示しているのは 親兵攻長と敵国の… 後の反逆の兵士 つまり 攻長と外交長… もちろん アールスローンの王女と称されている 女帝陛下や親兵防長である 防長閣下 その4名の存在を記している 信仰書なのだと思っていたのだが?」
フレイゼスが言う
「はい 正直に言ってしまいますと 私もシェイム殿と 同じ考えです 唯、私は三章も読み切っておりますので?」
シェイムが衝撃を受ける フレイゼスが苦笑して言う
「そちらの内容と致しまして 第二章と対となる第三章は 親兵防長のご活躍が記されていると言う事も 認識をしていますが?」
シェイムが思い出して言う
「そ、そうでしたね?私も 今思い出しました 確か 親兵攻長がアールスローンの敵を討たんと 国外へ向かっている間に 親兵防長が国内を守っていた… それで… そうっ それで 食糧難からアールスローンの民を守る方法として 神からの問いに答えろと?そちらに正解をする事で 林檎の木に実を実らせた!」
ラミリツが言う
「そ!正解!そこだよっ 重要な所!」
シェイムが言う
「そこが重要?…えっと?」
フレイゼスが言う
「そちらが重要… つまり 親兵防長が神との そちらを行っていた と言う部分が重要である …と言う事でしょうか?」
ラミリツが言う
「僕 今まで色んな人に その 神からの問いに アンタならなんて答える?って聞いて来たの でも それに答えられる人って 居なかった」
シェイムが衝撃を受ける フレイゼスが閃いて言う
「あぁ… 言われてみませば あちらの問いは とても… 何と言いましょうか?言ってしまえば 答えの無い問いへ答えろと言う様な内容でして そして 当の親兵防長が 何と答えたのかも…」
シェイムが思い出して言う
「ああ!そうでしたっ!そちらです!私があの第三章を読まれない理由が!あの内容は 何と 物語として出来上がっていないものかと!?確か… えーと…?」
フレイゼスが周囲を見渡してから苦笑して言う
「その様に 無理をして思い返すよりも 折角 こちらは 歴代政府警察メイリス家の屋敷なのですから こうして辺りを見渡せば…」
フレイゼスが見付けて向かうと言う
「リビングであるなら勿論 アールスローン信書は こちらの様に さりげなく置かれておりますので… えーと… 第三章は…?」
フレイゼスがアールスローン信書を開いて見付けて言う
「あ、はい では 1つ… ”神は問うた 親兵防長 その方が 守らんとする 人々 その者らを 示さんとするには 何とするか?”」
シェイムが言う
「そうです その… 何とも抽象的な 例え と言いますか?問いの内容もさる事ながら… しかも その答えは何か?と先を読むと そちらは…!」
フレイゼスが本を読んで言う
「”親兵防長がそちらへ答えると 神は頷き 雪の積もる林檎の木に 赤い林檎の実を実らせ施した 親兵防長は 見事に実った赤い美味たる その林檎を 飢えに苦しむ アールスローンの民へ与えた”」
シェイムが怒って言う
「そうっ!”何と答えたのか”のっ そちらの文面が無いのですよっ!その他の問いに対しても!」
フレイゼスが本を読んで言う
「”民を思う親兵防長の願いに 再び 神は問うた 親兵防長 その方が 守らんとする 人々の家族 その者らを 示さんとするには 何とするか?” ”親兵防長がそちらへ答えると 神は頷き 雪の積もる林檎の木に 赤い林檎の実を実らせ…”そうですね?答えとなる 親兵防長の台詞はありませんね?そもそも私は… 余り深く考えた事がありませんでした」
フレイゼスが苦笑する ラミリツが呆れて言う
「フレイゼスもさ?政府長 長官だったんだよ?偽者の方だったけど?」
フレイゼスが苦笑して言う
「あ、はい… しかし、私の場合は 長官になったのは 偽者の方でしたので?どうか そちらは ノーカウントに?」
ラミリツが言う
「それで 僕 2人にも 神からの問いで 僕が分からない所 以前 聞いたんだけど 2人共 難しいとか 分からないって言ったよね?覚えてない?」
フレイゼスが言う
「え?えーと…」
シェイムが言う
「エーメレスが私に?何か質問していただろうか?私は… エーメレスの問いには しっかりと 答えてきたつもりなのだが?」
ラミリツが言う
「兄上には 何個か聞いたけど… 忘れているなら それじゃ …異なる考えを持つ人々を 全て守るには どうしたら良いと思う?」
シェイムが言う
「異なる考えを持つ人々を… 全て守る…?では… まず 考えが同じと言う人々と 異なると言う人々を 分け…」
ラミリツが言う
「うん、却下」
シェイムが衝撃を受けて言う
「え?」
ラミリツが言う
「僕が聞きたいのって そう言う小さい規模じゃないの」
シェイムが衝撃を受けて言う
「ち、小さい…?」
ラミリツが言う
「人々は 大勢居るんだし まったく異ならない人は居ない だから 逆に まったく同じだって人も居ないから 分けようとしても 分け切られないよ そもそも  その人々を どうやって分けるの?」
シェイムが言う
「で、では…?」
ラミリツがフレイゼスへ向いて言う
「じゃ フレイゼスには… 己が守らんとする 人々を守るには どうしたら良い?」
フレイゼスが言う
「確か中盤に在る 神の問いの1つですね?己が守らんとする 人々を守るには… そうですね?やはり 政府警察や警機 国防軍など 戦いの為の武器や兵士を 揃えると言う事でしょうか?」
ラミリツが言う
「はい 却下」
フレイゼスが衝撃を受けて言う
「え?えっと…?」
ラミリツが言う
「武器は兎も角 その兵士たちだって 己が守らんとする 人々だよ?それを揃えるだけじゃ 駄目でしょ?兵士たちは見殺し?」
フレイゼスが言う
「あぁ… なるほど 難しいですね?」
ラミリツが言う
「そんな感じで アールスローン信書の第三章の質問って 誰に聞いても納得出来る答えって 返って来ないけど 僕 昔 父上に言われたんだよね?お前の納得出来る その答えが分かる人が お前の正義だってさ?」
シェイムとフレイゼスが衝撃を受け フレイゼスが言う
「と、言う事は?」
シェイムが言う
「もしや?」
ラミリツが微笑して言う
「そ!ハブロス司令官は 全部の質問に僕の納得出来る答えを 答えてくれたよ!だから僕は ハブロス司令官の命令に従うの!これ メイリス家の常識!」
フレイゼスが苦笑して言う
「なるほど… ラミリツ殿のハブロス様への忠義は そちらが理由でしたか」
ラミリツが微笑して言う
「そー言う事!だって これは 父上だって!」
シェイムが言う
「それを父上が仰ったと言う事は…っ」
ラミリツが言う
「父上の時は ハブロス司令官の父上様が!ヴォール・アーケスト・ハブロス様が 全部 答えたって言ってたよ?」
シェイムが挫折して思う
(父上…っ!!)
ラミリツが気を取り直し言う
「だから僕は 尚更っ」
ラミリツが剣を握る フレイゼスが反応し 慌てて言う
「ラ、ラミリツ殿っ!?」
ラミリツがシェイムへ構えながら言う
「僕の正義に!ハブロス司令官に 赤い林檎を渡そうとする人は 許さないっ!例え兄上でもっ!?」
シェイムが衝撃を受ける フレイゼスが慌てて言う
「ラ、ラミリツ殿っ!どうか落ち着いて下さいっ!シェイム殿はっ!」
シェイムが怯えて言う
「エ、エーメレスっ!?私は… 私は 何も…っ!」
フレイゼスが言う
「シェイム殿は アールスローン信書に置いて ”親兵防長が 赤い林檎により 毒殺されてしまう” と言う末路を ご存知ではないのですよっ!」
シェイムが衝撃を受け慌てて言う
「はぁあっ!?ど、毒殺っ!?アールスローン信書の 防長閣下は 殺されてしまうのですかっ!?」
フレイゼスが苦笑して言う
「はい、そうなのですよ シェイム殿 政府の信仰書でありながら アールスローン信書は 親兵防長を殺してしまうのです ですから 防長閣下を象徴とする国防軍は アールスローン信書を受け入れない訳でして」
シェイムが言う
「それは受け入れないでしょうねっ!?と言うより 良いのですかっ!?信仰書が 相方の組織の象徴を 殺してしまってもっ!?」
フレイゼスが苦笑して言う
「まぁ アールスローン戦記に置きましても 何度でも蘇る攻撃の兵士は言い換える所の 何度でも殺されている訳ですので?ある意味 お相子と申しましょうか…?」
シェイムが言う
「どちらも 相方の象徴を殺そうとはっ!それは いつまで経っても 仲良く出来ない訳ですっ!」


続く
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