天女召喚

えりー

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天女召喚

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波多野家には代々受け継がれている鈴がある。
その鈴はその昔助けた天女から貰った由緒ある鈴だそうだ。
今、その鈴を持っているのは波多野淳はたのじゅんだ。
淳は高校3年生だ。
両親亡き後、育ててくれた祖母は今は施設で生活している。
その為彼は広い家で1人暮らしをしていた。
祖母は体が弱いため、病院が併設されている施設へ入居した。
淳は寂しい思いをしていたが、仕方のないことだった。
祖母から受け継いだ鈴を何度もなんとなく鳴らしてみた。
すると鈴が光だし、部屋の中に巫女服の少女が羽衣を纏って現れた。
淳は驚いた。
少女は淳に向かって話かけてきた。
「初めまして、私は胡桃くるみと申します。貴方の願いを叶えるためにここに来ました」
そう言い胡桃は微笑んだ。
淳は目の前で起こった出来事に戸惑った。
そして固まってしまった。
「あの、大丈夫ですか?どうかしましたか?」
そう言うと彼は我に返った。
「あの、君は?」
「胡桃です。願いを叶えに来ました」
「え?願い?」
「願いがあるから私を呼んだのではないのですか?」
「・・・悪い、頭がついて行かない。ちょっと待てくれ」
淳はパニックに陥っていた。
1人は寂しいと思いながら鈴を鳴らしていた。
それは認める。
そしてこの鈴は願いを叶える鈴だという事も知っていた。
しかし、まさか本当に天女が現れるなんて誰が思うか。
想像も出来なかった。
淳はとりあえず彼女にこう言った。
「願い事はないんで、帰ってもらるか?」
そう言われた彼女は狼狽えた。
「私、願いを叶えるまで天上界には帰れないことになっているんですよ」
「は?」
「困りましたね・・・」
そう言うと彼女は泣きそうな顔になった。
「それじゃあ、願いが決まるまでここで生活してくれ」
「本当ですか!?良かった・・・行き場がないからどうしようかと思ってしまいました」
そう言うと彼女はにっこり笑った。
(どうする?特に願いなんてないぞ?)
淳は容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群の高校生だ。
それなりにモテるし、困っていることは何もない。
そんな淳に願い事なんて思いつくはずない。
願い事はいつできるかわからないからとりあえず彼女にはこの家に留まってもらうことにした。
淳には他に方法が思いつかなかったのだ。
淳に願い事・・・それはなかなか難しいことだった。
今の状態に満足している。
そう言えば彼女がうちの先祖が助けた天女なのだろうか。
「胡桃って呼んでもいいか?」
「はい」
「昔、うちの先祖が助けたっていうのは本当か?」
「はい。盗まれた羽衣を取り返してくれました」
「そうだったのか」
天女の羽衣伝説みたいな話だな。
天女は羽衣がないと天上界へ帰れない。
それを盗むなんてひどい話だ。
淳はそう思った。
「胡桃も俺の事は淳と呼んでくれ」
「分かりました。淳」
ふと時計を見るともう学校に行く時間になっていた。
「俺は学校に行ってくる。胡桃はこの家で自由に過ごしていてくれ」
「はい。行ってらっしゃいませ」
そう言い胡桃が見送ってくれた。
淳は何だかくすぐったいような気分になった。
誰かにそう言って見送られるのは久しぶりだったからだ。
淳は寂しかったのかもしれない。
だからあの鈴を手に取り天女を召喚したのかもしれない。
無意識のうちに。
その事に今気がついた。
だが、願いがないのに呼び出したことに少し罪悪感を覚えた。
家に帰ったら謝ろうと思った。
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