天女召喚

えりー

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波多野家への恩

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朝起きると胡桃が朝食を作っていた。
「おはよう胡桃」
「おはようございます淳」
今日もいい匂いがする。
朝はおひたしと、納豆、みそ汁、卵焼きとごはんだった。
二人で椅子に座り手を合わせた。
「いただきます」
「はい、召し上がった下さい」
そう言い二人での食事が始まった。
「・・・なぁ、どうしてうちの先祖に助けられたんだ?」
「水浴びをしていたら羽衣が風で飛んで行って困ってたんです。そしたら実は羽衣は盗まれていたらしくてそれを怪我をしながら取り返してくれたのがあなたのご先祖様だったんです」
「何故、そいつの願いを叶えてやらなかったんだ?」
「願いがないと仰ったので。子孫たちに何かしてやって欲しいとのことでした」
「ああ、それであの鈴が受け継がれてきたのか・・・。
そう思うと納得できた。
「無欲な先祖だったんだな・・・」
「はい。とても良い方でした。少し淳に似ていますよ」
そう言い彼女は笑った。
「そうか」
淳は照れた。
そうして食事終え学校へ行く時間になった。
「それじゃあ、行ってくる」
「はい、気を付けて行ってきてくださいね」
そう言われ淳はくすぐったいような気分になった。
胡桃はよくやってくれていると思う。
はやく彼女を天上界へ帰してやりたいとも思うが、心から願う願い事が見つからない。
自分の為だけの願い事・・・。
やはり思いつかない。
祖母の具合はよくなってきているし、もうすぐ帰宅できそうだ。
だから祖母の事では願いはない。
他には特に不自由に感じていることはない。
勉強もそれなりにできるし、運動も得意だ。
女子にもモテるし本当に願いがない。
それも少し悲しいような気もするが本当に思いつかないのだ。
淳は胡桃に申し訳ない気分になった。
自分に願いがないためにこの世界に引き留めている。
彼女にも帰るべき場所があるはずだ。
早く返してやりたいと思う反面今のままずっと一緒にいたいとも思ってしまう。
こんな願いはかなえてもらうわけにはいかない。
だが、これが淳の本当の願いなのかもしれない。
淳はずっと寂しかった。
そこに胡桃が来てくれて寂しさを感じなくなった。
彼女が帰ってしまうことが寂しくて仕方ない。
しかし、仕方のないことなのかもれない。
皆、それそれ自分の居場所がある。
そこにいるのが本当なのだ。
胡桃は淳を好きだから傍にいてくれているわけではない。
昔の恩を返すために淳の元へやって来たのだ。
決して勘違いをしてはいけない。
淳は自分にそう言い聞かせた。
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