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デート

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二人は山にデートに来ている。
彼は歩くのがとても速い。
「ま、待ってください。祐耶」
「ん?どうした?」
祐耶は息も切らしていない。
「あの、もう少しゆっくり歩いてください」
「悪い、いつも1人で歩いていたから桃花の事忘れてた」
正直な意見だった。
彼は正直な人なのは良く分かった。
「今ので一気に好感度下がりました・・・」
やや呆れ気味そう言うと祐耶は桃花の手を引いて歩き出した。
桃花の歩調に合わせるためだ。
お互いの体温が伝わり合ってくすぐったい。
桃花の心臓は初めての経験でドキドキ高鳴っていた。
桃花は異性と付き合ったことがないのでこうやって手をつないで歩いたこともない。
手が汗ばんでいないか心配だった。
祐耶も一緒で心臓が高鳴っていたが平静を装っていた。
男が女の手を引いて歩くくらいで狼狽えているなんて知れたら恥ずかしいと思ったからだ。
しかし、祐耶の手は少し汗ばんでいた。
「・・・もしかして、祐耶緊張してますか?」
祐耶の手がビクッと揺れた。
「まさか!桃花と手をつないでいることくらいで狼狽えたりしない!」
彼はむきになってそう言った。
それはもはや認めているのと変わりない。
桃花は声を押し殺して笑った。
それに気がついた祐耶は真っ赤になりながら言った。
「お前は平気なのか?」
「私だって緊張してます」
ただ桃花も充分緊張していた。
その時桃花が足を滑らせた。
「きゃぁ!」
(あれ痛くない)
そぅと目を開けると彼の上に倒れ込んでいた。
桃花が祐耶を押し倒しているような態勢になっていた。
祐耶は桃花を庇ったのだ。
「大丈夫か?」
「はい。でも祐耶の着物が汚れてしまいました・・・」
そう落ち込む彼女の頭をポンポンっと撫で祐耶は言った。
「着物くらい洗えばいい」
「はい、ありがとうございます」
そう言い2人は立ち上がり歩き始めた。
桃花は祐耶の意外な一面を見た気がした。
彼は潔癖な感じがしたのに着物の汚れは一切気にならないらしい。
とはいえ高そうな着物を汚してしまった罪悪感は消えない。
逆に祐耶は、たかが着物一つでそんなに落ち込む桃花が意外だった。
そんな事気にしそうになさそうな感じなのに・・・。
そうして2人は思った。
デートは大事だと。
例え場所が何処であれ、お互いの良い所を発見できた。
やはり手順を踏んでいくことにして良かったと思った。
頂上まで行くにはまだ歩くにしては時間がかかりすぎる。
「・・・桃花、抱き上げてもいいか?」
「え!?」
桃花は驚いて声を上げた。
「ここから先はもっと険しくなる。飛んだ方が早い」
「・・・ゆっくり飛んでくださいね?この間凄い勢いで飛ぶものだからびっくりしました。正直怖かったです」
「わかった」
そう言いながら彼女をそっと抱きかかえた。
そして言われた通りゆっくり飛んだ。
「この前、悲鳴を上げたのは怖かったからなのか?」
「はい」
「それは、気がつかなくて悪かった・・・」
そっぽを向きながら彼は謝ってくれた。
山の頂上に着くと町の様子がよく見えた。
相変わらずにぎわっている。
内容さえ知らなければ参加したいくらいだ。
しかし、あそこが危険なことはもう説明を受けている。
桃花は抱きかかえられているときに、彼の心音を聞いた。
凄く早かった。
桃花もそっと自分の胸に手をあててみた。
自分の心音もすごく早い。
意識すると余計恥ずかしい。
祐耶にも桃花の心音が伝わっていた。
「桃花も緊張しているんだな」
「だって、こう言う風に抱きかかえられたことなんて無いですから」
桃花は俯きながらそう言った。
祐耶はそんな桃花が可愛く見えた。
祐耶の心臓は余計に高鳴りだした。
そうして2人はデートを終え、抱きかかえたまま家路についた。
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