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優也の妹(前編)

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ある晩のことだった。
優也様の妹君がお帰りになられたと聞いた。
「優也様、妹君がいらっしゃるんですか?」
「ああ、一人いる。名前は美乃梨みのりというんだが、お前に会いたがっている」
「美乃梨様はどこに行っていたんですか?」
やや間があったが優也は答えてくれた。だが、優也にも分からないらしい。
「あれのすることは分からん。で、どうする?会うか?」
「・・・会います」
「無理しなくてもいいんだぞ。もし怖かったら会う必要もない」
(・・・)
「怖い方なんですか?」
「・・・少し変わっているんだ」
「安心しろ。俺も立ち会うから」
「はい」
それは心強い。フォンはそう思った。
「いつ会うんですか?」
優也は言いにくそうにしている。
「本人は今すぐにでも会いたいと言っている」
さすがにそれはー・・・心の準備が無いので無理だった。
「できれば、明日でお願いします」
「わかった。そう伝えよう」
優也は悠里を呼んだ。
「悠里、すまないが美乃梨に明日の昼まで待ってもらうように言ってきてくれないか?」
「はい、わかりました」
そう言うと悠里は足早に美乃梨の元へ向かった。
(美乃梨様・・・一体どんな方なのだろう)
「一言、言っておくが美乃梨には懐くなよ?」
「?」
「あいつに気に入られると厄介だぞ」
「はい」
よくわからないがとりあえずそう答えた。
次の日正装をして美乃梨と優也が待つ王の間にやってきた。
「フォンです。入ります。」
そう言うと戸がギイっと開いた。
「?」
(私、まだ扉に触れていないのに・・・)
フォンの目の前には長い黒髪のすごく美しい女性が立っていた。
「お兄様、この子がフォンちゃん?」
「フォンだろう?」
「あの・・・お初にお目にかかります」
フォンが挨拶をすると美乃梨がフォンに飛びついた。
「きゃー!!可愛い!!小さい!!」
「!!?」
フォンは驚き優也の方へ走っていき優也の後ろに隠れてしまった。
「あらぁ、逃げられてしまいました」
「当り前だろう。突然飛びついたりすれば誰だって驚くぞ」
「その方が次期国母ですのね。随分小さいですが・・・お兄様まさかロリコン!!?」
「うるさい、紀藤と同じことを言うな」
「確かにフォンは可愛いがな」
そうきっぱり言うと美乃梨は兄である優也を冷めた目で見た。
「のろけは結構です」
そう言うと美乃梨は再びフォンに話しかけてきた。
「フォン様は人獣ですの?」
「はい」
どうやら彼女は人獣に偏見を持っていないようだった。
「初めてみましたわ」
まじまじとフォンを見つめている。
「お兄様ちゃんと異世界へ行けたのですね」
優也は頷いた。
「次はお前の番だぞ?」
優也がそう言うと美乃梨は急に不機嫌になった。
「私は結婚なんてしません。今みたいに自由に旅ができなくなりますもの」
「一応正龍国の第一王女なのだから城で大人しくしておけ」
「お父様みたいなこと言わないでください」
「私はもう行きますわ。旅で疲れていますし、少し休みます。それではまた後程お会いいたしましょう。フォン様」
「は、はい」
フォンはうっかり会う約束をしてしまった。
青ざめているフォンに優也が声をかけた。
「随分気に入られたようだな・・・大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。少し驚いただけですから」
「そうか、・・・な?変わってるだろう?」
「そうですね」
二人はそれ以上会話が続かなかった。
それくらい二人は疲れてしまったのだった。




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