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ハインツの友人

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その日はハインツ一人で出かけて行った。
何でも友人に会うそうで・・・。
ハインツは一緒に連れていくか迷っている様子だったが、奈々は昨夜の行為で体が辛かったので城に残ることにした。
ハインツは城全体に大きな透明な結界を張ったっと言っていた。
「これでもう誰も入ってこれない」
「どうして今までこの力を使わなかったの?」
そう訊ねるとハインツは言った。
「この術には私に負担がかかる。他の力があまり使えなくなるんです」
「そうなんだ」
「じゃぁ、今日はゆっくり休ませてもらうわ」
「そうして欲しいです。昨夜は・・・」
(まだ言うか!!)
何かある度に蒸し返されては堪らない。
「もう、本当に良いから行ってきて!!」
真っ赤になり俯きながらハインツの背を押した。
ハインツはそれ以上何も言ってこなかったが雰囲気で言いたいことがわかる。
もう勘弁してほしい。
これが奈々の本音だった。
「言い忘れたが、結界は内側からなら開くことが出来るから絶対に窓を開けてはいけませんよ」
「わかった」
そう言うとハインツは地を目指して落下していった。
ガラス越しのベランダからその姿を見ていたがとても美しかった。
黒髪が風邪でなびき、琥珀色の瞳が煌いていた。
「あまり窓やベランダに近づくと危ないですよ奈々様」
そこに声をかけてきたのはベルだった。
「ベル!起きちゃ駄目じゃない。まだ傷が塞がっていないのに!!」
「もう大体塞がっていますから大丈夫ですよ」
「駄目!!寝てなさい」
強く言うとベルは渋々自室へ戻って行った。
「すぐ目を離すと起きて、出てくるんだから・・・」
奈々は溜息をついた。
そうしていると小鳥が結界にぶつかりベランダの踊り場に落ちた。
「大変・・・!!」
奈々はうっかり結界の事を忘れてベランダを開けて、小鳥を拾った。
小鳥を室内に連れてきて他に怪我がないか調べた。
意識を失っているだけで怪我はないようだった。
ハインツの言葉を思い出し開きぱなしのベランダの戸を急いで閉めた。
小鳥は手の上で気絶していた。
そっと枕の上に置き様子を見ることにした。
すると、小鳥が目を覚ました。
次の瞬間人の形へと姿を変えた。
「なっ・・・」
「痛かった、鼻をぶつけた・・・」
今まで小鳥だったのに大人の男の人になっている。
髪は長く、綺麗な銀髪。背中には大きな羽が生えていた。そしてやはり美形。
この世界には美形しかいないのかと思うくらい美形率が高い。
ノースさんは美形ではなかったが・・・。
「あの、貴方は?」
「俺は、ハインツの友人でセキレイという。お前は?」
「私は奈々といいます」
奈々はさっきの小鳥がまさか男の人になるなんて夢にも思わなかった。
(どうしよう・・・結界の中に入れてしまった・・・)
「・・・あのぶつかったところは大丈夫ですか?」
「ああ、かすり傷を負ったくらいだ。心配するな」
そう言う男の鼻には血がにじんでいる。
(これは・・・傷が残らないように手当てしたほうがいいよね)
「あの、そこから動かないでください」
そう言うと奈々は救急箱を取りに行った。
そして消毒をし、鼻にはガーゼを当てテープでとめた。
セキレイは驚いたまま固まってされるがままになっていた。
「あ、ありがとう」
セキレイは素直に礼を述べた。
「いいえ、どういたしまして」
ハインツの友人ならいきなり襲ってきたり、どこかに連れ去ろうとか思わないだろう。
奈々はそう思った。
実際そんな気配は微塵もない。
「せっかくの綺麗な顔に傷が残らないと良いですが・・・」
「・・・よくあることだ。気にするな」
(よくあることなんだ・・・)
半ば呆れつつもセキレイと話を続けた。
「今日会う約束をしていたんだが待ち合わせの時間になっても姿を現さないので会いに来たんだが・・・まさか結界が張られているとは思わず、突っ込んでしまった」
「そうだったんですか」
「奈々がハインツの花嫁なのか?」
(・・・まだ決めてない・・・っというかその話今まで忘れてたわ)
「まだ、わかりません」
奈々は正直に答えた。
「・・・」
セキレイは暫く黙った後、奈々にこう言った。
「もし、ハインツとうまくいっていないなら俺とこないか?」
「え?」
「一生大事にすると誓える」
いきなりの求婚だった・・・。
さすがに奈々は驚いた。
「何でいきなり・・・」
「お前のように優しい女は好きだ」
そう言うなりセキレイは奈々の手を握ってきた。
「・・・私は・・・」
奈々がそう言いかけた時ドアがいきなり開きハインツがずかずかと入ってきた。
握られた手を振りほどき、奈々を抱きしめながら言った。
「これは俺の花嫁です。手を出さないでいただきたい」
セキレイはニヤニヤ笑っている。
「俺は本気だぞ。奈々、もしハインツが嫌になったらいつでも呼んでくれ」
そう言いながら大きな羽をはばたかせて、ベランダから飛んで行ってしまった。
後に残ったのは怒りを湛えたハインツと、呆然としている奈々だった。


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