狗飼君と私

えりー

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事故の犠牲者

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渡辺 有希わたなべ ゆきは普通の女子高生だった。
いつも通り家路につきいつも通り過ごすはずだった。あの日までは・・・

有希は委員会があり少し暗くなりかけた道を帰っていた。田舎なので街頭も少なく事故の多い道だった。有希は幼い頃山で遭難して以来暗闇を恐れるようになっていた。
だからなるべく早く家に帰ろうとした。
信号が青から赤に変わろうとしたとき無理に渡ろうとした。
そのせいで車と接触しそうになった。
(あっ、ひかれる!!)
そう思った時背中に強い衝撃を受けた。
気がつくとドライバーが下りてきて有希の元へと駆けつけ急いで病院へ連れて行こうとした。
「あ、私は大丈夫です。今背中に何か当たって・・・」
そう言いかけて振り返るとそこには血を流している大きな犬が一匹横たわっていた。
「あの犬・・・」
その犬はたまに有希の家へやってきて餌をあげるとふらりとまたどこかへ行ってしまう顔見知りの犬だった。
「あの、すみません!!動物病院へ連れて行ってください!」
「君の犬?わかった。ちょっと待ってて。ナビで検索するから」
ドライバーの男はナビでここから近い動物病院を検索してくれた。
(まだ温かい・・・助かるかもしれない)
有希は犬の首筋に触れ手で脈をはかった。
段々と脈が弱くなっている。
(このままだと死んでしまう・・・これじゃぁ、私の身代わりで死ぬようなものじゃない)
犬をぎゅっと抱きしめ、有希は動物病院へ駆けこんだ。
獣医に診せたがもう手遅れだということを告げられてしまった。
段々と犬の体から体温が失われていく。
ー犬はそのまま死んでしまったー

家に帰りつき有希は自分の無力さを嘆いた。
あの時無理に信号を渡ろうとしなければよかった。
委員会の仕事をもう少し早めに切り上げていればよかった。
あの道を使わなければよかった。
考えてももう遅いのに次から次へと自分のとった行動を責めた。
あの犬用に用意した食器を見るのもつらかった。
犬は有希の家の裏山に埋めた。
(ごめんなさい・・・)
有希はそう謝りながら眠りについた。

翌日気落ちしたまま学校に行くと見知らぬ生徒が一人有希の隣の席に腰かけていた。
「あなた・・・誰?」
「嫌だなぁ~!渡辺さん。俺のこと忘れちゃったの?」
「え?」
有希は考えたが思い出せない。
(クラスにこんな人いなかったし忘れるも何もこの人のこと私は知らない・・・)
「有希おはよう!」
そんなやり取りをしていると親友の美香みかが話しかけてきた。
「狗飼君と何を話していたの?」
「狗飼・・・君?誰、それ」
有希は不思議そうに美香に尋ねた。
「何言っているの?ずっと同じクラスにいて隣の席だったじゃない」
(何をいっているの?はこちらのセリフだ)
有希は狗飼の方をちらっと見た。
彼は不敵な笑みを浮かべていた。
「俺は狗飼 千尋いぬかい ちひろだよ。寝ぼけてんじゃないか?」
有希は本当に狗飼なんて知らなかった。
その時始業のチャイムが鳴った。それと同時に先生が教室に入って来た。
有希はもやもやする気持ちを抑えて授業に入った。

授業が終わり、有希は狗飼に話があると言って屋上に呼び出した。
呼び出した通り狗飼は有希の待つ屋上へやって来た。
「次の授業はサボるのか?」
休憩時間は10分だけだった。
10分で話がすべて終わるとは思っていない。
有希は次の授業はサボる気で彼を呼び出した。
「ええ、そうよ。今は授業受けても集中できないもの」
有希は言った。それを聞いた狗飼は愉快そうに笑った。
「ふーん。そんなに俺が気になるんだ?」
「だって、昨日まであなたクラスにいなかったじゃない。それなのにクラスのみんなは当たり前のようにあなたを受け入れている。これのどこが気にならないっていうのよ」
(気になるに決まってる)
狗飼は溜息をついた。
「・・・やっぱり、君には暗示が効かないか」
「暗示?」
有希は不可解なものを見るように狗飼を眺めた。
(暗示・・・?そんなもの本当にかけられるものなのだろうか?)
だが、狗飼の瞳を見ると嘘を言っているようには見えなかった。真剣そのものだった。
「どうして私には暗示が効かないの?」
「俺が効いてほしくないと思っていることが原因だろうな」
(やっぱり話を聞いてみてもさっぱりわからない)
このまま話していても話が平行線のような気がした有希は単刀直入にもう一度狗飼に尋ねた。
「あなたは誰なの?そして、何者なの?何が目的なの?」
有希は進まない話に少しイライラしていた。
「そう怒らないでくれ。正直に話すよ。俺は、元犬だ」
「は?」
「昨日お前の代わりに車にひかれて死んだ犬の霊だ。哀れに思った山神様があの時死んだ俺を神力でしばらく人間の姿にしてくれたんだ」
「何それ?意味わかんない」
そういうとふっと目を細めじりじり有希に近づいてきた。
有希は後ろに後ずさった。背中にコンクリートの壁があたった。
狗飼は両手はコンクリートの壁に押し当てると有希を腕の中に閉じ込めた。
いわゆる壁ドンだ。
「・・・俺はずっと有希が好きだったんだ」
「え・・・?」
そう言って狗飼は有希に軽く口づけをした。
有希は真っ赤になってその場に座り込んだ。
狗飼はそんな有希が面白かったようでまた笑っていた。
「人間はこうやって好意を相手に伝えるんだろう?」
「~・・・それは好きあった者同士の話よ!!」
(何こいつ!!一体何なの!!?)
「しばらく、人間の姿でいられるから一度やってみたかった学生生活をしにきたんだ。それと有希と一緒にいたくて学校に通うことにした」
有希は理解できなかった。
急にこんな展開は予想外すぎる!!
(・・・頭がくらくらする)
混乱して有希は何も考えられなくなった。










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