狗飼君と私

えりー

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山神と有希

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狗飼君が言ったことは本当のようだった。
皆、以前からの友達のように狗飼君を中心として話を進めていた。
私はというとなるべく狗飼と関わらないよう席を少しずらした。
微々たる抵抗だが今できる事は彼と距離をとることだけだった。
「美香、本当に狗飼・・・君、ずっとおんなじクラスだった?」
美香はきょとんとしながら言った。
「もう、今日の有希おかしいよ。それに狗飼君は有希の幼馴染じゃない」
「・・・」
有希はもう何を聞いても驚かない。
そういうものなのだと思うようにした。
そういう暗示をかけられているのだろうから自分が何を言っても有希の方がおかしいと思われてしまう。
「そう・・・」
小さくつぶやくと美香が心配そうにのぞき込んできた。
「顔色悪いよ?保健室行く?」
「・・・うん、そうしようかな」
有希は保健室で頭を冷やすことにした。
本人が横にいるんじゃ考えもまとまらない。
(・・・それにしても幼馴染か・・・そんなものいないし!)
誰に言うでもなく有希は心の中で叫んだ。
「先生、気分が悪いので少し休ませてください」
戸をノックしてドアを開けながら有希はそう言った。
そこで有希はまた驚く羽目となった。
見たことのない先生が白衣を纏っていた。
(まさか・・・)
「君が有希ちゃんかい?」
優しい声音だった。
「・・・はい」
(この学校でこんな先生見たことない)
まず長髪で髪の色が紫色なんてあり得ない。
「狗飼君の関係者ですか?」
「ああ、俺はこうというものだ」
「今度は狐?それとも狸?」
その言葉を聞いて白衣の男がぷっと吹き出した。
「あはははは!!それはそれで面白かったかもね。でも違うんだ。俺はね。山神だ」
「じゃあ、今この学校で起こっている不思議なことは全部あなたのせいなのね」
笑われ有希はカチンときた。
「本当は山から出てはいけない決まりなんだけど・・・あの子を・・・狗飼を一人で学校へ送るのは抵抗があってね。要は心配で数時間だけ山から下りてきたんだ」
「いつまでこのままなんですか?」
有希は溜息をついて山神にそう訊ねた。
「あいつが満足するまでかな。だってあまりにも哀れだろう。愛しい君を守ってただ死ぬだなんて」
「・・・それはそうですけど」
有希はなんだか申し訳ない気持ちになった。
「・・・まぁ、そんなに気にしなくても大丈夫だよ。あいつは本望だったらしいから」
「でも・・・私のせいで・・・」
泣きたくなったのをぐっと堪えた。
「次の授業までゆっくり休んでいくといい。俺はもう山に帰らねばならない」
そういうと白衣を脱いだ。次の瞬間姿が見えなくなっていた。
「・・・何なのよ・・・もう」
(今は休もう、何か疲れちゃった・・・)
「・・・狗飼君が言ったことも山神様が言ったことも全部本当のようね・・・」
結局、すべての授業を有希はサボってしまった。
何故か教室に行きたくなかった。
自分だけ異世界へ放り込まれたような気がした。




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