魔王の息子に惚れられました

えりー

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魔王への報告

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魔王がいる部屋の前までやって来た。
「唯奈、覚悟は出来たか?」
「うん・・・」
(正直会うのが怖い。でも隣に和樹がいてくれる)
和樹は唯奈の手の甲にキスをした。
「大丈夫だ。何も起こらないから」
「うん」
そう言い聞かせられ王の間の扉を開いた。
そこには魔王が玉座に座り何かの書類に目を通していた。
「父上、お話があります」
「それよりユイナ、体の調子はどうだ?」
「だ、大丈夫です」
「ユイナからの話だろう?話してみよ」
魔王は唯奈に直接話すように促した。
「あの、私・・・和樹の花嫁になろうと思います」
魔王は書類を机の上に置いた。
「ユイナ、本当に私ではなくカズキを選ぶのか?」
「はい」
唯奈の返事に迷いはなかった。
「そうか、残念だがユイナの事は諦めよう」
唯奈はその言葉を聞き安堵した。
「ありがとうございます」
「ここでお礼を言うのか、本当に変な娘だな」
魔王は愉快そうに笑った。
「父上、一段落したら魔王の座を俺に譲ってください」
「・・・」
魔王は暫く何かを考えるような仕草を見せた。
「よかろう。私も新しい花嫁を探しに人間界へ行ってみるのも面白そうだ」
チラリと唯奈の方を見た。
唯奈はどきりとした。
気のせいかもしれないが魔王の瞳はとても悲しそうに見えた。
「だが何故、魔王の座を欲する?」
「唯奈を守る為です」
「ああ、なるほど。そういう事か」
唯奈だけ話についていけない。
「あの、どういうことですか?」
「魔王の王妃になればどんな魔物や魔族も手出ししてこなくなる」
「だから、告白の返事を急かしたの?」
「・・・」
無言になり和樹はそっぽを向いた。
和樹の向いたほうに回りこみ和樹の顔を見た。
すると真っ赤に染まっていた。
「それならそうと言ってくれたら良かったのに」
「それだと本心からの返事か分からないじゃないか」
「?」
「ふはははは、我が息子ながら情けない」
「父上は黙っていてください」
唯奈はいまだに状況がよくわからない。
「ねぇ、どうして黙っていたの?」
「もういいだろう。その話はこれで終わりだ」
和樹がそう言うとさらに愉快そうに魔王が笑う。
「カズキ、魔王交代の儀と花嫁のお披露目の儀を一緒に執り行おう。だが今、大きな仕事を抱えている。もう暫く魔王を交代できそうにない。それまでカズキがユイナをしっかり守っておけ」
「はい」
「もしユイナに何かあったら許さない」
「言われなくてもしっかり守ります。俺の花嫁ですから」
その言葉を聞き唯奈は真っ赤になった。
「それでは失礼します」
「あ、失礼します」
パタンっと扉が閉まり、唯奈はその場にへたり込んでしまった。
緊張しっぱなしだったので腰が抜けてしまった。
「どうした!?具合が悪いのか」
「き、緊張の糸が切れちゃった」
そう言い唯奈は苦笑いを浮かべた。
そんな唯奈を見て和樹は唯奈を担ぎ上げた。
「きゃあ!」
「大人しくしておけ。落ちてしまうぞ」
「・・・ゴメン」
情けないがやはり唯奈は魔王が苦手だ。
本当にあの事を気にしてなさそうだった。
魔王にとってはああいう行為は当たり前の事なのかもしれない。
でも少しだけ寂しげに見えた。
きっと気のせいだろう。
あの強い魔王がそんな表情を他人に見せるはずがない。
しかし本当に人間界に花嫁を探しに行くのだろうか。
唯奈はその事が少し気になった。
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