吸血鬼の姫は恋をご所望

えりー

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絡み合う運命

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葵は翌日からなるべく水城に話しかけるようにした。
「今日は一緒に学食で食べない?」
周りの女子が何か言っているがとりあえず無視することにした。
「ああ、学食か。いいね。行こうか」
にっこり笑いかけられ葵は赤くなった。
「葵さんはいつも学食なの?」
「ええ、両親が外国に行っていて一人暮らしなの」
「へぇ」
低い声音でそう呟いた水城に気づかず葵は嬉しそうにしている。
「葵さんは何を食べるの?」
「今日の日替わりランチは肉だけど・・・」
葵は一瞬嫌そうな顔をした。
「葵さんもしかして肉が嫌いなの?」
「ええ」
葵は肉類が苦手だった。
どちらかと言えば野菜や果物を好んで食べる菜食主義だ。
水城は皆から注目されていることに気がついた。
皆、美しい葵に見惚れていた。
不思議なことに本人は気づいていない。
「葵さん、すごい周りが注目してるけど・・・」
「え?ああ、転校生の貴方が珍しいんじゃないのかしら」
(私が注目されているなんてそんなことあるはずない)
葵はそう思っている。
そこに陽介が現れて水城にこう言った。
「俺ら用事があるからこいつ連れて行くわ」
「え?ちょっと、陽介!」
水城は誰にも見えないように舌打ちをした。
陽介は空き教室へ葵を連れ込んだ。
「あいつはやめておけ」
陽介は壁に両手をつきその中に葵を閉じ込めた。
「よ、陽介・・・?どうしたの急に・・・」
「・・・あいつはたぶんお前が吸血であることに気づいている。今日噂で聞いたんだけど、あいつの両親は悪魔祓い師をしているらしい」
「え?」
だからといってその噂が本当だともわからない。
(それに私は善良な方の吸血鬼だから殺されることはないんじゃないかしら・・・)
「あいつはお前にとって危険なんだ」
「でも、私はあの人が・・・」
陽介は壁をダンと叩いた。
「あいつだけはダメだ!!」
「・・・それじゃあ、私はどうしたらいいの?灰になって消滅するしかないっていうの?」
陽介の迫力に押されて葵は瞳に涙を浮かべた。
(どうしたらいいの?今更他の人を探している時間はないし・・・)
葵は泣き出した。
陽介は葵を抱きしめながら言った。
「俺じゃダメか?」
「よう・・・すけ・・・?」
陽介から思いもよらない言葉が飛び出した。
陽介はそう言うと葵にキスをした。
浅いキスから深いキスへと変わる。
口腔内で二人の舌が絡まり合う。
「んんぅっ」
どんなに葵が陽介の舌から逃れようとしても逃がしてくれない。
執拗にキスは続く。
「はっ、やぁっ」
その声で我に返り陽介は唇をようやく解放した。
「今まで俺の事を意識してこなかったみたいだから・・・驚かせて悪い」
「・・・」
葵は唇を抑えたまま言葉を失っている。
「俺は、お前の相手になる覚悟はできている。後は、お前が俺を意識して選んでくれればいい」
「でも・・・」
「返事は急がない。俺はお前を守りたいんだ」
そう言い残し陽介は教室から出て行った。
陽介は教室から出て行くとき、水城とすれ違った。
「やっぱりあの女は吸血鬼なんだな」
どうやら一部始終見聞きしていたらしい。
「あいつに手出しをするな。あいつは人間を襲ったりしない」
そう言うと、水城は陽介を蹴り床に転がした。
「~っ」
そうして陽介の胸ぐらを掴んだ。
「この世には化け物と人間の2種類しかいない!」
「あの女は化け物だ!!」
陽介は水城の腕を払いのけ言った。
「葵は違う!お前が何故吸血鬼をそんなに憎んでいるのか知らないが吸血鬼が皆、悪者っていうわけじゃない!!それにあいつは放っておいてももう・・・この世からいなくなるかもしれないんだ」
「そんな事関係ない!俺の妹は吸血鬼に殺されたんだ。俺が吸血鬼を狩るのは奴らへの復讐の為だ」
そういうと、水城は去って行った。
(妹を殺されたからと言って善良な吸血鬼まで殺していいはずない!)
陽介は怒りで体が震えた。
そうしていると今の会話を聞いていた葵が教室から出てきた。
「ほら、俺の言った通りだっただろう?あいつは危険だって」
「・・・今の話、本当なのかしら。妹を殺されたって・・・」
あの怒りのぶつけ方からとても嘘には思えなかった。
「・・・たぶん、本当の事だと思う」
「そう・・・。稀にいるのよ。血に狂う吸血鬼が・・・」
「そうか」
陽介は短く答えた。
それ以上何も言えなかった。
二人は気まずいまま家路についた。
「今日の事は謝らないからな」
「今日の事?」
「キスしたこと」
「!?」
水城の事で頭がいっぱいだった葵はすっかりその事を忘れていた。
「考えておいてくれよな」
「・・・うん、ありがとう」
葵は陽介の優しさに素直にお礼を言った。
「それよりも、明日から水城には気をつけろよ」
「うん」
そう言って二人は分かれた。













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