自殺志願少女と獣の王

えりー

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ティと柚葉

柚葉

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柚葉はティと離れてからどことなく寂しげだった。
ティは今隣国へ行っている。
しかし、今日帰ってくるという知らせがあった。
柚葉は喜んだ。
朋美たちといるのも楽しいひと時だったが自分の居場所はそこではないような気がしていた。
早くティに会いたい。
その想いだけが強く心を支配する。
この感情はきっと恋だ。
12歳でまだ幼いが恋心を抱くこともある。
しかし、他の人達はどうなるのだろう。
あの養殖場にいた人たちは・・・。
あの中には知り合いはいない。
知り合いは両親だけだった。
リハ王が上手くやってくれるとティは言っていた。
色々考えているうちにティたちが帰ってきた。
「柚葉はいるか?」
「はい」
「ちょっと話があるこっちへ来い」
ティは人型だった。
「どうしたの、ティ」
「お前の仲間は今日からこの城で働くことになった」
「え?」
「兄貴が・・・リハ王が皆を買い取ったんだ」
「嘘・・・そんな事出来るの?」
柚葉は驚いた。
買い取った人間は使用人としてこの城で働くことになったらしい。
「ティ、ありがとう」
「お礼なら兄貴に言ってくれ。俺は何もしていない」
「でも、リハ王に話してくれたもん」
「俺がしたのはそのくらいだ」
「ティ、会いたかった」
柚葉はティに飛びついた。
柚葉からいい匂いがする。
未だに分からない事がある。
どうしてあんなにたくさんいた人間の中から柚葉だけを攫ったのだろう。
「ティ、あのね。私、ティの事好きみたい」
「!?」
「何を突然!?」
ティは柄にもなく焦った。
幼い少女から告白され戸惑っている。
幸いここは中庭で他に人も獣人もいない。
「ティ、本気にしてない!」
「当り前だろう、お前のようなガキに好きだと言われても意識できない」
柚葉はムーっとふくれっ面をした。
ティの襟首をつかみ自分の方へ引き寄せた。
そして軽くキスをした。
「な・・・っ」
不意を突かれたティは驚いていた。
「これで”女”として意識してくれる?」
「・・・これだけじゃ足りない」
そう言い意地の悪い笑みを浮かべ自ら柚葉の唇にキスをした。
歯列をなぞり、舌を絡め、口腔内を舐めまわす。
「んんっ!!んー!」
柚葉は息が出来ずに苦しそうにしている。
それを見たティは苦笑した。
「鼻で息しろよ・・・」
ちゅっと音をわざと立てて唇を離した。
「これくらいのキスが出来ないと意識できないな」
ヘタリと柚葉は地面に座り込んだ。
「・・・じゃあ、今のキスで意識してくれたの?」
「え?」
「今のは手本だ」
「せいぜい俺を口説いてみろ」
「うん!頑張る」
「まずは何をしたらいい?」
そう意気込む柚葉が愛らしく見えた。
今なら何となく彼女を選び連れてきたのが分かったような気がした。
ティは癒しを求めていたのだ。
誤算だったのは懐かれているのではなく恋心を抱かれたことだった。
これからいろいろな事で困らされそうだ。
唯奈の事はまだ完全に吹っ切っていない。
そう簡単に吹っ切れるものではない。
しかし、今のキスで確信した。
柚葉はいずれ自分の恋人になると。
それまで変な虫がつかないようにしておかなければならない。
ティは真剣にそう思った。

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