放課後、7日間僕と。

炉宮 飛鳥

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1日目

桜の下で恋をする

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1人で暇なこの帰り道の時間に、俺が彼女に惚れた時のことをお話ししようと思う。

俺が最初に榎本 茉莉を知ったのは入学式の日。

俺より成績の良かった彼女は新入生の代表として挨拶を任せられていた。その時の姿も凛としていて、俺は釘付けになっていた。


「一目惚れしました、付き合って下さい!」


入学式が終わってすぐ、漫画じゃ定番になっている体育館裏に呼び出されて告白を受けた俺。

勿論、榎本ではなく全く知らない女子。

また顔だけで判断する奴からの告白か、なんて思いながら薄っぺらい笑顔で「まだなにも知らないから、ごめんね」と吐いてその場を後にしようとするも、その女の子は俺を引き止める。


「これから知ってください!」

 
それにしても、一目惚れで付き合うって凄いよな。片方は相手のことなにも知らないんだぜ?

これから知るにしても、さすがに時間は必要だし、知ったところでこの子と付き合うことはきっとないだろうと思った俺はまた笑顔を見せて


「良いけど、お付き合いはしませんよ」


そう言って手渡されたラブレターを受け取り、お辞儀をして去って行く。これぐらい王子感出しておけば誰も文句を言わないでしょう。

一番最初…確か中学生時代に告白された時、適当に返事をしすぎて辺りの女子が一度全員的になったことはあった。

多大な努力で、その俺が振った女の子もその取り巻きも俺のことを「王子」と呼んでくれるまでにはなったが、俺には飛んだトラウマでしかなかった。

それからは告白を受ける時ですら自分のキャラを作って接して。それからいまの対応が生まれた。


「お前また告白されたの?初日だけど」


教室に戻ると幼稚園からずっと一緒の幼馴染、藤堂とうどう こんが冷めた目で俺を見ながら聞いてくる。

そんな紺もかなりモテる方ではあるけど、俺と違って素で断りを入れているので、取り巻きも存在はしない。

俺もそうなりたいけど、今更だよなぁなんて思う。そんなことを考えながら窓の外を見ていると、先程挨拶をしていた女の子が桜の木の下に座り、本を読んでいた。


「あ、新入生代表さんじゃん」


俺の目線を辿って、紺も彼女を見てきた。この時から彼女が耳に髪をかける仕草は綺麗だなと思っていたんだけれど、紺にそんなことを言えるわけもなく黙り込んでいた。

数分後、少しヤンチャそうな男子が榎本の居る桜の木の下に来る。その様子を見た彼女が本を閉じ、男子の方をまっすぐ見て綺麗に立つ。


「あの2人、何してんだろう」

「いや、あれ普通に考えて告白でしょ。お前がさっきされたシチュエーションに似てない?」

「…言われてみれば似てる」


…え、嘘だろ告白なのか?と思い、ボーッと見るのをやめて真剣に告白を覗き見する俺。真剣に覗くって、結構最悪だけど。

スッと姿勢よく立ちながら、男子の話を聞いている様子の榎本。何か、告白なんてしなさそうなクラスの中心にいる風の顔をしている男子なのに意外だな…なんて偏見の目を向けて見ている俺。

ちなみに、俺も告白をするような顔ではない、と周りには思われているだろう。悲しい。


「あ、代表さん頭下げた」

「は!?」

「…あれはお断りしますの礼だな」


そう言ってじゃがりこをポリポリと食べ始める紺。こいつはどうしてこんなにも人間観察が上手いんだか…。

もう興味はない、と言わんばかりの紺の表情を見ながら、横目で榎本とあの男子の様子を見てみる。



俺が恋に落ちたのはここからだ。



それは一瞬の出来事だったようにも思える。去っていく男子を見ながら口をパクパクと4回、わかりやすく動かす榎本。

俺にでも分かる「ごめんね」の4文字を吐いて、桜が降ってくるこの俺の教室の高さぐらいまである桜の木を見上げた。

ので、急いで顔を引っ込めた。


「…わっかりやす。」

「うるせぇよ」

「榎本さんだっけ、お前をそんな顔にさせる子が現れるとはね」


クスっと笑って食べ終わったじゃがりこのゴミをゴミ箱までポンっと投げ、1発で決める紺。

彼女とは目は合わなかった。でも、見てたの気付かれたかな…なんて考えながら手元にあった紅茶を一気に飲み干した。


「お前モテるんだし、その力使ってあの子も落とせば?」

「力って何だよ。第一俺、一目惚れなんて初めてだし…」

「何言ってるの?恋自体初めてじゃん」

「ぶっ飛ばすぞ紺」


最悪な高校生活の始まり何て思っていた俺に突然舞い降りた天使みたいな、いやこんな言い方キモって思うかもしれないけど本当にそんな感じだった。

これからの高校生活が、楽しくなりますように。

そう願いながら俺は高校生初日を終えた。
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