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奉行所
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どうしよう。
本当なのだろうか?
「お縄についたって言うならば、奉行所よね?」
すれ違う人達の言葉が痛い。
「あの無愛想な男だろう?」「何かやりそうだと思っていたんだ」「あ、そう言えば、女を睨んでいたのを見たことがあったな」「ひぇ! 恐ろしいな」。
浮世絵が流行した時には、あんなにちやほやしていたくせに!
瓦版を見て、手のひらを返したように清吉の悪口を噂する町人達。
全員に「違う!! 何言っているんだテメェら!」と、怒鳴りつけてやりたいが、今はそれどころではない。
今しなければならないのは、何とかして清吉が無罪だって分かったもらうこと。
「は、早く行かなきゃ」
自然と滲む涙をおさえてガクガクと震える足を叱咤して、お七は奉行所を目指す。
「お七。掴まれ」
祐が肩を貸してくれる。
そんなに離れていないはずの奉行所への道のりが、こんなに遠く感じる。
頭が回らないままたどり着いた奉行所。
長い長い塀の前に、侍が二人立っている。
「どうするよ。とても話なんて聞いてくれそうな雰囲気じゃねぇぞ?」
鋭い眼光の侍の姿に、祐は身震いする。
下手をすれば、共犯だと言いがかり付けられて、祐とお七も捕えられてしまうかもしれない。
「頑張ってみる。ここまでありがとう」
お七は深呼吸して、すくっと立つ。
「お、おい! お七!!」
祐の制止も聞かずにお七は、ずんずんと門番のところへ。
ここで大人しく引くなんて、お七にはあり得ない。
「ちょっと! 清吉さんに会わせてよ!」
お七は怯まずに門番の侍を睨む。
「あ? なんだ?」
「ほら、あれだ。浮世絵で清吉に惚れた口だろう?」
「ああ、なるほどね」
全く違うのだが、そんなことは構わない。
「何でも良いから! ほら、清吉さんは無実なんだから、さっさと離したらどう?」
「無実? そんな証拠がどこにある?」
「証拠は……ないけれども。あの人がそんなことをしないことは、私が良く知っているの!!」
お七の言葉に門番たちが大笑いする。
「娘よ。残念だったな。こちらは証拠があって清吉を捕えたのだ」
「証拠?」
「ああ。そうだ。目撃者がいてな」
『目撃者』と聞いて、お七はドキリとする。
まさか、辰吉が奉行所に垂れ込んだ? 火事の時に火付けの現場に清吉がいるのを見たと?
「目撃者って誰よ?」
「ええっと、誰だ。播磨屋の……平八?」
「「平八!!」」
お七と祐が、驚いて同時に声をあげる。
佐和に強引に交際を迫っていた平八。あの味噌男が、なぜ清吉を犯人だと証言したのか。
平八は、何を見たと奉行所に訴えたのか。
「なんだ。平八も知り合いか。平八が清吉を現場で見たと証言したんだ」
「その辺りは、ほら、瓦版にも出ていただろう?」
言われて、先ほど拾った瓦版をもう一度よく見てみる。
清吉が火付けの犯人だという見出しに驚いて、中身をよく見てていなかった。
瓦版には、確かに、平八が証言したのだと書かれている。
瓦版屋の取材に意気揚々と答えたのだろう平八の様子が見て取れる。
「嘘八百並べやがって!!」
腹が立つが、お七は我慢して内容を読んだ。
本当なのだろうか?
「お縄についたって言うならば、奉行所よね?」
すれ違う人達の言葉が痛い。
「あの無愛想な男だろう?」「何かやりそうだと思っていたんだ」「あ、そう言えば、女を睨んでいたのを見たことがあったな」「ひぇ! 恐ろしいな」。
浮世絵が流行した時には、あんなにちやほやしていたくせに!
瓦版を見て、手のひらを返したように清吉の悪口を噂する町人達。
全員に「違う!! 何言っているんだテメェら!」と、怒鳴りつけてやりたいが、今はそれどころではない。
今しなければならないのは、何とかして清吉が無罪だって分かったもらうこと。
「は、早く行かなきゃ」
自然と滲む涙をおさえてガクガクと震える足を叱咤して、お七は奉行所を目指す。
「お七。掴まれ」
祐が肩を貸してくれる。
そんなに離れていないはずの奉行所への道のりが、こんなに遠く感じる。
頭が回らないままたどり着いた奉行所。
長い長い塀の前に、侍が二人立っている。
「どうするよ。とても話なんて聞いてくれそうな雰囲気じゃねぇぞ?」
鋭い眼光の侍の姿に、祐は身震いする。
下手をすれば、共犯だと言いがかり付けられて、祐とお七も捕えられてしまうかもしれない。
「頑張ってみる。ここまでありがとう」
お七は深呼吸して、すくっと立つ。
「お、おい! お七!!」
祐の制止も聞かずにお七は、ずんずんと門番のところへ。
ここで大人しく引くなんて、お七にはあり得ない。
「ちょっと! 清吉さんに会わせてよ!」
お七は怯まずに門番の侍を睨む。
「あ? なんだ?」
「ほら、あれだ。浮世絵で清吉に惚れた口だろう?」
「ああ、なるほどね」
全く違うのだが、そんなことは構わない。
「何でも良いから! ほら、清吉さんは無実なんだから、さっさと離したらどう?」
「無実? そんな証拠がどこにある?」
「証拠は……ないけれども。あの人がそんなことをしないことは、私が良く知っているの!!」
お七の言葉に門番たちが大笑いする。
「娘よ。残念だったな。こちらは証拠があって清吉を捕えたのだ」
「証拠?」
「ああ。そうだ。目撃者がいてな」
『目撃者』と聞いて、お七はドキリとする。
まさか、辰吉が奉行所に垂れ込んだ? 火事の時に火付けの現場に清吉がいるのを見たと?
「目撃者って誰よ?」
「ええっと、誰だ。播磨屋の……平八?」
「「平八!!」」
お七と祐が、驚いて同時に声をあげる。
佐和に強引に交際を迫っていた平八。あの味噌男が、なぜ清吉を犯人だと証言したのか。
平八は、何を見たと奉行所に訴えたのか。
「なんだ。平八も知り合いか。平八が清吉を現場で見たと証言したんだ」
「その辺りは、ほら、瓦版にも出ていただろう?」
言われて、先ほど拾った瓦版をもう一度よく見てみる。
清吉が火付けの犯人だという見出しに驚いて、中身をよく見てていなかった。
瓦版には、確かに、平八が証言したのだと書かれている。
瓦版屋の取材に意気揚々と答えたのだろう平八の様子が見て取れる。
「嘘八百並べやがって!!」
腹が立つが、お七は我慢して内容を読んだ。
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