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1巻
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第一章 拾ったのは猫かもしれない
七年付き合った彼氏の浮気が発覚して、彼氏の左頬を右ストレートでぶん殴って別れた雨の日の夜。会社帰りに黒い塊を拾った。
電柱の横にあった、ゴミ袋と見紛うばかりのその塊。黒い毛むくじゃらで目は金色。シッポは長い。
雨に濡れてドロドロだから分からないが、たぶん猫だろう。サイズ的にも。そう思って拾ったのだが……
私の家は、築年数二十年ほどのワンルーム。かろうじて風呂とトイレはセパレートだが、必要最低限の設備があるだけの六畳一間。でも一人暮らしにはこれで十分だ。
古いマンションだから、ペット可。なので猫を飼っても問題はない。
「とりあえず。シャワーかな」
私はいらなくなったタオルを用意して、その黒い物体を風呂場に搬送する。
拾った猫というのは、たいていノミとダニの温床だ。猫と思しき生き物を拾ったならば、速やかに風呂に入れて綺麗にしないと、部屋がノミとダニまみれになる。
「うう……」
黒い塊がうめく。風呂が嫌なのだろうか……
「仕方ないでしょ。汚れているんだから……って、うう? 猫って普通、ニャアじゃない?」
「じゃあ、ニャア」
「じゃあってなんだよ。じゃあって」
「ニャア」
「なんだ、こいつ」
猫が人語を理解するなんてことが、あるのだろうか。
アニメでは、そんなシチュエーションを見たことがある。イケメンに育ったり、宇宙人だったり、美味しいご飯を作ってくれたり。こいつが? まさか。
とにかく、外は雨。この小さな塊は生き物。得体が知れないからって、ポイ捨てするのも可哀想か。イケメンに育つかもしれないし。
綺麗にしてから、明るい部屋で全体をよく見てみて、そこから考えよう。
私は床にへばりついている物体をむんずとつかんで、風呂場につれていき、シャワーを浴びせた。
お風呂はどうしよう。この毛むくじゃらは、さすがに湯船にはつけられないよね。でも、今日はゆっくりと湯に浸かりたい気分だ。
私は、毛むくじゃらを洗いながら、湯船にお湯を張る。
「うわ、汚ね。ドロドロだよ」
排水口に向かって、床に黒い汚れの筋がつく。
「わ、白黒の縞々だ」
汚れが取れれば、姿がはっきりしてくる。
虎柄……っていうことは、やっぱり猫か。肉球あるし。
さっきこの生き物が喋ったのは、聞き間違いか?
タオルで虎柄の塊を拭いて、自分も風呂に入る。
湯船につかると、身も心もほぐれて、細かいことは気にならなくなってくる。
ま、いいか。
彼氏と悲しい別れをした当日に拾ったのも、何かの縁だろ。
風呂から上がると、先に部屋に戻っていた縞々の猫らしきものが、勝手に冷蔵庫からビールを取り出して飲んでいる。
腹を上に向けながら壁にもたれて座って、器用に両手の肉球で五百ミリリットルの缶ビールを傾けて、美味そうにプハーッと、息を吐いている。どこのオヤジだよ。
しかも、あれは発泡酒ではない、お気に入りの極上ビール。一本しかない。
「彼氏と別れた残念な気分を、せっかく秘蔵のそれで紛らわそうとしていたのに、なんで勝手に飲んでいるんだ」
私が抗議の声を上げると、毛むくじゃらが口を開いた。
「他にろくなものがないのだから仕方ないだろう。風呂上がりに水道水も味気ない。いいか。猫を拾えば、普通、猫用のミルクやら美味しい猫様スティックやらを買っておくべきだろうが」
やっぱりこの生き物は人の言葉を理解して喋っている。
「ずいぶんな態度だな。毛むくじゃら。お猫様なら、もっと可愛らしい態度を取っておくべきだろう。どこに主人のビールを風呂上がりにくすねる猫がいるんだ」
「ふ。人間なぞ、猫の前では下僕に過ぎんのだ!」
「くっそ、何を言うか。そもそも、お前が猫かどうかが怪しいわ」
彼氏に振られて不機嫌だった上に、猫にビールを取られて、つい口調が悪くなる。
猫は普通ビールはくすねない。言い返しもしない。それが私の常識だ。
「はいはい。ニャア。これでいいのだろう?」
面倒くさそうに、毛むくじゃらが猫の鳴きまねをする。
「はあ? 今更、ニャアと言われて、どこのアホが、『わあ、可愛い♪ やっぱり猫ちゃんだぁ♪』なんて言うか。正体を明かせ」
「そうは言われてもな。儂は猫だと思って生きてきたし、周囲もそう言っていた。ならば、猫でいいではないか。猫様スティック好きだし」
猫様スティックは好きなんだ。
猫好き人間の英知を集結させ完成した、全猫が愛するという至高の一品、猫様スティック。
じゃあ……猫か?
見た目は、確かに猫だ。三角の耳、縞々の柄。少し毛足は長いから、ブラッシングしてやらないと駄目だろう。肉球はついている。シッポも長くフワフワ。
「ね、猫ぉ……? いやいや、猫は人語を話さんだろう」
「五年も人間と共に生活しておるのだぞ? いい加減覚えるわ。留学生だって海外に五年も住めば、多少は話せるようになるし、赤ん坊だって言葉を話すようになる。違うか?」
「違わないけれど……でも……」
「この世の全ての猫に会ったわけではなかろう。せいぜい、十……多くて二十匹くらいだろうが。それで、よく話す猫がいないと言い切れる」
毛むくじゃらが、私を論破して嘲笑する。
こいつ。ムカつく。
「でも、やっぱり猫ではない気がする……」
納得ができない。だって、私の常識とは掛け離れている。
「それお前の感想であろう?」
猫もどきにそう言われて、思わず頭をぶっ叩いてしまった。
「この暴力女。口論で勝てないからって叩きおって!」
猫もどきが頭をさする。
さすがに小さな生き物相手に、そんなに力は入れていないから、怪我はしていないはず。
「うるさい。この毛むくじゃら」
私はそれだけ返した。
埒が明かない言い争いをしていても意味がない。
私はコンビニで手に入れた弁当をテーブルに置いて、食べ始める。
ちくしょう、風呂上がりの水道水は味気ない。
冷めた弁当を食べながら、毛むくじゃらを眺める。
毛むくじゃらは勝手にテレビをつけて、ビール片手に時代劇を観ている。
観ているのは『成敗将軍』――とっても有名な定番の時代劇。身分を隠した将軍様が、事件を解決し悪漢を成敗する物語だ。
こんなのが好きなのだろうか? いちいちオヤジ臭い。
だが、七年も付き合った彼氏と別れた夜。
誰かがいてくれるのはありがたい。きっと、一人なら、泣いてしまっていただろう。
今日、私は見てしまったのだ。
会社の給湯室で、彼氏の伊川正樹が、後輩の松本幸恵と抱き合ってキスしているのを。
『今日、ホテルディナー楽しみ。ずっと行きたかったの』
『だろ? 俺、幸恵ちゃんのために頑張ったんだ』
そして、幸恵と正樹はそんな話もしていた。
正樹、覚えている? 今日は私の誕生日。
一緒に過ごせると思っていたのに、朝、メールの一言で正樹にドタキャンされた。
泣けてくる。
七年。情熱的に始まった恋ではなかったけれども、五年経ったあたりから、この人と結婚するのかななんて、なんとなく思っていた。
これまでの七年の積み重ねが崩れていくのに我慢できなくなって、幸恵の前で正樹をぶん殴ってしまった。
『そんなに欲しかったら、こんな男、ノシつけてくれてやるわ!』
そう幸恵に啖呵を切って帰ってきた。
悔しい。もう一発ぶん殴るべきだったか。
「女、名前は?」
黙々と弁当を食べる私に、毛むくじゃらが聞く。
「は? なんであんたに教えないといけないのよ」
「これから共に暮らすのであろう? なら、名前くらい知らないと、不便だろうが」
問答無用で居座る気らしい。ムカつく。
だが、小学生のときに飼っていた猫のミィちゃんの墓に、私は誓った。
動物を簡単に見捨てる人間にはならないと。
ミィちゃんは、捨て猫だった。
箱に押し込まれて空き地に放り出されていたのを、私が見つけて連れ帰った。
必死で看病したのに、ミィちゃんは弱った体を回復できずに、拾ってから一ヶ月であっけなく死んでしまった。そのミィちゃんへの誓いを破るわけにはいかない。
そうでなければ、こんな変なやつ追い出しているか、警察に突き出しているか。
「本田薫」
名前ぐらいはいいかと思って、毛むくじゃらに教える。
「そうか、薫。改めて、よろしくな」
「呼び捨てかよ」
でもまあ、挨拶をするくらいの常識はあるらしい。
「あんたは?」
「ない」
「ないわけないでしょ。人間の言葉を話すということは、誰かに飼われていたんでしょ?」
「一緒に住んでいた婆さんがいた。呼び名はあったが、名前はなかった」
どういうことだろう。黙って毛むくじゃらの話を聞く。
「源助さんと呼ばれていた」
「源助……また、古臭い名前」
「その婆さんの伴侶、爺さんの名前だ。婆さんは体を壊して寝込んでいて、さらにぼけていてな。それで儂を死んだ爺さんと間違えて、ずっと源助さんと呼んでいた」
そんな悲しい過去が……
毛むくじゃらも、本当は自分の名前が欲しかったのではないだろうか……
「そのお婆さんは……」
まさか、死んだ?
大切に飼ってくれていたお婆さんが亡くなったから、野良猫になった?
「うむ。五年の間、儂と話している内にみるみる回復して、今頃は世界一周旅行に出掛け、ガンガンに遊んでいるはずだ。一緒に行こうと誘われたのだが、世界一周など、空港検疫がうっとおしすぎて逃げ出した」
なんだ。元気なんだ。私の同情、返してほしい。
「だから、薫がつけてくれ。名前」
「ええ。面倒くさい……毛むくじゃら。毛玉……化け猫……猫又……」
思いつく単語をつらつらと並べる。
「却下だ。なんて名前だ。だいぶ儂に失礼だ」
居候の身で、毛むくじゃらは偉そうだ。
「そこのスマホの待ち受け、ほら、イケメンの写真」
毛むくじゃらが指さしたのは、私のスマホ。
愛しの推し様の写真が待ち受けに設定されている。
「ええ? ティミー樣?」
実力派イケメン俳優。ご尊顔が眩しい。
「そう。ティミーなんていいではないか。エレガントな雰囲気の儂にぴったりだ」
「はあ? おこがましいわ。ずうずうしい」
どうしてこんな猫もどきに推し様の名前をつけないといけないのか。
……もどき?
「モドキ。これで決定。いいじゃない」
なんだ。しっくりくる。うん。これでいい。
猫もどきのおかしな生物につけるには、ぴったりな名前だ。
「なんてネーミングセンスだ。やれやれ」
モドキが首を横に振りながらため息をつく。
さらに秘蔵のタラバガニの缶詰を、キッチンの棚から見つけて、勝手に開けて食べ出した。
こうして、私とモドキの奇妙な共同生活が始まったのだった。
♢ ♢ ♢
翌朝、最高にラグジュアリーなモフモフに触れて、目を覚ます。
温かく、毛足の長い毛布……? いや、モドキだ。
ハッと我に返ってスマホで時間を確認すると、あと十分で出発の時間。ヤバイ。
慌てて顔を洗って簡単に化粧して、着替えて準備をする。
「なんじゃ、騒々しい」
モドキがのんびり起きてくる。
羨ましい。来世は猫に生まれたい。
「あんた、ここで留守番してて。帰りにちゃんと猫様スティック買ってきてあげるから」
そうモドキに言い残して、慌てて家を出る。
今日は、絶対に休めない。半休も嫌だ。
あんなことがあった次の日に休むだなんて、正樹と別れてショックを受けているみたいで腹が立つ。負けた感じがする。
猛然とダッシュして、なんとか遅刻は免れたが、急いでした化粧はボロボロだったので、女子トイレで化粧直しをする。
よし。
モドキのおかげで、昨日は泣く暇もなかったので、目は腫れてない。
ラグジュアリーなモフモフ添い寝で、睡眠もばっちりだ。化粧ノリも悪くない。
完璧だ! 私!
女子トイレから戻り、平然とした顔で仕事をする。
正樹とあんな別れをして、ショックを受けているなんて、一ミリも誰にも思われたくない。
「薫。ちょっと、いい?」
お昼の休憩中、廊下を歩いていたときに、正樹に声を掛けられた。
「なんでしょう? 伊川さんに御用はありませんが」
にこやかに、冷静に。そう自分の心に言い聞かせて、返答する。
「いいから」
そう言って、正樹に強引に連れていかれたのは、資料室だ。
今さら、なんの話があるというのだろう? 謝ってくれるとか?
「なんで俺の番号、着信拒否なの? 急すぎだろ?」
正樹が文句を言ってくる。
「もう、別れたんだから当然です。さっさと松本さんと付き合ったら?」
私は、精一杯の強がりを吐く。
「幸恵ちゃんには振られたよ」
「は?」
「お前のせいだ。二股掛けていたんだってバレて、幸恵ちゃんに怒られた」
「私のせい……」
何を言っているのだろう、この男は。
そもそも、二股掛けるのが悪いし、七年付き合っていた私が浮気相手みたいな扱い? おかしいだろ。幸恵が入社してきたのは、二年前だ。
「なんであんな派手な怒り方したんだよ。もっと可愛げがあったら、まあ俺も七年の情があるから、これからも一緒にいてもいいかなと思ってたのに。ちょっと、常識がおかしいんじゃないの?」
うまく正樹の言葉が頭に入ってこない。
私が黙り込んでしまったのをいいことに、正樹が勝手なことを次々と言い出す。
そうか。七年の間に、私は正樹の中で、すっかりキープの都合のいい女に成り下がっていたんだ。
私が結婚なんてことをおぼろげに視野に入れている間に、正樹の心は既に他の女に向いていたのだ。私との関係は、別れる理由がないから適当に継続させていただけ。
あいつ俺に惚れているし、多少の融通が利くから便利なんだ、そんなことも考えていたかもしれない。
「ちゃんと責任を取ってくれよ。これ、傷害罪だよ? まあ、訴えはしないから。その代わり、うまく幸恵ちゃんに説明してくれればそれでいいからさ」
責任? 傷害罪? 代わりに? 幸恵に説明?
は?
七年もの時間を、こんな下らない男に費やしてきたのかと思うと、頭がおかしくなりそうだ……
だんだんと怒りが込み上げてくる。
私の脳内でゴングが鳴る。
『顎を狙え!』
……脳内のセコンドが、リングの外で叫んでいる。
『アッパーカットだ。脇をしめて、相手から目を逸らすな!』
……やたらモドキに似た脳内セコンドが、肩からタオルを掛けて、ピンクの肉球でポフポフとミットを叩きながら指示を出す。
『拳を捻って、腰を入れて打ち込め!』
指示に従って私は狙いを定める。
『コークスクリュー!』
渾身の一撃を、正樹の顎にお見舞いする。
「訴える? ちゃんちゃらおかしいわ。勝手にすればいいわ」
私はフンッと鼻で笑って、資料室を後にした。
正樹は資料室の床に突っ伏していたけれど、所詮女の力。大した怪我もしていないだろう。もう、無視だ。無視。
すっきりとした気分で、いつも以上にサクサク業務に従事して、心も軽く定時で退社した。
帰りに猫様スティックを買わねば。
まだ昨日会ったばかりだが、モドキは飼いやすい部類に入るだろう。
トイレは人間用のものを難なく使いこなせると言っていたし、缶詰も自分で開けて食べる。
本当に猫か? と疑いたくなる。
まあ、見た目は長毛種の猫で普通に可愛い。
だが、徹底的に生意気でオヤジ臭い。
そんなことを考えながら、猫様スティックを購入し、あっという間に家に着いた。
手を洗い、鞄と上着をしまってから、モドキに問い掛ける。
「モドキ、あんたさあ、何か家事できない? ほら、小説とかに出てくる人語を話す動物はさ、ケーキを焼いたり森でレストランを開いたりするんだよ。そんな風にビール片手に時代劇観ているだけの猫もどきは、あんただけでしょ」
「ケーキだと? レストランだと?」
私がそう主張をすると、モドキが鼻で笑う。
「何よ。何が変なの?」
「この愛らしい肉球を見よ。この手で包丁やフライパンが握れるとでも思うのか? しかも、このラグジュアリーなフワフワ。どんな料理を作っても、猫毛が間違いなく混入するだろう」
確かに。悔しいが一理ある。
「それに、玉ねぎやネギを誤って食べてしまったらどうする。ぽっくりあの世行きだぞ」
そこは猫と同じなんだ。ビールはガンガン飲むくせに。
じゃあ、可愛い動物のレストランなんてものは、我が家では無理らしい。残念だ。
「猫というものはだな、古代エジプトより、人間に崇めたてまつられて、優雅にコタツでぬくぬくと丸くなっているのがデフォなのだ」
「待て。エジプトにコタツはないだろう? それに、モドキが猫だとは限らない」
「まだ儂を猫だと認めんのか。面倒くさいやつだ。では、薫の思う猫の定義とはなんだ?」
「猫の定義……ねこ、猫。耳が三角で、毛がフワフワ。ニャアと鳴いて可愛い」
改めて定義と言われると困る。そんなの考えたこともなかった。
だって、猫は猫なのだから。
「はいはい、ニャア、ニャア。これで、全ての条件を満たしたぞ」
ケッと笑って、モドキは私があげた猫様スティックを開けて舐める。
美味しそうに目を細めて、両手で大事そうに猫様スティックを持つ姿は猫っぽくてちょっと可愛い。猫好きの心をくすぐる。
「ムカつく!」
そう言って、私はモドキのもちもちほっぺをグリグリといじる。
触り心地は、ラグジュアリー。
温かくて柔らかい。モフモフの毛がフワッと手を包んで、なんとも言えない触り心地だ。
ま、いいか~。これで~。
驚異のモフモフ触感に、脳が機能しなくなる。
完全にモドキの術中にはまっている気がしないでもないのだが、いいのか?
七年付き合った彼氏の浮気が発覚して、彼氏の左頬を右ストレートでぶん殴って別れた雨の日の夜。会社帰りに黒い塊を拾った。
電柱の横にあった、ゴミ袋と見紛うばかりのその塊。黒い毛むくじゃらで目は金色。シッポは長い。
雨に濡れてドロドロだから分からないが、たぶん猫だろう。サイズ的にも。そう思って拾ったのだが……
私の家は、築年数二十年ほどのワンルーム。かろうじて風呂とトイレはセパレートだが、必要最低限の設備があるだけの六畳一間。でも一人暮らしにはこれで十分だ。
古いマンションだから、ペット可。なので猫を飼っても問題はない。
「とりあえず。シャワーかな」
私はいらなくなったタオルを用意して、その黒い物体を風呂場に搬送する。
拾った猫というのは、たいていノミとダニの温床だ。猫と思しき生き物を拾ったならば、速やかに風呂に入れて綺麗にしないと、部屋がノミとダニまみれになる。
「うう……」
黒い塊がうめく。風呂が嫌なのだろうか……
「仕方ないでしょ。汚れているんだから……って、うう? 猫って普通、ニャアじゃない?」
「じゃあ、ニャア」
「じゃあってなんだよ。じゃあって」
「ニャア」
「なんだ、こいつ」
猫が人語を理解するなんてことが、あるのだろうか。
アニメでは、そんなシチュエーションを見たことがある。イケメンに育ったり、宇宙人だったり、美味しいご飯を作ってくれたり。こいつが? まさか。
とにかく、外は雨。この小さな塊は生き物。得体が知れないからって、ポイ捨てするのも可哀想か。イケメンに育つかもしれないし。
綺麗にしてから、明るい部屋で全体をよく見てみて、そこから考えよう。
私は床にへばりついている物体をむんずとつかんで、風呂場につれていき、シャワーを浴びせた。
お風呂はどうしよう。この毛むくじゃらは、さすがに湯船にはつけられないよね。でも、今日はゆっくりと湯に浸かりたい気分だ。
私は、毛むくじゃらを洗いながら、湯船にお湯を張る。
「うわ、汚ね。ドロドロだよ」
排水口に向かって、床に黒い汚れの筋がつく。
「わ、白黒の縞々だ」
汚れが取れれば、姿がはっきりしてくる。
虎柄……っていうことは、やっぱり猫か。肉球あるし。
さっきこの生き物が喋ったのは、聞き間違いか?
タオルで虎柄の塊を拭いて、自分も風呂に入る。
湯船につかると、身も心もほぐれて、細かいことは気にならなくなってくる。
ま、いいか。
彼氏と悲しい別れをした当日に拾ったのも、何かの縁だろ。
風呂から上がると、先に部屋に戻っていた縞々の猫らしきものが、勝手に冷蔵庫からビールを取り出して飲んでいる。
腹を上に向けながら壁にもたれて座って、器用に両手の肉球で五百ミリリットルの缶ビールを傾けて、美味そうにプハーッと、息を吐いている。どこのオヤジだよ。
しかも、あれは発泡酒ではない、お気に入りの極上ビール。一本しかない。
「彼氏と別れた残念な気分を、せっかく秘蔵のそれで紛らわそうとしていたのに、なんで勝手に飲んでいるんだ」
私が抗議の声を上げると、毛むくじゃらが口を開いた。
「他にろくなものがないのだから仕方ないだろう。風呂上がりに水道水も味気ない。いいか。猫を拾えば、普通、猫用のミルクやら美味しい猫様スティックやらを買っておくべきだろうが」
やっぱりこの生き物は人の言葉を理解して喋っている。
「ずいぶんな態度だな。毛むくじゃら。お猫様なら、もっと可愛らしい態度を取っておくべきだろう。どこに主人のビールを風呂上がりにくすねる猫がいるんだ」
「ふ。人間なぞ、猫の前では下僕に過ぎんのだ!」
「くっそ、何を言うか。そもそも、お前が猫かどうかが怪しいわ」
彼氏に振られて不機嫌だった上に、猫にビールを取られて、つい口調が悪くなる。
猫は普通ビールはくすねない。言い返しもしない。それが私の常識だ。
「はいはい。ニャア。これでいいのだろう?」
面倒くさそうに、毛むくじゃらが猫の鳴きまねをする。
「はあ? 今更、ニャアと言われて、どこのアホが、『わあ、可愛い♪ やっぱり猫ちゃんだぁ♪』なんて言うか。正体を明かせ」
「そうは言われてもな。儂は猫だと思って生きてきたし、周囲もそう言っていた。ならば、猫でいいではないか。猫様スティック好きだし」
猫様スティックは好きなんだ。
猫好き人間の英知を集結させ完成した、全猫が愛するという至高の一品、猫様スティック。
じゃあ……猫か?
見た目は、確かに猫だ。三角の耳、縞々の柄。少し毛足は長いから、ブラッシングしてやらないと駄目だろう。肉球はついている。シッポも長くフワフワ。
「ね、猫ぉ……? いやいや、猫は人語を話さんだろう」
「五年も人間と共に生活しておるのだぞ? いい加減覚えるわ。留学生だって海外に五年も住めば、多少は話せるようになるし、赤ん坊だって言葉を話すようになる。違うか?」
「違わないけれど……でも……」
「この世の全ての猫に会ったわけではなかろう。せいぜい、十……多くて二十匹くらいだろうが。それで、よく話す猫がいないと言い切れる」
毛むくじゃらが、私を論破して嘲笑する。
こいつ。ムカつく。
「でも、やっぱり猫ではない気がする……」
納得ができない。だって、私の常識とは掛け離れている。
「それお前の感想であろう?」
猫もどきにそう言われて、思わず頭をぶっ叩いてしまった。
「この暴力女。口論で勝てないからって叩きおって!」
猫もどきが頭をさする。
さすがに小さな生き物相手に、そんなに力は入れていないから、怪我はしていないはず。
「うるさい。この毛むくじゃら」
私はそれだけ返した。
埒が明かない言い争いをしていても意味がない。
私はコンビニで手に入れた弁当をテーブルに置いて、食べ始める。
ちくしょう、風呂上がりの水道水は味気ない。
冷めた弁当を食べながら、毛むくじゃらを眺める。
毛むくじゃらは勝手にテレビをつけて、ビール片手に時代劇を観ている。
観ているのは『成敗将軍』――とっても有名な定番の時代劇。身分を隠した将軍様が、事件を解決し悪漢を成敗する物語だ。
こんなのが好きなのだろうか? いちいちオヤジ臭い。
だが、七年も付き合った彼氏と別れた夜。
誰かがいてくれるのはありがたい。きっと、一人なら、泣いてしまっていただろう。
今日、私は見てしまったのだ。
会社の給湯室で、彼氏の伊川正樹が、後輩の松本幸恵と抱き合ってキスしているのを。
『今日、ホテルディナー楽しみ。ずっと行きたかったの』
『だろ? 俺、幸恵ちゃんのために頑張ったんだ』
そして、幸恵と正樹はそんな話もしていた。
正樹、覚えている? 今日は私の誕生日。
一緒に過ごせると思っていたのに、朝、メールの一言で正樹にドタキャンされた。
泣けてくる。
七年。情熱的に始まった恋ではなかったけれども、五年経ったあたりから、この人と結婚するのかななんて、なんとなく思っていた。
これまでの七年の積み重ねが崩れていくのに我慢できなくなって、幸恵の前で正樹をぶん殴ってしまった。
『そんなに欲しかったら、こんな男、ノシつけてくれてやるわ!』
そう幸恵に啖呵を切って帰ってきた。
悔しい。もう一発ぶん殴るべきだったか。
「女、名前は?」
黙々と弁当を食べる私に、毛むくじゃらが聞く。
「は? なんであんたに教えないといけないのよ」
「これから共に暮らすのであろう? なら、名前くらい知らないと、不便だろうが」
問答無用で居座る気らしい。ムカつく。
だが、小学生のときに飼っていた猫のミィちゃんの墓に、私は誓った。
動物を簡単に見捨てる人間にはならないと。
ミィちゃんは、捨て猫だった。
箱に押し込まれて空き地に放り出されていたのを、私が見つけて連れ帰った。
必死で看病したのに、ミィちゃんは弱った体を回復できずに、拾ってから一ヶ月であっけなく死んでしまった。そのミィちゃんへの誓いを破るわけにはいかない。
そうでなければ、こんな変なやつ追い出しているか、警察に突き出しているか。
「本田薫」
名前ぐらいはいいかと思って、毛むくじゃらに教える。
「そうか、薫。改めて、よろしくな」
「呼び捨てかよ」
でもまあ、挨拶をするくらいの常識はあるらしい。
「あんたは?」
「ない」
「ないわけないでしょ。人間の言葉を話すということは、誰かに飼われていたんでしょ?」
「一緒に住んでいた婆さんがいた。呼び名はあったが、名前はなかった」
どういうことだろう。黙って毛むくじゃらの話を聞く。
「源助さんと呼ばれていた」
「源助……また、古臭い名前」
「その婆さんの伴侶、爺さんの名前だ。婆さんは体を壊して寝込んでいて、さらにぼけていてな。それで儂を死んだ爺さんと間違えて、ずっと源助さんと呼んでいた」
そんな悲しい過去が……
毛むくじゃらも、本当は自分の名前が欲しかったのではないだろうか……
「そのお婆さんは……」
まさか、死んだ?
大切に飼ってくれていたお婆さんが亡くなったから、野良猫になった?
「うむ。五年の間、儂と話している内にみるみる回復して、今頃は世界一周旅行に出掛け、ガンガンに遊んでいるはずだ。一緒に行こうと誘われたのだが、世界一周など、空港検疫がうっとおしすぎて逃げ出した」
なんだ。元気なんだ。私の同情、返してほしい。
「だから、薫がつけてくれ。名前」
「ええ。面倒くさい……毛むくじゃら。毛玉……化け猫……猫又……」
思いつく単語をつらつらと並べる。
「却下だ。なんて名前だ。だいぶ儂に失礼だ」
居候の身で、毛むくじゃらは偉そうだ。
「そこのスマホの待ち受け、ほら、イケメンの写真」
毛むくじゃらが指さしたのは、私のスマホ。
愛しの推し様の写真が待ち受けに設定されている。
「ええ? ティミー樣?」
実力派イケメン俳優。ご尊顔が眩しい。
「そう。ティミーなんていいではないか。エレガントな雰囲気の儂にぴったりだ」
「はあ? おこがましいわ。ずうずうしい」
どうしてこんな猫もどきに推し様の名前をつけないといけないのか。
……もどき?
「モドキ。これで決定。いいじゃない」
なんだ。しっくりくる。うん。これでいい。
猫もどきのおかしな生物につけるには、ぴったりな名前だ。
「なんてネーミングセンスだ。やれやれ」
モドキが首を横に振りながらため息をつく。
さらに秘蔵のタラバガニの缶詰を、キッチンの棚から見つけて、勝手に開けて食べ出した。
こうして、私とモドキの奇妙な共同生活が始まったのだった。
♢ ♢ ♢
翌朝、最高にラグジュアリーなモフモフに触れて、目を覚ます。
温かく、毛足の長い毛布……? いや、モドキだ。
ハッと我に返ってスマホで時間を確認すると、あと十分で出発の時間。ヤバイ。
慌てて顔を洗って簡単に化粧して、着替えて準備をする。
「なんじゃ、騒々しい」
モドキがのんびり起きてくる。
羨ましい。来世は猫に生まれたい。
「あんた、ここで留守番してて。帰りにちゃんと猫様スティック買ってきてあげるから」
そうモドキに言い残して、慌てて家を出る。
今日は、絶対に休めない。半休も嫌だ。
あんなことがあった次の日に休むだなんて、正樹と別れてショックを受けているみたいで腹が立つ。負けた感じがする。
猛然とダッシュして、なんとか遅刻は免れたが、急いでした化粧はボロボロだったので、女子トイレで化粧直しをする。
よし。
モドキのおかげで、昨日は泣く暇もなかったので、目は腫れてない。
ラグジュアリーなモフモフ添い寝で、睡眠もばっちりだ。化粧ノリも悪くない。
完璧だ! 私!
女子トイレから戻り、平然とした顔で仕事をする。
正樹とあんな別れをして、ショックを受けているなんて、一ミリも誰にも思われたくない。
「薫。ちょっと、いい?」
お昼の休憩中、廊下を歩いていたときに、正樹に声を掛けられた。
「なんでしょう? 伊川さんに御用はありませんが」
にこやかに、冷静に。そう自分の心に言い聞かせて、返答する。
「いいから」
そう言って、正樹に強引に連れていかれたのは、資料室だ。
今さら、なんの話があるというのだろう? 謝ってくれるとか?
「なんで俺の番号、着信拒否なの? 急すぎだろ?」
正樹が文句を言ってくる。
「もう、別れたんだから当然です。さっさと松本さんと付き合ったら?」
私は、精一杯の強がりを吐く。
「幸恵ちゃんには振られたよ」
「は?」
「お前のせいだ。二股掛けていたんだってバレて、幸恵ちゃんに怒られた」
「私のせい……」
何を言っているのだろう、この男は。
そもそも、二股掛けるのが悪いし、七年付き合っていた私が浮気相手みたいな扱い? おかしいだろ。幸恵が入社してきたのは、二年前だ。
「なんであんな派手な怒り方したんだよ。もっと可愛げがあったら、まあ俺も七年の情があるから、これからも一緒にいてもいいかなと思ってたのに。ちょっと、常識がおかしいんじゃないの?」
うまく正樹の言葉が頭に入ってこない。
私が黙り込んでしまったのをいいことに、正樹が勝手なことを次々と言い出す。
そうか。七年の間に、私は正樹の中で、すっかりキープの都合のいい女に成り下がっていたんだ。
私が結婚なんてことをおぼろげに視野に入れている間に、正樹の心は既に他の女に向いていたのだ。私との関係は、別れる理由がないから適当に継続させていただけ。
あいつ俺に惚れているし、多少の融通が利くから便利なんだ、そんなことも考えていたかもしれない。
「ちゃんと責任を取ってくれよ。これ、傷害罪だよ? まあ、訴えはしないから。その代わり、うまく幸恵ちゃんに説明してくれればそれでいいからさ」
責任? 傷害罪? 代わりに? 幸恵に説明?
は?
七年もの時間を、こんな下らない男に費やしてきたのかと思うと、頭がおかしくなりそうだ……
だんだんと怒りが込み上げてくる。
私の脳内でゴングが鳴る。
『顎を狙え!』
……脳内のセコンドが、リングの外で叫んでいる。
『アッパーカットだ。脇をしめて、相手から目を逸らすな!』
……やたらモドキに似た脳内セコンドが、肩からタオルを掛けて、ピンクの肉球でポフポフとミットを叩きながら指示を出す。
『拳を捻って、腰を入れて打ち込め!』
指示に従って私は狙いを定める。
『コークスクリュー!』
渾身の一撃を、正樹の顎にお見舞いする。
「訴える? ちゃんちゃらおかしいわ。勝手にすればいいわ」
私はフンッと鼻で笑って、資料室を後にした。
正樹は資料室の床に突っ伏していたけれど、所詮女の力。大した怪我もしていないだろう。もう、無視だ。無視。
すっきりとした気分で、いつも以上にサクサク業務に従事して、心も軽く定時で退社した。
帰りに猫様スティックを買わねば。
まだ昨日会ったばかりだが、モドキは飼いやすい部類に入るだろう。
トイレは人間用のものを難なく使いこなせると言っていたし、缶詰も自分で開けて食べる。
本当に猫か? と疑いたくなる。
まあ、見た目は長毛種の猫で普通に可愛い。
だが、徹底的に生意気でオヤジ臭い。
そんなことを考えながら、猫様スティックを購入し、あっという間に家に着いた。
手を洗い、鞄と上着をしまってから、モドキに問い掛ける。
「モドキ、あんたさあ、何か家事できない? ほら、小説とかに出てくる人語を話す動物はさ、ケーキを焼いたり森でレストランを開いたりするんだよ。そんな風にビール片手に時代劇観ているだけの猫もどきは、あんただけでしょ」
「ケーキだと? レストランだと?」
私がそう主張をすると、モドキが鼻で笑う。
「何よ。何が変なの?」
「この愛らしい肉球を見よ。この手で包丁やフライパンが握れるとでも思うのか? しかも、このラグジュアリーなフワフワ。どんな料理を作っても、猫毛が間違いなく混入するだろう」
確かに。悔しいが一理ある。
「それに、玉ねぎやネギを誤って食べてしまったらどうする。ぽっくりあの世行きだぞ」
そこは猫と同じなんだ。ビールはガンガン飲むくせに。
じゃあ、可愛い動物のレストランなんてものは、我が家では無理らしい。残念だ。
「猫というものはだな、古代エジプトより、人間に崇めたてまつられて、優雅にコタツでぬくぬくと丸くなっているのがデフォなのだ」
「待て。エジプトにコタツはないだろう? それに、モドキが猫だとは限らない」
「まだ儂を猫だと認めんのか。面倒くさいやつだ。では、薫の思う猫の定義とはなんだ?」
「猫の定義……ねこ、猫。耳が三角で、毛がフワフワ。ニャアと鳴いて可愛い」
改めて定義と言われると困る。そんなの考えたこともなかった。
だって、猫は猫なのだから。
「はいはい、ニャア、ニャア。これで、全ての条件を満たしたぞ」
ケッと笑って、モドキは私があげた猫様スティックを開けて舐める。
美味しそうに目を細めて、両手で大事そうに猫様スティックを持つ姿は猫っぽくてちょっと可愛い。猫好きの心をくすぐる。
「ムカつく!」
そう言って、私はモドキのもちもちほっぺをグリグリといじる。
触り心地は、ラグジュアリー。
温かくて柔らかい。モフモフの毛がフワッと手を包んで、なんとも言えない触り心地だ。
ま、いいか~。これで~。
驚異のモフモフ触感に、脳が機能しなくなる。
完全にモドキの術中にはまっている気がしないでもないのだが、いいのか?
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