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2異世界
隣国ニグルへ
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綾香はニセと共に国境地帯にいた。
綾香達の世界に来て騒がせていた、懐かしい愉快な従者たちと一緒に河にかかる橋の下に身をひそめる。
「あれが、隣の国の王太子一行ね。」
馬車の中の王太子本人はどんな人物なのか分からなかったが、その一行の不穏な空気は分かる。華やかな馬車の装飾や挨拶の土産らしい飾り立てた荷物に似合わぬ従者たちの鋭い眼光。
「大丈夫なのかしら。英司君達。」
綾香は置いてきた姫と英司が心配になる。戦闘力の高いニセと夕月が隣国探索組なのは、間違いなのではないかと思えてくる。
「大丈夫だ。姫は強い。信頼しろ。」
ニセが、不安そうな綾香にそう言った。
「さあ、俺たちも行くぞ。」
そう言ってニセは魔法で氷の幻獣を造り上げる。
綾香達の世界で、グリフォンと呼ばれる幻獣が、二体。
「乗れ。飛ぶぞ。」
一体に乗ったニセが、先に天へ昇って行く。
「待ってよ。」
氷でしょ?冷たくないのかしら??どうやって操作すればいいのよ、こんなの。
戸惑いながら、グリフォンにまたがれば、自動的に天に昇ってニセの後を追う。地面では、愉快な従者たちが、手を振って綾香を見送ってくれている。
どうやら、操作はニセがしているらしい。氷なのに冷たくないのは、魔法で造ったから。
それにしても、英司君の言った通りね。ほとんど説明してくれない。
英司が、ニセは何も説明せずにさっさと自己完結して行動するところがあるから気をつけるように、綾香に言っていた。
これは、前途多難だわ。
見ず知らずの場所で、ミッションをこなすのに、このニセの行動は、チームとしていかがな物かと思う。だが、それを怒ったところで、この男に通用するか・・・。
眼下に広がる風景は、中世の街に似ていた。異世界と言われて想像する通りの、城を中心とした世界。
魔法が中心でそれに頼って発展した世界だから、科学文明がそれほど発達していないのかもしれない。
隣国の民たちが、綾香達を指さして、何やら驚いている。子ども達は、良く見ようと後を追い、大人は、仕事の手を止めてじっと見つめている。
ニセのように大魔法を使う者は少ないと聞いている。異世界の人間にとっても、こんな氷で造ったグリフォンは珍しいのかもしれない。
「主よ。城が見えてまいりましたね。」
夕月がいつの間にか人間に戻って、ニセにしがみついている。腰にぎゅっとしがみついて、ニセの後ろに座っている。
しまった。ドライブデートだ。
姫から課せられた、ニセと夕月のイチャラブの阻止。これは、難しそうだ。だって、剣の時は、ニセが夕月を装備している。綾香が少しでも離れれば、その隙をついて、夕月が人間に戻ってニセとくっつく。
マウントをとって、どや顔で綾香を見る夕月。
姫の立場になってみて、こんなに腹が立つものだと初めて知った。
なにこれ、むかつく。
そして、なんでニセ君は、あんな風に一向に夕月の様子を変に思わないのよ。
これは、姫がニセとの恋愛を進められないでいるのも仕方ないかもしれない。
「綾香。どうした?飛行速度が速いか?少し緩めようか?」
振り返って、不機嫌な表情の綾香をニセが気遣ってくれる。
「あ、うん。大丈夫。」
なるほどね。このギャップが姫のツボなのかも。
普段、冷たくあしらうくせに、時々向けられる優しさ。グッとくるかも。
「そのまま、城の前に降りる。」
ニセの言葉と同時に、グリフォンが急降下を始める。
綾香達を下ろすと、ダイヤモンドダストのようにキラキラと輝いて、グリフォンは消えていった。
門番が、ニセと綾香に槍を構える。
夕月が、剣に戻って、ニセの手の中に抜き身で収まり、ますます門番は警戒する。
「引け。俺を止めることなぞ、どのみちお前らのような雑魚にはできん。」
ニセがのたまう。
いや、そうだけれども。それは、魔王の言い草。
今は、ご挨拶に来ているんでしょ?打ち滅ぼしに来たわけではないのだから、言葉が足りなさすぎる。
「あ、ええと。隣国アジムの聖者。英司と綾香です。このたびは、ご挨拶に伺うように、書状を賜りましたゆえに、こうやって参りました。」
そう言って、隣国から来た書状の一部を門番に綾香は見せる。
「今後の為にも親睦を図ることを目的として、ぜひご挨拶願いたいと存じます。」と書かれた部分だけ。その後の部分には、王太子が行くことが明記されていたが、その一文は、ニセが焼いて消してしまった。
「・・・これは、失礼いたしました。」
自国の王の印の入った正式な文書を見せられては、門番は取り次がない訳にはいかない。
ニセと夕月、綾香は、こうして無事、隣国ニグルの城に潜入した。
綾香達の世界に来て騒がせていた、懐かしい愉快な従者たちと一緒に河にかかる橋の下に身をひそめる。
「あれが、隣の国の王太子一行ね。」
馬車の中の王太子本人はどんな人物なのか分からなかったが、その一行の不穏な空気は分かる。華やかな馬車の装飾や挨拶の土産らしい飾り立てた荷物に似合わぬ従者たちの鋭い眼光。
「大丈夫なのかしら。英司君達。」
綾香は置いてきた姫と英司が心配になる。戦闘力の高いニセと夕月が隣国探索組なのは、間違いなのではないかと思えてくる。
「大丈夫だ。姫は強い。信頼しろ。」
ニセが、不安そうな綾香にそう言った。
「さあ、俺たちも行くぞ。」
そう言ってニセは魔法で氷の幻獣を造り上げる。
綾香達の世界で、グリフォンと呼ばれる幻獣が、二体。
「乗れ。飛ぶぞ。」
一体に乗ったニセが、先に天へ昇って行く。
「待ってよ。」
氷でしょ?冷たくないのかしら??どうやって操作すればいいのよ、こんなの。
戸惑いながら、グリフォンにまたがれば、自動的に天に昇ってニセの後を追う。地面では、愉快な従者たちが、手を振って綾香を見送ってくれている。
どうやら、操作はニセがしているらしい。氷なのに冷たくないのは、魔法で造ったから。
それにしても、英司君の言った通りね。ほとんど説明してくれない。
英司が、ニセは何も説明せずにさっさと自己完結して行動するところがあるから気をつけるように、綾香に言っていた。
これは、前途多難だわ。
見ず知らずの場所で、ミッションをこなすのに、このニセの行動は、チームとしていかがな物かと思う。だが、それを怒ったところで、この男に通用するか・・・。
眼下に広がる風景は、中世の街に似ていた。異世界と言われて想像する通りの、城を中心とした世界。
魔法が中心でそれに頼って発展した世界だから、科学文明がそれほど発達していないのかもしれない。
隣国の民たちが、綾香達を指さして、何やら驚いている。子ども達は、良く見ようと後を追い、大人は、仕事の手を止めてじっと見つめている。
ニセのように大魔法を使う者は少ないと聞いている。異世界の人間にとっても、こんな氷で造ったグリフォンは珍しいのかもしれない。
「主よ。城が見えてまいりましたね。」
夕月がいつの間にか人間に戻って、ニセにしがみついている。腰にぎゅっとしがみついて、ニセの後ろに座っている。
しまった。ドライブデートだ。
姫から課せられた、ニセと夕月のイチャラブの阻止。これは、難しそうだ。だって、剣の時は、ニセが夕月を装備している。綾香が少しでも離れれば、その隙をついて、夕月が人間に戻ってニセとくっつく。
マウントをとって、どや顔で綾香を見る夕月。
姫の立場になってみて、こんなに腹が立つものだと初めて知った。
なにこれ、むかつく。
そして、なんでニセ君は、あんな風に一向に夕月の様子を変に思わないのよ。
これは、姫がニセとの恋愛を進められないでいるのも仕方ないかもしれない。
「綾香。どうした?飛行速度が速いか?少し緩めようか?」
振り返って、不機嫌な表情の綾香をニセが気遣ってくれる。
「あ、うん。大丈夫。」
なるほどね。このギャップが姫のツボなのかも。
普段、冷たくあしらうくせに、時々向けられる優しさ。グッとくるかも。
「そのまま、城の前に降りる。」
ニセの言葉と同時に、グリフォンが急降下を始める。
綾香達を下ろすと、ダイヤモンドダストのようにキラキラと輝いて、グリフォンは消えていった。
門番が、ニセと綾香に槍を構える。
夕月が、剣に戻って、ニセの手の中に抜き身で収まり、ますます門番は警戒する。
「引け。俺を止めることなぞ、どのみちお前らのような雑魚にはできん。」
ニセがのたまう。
いや、そうだけれども。それは、魔王の言い草。
今は、ご挨拶に来ているんでしょ?打ち滅ぼしに来たわけではないのだから、言葉が足りなさすぎる。
「あ、ええと。隣国アジムの聖者。英司と綾香です。このたびは、ご挨拶に伺うように、書状を賜りましたゆえに、こうやって参りました。」
そう言って、隣国から来た書状の一部を門番に綾香は見せる。
「今後の為にも親睦を図ることを目的として、ぜひご挨拶願いたいと存じます。」と書かれた部分だけ。その後の部分には、王太子が行くことが明記されていたが、その一文は、ニセが焼いて消してしまった。
「・・・これは、失礼いたしました。」
自国の王の印の入った正式な文書を見せられては、門番は取り次がない訳にはいかない。
ニセと夕月、綾香は、こうして無事、隣国ニグルの城に潜入した。
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