黒虎記~たかが占いと伝承のせいで不吉の虎と呼ばれ迫害され暗殺されかけた王子だが、商人の家で得た知識で巻き返す

ねこ沢ふたよ

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立ち向かう者達

塔からの脱出

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 階下から煙がもくもくと上がってくる。
 この部屋が炎に包まれるまで、そう時間はない。

「急げ、壮羽!部屋が焼け落ちるぞ!」

 ベッドカバーの四角に、カーテンを止めていたロープをしっかりと結びつける。

「これが外れれば、俺たちは、落ちて死ぬ。しっかり結べ!」

「分かっております!」

 二人で、ロープを結び付け、中央でまたロープを一つにまとめて結ぶ。

「窓がデカくて助かったな。カーテンがデカいから、縛り付けておったヒモもやたら長いわ!」

 完成したのは、パラシュート。
 西寧が、人間の国の書物を読んで見つけたもの。
 パラシュートを二人で持って、窓から飛び出す。

「壮羽! できるだけ飛べ! 死ぬ気で飛ばないと死ぬぞ!」

「今笑わさないで下さい。結構必死なんですから!」

 パラシュートの生み出す浮力と、切れ込みの入れられた翼でなんとか生み出す浮力で、右へ左へフラフラしながらも、なんとか命に別条がない程度にゆっくり落ちていく。

 西寧が、それを面白がって笑う。
 生死のかかっているときに笑うこの子どもは、どれほどの度胸があるのだろう。

 壮羽は驚き、新しい主の気質に舌を巻く。壮羽は、右手にパラシュートを、左手に西寧を抱きしめて、傷つけられた翼で、必死で羽ばたく。

 やっと掴んだ心から信頼できる主。ここで死なせはしない。
 西寧の体を庇い、何かあっても、自分が先に落ちてクッションになるつもりでいた。

「何とか、助かりましたね」

 地面に着地して、壮羽は、西寧を助け起こす。

「お前、俺の下敷きになるつもりだっただろう。俺を信頼しろ。お前を死なせはしない」

 西寧が、ムッとしている。壮羽は、目を丸くする。

「信頼はしています。ですが、万一の時に、主を守るために、犠牲になるのは当然です」

 壮羽は言い返す。だが、西寧は、それでは納得しない。

「それは、別の機会にしてくれ。今の最善は、お前がいかに無傷で生き残るかだ。見ろ、敵に囲まれた。武力のある奴が元気な方がいいだろうが。どちらかが生き残れる」

 西寧の言葉通り、西寧と壮羽は、言い合いをしている内に、槍を構えた兵士たちに囲まれている。
 警戒していたのだろう。落下時に矢で射られなかったのは、まさか窓から飛び降りることは想定外で準備がなかったからか。運が良かった。きっと、命からがら、唯一の出入り口から煙と炎の間をヨタヨタと這い出てくる可能性を考えていたのだろう。

「下がれ雑兵ども!」
西寧が怒鳴る。

 西寧の虎精の妖力で、雑兵が動けなくなる。西寧の妖力が、子犬ほどの黒い虎の姿を顕現して、周囲を威嚇する。 グルルルと、警戒低い音が鳴りひびく。
 葉居が手足を食いちぎられたのを聞いているのだろう。雑兵たちは後ろにたじろぐ。

「死にたくなければ、引け!」

 西寧が、顕現した黒虎の後ろを堂々と歩き出す。見慣れぬ黒い毛並みの虎に、兵士は俄かには手が出せなくて戸惑っている。西寧の堂々とした自信に満ちた態度に、黒虎に何か自分たちの知らない能力があるのではないかと、用心しているのかもしれない。

 壮羽は、その後ろを、周囲を警戒しながらついて行く。槍を持った雑兵たちは、ひるんで後退する。
 しかし、こんな大技、数分しかもたないはず。どうするつもりだろうか。壮羽はいぶかる。

 まさか?

「壮羽、走るぞ」

 小声で、西寧が囁く。黒い虎が妖力切れで消える。子どもの妖力ならば、当然だろう。

「やはり、ハッタリでしたか。だと思いました!」
壮羽があきれる。

「ハッタリだって大切な武器だ! 使わなきゃもったいないだろう?」
西寧が笑う。 

 二人で、全力で走って逃げる。
 その後を慌てて雑兵が追うが、長い槍を持ち重い鎧を着た兵は、身軽な二人には追い付けなかった。

 なんとか、大臣の屋敷の敷地から逃げのびた二人は、林の中に身を隠す。
 壮羽が、林の中で、蔦や木の枝、竹など、ナイフで加工して何かを作り出す。

「せめて、ナイフ一本よりか少しはましになるように、武器を作ろうと思いまして」

 そう言って、あっという間に、投げ針を何本か作ってしまう。

「ナイフは、西寧様がお持ちください」

 ポンと手の上にナイフを渡されて、西寧は驚く。

「いや、これは、お前が持てよ。その方が、どう考えても有益だろ? 俺はいい」

 ナイフを西寧が壮羽に返そうとすると、壮羽がじろりと睨む。

「あなたの身が少しでも安全でないと、私が落ち着かなのです。少しは、配下の気持ちを汲んでください。いいですか、私を生かして自分が犠牲になんて、アホなこと、二度と考えないで下さい」

 壮羽の迫力に、西寧は、大人しく、はい、と答えナイフを受け取る。

「これから、どうなさるおつもりですか? 一度国外に逃亡しますか?」

 まあ、国外に一度出て、態勢を立て直してからもう一度先のことを考えることが順当だろう。

「いや、太政大臣と交渉して、懐に入れる」
西寧が、ニヤリと笑う。

「は? その太政大臣の手先となって、皆、あなたの命を皆狙っているのですよ?」

 壮羽は、目をむく。破天荒過ぎて、西寧の考えを理解できない。

「だからだろ。親玉を懐に入れてしまえれば、他の奴は文句言わん。手っ取り早い。まかせろ。交渉のカードは、何通りも持っている!」

 また、ハッタリではないだろうな。 
 壮羽は、前途の多難さに胃が痛くなった。

「なあ、ここを掘るのを手伝ってくれ」

 大きな木の下、二人で掘り進むと、大きな箱が出てくる。中をみると、水や非常食、布、衣類一式など諸々が出てくる。
 箱をどけて、さらに掘れば、小さな箱が出て来て、薬瓶が出てくる。
 そこをさらに掘れば、小さな袋が現れる。

「俺の今の全財産だ」

 渡されて、中をみると、宝石が二十粒ほど入っている。

「商人をしていて溜めた金を運びやすいように宝石に変えた。値崩れしないように吟味して質のいい物ばかり入れている」

「こんな場所に隠して。誰かに掘り起こされてしまわなくて良かったですね」

 壮羽が、宝石を西寧に返して、水を受け取る。

「だから、盗られそうな物を、より深く隠しているだろうが。普通、探っても、二番目の箱までだ。そこまで探って、子どもが遊びで価値のない物を埋めたのだと判断する。三番目の袋は、よほど注意深い者でないと気づかんわ」

 水を壮羽と回し飲みしながら、西寧が笑う。

「なあ。ちょっと足りないものがある。さすがに考えていなかった物が必要になった。俺じゃあ、なかなか手に入りにくい。というか、門前払いされてしまいそうだ」

 西寧が、ごにょごにょ言い出す。余程、言いにくい物なのだろうか。

「何でございましょうか。何なりと。最善を尽くします」

 壮羽が、指示を待つと、西寧が耳打ちする。壮羽の眉間に皺が寄る。それは、確かに想定されていないだろう。

「だめか?」

 西寧が、不安そうな目で壮羽を見る。普段強気な西寧がシュンとした顔を見ていると、断われなくなる。

「分かりました。何とか手配してみます」

 壮羽は、ため息とともに返事をした。
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