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卒業間際

爆弾魔 2

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 このままずっといられれが良いのに。
 そんな想いで、赤野とくっついたまま待っていると、木根刑事から連絡が来る。

「良かった! そんなに冷えない内に連絡が来たよ。松尾君、なんだか体温が高くて助かった」
「お、おう」

 そりゃ、好きな人とくっつていたら、ドキドキして体温も高くなる。
 まだ、赤野の匂いが残っている気がする。

 校門で木根刑事が手を振っている。
 俺と赤野は、木根刑事の方へと向かう。

「いい? 将来警察に入る話は確かにしたけれども、僕はまだ一般人なんだよ?」
「そう言うなって。もう、入署したも同然だろう?」

 木根刑事は、その件に関しては、機嫌がいい。どうやら、赤野が警察官になれば、公然とその能力が使えるのが嬉しいのだろう。

「これだ。周作」

 木根刑事が、ガラリと表情を変えて厳しい顔で渡してきたのは、一枚の写真。
 そこは、僕らの学校の校舎に雑に爆炎のコラージュがしてある。

 そして、書かれていたのは、『世を捨つる人はまことに捨つるかは 捨てぬ人をぞ捨つるとはいふ』という文字。

「なあんだ。暗号じゃないよ。これは、西行法師の和歌だよ」

 赤野が、自分で調べてよ! と、木根刑事を睨む。

「しかし、今回爆破されたのは、ゴミ箱だろう? 捨てるとか捨てないとか言っているところをみると、ゴミ箱を示唆しているのかもしれんと思って」

 そう木根刑事が頭を掻く。
 え、そうなの? そのために、和歌なんて回りくどい物を持ってきたの??

「そんな! もしそうなら、雑過ぎるよ」
 
 赤野がケラケラと笑う。
 
「これは、西行法師が出家した時に詠んだ和歌。意味は、出家して世を捨てる人よりも、かえって出家しない人の方が、自分を捨てているよね、という意味。どう詠んでも、そんなゴミ箱を詠んだ和歌ではないよ」
「じゃあ、何を意味しているんだ?」
「聞いていた? 意味は、さっき言った通り。うーん。『お前達よりも、俺は自由だ!』みたいな言葉を、爆破予告の写真に添えたかったのかも? まだ分からないよ」

 赤野の言葉に、木根刑事が残念そうに「そうか……」と、つぶやく。

「おっと、爆破されたゴミ箱から、また何か出てきたみたいだぞ?」

 木根刑事が見せたスマホには、ゴミ箱の裏から出てきたという封筒の写真。

「今見せた写真の入っていた封筒と同じ封筒だ」

 封筒の中に入ってた物も、木根刑事の仲間は送ってくれている。

 『よしや君昔の玉の床とても かからむ後は何にかはせん』

 そう書かれている。赤野の表情が変わる。

「これ……どういうこと?」

 赤野の言うことによれば、これは、崇徳上皇の魂を鎮めるための西行法師の言葉。
 非業の死を遂げた崇徳上皇の白峰陵で詠んだのだという。
 『どんなに高貴な人であっても、死ねば同じです。どうかお鎮まり下さい』
 というような意味らしい。

 爆弾魔が鎮魂の和歌?

 裏に書かれていた文字は、『よによかいみのしみちょようかよくみしみつよ』 

「子供じみている。木根伯父さんの推理の方がまだましだよ」

 赤野は、怒っていた。
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