25億光年先のクエーサー

ねこ沢ふたよ

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中庭の遺体

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 怖い。
 本当に遺体があったらどうしよう。
 そして、それが貴子だったら。
 いいや、そんなはずはないのだ。だって、お母さんが、貴子は部屋にいると言っていた。
 でも、中庭に今も冷たい身体で横たわっている誰かがいるなんて想像したら、背筋が凍る。
 慎也に遅れて、トボトボと付いて行くと、慎也が振り返る。

「ちょっと、ミライ。早く来てよ。一人で見るの怖いんだから!」
「いや、それ女子に言う言葉?」

 普通は、こう……庇ってくれるとか、そういうのがある場面ではないだろうか。
 まあ、慎也にスパダリを求めても仕方ないのだけれども。

「こんなのに女子も男子もないだろ? じゃんけんで見る順番を決めたいまである」
「うっわ、最低。そういうところだぞ」

 だからイマイチ、人望がない……と、言いかけて、私は口をつぐんだ。
 だって、ここで喧嘩しても仕方ない。

「わかったわよ。私が先に見るわよ」
「さすがミライ! 頼もしい!」

 なんだか乗せられた気もしなくはないけれども、仕方ない。
 い、いくわよ。
 私は、恐る恐る、中庭に入る角を曲がる。
 そこで見た光景は、見慣れたただの中庭だった。

「あれ?」

 私は、拍子抜けする。
 どういうこと?
 昨日の夜、上から見た時には、確かにあったのだ。
 人間の身体が。血液らしき液体に塗れて。
 それが、今は、何もなくなっている。

「なんだ。何もない! やっぱり、貴子の悪戯だったんじゃない?」

 それだったら、貴子は怒っているかもしれない。
 だって、皆で怖れをなして貴子を置き去りにして帰ってしまった上に、救急車まで呼んだのだ。
 介抱もせずに怯えて帰ってしまった友達に、腹立てているの違いない。
 最近、ほとんど一緒に行動することのなかった貴子だけれども、東京の学校に転校するし、その上こんなことがあったのだから、二度と口をきいてくれないかもしれない。
 
「いいや、違う」

 慎也が断言する。
 怖がって私の後から現場を見たくせに、偉そうだな。

「少しだけれども、タイルの色が変わっている」
「え、タイル?」

 慎也がかがんで写真を撮っている場所を見れば、そこには、黒ずんだ跡が少しだけある。
 中庭のくすんだオレンジ色のタイルに、ぽつんぽつんと跡が残っている。
 タイルが、血痕を吸って黒ずんでいるのだと思うと、ゾッとした。
 やっぱり、何かあったんだ。

「でも、昨日と違う」
「そう、こんな量じゃなかった。もっとたくさん」

 慎也の言う通りだ。
 遺体のそばにランプが灯り、暗かったけれども確かに見えていた。
 
「でも、それだって、悪戯説は、抜けきれないことない? 舞台やテレビの撮影では、血糊とか使うでしょ? それの跡とか」

 そうよ。
 逆に、ここで遺体がない、さらに、少しだけ昨日の痕跡がある。
 これは、貴子の悪戯の可能性が高くなったってことじゃない?

「貴子なら、撮影現場から血糊を持ち出して、悪戯するとか簡単にできるんじゃない?」

 そして、今頃は、貴子は東京の新しい学校の手続きか、芸能人の仕事をしているに違いない。
 ちょっと私達に愛想を尽かせながらね。

「血糊って、絵の具だろ? それがこんな風に変色するか? これは、血液だから変色しているんだろ?」

 慎也は不吉なことを言う。
 いや、どうして慎也はそんなに不吉なほうへと持っていきたがるのだ。
 タイルには、茶色っぽい跡が残ってはいるんだけれどもさ。

「ねえ、じゃあさ、もし仮にこれが血糊じゃないとしたら、どうなるの? それだって、昨日付いたとは限らないでしょ? もっと前に……誰かが怪我した跡とか、そもそも変色したんじゃなくって、この色の何かが付いた可能性だってまだあるもの」
「ミライ、いやに遺体説を否定するな」

 そりゃそうでしょ。だって、怖いもの。
 慎也はどうも昨日遺体があって、それが移動したと言いたいようだけれども、恐ろしい。
 だって、もし本当に遺体だったとしたら、とても恐ろしい。
 貴子が死んだってことになる。
 ここに仰向けに倒れていた。血の海でね。
 生きていてほしいのだ。
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