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穏やかな夜
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夜明けの光が、森の端に建つ小さな家の窓を淡く染めていた。
鳥の囀りと、しゅんしゅんと湯が沸く小さな音。リュシアンは木製の椅子に腰をかけ、静かに湯気のたつポットを見つめていた。
かつての彼は、火を見るだけで怯えていた。けれど今は暖炉の焔も怖くなくなり、薪の燃える音を聞きながら柔らかい光で照らされている。
アレンが火加減を確かめながら微笑んだ。
「今日は少し肌寒いね。もう少し暖炉の火を強くしても平気?お茶も今から準備するね。」
「……ああ。よろしく頼むよ。」
リュシアンはそう言うと、ポットの湯気越しにアレンを見つめた。
その眼差しには、かつての影はもうない。小さく控えめに笑うその顔が、彼が確かに今を生きている証拠だった。
アレンは森で拾った薬草を、細かく刻み煮出している。リラックス効果のあるハーブティーを抽出した後、柔らかくなった薬草をすり潰せば、リュシアンの火傷痕に塗り込む薬にもなる一石二鳥のレシピだ。
ハーブティーの香りがふわりと広がると、リュシアンは静かに息を吐き胸の奥に広がる安らぎを感じていた。
「不思議だな……こうしていると、今回の世界が優しい気がする。」
「…うん、きっと優しいよ。君がこれ以上怖がらなくていいように、ちゃんと世界は回ってる。」
アレンはそう言って、煮出したハーブティーを差し出した。
湯気の中で二人の指がふと触れ合う。小さな瞬間に、心が揺れる。
リュシアンはゆっくりとマグカップを受け取り、一口含んだ。
舌に広がるほのかな苦味の奥に、豊かな味わいと確かな温かさがあった。
「ねぇ、リュシアン。前世のことはもう忘れてしまって、思い出さないようにしてしまおうか?」
アレンはふとそんな事を呟いた。折角過去のトラウマやしがらみから開放されたのだ。このまま前世を忘れて、この世界に生きる人として生きて行きたいとそう思ったのだ。
「ああ、俺もそれでいいと思う。」
リュシアンはアレンの言葉を最後まで聞くと微笑みながら頷いた。
「過去の私たちは、あの時に置いてきたんだ。ここには、“今”の自分達しかいない。」
それは約束だった。
赦し合うためではなく、今世を共に生きるための。
森の奥では、暖かな春がゆっくりと訪れ始めていた。
鳥の囀りと、しゅんしゅんと湯が沸く小さな音。リュシアンは木製の椅子に腰をかけ、静かに湯気のたつポットを見つめていた。
かつての彼は、火を見るだけで怯えていた。けれど今は暖炉の焔も怖くなくなり、薪の燃える音を聞きながら柔らかい光で照らされている。
アレンが火加減を確かめながら微笑んだ。
「今日は少し肌寒いね。もう少し暖炉の火を強くしても平気?お茶も今から準備するね。」
「……ああ。よろしく頼むよ。」
リュシアンはそう言うと、ポットの湯気越しにアレンを見つめた。
その眼差しには、かつての影はもうない。小さく控えめに笑うその顔が、彼が確かに今を生きている証拠だった。
アレンは森で拾った薬草を、細かく刻み煮出している。リラックス効果のあるハーブティーを抽出した後、柔らかくなった薬草をすり潰せば、リュシアンの火傷痕に塗り込む薬にもなる一石二鳥のレシピだ。
ハーブティーの香りがふわりと広がると、リュシアンは静かに息を吐き胸の奥に広がる安らぎを感じていた。
「不思議だな……こうしていると、今回の世界が優しい気がする。」
「…うん、きっと優しいよ。君がこれ以上怖がらなくていいように、ちゃんと世界は回ってる。」
アレンはそう言って、煮出したハーブティーを差し出した。
湯気の中で二人の指がふと触れ合う。小さな瞬間に、心が揺れる。
リュシアンはゆっくりとマグカップを受け取り、一口含んだ。
舌に広がるほのかな苦味の奥に、豊かな味わいと確かな温かさがあった。
「ねぇ、リュシアン。前世のことはもう忘れてしまって、思い出さないようにしてしまおうか?」
アレンはふとそんな事を呟いた。折角過去のトラウマやしがらみから開放されたのだ。このまま前世を忘れて、この世界に生きる人として生きて行きたいとそう思ったのだ。
「ああ、俺もそれでいいと思う。」
リュシアンはアレンの言葉を最後まで聞くと微笑みながら頷いた。
「過去の私たちは、あの時に置いてきたんだ。ここには、“今”の自分達しかいない。」
それは約束だった。
赦し合うためではなく、今世を共に生きるための。
森の奥では、暖かな春がゆっくりと訪れ始めていた。
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