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1章.翼のない悪魔
6.天使長との交渉 アクロアside
しおりを挟む懲罰房に囚われていた悪魔が見せた笑みに見惚れてしまい、暫くの間私はその場から動くことが出来なかった。
しかし、他の天使がここへ戻って来て私達の姿を見たら厄介だと考え、やむを得ず腕の中の悪魔を解放する。
鎖を解き動けるようになったとはいえ、彼を1人懲罰房に残しておくのは不安で、私以外が入ることのできない結界を念の為張り巡らせた。
「すまない、少しの間この場を離れる。再び私が戻って来るまで大人しく待っていて欲しい。」
私がそう話しかけると悪魔の彼は、少し驚いた表情を浮かべた後に素直に頷いた。
その姿を確認した後、私は急いで神殿内の天使長の控える部屋に飛んで行った。
普段決して慌てることの無い、私の姿を見た周りな天使達は驚いていたが、それらを無視して羽ばたいて行く。
やがて天使長の部屋に辿り着くと、扉を軽くノックした。中から返事が返って来た為扉を開けると、彼の元へと歩み寄った。
「アクロア、どうしましたか?随分とお急ぎのご様子ですが……もしや例の悪魔の件ですか?」
「あぁ、話が速くて助かる。その通りだ。」
天使長は私がここに来た理由を察したらしく、僅かに目を細めながら問いかけてきた。私が答える様子を見ながら、彼は顎に手を当てて思案する様子を見せた。
「成程……やはりそうでしたか。では、アクロア。貴方は一体、その悪魔をどうしようと考えているのです?」
天使長は私に対して真意を尋ねると、視線を真っ直ぐとこちらの方へ向けくる。
天使長の言葉を聞いた私は眉間に小さなシワを寄せたまま、ゆっくりと口を開いた。
「彼の悪魔はこれまでとは違い、目立った悪行や敵対行為をしていない。それどころか彼は、魔力が無いことにより長年迫害され、暴力を振るわれ孤独に生きて来たようだ。本来なら悪魔を見逃すことはしないが、彼に関しては特別措置をとるべきだと考えている。」
「…なるほど。確かに、魔力が無いのであれば我々の敵ではありませんね。」
私の話を聞いて納得した様子の天使長は、暫しの沈黙の後再び口を開いた。
「分かりました。貴方がそこまで言うのであれば、その悪魔に関する処遇は貴方に任せましょう。」
天使長からの許可が出たことにホッと息をつくと、こちらの提案をもう一つ彼に提示することにした。
「ありがとう。それと、もう1つ頼みがあるのだが……構わないだろうか?」
「何でしょう?」
「実は、彼の身柄をしばらく私の保護下に置きたいと考えている。その為、地上にある私の屋敷に、監視という名目で暫く彼と共に暮らしたい。その許可を出して欲しい。」
私がそう願い出ると、よほどの衝撃だったのか、天使長は目を見開いたまま固まってしまった。暫くそのままだった天使長は、漸く我に返ると咳払いをした。
「…まぁ、私も先程処遇は貴方に任せると言ったことですし、反対する理由はありません。ただ、他の者に気付かれないよう秘密裏に行うようにして下さい。」
「了解した。」
「それから、その悪魔が逃げないように、しっかりと監視をしておいて下さいね。」
「分かった。」
天使長の指示に次々と返答をしていくと、彼は満足そうな笑みを浮かべた。
「宜しい。では、この件についてはこれで終わりにしましょう。そろそろ業務に戻りますよ。」
「了解した。私もこれから、彼の元へ戻る。」
天使長に一礼すると、私は部屋を退室する。
部屋の外に出ると、いつの間にか太陽が沈みかけており、辺りは夕日に照らされ茜色に染まっていた。
「……速く彼の元へ、行かないとな。」
誰にも聞かれないよう小さな声で呟くと、私は足早に悪魔の元へと向かって行った。
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