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第一章 パーティーの離脱と単独行動 ラディウスside
2.止められなかった チームside
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ラディウスが宿屋から出て行って、二時間後──。
宿の中は、朝日がゆっくりと差し込むと同時に徐々に賑やかさを取り戻し始めていた。 調理場からは朝食の準備を知らせる美味しそうな匂いが漂い、階下の食堂では早起きの宿泊客たちが席に着き始める。廊下を歩く足音も一人、また一人と増え、いつもの朝がやってきたことを感じさせた。
そんな中、パーティー最年少にして猫耳獣人の魔術師──シャルム・グリモワールは、軽やかな足取りで廊下を進み、ラディウスの部屋の前までやってきた。 今日も元気そうな彼の姿を見ようと、いつも通り扉の外から声をかける。
「ラディウス!朝食の時間だよ!」
……しかし返事はなかった。 その事が不自然に感じるくらい、ラディウスはいつもシャルムの声に対して律儀に返事をしていた。
(……あれ? まだ寝てるのかな?)
少しだけ首を傾げ、耳をピクリと動かしながら、シャルムはもう一度呼びかける。
「ラディウス? 入るよ?」
コンコン、と軽くノックしてから扉に手をかけ、慎重に押し開ける。 その目に飛び込んできた光景は──
もぬけの殻となった部屋だった。
ベッドは綺麗に整えられており、旅装も装備も影も形もない。 日用品の一部すら綺麗に片づけられており、ただの空き部屋にしか見えなかった。 唯一の異物は、小さな机の上に置かれた一通の手紙だけだった。
「クレッド……クレッド! 大変だ!! ラディウスが!!」
階段を駆け下り、食堂へと飛び込んできたシャルムの声に、その場にいた三人──聖騎士クレッド・オレオール、弓使いアンゼリカ、治癒師ハイレンの視線が一斉に注がれた。 シャルムの呼吸は荒く、耳も尾もぴんと立っている。明らかにただ事ではないと察し、クレッドが立ち上がる。
「シャルム、一体どうしたんだ?」
シャルムはその問いかけに食い気味に叫ぶ。
「どうしたもこうしたもないよ! ラディウスがいないんだ! 朝呼びに行っても返事がなかったから部屋に入ったら、空っぽだったんだよ! ベッドも荷物も全部……! 残ってたのはこの手紙だけ!」
そう言って突き出された手紙。 クレッドは思わずたじろぎながら、それを受け取る。 その動作を見て、シャルムがさらに問い詰める。
「……ねぇ、クレッド。もしかして、君は何か知ってたんじゃないの?」
その言葉に、場の空気が張り詰める。 シャルムの声は震えていた。怒りとも悲しみともつかぬ複雑な感情が、彼の小さな体を揺さぶっているのが伝わってくる。
クレッドは言葉を返せないまま、手紙を広げた。
『チームの皆へ
突然のことですまない。クレッド達が俺のことに関して話し合っているのを昨日偶然聞いたんだ。 俺の鮮血魔術でお前達に負担をかけてしまったこと、申し訳なく思っている。そしてそんな俺を救い出してパーティーの一員にしてくれたこと、とても感謝している。ありがとう。 せめてクレッド達に恩返しができたら…と考えているんだ。 その為に俺は1人で先に行く。
それじゃあな。 ラディウス』
拙くもまっすぐな、ラディウスらしい筆跡だった。 乱れた部分もありながら、丁寧に書こうとした努力が見える。 読み終えたクレッドの顔に、やがて苦しげな影が差す。
「あいつ……あの会話を聞いていたのか……。……くそっ、なんで……どうして……!」
ぎゅっと拳を握り、唇を噛みしめる。 それは怒りではなく、自分自身への迂闊さと無力さを噛み殺す姿だった。
横でシャルムが震えながら呟く。
「ラディウス……なんで……何も言わずに、勝手に出て行くんだよ……。僕は、もっと……もっと君と一緒にいたかったのに……。」
大きな瞳に涙が浮かぶ。声が震え、尻尾も力なく垂れていた。 そんな彼の背に、ハイレンが静かに手を添える。
「こんな別れ方って……ないですよね……」
ぽつりと呟いたその声に、アンゼリカも重々しく頷く。
「うむ……我も、まったく同じ気持ちじゃ……。あやつ、なぜ我らに一言も告げず……」
皆の間に、沈痛な沈黙が落ちた。 だが、いつまでもこうしてはいられない。 クレッドが一度深く息を吐いて口を開く。
「……ラディウスを今すぐ探しに行きたい気持ちは、俺も同じだ。けど……俺達には、まだこの街での依頼が数件残っている。街の人たちや、国王の信頼を裏切るわけにはいかない……」
その言葉に、シャルムが俯いたまま拳を握る。
「……わかってるよ。ラディウスが無事だって信じてる。だから、依頼をちゃんと片づけて……でも!それが終わったら、絶対に探しに行くんでしょ?」
「ああ、それはもちろんだ。ラディウスは俺達の仲間だからな」
クレッドの言葉に、皆の表情がわずかに和らぐ。 ハイレンが手を叩いて言った。
「それでは、まずは朝食をしっかり摂りましょう。体を動かすには、エネルギーが必要ですからね」
「うむ、そうじゃな! 依頼を速やかに終わらせて、皆であやつを迎えに行くのじゃ!」
四人は顔を見合わせ、小さく頷き合うと席に着いた。 それぞれの心にまだ重たい感情が残っていたが、それを胸の奥にしまい込み、今できることに向き合う覚悟を決めていた。
──彼を探し、再び迎え入れるその日のために。
宿の中は、朝日がゆっくりと差し込むと同時に徐々に賑やかさを取り戻し始めていた。 調理場からは朝食の準備を知らせる美味しそうな匂いが漂い、階下の食堂では早起きの宿泊客たちが席に着き始める。廊下を歩く足音も一人、また一人と増え、いつもの朝がやってきたことを感じさせた。
そんな中、パーティー最年少にして猫耳獣人の魔術師──シャルム・グリモワールは、軽やかな足取りで廊下を進み、ラディウスの部屋の前までやってきた。 今日も元気そうな彼の姿を見ようと、いつも通り扉の外から声をかける。
「ラディウス!朝食の時間だよ!」
……しかし返事はなかった。 その事が不自然に感じるくらい、ラディウスはいつもシャルムの声に対して律儀に返事をしていた。
(……あれ? まだ寝てるのかな?)
少しだけ首を傾げ、耳をピクリと動かしながら、シャルムはもう一度呼びかける。
「ラディウス? 入るよ?」
コンコン、と軽くノックしてから扉に手をかけ、慎重に押し開ける。 その目に飛び込んできた光景は──
もぬけの殻となった部屋だった。
ベッドは綺麗に整えられており、旅装も装備も影も形もない。 日用品の一部すら綺麗に片づけられており、ただの空き部屋にしか見えなかった。 唯一の異物は、小さな机の上に置かれた一通の手紙だけだった。
「クレッド……クレッド! 大変だ!! ラディウスが!!」
階段を駆け下り、食堂へと飛び込んできたシャルムの声に、その場にいた三人──聖騎士クレッド・オレオール、弓使いアンゼリカ、治癒師ハイレンの視線が一斉に注がれた。 シャルムの呼吸は荒く、耳も尾もぴんと立っている。明らかにただ事ではないと察し、クレッドが立ち上がる。
「シャルム、一体どうしたんだ?」
シャルムはその問いかけに食い気味に叫ぶ。
「どうしたもこうしたもないよ! ラディウスがいないんだ! 朝呼びに行っても返事がなかったから部屋に入ったら、空っぽだったんだよ! ベッドも荷物も全部……! 残ってたのはこの手紙だけ!」
そう言って突き出された手紙。 クレッドは思わずたじろぎながら、それを受け取る。 その動作を見て、シャルムがさらに問い詰める。
「……ねぇ、クレッド。もしかして、君は何か知ってたんじゃないの?」
その言葉に、場の空気が張り詰める。 シャルムの声は震えていた。怒りとも悲しみともつかぬ複雑な感情が、彼の小さな体を揺さぶっているのが伝わってくる。
クレッドは言葉を返せないまま、手紙を広げた。
『チームの皆へ
突然のことですまない。クレッド達が俺のことに関して話し合っているのを昨日偶然聞いたんだ。 俺の鮮血魔術でお前達に負担をかけてしまったこと、申し訳なく思っている。そしてそんな俺を救い出してパーティーの一員にしてくれたこと、とても感謝している。ありがとう。 せめてクレッド達に恩返しができたら…と考えているんだ。 その為に俺は1人で先に行く。
それじゃあな。 ラディウス』
拙くもまっすぐな、ラディウスらしい筆跡だった。 乱れた部分もありながら、丁寧に書こうとした努力が見える。 読み終えたクレッドの顔に、やがて苦しげな影が差す。
「あいつ……あの会話を聞いていたのか……。……くそっ、なんで……どうして……!」
ぎゅっと拳を握り、唇を噛みしめる。 それは怒りではなく、自分自身への迂闊さと無力さを噛み殺す姿だった。
横でシャルムが震えながら呟く。
「ラディウス……なんで……何も言わずに、勝手に出て行くんだよ……。僕は、もっと……もっと君と一緒にいたかったのに……。」
大きな瞳に涙が浮かぶ。声が震え、尻尾も力なく垂れていた。 そんな彼の背に、ハイレンが静かに手を添える。
「こんな別れ方って……ないですよね……」
ぽつりと呟いたその声に、アンゼリカも重々しく頷く。
「うむ……我も、まったく同じ気持ちじゃ……。あやつ、なぜ我らに一言も告げず……」
皆の間に、沈痛な沈黙が落ちた。 だが、いつまでもこうしてはいられない。 クレッドが一度深く息を吐いて口を開く。
「……ラディウスを今すぐ探しに行きたい気持ちは、俺も同じだ。けど……俺達には、まだこの街での依頼が数件残っている。街の人たちや、国王の信頼を裏切るわけにはいかない……」
その言葉に、シャルムが俯いたまま拳を握る。
「……わかってるよ。ラディウスが無事だって信じてる。だから、依頼をちゃんと片づけて……でも!それが終わったら、絶対に探しに行くんでしょ?」
「ああ、それはもちろんだ。ラディウスは俺達の仲間だからな」
クレッドの言葉に、皆の表情がわずかに和らぐ。 ハイレンが手を叩いて言った。
「それでは、まずは朝食をしっかり摂りましょう。体を動かすには、エネルギーが必要ですからね」
「うむ、そうじゃな! 依頼を速やかに終わらせて、皆であやつを迎えに行くのじゃ!」
四人は顔を見合わせ、小さく頷き合うと席に着いた。 それぞれの心にまだ重たい感情が残っていたが、それを胸の奥にしまい込み、今できることに向き合う覚悟を決めていた。
──彼を探し、再び迎え入れるその日のために。
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