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第一章 パーティーの離脱と単独行動 ラディウスside
3.ラント村へ
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一人で宿屋を発ったラディウスは、舗装の甘い街道をひたすら歩いていたが、道中偶然通りかかった荷馬車の御者に声をかけられ、目的地へ向かうため便乗させてもらっていた。
「いやぁ、兄ちゃんのおかげで助かったよ!ほんと、礼を言うぜ!」
にこやかに言葉をかけてきたのは、ラディウスが乗っている荷馬車の御者を務めている中年の男だった。 その男は少し前に、道端で荷崩れを起こして難儀していた。荷物を結ぶ紐が解け、麻袋や木箱があちこちに散乱し、まるで小さな嵐が通ったかのような有様だったのだ。 偶然通りかかったラディウスは、無言で手を貸し、手際よく荷をまとめ上げて見せた。 無愛想だが動きに無駄がなく、礼儀を失わない態度に男は好感を覚えたようで、ラディウスに同行を申し出たのだった。
御者は手綱を軽く引き、馬を鼓舞するように声をかける。馬車の速度が僅かに上がった。
「ラント村まではあと二時間くらいかかるが……兄ちゃん、荷台でしばらくゆっくりしててくれや。木箱ばっかでゴツゴツしてるが、座布団代わりの藁袋もあるからよ。」
「……ああ。では、お言葉に甘えさせて貰おう。」
ラディウスは礼を言って荷台の藁袋にもたれかかると、静かに目を閉じた。 瞼の裏では、まだ昨夜の出来事が色濃く残っていた。 パーティーを離れたこと。仲間の声。あのまま居続けて良かったのかという迷い。 それでも、今はただ前へ進むしかなかった。
(クレッドたちは、街での依頼が残っているはずだ。しばらくは動けない。……その間に、少しでも手掛かりを探し、俺なりの方法で力になれるように動くべきだろう)
荷馬車の心地よい揺れに身を任せながら、ラディウスは目を閉じたまま静かに息を吐いた。
◆
その後、荷馬車は順調に進み、目的地であるラント村の輪郭が、遠くの薄霞の向こうにぼんやりと浮かび上がってきた。 豊かな森と丘陵に囲まれた静かな村が、朝陽に照らされて柔らかな光を帯びている。
「……見えてきたな。あれがラント村だ。」
御者が前方を指差しながら声をかけてきた。ラディウスが目を開けると、彼の顔にどこか緊張が走ったのを見て取った。
「そうだ、兄ちゃん。ちょっと話しておきたいことがあるんだが……最近、このあたりじゃ魔物の動きが妙なんだ」
「魔物の動きが……?」
ラディウスが静かに問い返すと、御者は神妙な面持ちで頷いた。
「ああ。各地で妙に活発になってきててな。森の奥から今まで見たこともないような凶悪な奴らが出てきてるって話だ。特にこの近くの森林には注意した方がいい。数日前にも、狩人が行方不明になってな……」
「それは……」
ラディウスは短く言葉を詰まらせた。
「……俺も気を付ける。助言、感謝する」
「そうしてくれ。村の中も油断できるほど平和ってわけじゃない。何かあったらすぐギルドに駆け込むんだぞ」
警戒を促すような言葉のあと、荷馬車は村の入り口付近でゆっくりと停止した。 風に揺れる小麦畑の向こうに、木造の家屋が静かに並び、田園の中に溶け込むように存在していた。
「ついたぞ。世話になったな、兄ちゃん」
「ああ……こちらこそ世話になった、ありがとう。」
ラディウスは軽く頭を下げ、荷馬車から静かに降りた。 馬の鼻を撫でながら笑顔を浮かべる御者に別れを告げると、ゆっくりと村の中へと足を進める。
◆
ラント村はのどかで平穏な空気に包まれていた。 朝露がまだ残る田畑の間を縫うようにして細い畦道が走っており、水路のせせらぎが耳に心地よい。 農夫たちの姿がちらほらと見えるが、皆黙々と作業に取り組み、ラディウスに特に干渉してくる様子はなかった。
(……穏やかな場所だ。だが、魔物の件が事実なら、いつその平穏が破られてもおかしくない)
慎重に周囲を見渡しながら歩き、村の中心部へと向かう。 やがて、彼の目に目指す建物が映った。木造の控えめな装飾が施された建物——冒険者ギルドだ。
「ここか……」
看板を一瞥し、静かに扉を開ける。 中に踏み込むと木の温もりに満ちた空間が広がっていた。窓から差し込む光が床板に柔らかな陰影を描き、木製の柱には所々に年季が感じられる。
ラディウスは受付カウンターに歩み寄り、そこに立っていた若い女性に声をかけた。
「すまない。少し、尋ねたいことがあるんだが……いいだろうか?」
「はい、いらっしゃいませ。ご用件をどうぞ」
女性は穏やかな笑みを浮かべながら応じた。 ラディウスは軽く頭を下げ、自身の名と職種、そして村の近辺で単独で受けられる依頼があるかを尋ねた。
「では……今ですと、果実の収穫や屋根の補修、力仕事などがございます。一人での対応が可能な内容となっております。」
ラディウスは提示された依頼の中から一つの紙を手に取る。 それは果実の収穫依頼であり、指定された農園の一角での作業とのことだった。
「これを受けようと思う。」
「かしこまりました。手続きを行いますので、少々お待ちくださいね。」
女性は手際よく判子を押し、依頼書をラディウスに手渡した。
「こちらで依頼登録は完了です。報酬は作業完了後、こちらでお渡しします。それと……依頼主さんには作業前にきちんとご挨拶をお願いしますね。」
「ああ、心得ている。」
ラディウスは依頼書を丁寧に折り畳んで腰のポーチに収めると、静かにギルドを後にした。
彼のその背に、村の穏やかな風がそっと吹き抜けていった——
「いやぁ、兄ちゃんのおかげで助かったよ!ほんと、礼を言うぜ!」
にこやかに言葉をかけてきたのは、ラディウスが乗っている荷馬車の御者を務めている中年の男だった。 その男は少し前に、道端で荷崩れを起こして難儀していた。荷物を結ぶ紐が解け、麻袋や木箱があちこちに散乱し、まるで小さな嵐が通ったかのような有様だったのだ。 偶然通りかかったラディウスは、無言で手を貸し、手際よく荷をまとめ上げて見せた。 無愛想だが動きに無駄がなく、礼儀を失わない態度に男は好感を覚えたようで、ラディウスに同行を申し出たのだった。
御者は手綱を軽く引き、馬を鼓舞するように声をかける。馬車の速度が僅かに上がった。
「ラント村まではあと二時間くらいかかるが……兄ちゃん、荷台でしばらくゆっくりしててくれや。木箱ばっかでゴツゴツしてるが、座布団代わりの藁袋もあるからよ。」
「……ああ。では、お言葉に甘えさせて貰おう。」
ラディウスは礼を言って荷台の藁袋にもたれかかると、静かに目を閉じた。 瞼の裏では、まだ昨夜の出来事が色濃く残っていた。 パーティーを離れたこと。仲間の声。あのまま居続けて良かったのかという迷い。 それでも、今はただ前へ進むしかなかった。
(クレッドたちは、街での依頼が残っているはずだ。しばらくは動けない。……その間に、少しでも手掛かりを探し、俺なりの方法で力になれるように動くべきだろう)
荷馬車の心地よい揺れに身を任せながら、ラディウスは目を閉じたまま静かに息を吐いた。
◆
その後、荷馬車は順調に進み、目的地であるラント村の輪郭が、遠くの薄霞の向こうにぼんやりと浮かび上がってきた。 豊かな森と丘陵に囲まれた静かな村が、朝陽に照らされて柔らかな光を帯びている。
「……見えてきたな。あれがラント村だ。」
御者が前方を指差しながら声をかけてきた。ラディウスが目を開けると、彼の顔にどこか緊張が走ったのを見て取った。
「そうだ、兄ちゃん。ちょっと話しておきたいことがあるんだが……最近、このあたりじゃ魔物の動きが妙なんだ」
「魔物の動きが……?」
ラディウスが静かに問い返すと、御者は神妙な面持ちで頷いた。
「ああ。各地で妙に活発になってきててな。森の奥から今まで見たこともないような凶悪な奴らが出てきてるって話だ。特にこの近くの森林には注意した方がいい。数日前にも、狩人が行方不明になってな……」
「それは……」
ラディウスは短く言葉を詰まらせた。
「……俺も気を付ける。助言、感謝する」
「そうしてくれ。村の中も油断できるほど平和ってわけじゃない。何かあったらすぐギルドに駆け込むんだぞ」
警戒を促すような言葉のあと、荷馬車は村の入り口付近でゆっくりと停止した。 風に揺れる小麦畑の向こうに、木造の家屋が静かに並び、田園の中に溶け込むように存在していた。
「ついたぞ。世話になったな、兄ちゃん」
「ああ……こちらこそ世話になった、ありがとう。」
ラディウスは軽く頭を下げ、荷馬車から静かに降りた。 馬の鼻を撫でながら笑顔を浮かべる御者に別れを告げると、ゆっくりと村の中へと足を進める。
◆
ラント村はのどかで平穏な空気に包まれていた。 朝露がまだ残る田畑の間を縫うようにして細い畦道が走っており、水路のせせらぎが耳に心地よい。 農夫たちの姿がちらほらと見えるが、皆黙々と作業に取り組み、ラディウスに特に干渉してくる様子はなかった。
(……穏やかな場所だ。だが、魔物の件が事実なら、いつその平穏が破られてもおかしくない)
慎重に周囲を見渡しながら歩き、村の中心部へと向かう。 やがて、彼の目に目指す建物が映った。木造の控えめな装飾が施された建物——冒険者ギルドだ。
「ここか……」
看板を一瞥し、静かに扉を開ける。 中に踏み込むと木の温もりに満ちた空間が広がっていた。窓から差し込む光が床板に柔らかな陰影を描き、木製の柱には所々に年季が感じられる。
ラディウスは受付カウンターに歩み寄り、そこに立っていた若い女性に声をかけた。
「すまない。少し、尋ねたいことがあるんだが……いいだろうか?」
「はい、いらっしゃいませ。ご用件をどうぞ」
女性は穏やかな笑みを浮かべながら応じた。 ラディウスは軽く頭を下げ、自身の名と職種、そして村の近辺で単独で受けられる依頼があるかを尋ねた。
「では……今ですと、果実の収穫や屋根の補修、力仕事などがございます。一人での対応が可能な内容となっております。」
ラディウスは提示された依頼の中から一つの紙を手に取る。 それは果実の収穫依頼であり、指定された農園の一角での作業とのことだった。
「これを受けようと思う。」
「かしこまりました。手続きを行いますので、少々お待ちくださいね。」
女性は手際よく判子を押し、依頼書をラディウスに手渡した。
「こちらで依頼登録は完了です。報酬は作業完了後、こちらでお渡しします。それと……依頼主さんには作業前にきちんとご挨拶をお願いしますね。」
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