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3.ビアンカの手紙
しおりを挟むビアンカを見送った後、ヴィオレットはそっと屋敷の中に入った。
玄関の側には、仲の良い使用人の1人……リリィがヴィオレットの帰りを待つ為にその場で待機していた。
そんな彼女に帰宅を告げると、穏やかな微笑みを浮かべながらヴィオレットを出迎えた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。ヘブンリー様とアリア様は居間にいらっしゃいますよ。」
「ただいま、リリィ。わかった、早速行ってくる。」
ヴィオレットはリリィに軽く手を振ると、廊下を進んで行く。
ヘブンリーとアリアは、ヴィオレットの両親の名前だ。
父・ヘブンリーと母・アリアは政略結婚でありながらも非常に仲が良く、サンセール領の民に対しても善政を敷いている為、周囲の貴族や民からの評判が良い。
そしてそんな2人は、ヴィオレットに対しても時に厳しく、時に優しく、立派な大人に…そして貴族の令嬢として生きていくためのあらゆる事を教えてくれた。
そんな両親の愛情は何よりも嬉しいものだ。だからこそヴィオレットは、明日の朝報告しなければならないネグロ第一王子との婚約破棄について、僅かながら罪悪感を抱いていた。
とりあえずこのことは明日しっかり告げるとして、まずは帰宅した旨を伝える為に居間に向かった。
「ただいま戻りました、お父様、お母様。」
ヴィオレットは軽く会釈をしながら部屋に入ると、そこにはソファーに座って寛ぐ両親の姿が見えた。
2人ともヴィオレットの顔を見るとすぐに立ち上がり、彼女を抱きしめた。
「おかえり、我が愛娘よ!どうだった?久しぶりのパーティーは?」
「お父様…実はパーティーの最中に非常にちょっとした事件があったのですが、そのことについては明日詳しく説明するつもりです。今日話すと遅くなってしまうので…。」
ヘブンリーはヴィオレットを抱きしめたまま話を聞いていたが、パーティー会場で何かあったことを察すると心配そうな表情を浮かべた。
2人の話を聞いていたアリアも何かに気がついたようだ。
「今日の帰りがいつもより早かったのも、何か関係があるのね?」
「はい、お母様。そのことについても明日説明します。」
「…わかったわ、一先ず今日はゆっくりと休むのよ。」
「そうだな…では明日改めて話を聞こう。おやすみ、我が愛娘。」
両親の言葉を聞いたヴィオレットは会釈をすると自室に戻った。
リリィはお風呂の支度をして待っていた。
「お嬢様、お風呂の準備が整っております。」
「ありがとう、リリィ。では早速入って来ますね。」
リリィの心遣いに感謝をしつつ、ヴィオレットは湯に浸かった。
ゆっくりと身体を癒しながらも考えることは、今日起きたパーティーでの出来事だった。
ネグロのあまりにも身勝手な婚約破棄とローズの存在、そしてビアンカの専属騎士として仕えること。
たったの一日で、今までの何もかもが変わった。
まさかこんなことになるとは思わなかったと、ヴィオレットは1人溜息をつく。
これから自分はどうなるのか、そんな不安を僅かに抱きながらも、ヴィオレットは入浴を終え、使用人達が整えてくれたふかふかのベッドに入り眠りについた。
◆
翌日
ヴィオレットは朝食をとり終わると、早速両親に昨日のパーティーで起きた出来事を話し始めた。
話をしている最中、両親は怒りや驚きで表情をころころと変化させていた。
そしてヴィオレットが話が終わると、まず最初に口を開いたのは父であるヘブンリーだった。
「……なんてことだ、あの愚王子め!」
「本当に、どうしてあんな方がこの国の第一王子なのかしら……」
憤慨する父と嘆く母、そんな2人にヴィオレットは苦笑いしながら言った。
「まぁまぁ……とにかくここは愚かな第一王子と婚約破棄できて良かったと考えています。」
ヴィオレットはそう言うと、父・ヘブンリーを見つめて微笑んだ。
と、その時。
「旦那様、お手紙が届いています。」
使用人の一人が居間に入ってきたかと思うと、ヘブンリーの元に一枚の手紙を手渡した。
ヘブンリーはその手紙を受け取ると差出人を確かめた。
「これは……王家の紋章だ。差出人はビアンカ殿下からのようだぞ。一体何が書かれているのだろうか……。」
「昨日パーティー会場から帰宅する際に、殿下が話し合いの場を設ける旨の手紙を出すと仰っていました。恐らくその件についてでしょう。」
ヴィオレットの言葉にヘブンリーは大きく目を開く。
「なんと!?それなら早く確認しなければ……アリア、お前も一緒に見て欲しい。」
「わかりましたわ。」
アリアは返事をすると、2人は手紙を確認し始めた。
手紙には、昨日ビアンカ様に伝えられた通り、彼が普段暮らす離宮にて明日話し合いの場を設けること、国王・王妃両陛下もいらっしゃること、ヴィオレットの将来について重要なことを話すので、サンセール侯爵夫妻にも来て欲しい。
……という内容だった。
読み終えた後、すぐに返信の手紙を書く準備を始めた。
そしてヘブンリーはヴィオレットに視線を向けた。
「ヴィオレット、明日の朝すぐに離宮へ向かう。今日のうちにしっかりと用意をしておきなさい。」
「かしこまりました、お父様。」
ヴィオレットは父の言葉を聞くと、会釈をして自室へと戻ると、早速彼女は明日に向けて必要なものを纏め始める。
明日はビアンカ様に会える。
家族以外で唯一、本当の自分を理解してくれる彼との話し合いの場に、ヴィオレットは微かに胸を高鳴らせながら準備を進めていた。
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