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10.婚礼の日②/未来へ (完)
しおりを挟む「ヴィオレット様、そろそろお時間です。」
「はい、わかりました。ではお父様、一緒に行きましょう。」
2人の真逆とも言っていい顛末を回顧してしたヴィオレットは、使用人の声かけに応えると父、ヘブンリーと共に謁見の間の扉の前まで移動した。
「我が愛娘、ヴィオレットよ。今日と言う日を迎える事が出来て、私は幸せだ。」
入場を目前に控え感極まったのか、既に涙目になっている父の姿を見たヴィオレットはクスリと笑うと、彼の大きく逞しい手をそっと握り返した。
「お父様、折角の婚礼の日なんですから、わたしにも格好良い姿を見せてくださいね?」
「…あぁ、勿論だ。」
ヘブンリーは涙を何とか堪えると、侯爵家当主らしい威厳のある表情に切り替えた。その姿にまたヴィオレットが微笑んだ瞬間、謁見の間に繋がる扉が開け放たれた。
───いよいよ入場だ。
◆
謁見の間に踏み込むと、学生の頃共に過ごした友人の令嬢や、リリィをはじめとするサンセール侯爵家に仕えている使用人達、王家の親類等…他にも多くの人達が祝福に訪れていた。
沢山の暖かな視線に迎え入れられ、微かに驚きの表情を見せたヴィオレットの前に、母のアリアが姿を現した。
「ヴィオレット、これからはビアンカ様と2人で未来を切り開いていくのよ。父も母も、貴方達の幸せを願っているわ。」
アリアは彼女に慈愛の眼差しを向けながら祝福すると、彼女の顔にそっとベールをおろした。『さぁ、いってらっしゃい。』と微笑まれ、それに笑みを返したヴィオレットは真っ直ぐ前を見据えた。
───謁見の間の奥、国王陛下の座る玉座の前で彼は待っている。
金糸の刺繍の施されたスーツに身を包むビアンカは女装の時とは違い、涼やかに凛と佇んでいる。
彼の元に一歩、また一歩と近づいていく。彼の姿が徐々に鮮明になってくる。
彼の目の前までやって来ると、そっと父から手を放す。その直前に名残惜しげに手をキュッと手を握られじわりと涙腺が緩んでしまう。
そんなヴィオレットの姿にビアンカは微笑みを向けるとそっと彼女の手をとった。
「ようやくこの時が来たね、ヴィオレット。」
「はい、漸くこの日を迎えることが出来たのですね。」
2人は見つめ合うと、そのままゆっくりと国王陛下に頭を下げた。
「2人とも、面をあげよ。」
国王陛下の言葉に顔を上げると、そこには威厳ある表情の中にもどこか優しい眼差しを向ける国王の姿があった。
「ビアンカ・トリフォリウム、ヴィオレット・サンセール。今ここに2人の婚姻を認めることとする!」
国王陛下の宣言と同時に謁見の間は大きな拍手に包み込まれる。それに紛れ込むかの様にして、何処からか啜り泣く声が聞こえる……聞き覚えのあるそれは、きっとリリィの泣き声だ。
優しい拍手に包まれながら、ヴィオレットはそっと目を閉じた。
───これからはビアンカの家族として騎士として、彼の隣に立つことが出来る。それがヴィオレットにとって何よりも嬉しかった。
婚礼式の後に催された披露宴では、それぞれ男装、女装姿で行った為会場は再び大いに沸き立った。こうして2人の婚礼式は無事に終わった。
◆
ヴィオレットはビアンカと共に王宮を出て2人で暮らす新居へと向かうことになった。
半年の準備期間の間に、王家の保有する王宮にほど近い土地に、2人が住む屋敷が建てられた。この事を提案してくれた王妃様には頭が上がらないねと、揺れる馬車の中ビアンカとヴィオレットは2人で笑い合った。
ヴィオレットがふと窓の外を見ると、そこには雲ひとつない青空が広がっている。ネグロに婚約破棄を告げられ、会場を立ち去った日の夜空とは全く違って見える。
その空はまるでこれからの2人を祝福するかのように美しい色をしていた。
「ヴィオレット、どうかした?」
「いいえ……ただ、とても綺麗な青空だと思いまして。」
「あぁ、本当だね。まるで私達を祝福しているかのようだよ。」
ビアンカも彼女の視線につられる様に窓の外に視線を向けた。
ヴィオレットの視界に映るビアンカは、白いタキシードを着ているせいかいつもの儚さは身をひそめ、どこか凛々しく、格好良く見える。
ヴィオレットの視線に気付たビアンカは、彼女の方に向き直ると優しく微笑んだ。
「これからはずっと一緒だね。」
「はい。騎士として、伴侶として、これからも宜しくお願い致します。……ビアンカ様。」
2人は見つめ合うとそっと手を取り合った。そしてそのまま静かに唇を重ねたのだった───
end.
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