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かわいい味方の登場!

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「はぁ、今日も会えなかったなぁ……」

 心細い一人の夜。
 今や、私の心の支えは連くんだけなのに……。
 その連くんに会う事も、ましてや名前を呼ぶことも許されない毎日。
 そのため、私の元気がだんだんと、なくなっていった。

『ミア王女、寝る前にリラックスできるハーブティーを、』
『ごめんね、いらないや』

 私が元気がない理由を、周りの皆は「心の病に侵されたのでは?」と心配してる。
 だから美味しい食べ物とか、珍しいお菓子とか、評判の良い本とか――たくさんの物を、私の部屋に持ってきてくれる。

 でも、私がいるのは、そんな物じゃない。
 私は、連くんと会えれば、ただそれだけでいいのに!

「はぁ……、ん?何この本?」

 プレゼントされた山積みの本の中。
 その一冊が、光っているように見えた。
 っていうか、光ってる。今も、金色に。
 まるで「手に取って」と――そう言わんばかりに。

「この国の本は、光る物もあるんだね。キレイ……、ちょっと見てみようかな!」

 おそるおそる、だけど少しワクワクしながら、私は本に手を伸ばした。
 そして、金色に光る、図鑑のような厚さの本をつかみ取る。

「わぁ、本当に光ってる……!」

 膝の上に本を置いて、光る本の表紙を、ゆっくりとめくった。
 すると――

 シュウウウゥゥゥ

「わ! け、煙!?」

 表紙を開いた途端、本から白い煙が出て来た。
 火事かと思って焦ったけど、熱くもなんともなくて……。
 不思議に思いながら、再び本に目を移す。
 その時に、私はとんでもない物を見てしまった。

「ふわーあ、よく寝た」
「……誰?」

 目を開けると、長い服にダボダボのズボンという、どこかの民族衣装みたいな服に身を包まれている男の子がいた。
 でも、ただの男の子じゃない。
 私の手のひらに乗るくらい、とっても小さい男の子。

「え……、妖精!?」

 驚いて大きな声を出すと、部屋の外から「いかがされましたか?王女」と側近にノックされる。
 私は慌てて誤魔化して、再び男の子に目をやる。
 すると、なんと男の子も、私の事をジッと見ていた。短い髪をポリポリかきながら。

「俺を起こしたのってアンタ?」
「う、うん……! 私だよ」

「ふーん。で、ここは?」
「わ、私の部屋……かな?」

 男の子は、部屋をキョロキョロして、とっても興味深そう。
 でも私からすると、そんな男の子自身に興味があって……「君は妖精なの?」と、我慢できずに聞いてしまった。

「そ、妖精。今まで本の中で寝ててさ。あ~、腹減ったー」
「あ! ここにお菓子があるよ?」
「食うー!」

 言うやいなや、妖精くんは背中からひよっと羽を出した。
 まるで蝶々みたいな形。透けていて、とってもキレイ。

「妖精くんは蝶々の仲間なの?」
「いんや、羽が似てるだけで仲間じゃねーよ。あ、俺の事はロロって呼んで」
「分かった、ロロ!私はミアだよ」

 言うと、妖精くん――ロロは「あいよー」と返事した。
 ロロは見た目は少し怖いけど(目つきが鋭い)、黒髪に黒い瞳っていう日本人の特徴と似ていて、親近感が湧いちゃう。
 妖精だけどね!

「なんで本の中で寝てたの?」

 お菓子をモリモリ食べるロロに尋ねる。
 すると、意外な答えが返って来た。

「寝てたっていうか、封印されてたっていうか」
「え、封印!?」
「あ、なんでもない」

 ロロは「しまった」と言わんばかりに、自分の口を手で押さえた。
 何か喋っちゃいけない事でも、あったのかな?

「何か困ってる事があるの?」
「……いや、ねーよ」

 私の首に巻かれているハートのネックレスを見て、ロロはしかめっ面をして答えた。
 なんでだろ、眩しかったのかな?
 ロロが嫌がるなら――と、私はネックレスを外して、机に置いた。
 そんな私を見ていたロロが「なぁ」と、真剣な顔で質問してきた。

「俺の他に、もう一人、妖精がいなかったか?」
「煙の中から出てきたのは、ロロだけだったよ」

「そうか……」
「ロロ?」

 肩を落として、どこか落ち込んでいるロロ。
 もしかして、他にも妖精がいるの?
 ロロにも……会いたい人がいるの?

「ねぇロロ、私もね。一緒なの」
「は?何の話、」

「会いたい人がいるんだぁ。って言っても、会える見込みは、全然ないんだけどね」
「え……」

 私の話なのに、ロロは自分の事のように、悲しい表情を浮かべる。

「ロロ、あなた優しいんだね」
「は?別に、俺は……」

「うん、ありがとう!」
「聞けよ!」

 一方的に話を進める私に呆れたのか、ロロはクッキーを食べ始める。
 さっき出した蝶々のような羽は消せるらしくて、今はスッキリした背中だ。

「ねぇロロ、私、他の妖精さんにも会ってみたいな!」
「わー、このお菓子うめー」
「聞いてよ!」

 あきらかに棒読みのロロをジト目で見ながら、ロロが眠っていた本を見る。
 厚い本だと思ってたけど、ロロの体が入る分の隙間が、本の中にくりぬかれてあった。

「ねぇ、どうして、この本の中にいたの?」
「……さぁな」

 一瞬だけ、クッキーを食べる手を止めたロロ。
 だけど、一言返事をしたら、それきりで。
 後はずっと、無言でクッキーを食べていた。

「ロロ、クッキー好きなんだね……。ふあぁ~、眠くなっちゃった」

 たった今、起きたばかりのロロと違って、とっくに就寝時間を過ぎていた私。
 迫る眠気に勝てなくて、ベッドに横になる。
 その時、ロロが寝るための布団や枕を、ハンカチを使って用意した。

「ロロ、今日からはここで寝てね。私は先に寝るね、おやすみ」
「……おぅ」
「へへ、また明日」

 こんなに楽しい日は久しぶりだった。ロロが来てくれたおかげ。
 そう思ったら嬉しくて、つい笑ってしまう。
 ロロには「さっさと寝ろ」なんて言われたけど……。
 明日もたくさんお話をしようね、ロロ。
 約束だよ――

「グゥ、グゥ……」
「寝るの早」

 クッキーから手を離したロロは、羽を出して私の枕元まで飛んでくる。
 そして「へへ」と笑いながら寝ていた私を、ため息をつきながら見た。

「急に現れた俺に、もうちょっと警戒しろよな」

 さっき私が外したハートのネックレスを、ロロは見る。

「ハート国、か」

 ロロは窓の傍まで飛んで、夜を明るく照らすお月様を、眩しそうに見上げた。

「お前は……どこに行ったんだよ、ネネ」

 消え入りそうな小さな声は、いびきをかいて寝ている私には当然、聞こえなかった。
 ばかりか……

「ぐぉ~、ぐぉ~」
「だー! もう! うるさいんだっての!!」

 私のいびきに我慢できなくなったロロに、頭をペシンと叩かれた事も、私は全く気づかなかったのだった。
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