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ホテル

1.

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 屋上の件から数日が経ち、今日は休日。学校は休み。
 私はなんだか動く気がしなくて、部屋でゴロゴロしていた。
 すると、廊下で「海木くんー」と穂乃花がセンセーを呼ぶ声がする。
 しばらくするとセンセーが「出来た?じゃあ行こうか」と言う声が聞こえた。

 ん?
 じゃあ行こうか?

「(どこに!?)」

 玄関のドアの音がしたから、カーテンの隙間から外を見る。
 すると、センセーにベッタリと引っ付いた穂乃花が嬉しそうに道を歩いていた。
 センセーは穂乃花と何か話をしているのか、喋っている風に見える。

「(で、デート……?
 いや、まさかな)」

 センセーは穂乃花を嫌っていたし……デートなんて誘われても行くワケねぇよな。
 いや、でも、穂乃花の可愛さにメロメロだったとしたら!?

「(大樹が生きてるってのにキスしてきたエロセンセーだぞ?
 穂乃花に手を出したとしても全然変な話じゃねーよな……?)」

 案外ひどい発想をしている私。
 カーテンを覗くのをやめて、ベッドに再び横になる。

「大樹を探しに行かないといけないってのに……クソ」

 大樹は生きている。
 それが知れただけで嬉しい。
 だけど――なら、どこで生きてる?
 六年もの間、どうやって暮らしてるんだ?

「誰かに、拾われて育てられている……?」

 でも、どこで?

「はぁ、分かんねぇことだらけだな」

 大樹が失踪した時。私たちはまだ子供だった。
 きっと、大樹一人の力で生きていくのは無理だ。
 大樹、悪い人に捕まってないよな?
 痛い事や苦しい事、変な事はされてないよな?

「(もし……と想像するだけで、ゾッとする)」

 体がブルブルと震える。
 もしも大樹を助けられるとしたら、それは事実を知っている私しかいない。
 大樹、待ってろよ。
 私が絶対に、助けてやるからな。

「手始めに、地図……買わなきゃな」

 出かけたくはないけど、まずは本屋に行かなきゃ。
 話は、それからだ――



 と思って出かけたけど、本屋に着いた途端に後悔をした。
 だって、センセーと穂乃花が一緒にいるんだもん……。

「海木くーん、なんでこんな物がいるのー?」
「必要なんだよ。ちょっと知っておきたいことがあって」

「ふーん、じゃあさ、それ買ったら……ゆっくりできる所でお話しない?
 私もね、海木くんに話したいことがあるの」
「……分かった。じゃあ、静かな所に行こうか」

 センセーが怪しくニッと笑うと、穂乃花は頬を染めた。

「分かってるんだね、海木くん。
 うん、じゃあ――良いところ行こうか」

 そうして会計を終えたセンセーは、穂乃花と路地裏に消えていった。
 その先には――いわゆる大人のホテルが軒並み並んでいた。

「え……お、おい、ウソだろ!?」

 ギリギリまであとをつけると、二人はスッとホテルの中に入って行った。
 一部始終の事があっという間で、私は止める間もなかった。

「なに、考えてんだよ……!」

 センセー、この前から変だぞ。
 なんで私にキスしたり、穂乃花とホテルに入ったりするんだよ……!

「~っ!」

 この辺り一帯が載った地図を手に持ち、レジに並ぶ。
 私の顔はよほど怖かったようで、店員さんの値段を読む声が震えていたようだった。
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