ようこそ、悲劇のヒロインへ

一宮 沙耶

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10話 失恋

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 最近は、本当に、体だけじゃなく心も女性になっちゃったみたい。かっこいい男性がいると、目で追ってる自分に気づく。なんか、素敵な彼に優しくしてもらいたいって、気付くと想像している。男にチヤホヤされると嬉しくなっちゃう。

 体も、生理があるから女性ホルモンとかいっぱい出ているんだと思う。生理が明けると、どうしてもエッチしたくなっちゃって、気づくと自分でやってるの。止められない。そんな時に、私を抱いてって思うのはおかしいの?

 私のことをいっぱい聞いてくれて、ぐいぐい引っ張って行ってくれて、いつも優しくしてくれる彼が欲しい。

 そんな時、出会い系サイトで出会った人と恋が始まった。彼は、落ち着いていて、大人で、どんな話しをしても、そうだね、そうだねと聞いてくれた。

 親がお金持ちらしくて、スポーツカーで、海辺とかに連れて行ってくれたり、おしゃれなレストランに一緒に行ったり、いつも、新しい経験ができて、本当に好きになった。

 この前も、私が好きそうな曲を集めてみたって、車の中で、流してくれた。好きな音楽がずっと流れるのはいいんだけど、それ以上に、私のことずっと考えて、どんな曲がいいかなって私のために時間を使ってくれたことが嬉しい。

 やることなすこと、本当に大人の男性で、いつも、私のことをお姫様にしてくれる。ベットの上でも、本当に紳士で、私の気持ちを一番に考えてくれてる。

 しかも、ただ、私をチヤホヤするだけじゃなく、大人として怒ってもくれるの。この前、レストランのお皿に髪の毛が入っていたから、お店の人にこのお皿交換してって怒ったら、相手も誠意を持って作ったんだから、言い方は気をつけなさいって怒られた。

 やっぱり、上品という言葉がそのままって感じ。顔も、爽やかで、とても均整が取れていて西洋の彫刻みたい。そんな人から、大切にされる私も一流ってことでしょ。

 また、彼は、急成長のベンチャーの社長。ニュースとかでも、今後も、成長が間違いないって。目の付け所がいいのよ。

 私、初めて、この人の子供産みたいって思っちゃった。お金じゃないのよ。この人の遺伝子がほしいってことなのかな。よくわからないけど、体が欲するの。

 この人と一緒に暮らし、子供もいつも笑顔で走り回ってる。そんな生活って、理想じゃない。昔、子供を産むなんて考えられないなんて思ったけど、今は、そんなことを考えていた頃の自分が理解できない。

 私、早く、この人の子供が欲しい。子宮がそう言ってる。赤ちゃんがお腹にいて、一緒に音楽聞いたりとか、足でお腹を蹴ったりとかしたら、本当に愛おしいと感じるんだと思う。

 最近は、道路でお母さんと一緒に歩いてる幼稚園児とかをみると、本当に可愛らしい。ベビーカーを推してるお母さんとかみると、ずっと眺めちゃっていて、お母さんから、抱いてみますかなんて声をかけられちゃう。

 赤ちゃんって、いい匂いだし、このあどけない笑顔が本当に可愛い。私も、早く欲しいの。いつの間にか、女性が子供を作りたいって気持ちも共感できるようになっていたのね。どこからみても、女性になってる。

 ただ、ある時、道端で、彼が知らない女と一緒に歩いているのを見かけたの。その時、今から思うと、私の目は吊り上がっていたんだと思う。

 誰、あの女。少し、後をついて行ってみよう。あれ、今度は別の男と歩いている。あの女、男っていえば見境もなく近寄って、人の男を奪っていく、メス狐だわ。あんな女は彼にはふさわしくない。写真撮って、本当の姿を彼に見せつけてやる。

 今から思うと、どうしてあんな非論理的なことしちゃったんだろうと思うけど、その時は、自分の気持ちを抑えられなかった。

「健一さん、この前、この女性と一緒にいたでしょう。この人と会うのやめた方がいいわよ。この人、この写真の通り、健一さんと別れたすぐ後に別の男性と一緒に歩いていたし、なんか、お水の商売している人っていう噂聞いたし。やめといた方がいい。」
「水商売っていうのは誰から聞いたの。」
「それは、誰だったかな。」
「それは違うよ。彼女は、今、仕掛けているビジネスのお客さまとして狙っている会社の社長だ。若いけど、実績もあり、しっかりとしたビジネスウーマンだ。どうして、そんなゲスなことを言うんだい。」
「あなたにふさわしくないと思ったから。」
「彩、君はそんな人だったのか? 残念だ。」
「いや、私は間違っていない。」
「少し、距離を置いてお互いに冷静になった方がいいね。」
「待って。嫌いにならないで。」

 そんなやりとりの後、彼とは連絡が取れなくなってしまった。いつの間にか、嫌いだった女性の言動そのものをしてしまっている。どうしてなの。
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