贈りもの

一宮 沙耶

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4話 女性差別

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私は、大勢の人が働く東京オフィスの大部屋にいた。
ある日、女性のアシスタントが、座っている年下の男性の後ろから話しかけている。
その女性は、安そうな白のブラウスと紺のパンツ姿だけど、清潔感はある。

「この提案書、見ていただけないでしょうか。」

おどおどした態度で頭を下げ、男性社員を見つめていた。
男性社員は、座ったまま足を組み、立った女性社員をバカにするように見上げる。
 
「また、くだらない提案書か。まあ、部下の教育も俺の仕事だし、優しい俺は、読んでおくよ。」
「ありがとうございます。」

女性は笑顔で男性社員の元から去る。
でも、男性社員に背を向けると顔から表情は消えた。
手が震えていて、ボールペンを折ってしまいそうなくらい力が入る。
 
数日後、男性社員は、その提案書を自分のものとして上司に提出したことを知ったの。
女性アシスタントは、カフェエリアでサラダ中心のお弁当を食べている。
声をかけてみることにした。
 
「横、いいかしら。」
「はい。」
「そんなに緊張しなくていいから。だって、私の先輩でしょう。」
「いえ、副社長から信頼を得ている宮下マネージャーにはかないません。」
「ところで、この前、年下の男性に提案を盗まれたでしょう。なんで文句言わないの。提案書をみたけど、立派じゃない。よく、あそこまで調べたわね。また、発想が素晴らしい。しかも、あの男性はなにも付け加えていないんでしょう。おかしいじゃない。」
「宮下さんは副社長に優遇されているからわからないんです。私のような女性が自己主張すれば、うるさい女性だと言われ、クビになるか、地下のかび臭い資料室とかに飛ばされるんです。でも、私が提案書を出して、彼が評価されれば、彼にとって私は有益な存在になれる。そうすれば、給料が低くても、この快適なオフィスにいられるんです。そっちの方がいいですから。」
 
最近、周りを見ていると、優秀な女性はたくさんいる。
しかも、この会社では女性が円滑油として重要な役割も果たしている。
男性たちが問題を起こすと、その後始末を女性がしているのをよく見かける。
 
でも、この会社では、女性ということだけで昇格も昇給もできない。
給料も、10年も働いている女性でも、新入社員の男性とあまり変わらない。
どうして、このような状況を男性の時にわからなかったのかしら。
 
しかも、女性になって生理の負担がどれだけ多いかには驚かされた。
私には女性は話してこないから、他の女性がどれほどかはわからない。
私の生理が普通より重いのかもしれない。
 
そうだとしても、こんなにつらい日に、男性には言わずに仕事を続けるのはすごい。
女性は多くの差別を受け、ハンディーキャップを背負っている。
女性への軽視が根付いているこの会社を、変えていく必要があると最近は思っていた。
 
でも、あまりに女性差別が当たり前で、なにから取り組んだらいいかわからない。
女性たちも、現状を変えることを期待していないように見えた。
そんなことをして、逆にいじめられることを恐れている。
 
全社キックオフのときも、そうだった。
私は副社長の横で、ワインを持ってこようとした時だった。
 
「宮下はそんなことをしなくていい。おい、君、ワインを持ってきてくれ。」
「はい、わかりました。」
 
副社長は、横のテーブルにいた女性に指示をする。
その女性は、あわてて白ワインを走りながら持ってきた。
 
「お前は気が利かないな。この料理には赤ワインだろう。お前の名前はなんていうんだ。」
「え、あの、河上ですが・・・。」
 
トイレに入ると、その女性が泣いていた。
マスカラが落ち、老婆のような顔に見えた。
私を見るなり、取り乱したようにすがってくる。
 
「あ、宮下マネージャー、私のこと副社長に取りなしてください。このままではクビになってしまう。まだ子供が小さいのに、旦那が失業してしまって、私もクビになると養育費が払えないんです。そうなったら、家族全員が自殺するしかない・・・。」
「そんなことでクビなんてないでしょう。」
「副社長は、ちょっとしたことでも許せない社員をクビにするんです。しかも、私みたいな女性なんて、いつも、いなくなっても補充はどこからでもできると言ってるらしいし。信じてください。」
「わかった。言っておくから、安心して。」
 
少しは冷静になったのか、顔にハンカチをあて去っていった。
ただ、まだ体は震えていた。
私は、席に戻り、その女性のことを副社長にお願いしようとした。
 
「さっきの河上さんのことなんですが・・・。」
 
私の言葉を遮り、副社長は強い語調で私に指示をする。
 
「河上はクビにするよう、人事部長に言っておけ。女性なんて、ろくに仕事もできないんだよ。だから男性に仕える仕事をやらせているのに、それすらできないなんて、この会社にいる意味がない。そんなやつが、俺の目に入るのは不愉快だ。」
「でも、あんなことで・・・。」
「不満があるのか?」
「いえ、ご指示に従います。」
 
副社長に睨まれて体は硬直し、それ以上、言うことはできなかった。
ごめんなさい。河上さん。
 
女性差別以上に、副社長の横暴はエスカレーションしていく。
ある日、エレベーターで、副社長と一緒にいると、若い女性が乗ってきたの。
副社長に挨拶しなかったからか、エレベータを降りた時に、副社長が聞いてきた。
 
「あれは誰だ?」
「確か、山本常務が所掌する業務管理本部にいる派遣社員だと思います。」
「俺に挨拶がないなんて、当社で働く価値がない。クビにしろ。」
「え、挨拶だけで派遣社員をですか? 最近入ったばかりだったと思いますが・・・。」
「なんか、文句あるか?」
「いえ、ありません。承知しました。」
 
私は、人事部長のところに行く。
副社長があの派遣をクビにしろって言われたので、よろしくと伝えた。
翌日以降、その派遣社員の顔は見なくなった。
 
山本常務は、副社長のこの横暴さに腹をたて、私のことも許さないと言っていたらしい。
そんなこと言われても、私も拒否できないんだから、仕方がないのよ。
私を守れないあなたのせい。
 
別の日には、副社長は、鈴木は気に入らないと怒鳴り散らしていた。
鈴木さんの提案案件をさんざんに言って、案件担当から引き下ろしたの。
そして、自分の子飼いにその案件を引き継がせた。
鈴木さんは、そのせいで受注金額が落ち込み、降格させられたらしい。
 
私はといえば、あいかわらず、副社長の横でお客様のご機嫌を取っている。
そして、その後は、ホテルで朝まで副社長の横で過ごす日々が続いた。
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