4 / 9
4話 女性差別
しおりを挟む
私は、大勢の人が働く東京オフィスの大部屋にいた。
ある日、女性のアシスタントが、座っている年下の男性の後ろから話しかけている。
その女性は、安そうな白のブラウスと紺のパンツ姿だけど、清潔感はある。
「この提案書、見ていただけないでしょうか。」
おどおどした態度で頭を下げ、男性社員を見つめていた。
男性社員は、座ったまま足を組み、立った女性社員をバカにするように見上げる。
「また、くだらない提案書か。まあ、部下の教育も俺の仕事だし、優しい俺は、読んでおくよ。」
「ありがとうございます。」
女性は笑顔で男性社員の元から去る。
でも、男性社員に背を向けると顔から表情は消えた。
手が震えていて、ボールペンを折ってしまいそうなくらい力が入る。
数日後、男性社員は、その提案書を自分のものとして上司に提出したことを知ったの。
女性アシスタントは、カフェエリアでサラダ中心のお弁当を食べている。
声をかけてみることにした。
「横、いいかしら。」
「はい。」
「そんなに緊張しなくていいから。だって、私の先輩でしょう。」
「いえ、副社長から信頼を得ている宮下マネージャーにはかないません。」
「ところで、この前、年下の男性に提案を盗まれたでしょう。なんで文句言わないの。提案書をみたけど、立派じゃない。よく、あそこまで調べたわね。また、発想が素晴らしい。しかも、あの男性はなにも付け加えていないんでしょう。おかしいじゃない。」
「宮下さんは副社長に優遇されているからわからないんです。私のような女性が自己主張すれば、うるさい女性だと言われ、クビになるか、地下のかび臭い資料室とかに飛ばされるんです。でも、私が提案書を出して、彼が評価されれば、彼にとって私は有益な存在になれる。そうすれば、給料が低くても、この快適なオフィスにいられるんです。そっちの方がいいですから。」
最近、周りを見ていると、優秀な女性はたくさんいる。
しかも、この会社では女性が円滑油として重要な役割も果たしている。
男性たちが問題を起こすと、その後始末を女性がしているのをよく見かける。
でも、この会社では、女性ということだけで昇格も昇給もできない。
給料も、10年も働いている女性でも、新入社員の男性とあまり変わらない。
どうして、このような状況を男性の時にわからなかったのかしら。
しかも、女性になって生理の負担がどれだけ多いかには驚かされた。
私には女性は話してこないから、他の女性がどれほどかはわからない。
私の生理が普通より重いのかもしれない。
そうだとしても、こんなにつらい日に、男性には言わずに仕事を続けるのはすごい。
女性は多くの差別を受け、ハンディーキャップを背負っている。
女性への軽視が根付いているこの会社を、変えていく必要があると最近は思っていた。
でも、あまりに女性差別が当たり前で、なにから取り組んだらいいかわからない。
女性たちも、現状を変えることを期待していないように見えた。
そんなことをして、逆にいじめられることを恐れている。
全社キックオフのときも、そうだった。
私は副社長の横で、ワインを持ってこようとした時だった。
「宮下はそんなことをしなくていい。おい、君、ワインを持ってきてくれ。」
「はい、わかりました。」
副社長は、横のテーブルにいた女性に指示をする。
その女性は、あわてて白ワインを走りながら持ってきた。
「お前は気が利かないな。この料理には赤ワインだろう。お前の名前はなんていうんだ。」
「え、あの、河上ですが・・・。」
トイレに入ると、その女性が泣いていた。
マスカラが落ち、老婆のような顔に見えた。
私を見るなり、取り乱したようにすがってくる。
「あ、宮下マネージャー、私のこと副社長に取りなしてください。このままではクビになってしまう。まだ子供が小さいのに、旦那が失業してしまって、私もクビになると養育費が払えないんです。そうなったら、家族全員が自殺するしかない・・・。」
「そんなことでクビなんてないでしょう。」
「副社長は、ちょっとしたことでも許せない社員をクビにするんです。しかも、私みたいな女性なんて、いつも、いなくなっても補充はどこからでもできると言ってるらしいし。信じてください。」
「わかった。言っておくから、安心して。」
少しは冷静になったのか、顔にハンカチをあて去っていった。
ただ、まだ体は震えていた。
私は、席に戻り、その女性のことを副社長にお願いしようとした。
「さっきの河上さんのことなんですが・・・。」
私の言葉を遮り、副社長は強い語調で私に指示をする。
「河上はクビにするよう、人事部長に言っておけ。女性なんて、ろくに仕事もできないんだよ。だから男性に仕える仕事をやらせているのに、それすらできないなんて、この会社にいる意味がない。そんなやつが、俺の目に入るのは不愉快だ。」
「でも、あんなことで・・・。」
「不満があるのか?」
「いえ、ご指示に従います。」
副社長に睨まれて体は硬直し、それ以上、言うことはできなかった。
ごめんなさい。河上さん。
女性差別以上に、副社長の横暴はエスカレーションしていく。
ある日、エレベーターで、副社長と一緒にいると、若い女性が乗ってきたの。
副社長に挨拶しなかったからか、エレベータを降りた時に、副社長が聞いてきた。
「あれは誰だ?」
「確か、山本常務が所掌する業務管理本部にいる派遣社員だと思います。」
「俺に挨拶がないなんて、当社で働く価値がない。クビにしろ。」
「え、挨拶だけで派遣社員をですか? 最近入ったばかりだったと思いますが・・・。」
「なんか、文句あるか?」
「いえ、ありません。承知しました。」
私は、人事部長のところに行く。
副社長があの派遣をクビにしろって言われたので、よろしくと伝えた。
翌日以降、その派遣社員の顔は見なくなった。
山本常務は、副社長のこの横暴さに腹をたて、私のことも許さないと言っていたらしい。
そんなこと言われても、私も拒否できないんだから、仕方がないのよ。
私を守れないあなたのせい。
別の日には、副社長は、鈴木は気に入らないと怒鳴り散らしていた。
鈴木さんの提案案件をさんざんに言って、案件担当から引き下ろしたの。
そして、自分の子飼いにその案件を引き継がせた。
鈴木さんは、そのせいで受注金額が落ち込み、降格させられたらしい。
私はといえば、あいかわらず、副社長の横でお客様のご機嫌を取っている。
そして、その後は、ホテルで朝まで副社長の横で過ごす日々が続いた。
ある日、女性のアシスタントが、座っている年下の男性の後ろから話しかけている。
その女性は、安そうな白のブラウスと紺のパンツ姿だけど、清潔感はある。
「この提案書、見ていただけないでしょうか。」
おどおどした態度で頭を下げ、男性社員を見つめていた。
男性社員は、座ったまま足を組み、立った女性社員をバカにするように見上げる。
「また、くだらない提案書か。まあ、部下の教育も俺の仕事だし、優しい俺は、読んでおくよ。」
「ありがとうございます。」
女性は笑顔で男性社員の元から去る。
でも、男性社員に背を向けると顔から表情は消えた。
手が震えていて、ボールペンを折ってしまいそうなくらい力が入る。
数日後、男性社員は、その提案書を自分のものとして上司に提出したことを知ったの。
女性アシスタントは、カフェエリアでサラダ中心のお弁当を食べている。
声をかけてみることにした。
「横、いいかしら。」
「はい。」
「そんなに緊張しなくていいから。だって、私の先輩でしょう。」
「いえ、副社長から信頼を得ている宮下マネージャーにはかないません。」
「ところで、この前、年下の男性に提案を盗まれたでしょう。なんで文句言わないの。提案書をみたけど、立派じゃない。よく、あそこまで調べたわね。また、発想が素晴らしい。しかも、あの男性はなにも付け加えていないんでしょう。おかしいじゃない。」
「宮下さんは副社長に優遇されているからわからないんです。私のような女性が自己主張すれば、うるさい女性だと言われ、クビになるか、地下のかび臭い資料室とかに飛ばされるんです。でも、私が提案書を出して、彼が評価されれば、彼にとって私は有益な存在になれる。そうすれば、給料が低くても、この快適なオフィスにいられるんです。そっちの方がいいですから。」
最近、周りを見ていると、優秀な女性はたくさんいる。
しかも、この会社では女性が円滑油として重要な役割も果たしている。
男性たちが問題を起こすと、その後始末を女性がしているのをよく見かける。
でも、この会社では、女性ということだけで昇格も昇給もできない。
給料も、10年も働いている女性でも、新入社員の男性とあまり変わらない。
どうして、このような状況を男性の時にわからなかったのかしら。
しかも、女性になって生理の負担がどれだけ多いかには驚かされた。
私には女性は話してこないから、他の女性がどれほどかはわからない。
私の生理が普通より重いのかもしれない。
そうだとしても、こんなにつらい日に、男性には言わずに仕事を続けるのはすごい。
女性は多くの差別を受け、ハンディーキャップを背負っている。
女性への軽視が根付いているこの会社を、変えていく必要があると最近は思っていた。
でも、あまりに女性差別が当たり前で、なにから取り組んだらいいかわからない。
女性たちも、現状を変えることを期待していないように見えた。
そんなことをして、逆にいじめられることを恐れている。
全社キックオフのときも、そうだった。
私は副社長の横で、ワインを持ってこようとした時だった。
「宮下はそんなことをしなくていい。おい、君、ワインを持ってきてくれ。」
「はい、わかりました。」
副社長は、横のテーブルにいた女性に指示をする。
その女性は、あわてて白ワインを走りながら持ってきた。
「お前は気が利かないな。この料理には赤ワインだろう。お前の名前はなんていうんだ。」
「え、あの、河上ですが・・・。」
トイレに入ると、その女性が泣いていた。
マスカラが落ち、老婆のような顔に見えた。
私を見るなり、取り乱したようにすがってくる。
「あ、宮下マネージャー、私のこと副社長に取りなしてください。このままではクビになってしまう。まだ子供が小さいのに、旦那が失業してしまって、私もクビになると養育費が払えないんです。そうなったら、家族全員が自殺するしかない・・・。」
「そんなことでクビなんてないでしょう。」
「副社長は、ちょっとしたことでも許せない社員をクビにするんです。しかも、私みたいな女性なんて、いつも、いなくなっても補充はどこからでもできると言ってるらしいし。信じてください。」
「わかった。言っておくから、安心して。」
少しは冷静になったのか、顔にハンカチをあて去っていった。
ただ、まだ体は震えていた。
私は、席に戻り、その女性のことを副社長にお願いしようとした。
「さっきの河上さんのことなんですが・・・。」
私の言葉を遮り、副社長は強い語調で私に指示をする。
「河上はクビにするよう、人事部長に言っておけ。女性なんて、ろくに仕事もできないんだよ。だから男性に仕える仕事をやらせているのに、それすらできないなんて、この会社にいる意味がない。そんなやつが、俺の目に入るのは不愉快だ。」
「でも、あんなことで・・・。」
「不満があるのか?」
「いえ、ご指示に従います。」
副社長に睨まれて体は硬直し、それ以上、言うことはできなかった。
ごめんなさい。河上さん。
女性差別以上に、副社長の横暴はエスカレーションしていく。
ある日、エレベーターで、副社長と一緒にいると、若い女性が乗ってきたの。
副社長に挨拶しなかったからか、エレベータを降りた時に、副社長が聞いてきた。
「あれは誰だ?」
「確か、山本常務が所掌する業務管理本部にいる派遣社員だと思います。」
「俺に挨拶がないなんて、当社で働く価値がない。クビにしろ。」
「え、挨拶だけで派遣社員をですか? 最近入ったばかりだったと思いますが・・・。」
「なんか、文句あるか?」
「いえ、ありません。承知しました。」
私は、人事部長のところに行く。
副社長があの派遣をクビにしろって言われたので、よろしくと伝えた。
翌日以降、その派遣社員の顔は見なくなった。
山本常務は、副社長のこの横暴さに腹をたて、私のことも許さないと言っていたらしい。
そんなこと言われても、私も拒否できないんだから、仕方がないのよ。
私を守れないあなたのせい。
別の日には、副社長は、鈴木は気に入らないと怒鳴り散らしていた。
鈴木さんの提案案件をさんざんに言って、案件担当から引き下ろしたの。
そして、自分の子飼いにその案件を引き継がせた。
鈴木さんは、そのせいで受注金額が落ち込み、降格させられたらしい。
私はといえば、あいかわらず、副社長の横でお客様のご機嫌を取っている。
そして、その後は、ホテルで朝まで副社長の横で過ごす日々が続いた。
3
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる