贈りもの

一宮 沙耶

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6話 孤独

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今朝、会社に来ると、営業部がざわざわしている。
何かあったのと聞くと、副社長が懲戒解雇になったらしい。
どうも、会社経費を横領したことが原因だと聞いた。
 
営業部長には、第2営業部の部長が任命される。
担当役員は業務管理部を所掌している山本常務が兼務することになった。
 
副社長はだいぶ抵抗したらしい。
でも、産休中の秘書が証拠を提示し、逃げ道がなくなった。
 
その話しを聞いて、身を守るための準備は重要だと思った。
あの秘書は、この前一緒に食事したときは平然としてた。
でも、副社長と刺し違える覚悟だったのね。
なにもできない私の無力さを実感した。
 
私は、第1営業部の部下なしマネージャーとして、営業を続けた。
ただ、3年間、営業部にいたけど、本当の営業業務は1回もしたことがない。
成果を上げられない日々が続いたの。
 
実力がないのに同期1番でマネージャーに昇格した私へのやっかみかしら。
誰もが私を批判するようになり、あからさまに悪口をいわれるようになったの。
枕営業だとか、副社長と寝て、いい待遇を受けていたとか。
 
トイレに行くと、よく私について女性社員が噂していた。
入った途端に話しをやめて、穢らわしいという表情で出ていく光景もよくあった。
ある日、トイレに私がいることに気づかずに、女性達が話す声が聞こえてくる。
 
「ねえ、乙葉って、副社長の子供を妊娠して、おろしたっていう話し聞いた? あんな汚らしい女と一緒の会社にいるって嫌だよね。お金が欲しければ、おじさん騙して寝ちゃえって、本当に汚い女。気持ち悪い。」
「そうよね。子供ができた時に、誰の子かわからなかったらしいよ。何人の男と寝てたんだか。もしかしたら、ホステスの方が本業かもね。」
「本当にどうしょうもない女ね。いつも、海外に出張するたびに、ホテルでエッチしまくっていたんだって。それで、美味しいご飯食べて喜んでいたって。汚らしい。」
「そういえば、先輩の女性をちくってクビにしたらしいよ。」
「そうそう。それで、給料あげてもらってね。副社長がいなくなってよかったけど、なんであの女は残っているの? 辞めちゃえばいいのに。」
 
私が、抵抗できずに、どれだけ苦労してきたことか。
誰も守ってくれなかったのに、どうしてこんなこと言われなければならないの。
その女性達がいなくなった後、涙をボロボロ流しながら静かにトイレを出た。
 
特に、男性の時に、同期で、一緒に飲みにも行って仲良しだった女性の声も聞こえた。
その女性から、そんなことを聞くなんて想像もしていなかったわ。
 
今夜は、職場での忘年会があり、参加していた。
私抜きで忘年会の案内が出ていたことに気づき、あわてて参加したの。
私は一応、マネージャーだったからお酌とか強制されなかったけど、陰口が聞こえた。
 
「女なのにお酌しないんて、あいつ、つけあがっているんじゃないか。」
「なに言ってるの。もう、女性を差別する風潮はやめましょうよ。」
 
周りにいた女性社員たちは、余計なことを言うなと睨んでる。
女性を守ろうとしているのに、同じ女性が、どうして協力してくれないの。
 
「当社では、男性がほぼ売上全部を上げてるじゃないですか。宮下マネージャーだって、売上ゼロですよね。どこがおかしいんですか。」
「女性だって、優秀な人はいるのよ。ただ、当社の女性への偏見から、チャンスが与えられなかったから、重要なポストにつくことができず、男性が売り上げを上げているの。もう少し、女性のことを色めがねなしで見てみなさいよ。」
「女って、すぐに感情的になるから面倒なんだよな。今日の飲み会もしらけちゃったじゃないか。特に、宮下マネージャーは、何にも会社に貢献していないんだから、席に座っていて、決裁の承認だけしてればいいんですよ。それ以上、出しゃばらないでください。」
 
入社2年目の男性社員が、バカにするように私を見下げる。
売上ゼロの私は、それ以上、話すことができなかった。
それからも、あからさまな嫌がらせが続いたの。
 
食堂に行っても、私が入ると、周りはサッといなくなる。
決裁案件の中身とか聞いても、みんな無視。
こんな広いオフィスなのに、私の味方は一人もいなんだって実感した。
 
副社長は私を性の対象としてしか見てなかった。
でも、かわいいねとか、いっぱい話しかけてくれた。
今、この会社では、誰も話しかけてくれない。
 
会社では、存在していないみたいで、前の方が良かったかも。
営業なので外に出ても文句は言われない。
だから、外の公園で過ごす時間が増えた。
 
新規開拓と言っても、どの会社に、どうやってアプローチすればいいかわからない。
周りに聞いても、マネージャーなんでしょうって誰も教えてくれない。
会社のホームページ見て、メールを出しても、返事は全く来ないし。
どうしていいかわからない。
 
そんな時、営業部では、山本常務が営業第1部長を呼び出した。
 
「宮下さんの悪い噂を聞いているが、その真偽は不明だし、過去のことは問わないことにする。ただ、彼女の成果とか聞いたことないし、これから、助けて欲しいという部門を見つけ、そこに異動させるか、新規顧客開拓をしてもらって、その結果に基づく評価をしてもらいたい。そうすれば、少なくても社内の不満はなくなるだろう。」
 
でも、人が足りなくて困っている部門でさえ、誰も私を欲しいとは言わなかった。
それどころか、多くの部門から、私の文句ばかりがあからさまに言われたわ。
実力もないのに副社長の威光を借りて図に乗っていたのが嫌いだったとか。
お前のような枕営業は気持ち悪いから来るなとか。
 
廊下を歩くと、女性たちが、汚い女、消えろよと言う。
最近は、トイレでも、汚い女は入ってくるなと、はっきり言われるようになった。
 
人によっては、食べてたガムを私に吐き捨てることもあった。
売春女、せめて廊下に落ちてるゴミでも拾って会社に貢献しろと笑って言ってくる。
 
男性も同じだったの。
昔はコピー用紙の箱とか持ってると、持ってあげようかとか優しい声をかけられたわ。
でも、最近は、嫌らしい目つきで見て、見下すように通り過ぎるだけ。
 
副社長が囲ってた女、よっぽどいい女なんだろうなとか。
胸も大きいし、大きな喘ぎ声を出すんだろうなとか。
誰とでも寝るんだったら、声をかけてみようかなんて。
 
営業は続けたけど、経験もなく新規顧客の開拓はできない日が続いた。
全く成果が出ないから降格となり、給料は半分にまでなったの。
これまで会社が守ってくれなかったじゃない。
この年で、こんなこともできないのかと言われても困る。
 
1人ぼっちになってから、同期で仲良くしていた坂本さんを思い出した。
今は女性だけど、彼なら優しく相談にのってくれるはず。
営業で苦しんでるから、話しを聞いてくれないかとメールした。
 
いくら待っても返事は来なかった。
それどころか、社内では、私が次の枕営業先を坂本さんに決めたと噂が流れたの。
体を使って、誰かの権威を借り、気に入らない人を排除していく女だとも。
 
坂本さんが、周りに言いふらしたのね。
そのうち、私を「やどがり」というあだ名で呼ぶ人も増えてきた。
 
ある日、机の引き出しに、白い液体が入ったコンドームが入ってることもあった。
また、女子トイレにある個人用の棚に入れていたナプキンが消えていた。
急にきたので、慌ててトイレのトイレットペーパーをあてて薬局に行ったこともある。
 
嫌がらせはエスカレートしていったの。
私が裸でベットで寝てる写真が出回るようになった。
副社長のものが深く入っている動画もあるらしい。
 
フェイクなのか、副社長が秘密で撮影した本物なのか、見たことがないのでわからない。
だけど、何枚もあり、ファイルで転送されてるので、かなり広まってるらしい。
これまで以上に、誰もが、気持ち悪いという表情で見てきた。
 
副社長にいじめられた人達が、副社長に恨みを爆発させた。
だから、副社長派を攻撃しようとしたんだと思う。
副社長の指示を伝えてきた私も攻撃の対象となったのね。
 
最近は、誰も、私に話しかけることはない。
もうこの会社にはいられないと思い転職するしかなかった。
女性になれば気楽に生きていけると思っていたのに。
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