業火のレクイエム

一宮 沙耶

文字の大きさ
4 / 11

3話 女友達

しおりを挟む
今日は、就職活動で合格した会社の入社式。
スーツ姿で社長の訓示を受けていたの。

外では定番の桜が一面を覆っている。
寒さが緩み始め、草木が一斉に息吹き始める。
本当に心が華やぐ。
これから生命が溢れる時間が訪れる。

大学の時は、途中からの生活で友人を作れなかった。
でも、この新しい環境なら、人間関係を作り変えられる。
心機一転できる、この機会に大きな期待を持っていたの。

もう人生には疲れていた。
でも、生きている以上、前に進んで行かなければならない。
だから、心にムチを打って前に進む。

そのなかで、心を支えてくれる人が欲しかった。
私に共感し、一緒に笑える人との時間が欲しかった。

特に、女性の友達を作りたい。
いじめられて怖い思いをした男性はもういい。
優しい人でも、突然、暴力を振るうかもと怖かった。

女性にも嫌な思いもしたけど、誰もが悪人ではないはず。
優しい人がきっといる。

新入社員数は300人で、かなり広い会場だったから少し寒い。
1時間ぐらいの入社式が終わると、研修センターに移動になる。
そして、2ヶ月の研修になった。

新入社員は、まだまだ学生気分から抜けてなかったと思う。
1日目の研修が終わり、学生ののりで渋谷で飲もうとなったの。
女性5人、男性5人の10人が渋谷で。

少しシックなレンガ造りのイタリアンレストラン。
周りは、大学生や若い社会人たちが騒いでいる。
おしゃれな雰囲気ではないので、カップルとかはいない。
私は、ラザニアとグレープフルーツサワーを頼んだ。

「一ノ瀬さん、しばらく一緒に研修だね。どこに配属になりたいとかあるの?」
「よろしくね。わたしは、世の中に役立つサービスを作って社会に貢献したいかな。だから公共事業部に行きたい。」
「僕は、法人事業部で、身近な小売業界のシステムを作りたいかな。お互いに、どうなるか楽しみだね。まあ、飲もうよ。」

木内さんが、さっきから積極的に迫ってきてる。
無視するのも角が立つし、適当に話題を変えたりとか面倒。
あなたなんかに興味はないことに気づいて欲しい。

内定式から見ていて素敵だと思っていた女性がいたの。
この飲み会に来たのは、その女性と話したかったから。

その女性は、遠くから見ていると、周りの人に誠実で清楚。
それは、会話の内容からもにじみ出ていた。
相手を貶めたり、陰で悪口を言ったりするような素振りは全くない。

直接、話したことはないから、まだ分からない部分があると思う。
だから、その女性を男性たちが飲みに誘っているのを見て思ったの。
この会に参加して、その女性と一緒に話そうと。

どちらかというとガーリーな感じ。でも、嫌味はない。
可愛らしくも、言うときはちゃんと話すという感じかしら。

小柄な体からは、ハツラツとした力も感じた。
瞳からは、どんな人も受け入れるという社交性も溢れている。
口元からは、上品で知的な声が穏やかに発せられる。

私は、そんな彼女をみて、心地よさを感じていた。
なんか、一緒にいて、落ち着くというか、懐かしさも感じていた。
彼女も、私に親近感を持ってくれているように感じた。

木内さんは、私が男性の誰かに興味があって来たと勘違いしたかも。
そんなことは気にせず、私は、さっそく、その女性に話しかけてみた。

「橘さん、これからよろしくね。私のこと瑠華と呼んでね。」
「じゃあ、私は、芽衣と呼んで。どこの所属に希望出してるの?」
「私は、社会の役に立ちたいから、公共事業部かな。」
「私も同じ。一緒の部署になれるといいね。」
「芽衣と一緒になれると嬉しい。」
「お二人さん、僕と一緒に小売業界のシステムをやらない。」 

木内さんはうるさい。
芽衣とは私が話しているのよ。

「トイレで噂話ばかりしている女性って嫌よね。そういう時って、だいたい悪口だし。この会社は、そんなことは少ないと聞いているけど、本当はどうなのかしら。」
「本当に、そういうの嫌よね。欧米なんかではトイレを男女共有にして、そんな恥じらいのないことを防いでると聞いたこともあるけど、そうするのもいいかも。」
「それもありね。ところで、男性の前だけ声が高くなって、かいがいしく男性の世話をするけど、女性の前だと態度が悪いという女性も嫌い。」
「そういう人いるわよね。本当に見苦しいというか、そんなことしなくて自然に振舞って、それで好きになってくれる人と付き合う方が楽なのにね。」
「本当に、そう思う。」

しばらく、私たちは、大笑いしながら2人で盛り上がっていた。
嫌な女性についてとか。

2ヶ月の研修が終わり、芽衣とは同じ部門への配属になった。
木内さんは、希望どおり小売業界を担当する部門の配属。
ほとんど接点がない部門だったから朗報だったわ。

芽衣は、その後も親しくしていた。
そして、知れば知るほど、とても素直で優しくて素敵な女性だと思った。
その場ではいいことを言いながら、全く違うことを考えている女性とは大違い。

芽衣は、付き合ってみると、裏表がない。
私のことが悪ければ、悪いと言ってくれる。
いつも、暖かく私のことをみて、アドバイスもしてくれる。

楽しいときは、一緒に楽しむ。
悲しいときは一緒に悲しんでくれる。
私も、この気持ちに応えたかった。

だから、芽衣には、正面から付き合っていた。
親友と言ってもいいと思う。

休日、一緒にショッピングをしたり、旅行とかもしたわ。
温泉に入りながら、悩み相談とかをした。

お互い、励まし合ったりもした。
そして、いつも2人には笑いが溢れていたの。

一緒に渋谷にでかけて、このイヤリングかわいいねなんて。
お互いの顔をみて笑いあう。
お店をめぐりながら穏やかな時間を過ごす。

カフェとかで笑いながら夕食を一緒にとった。
そんな日が続いたの。

こんな穏やかな時間があるなんて。
久しぶりの感覚。
ずっと、このままの時間が続いてほしい。

本当に、芽衣は私にとってなくてはならない人だった。
永遠に親友でいたいと思ってた。
本当に心を許せた女性は芽衣だけ。

私は、この芽衣との穏やかな時間を失いたくない。
だから、過去に自殺したこととかは言えない。
嫌われてしまうもの。

そんな日々の中で、私には誰にも言えないことが起こっていたの。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サインポールの下で、彼女は髪を切った

S.H.L
青春
長年連れ添った長い髪と、絡みつく過去の自分に別れを告げるため、女性は町の床屋の扉を開けた。華やかな美容院ではなく、男性客ばかりの昔ながらの「タケシ理容室」を選んだのは、半端な変化では満足できなかったから。 腰まであった豊かな黒髪が、ベテラン理容師の手によって、躊躇なく、そして丁寧に刈り上げられていく。ハサミの音、バリカンの振動、床に積もる髪の感触。鏡に映る自分のシルエットがみるみるうちに変わり果てていく様を見つめながら、彼女の心にも劇的な変化が訪れる。 失恋か、転職か、それとも──。具体的な理由は語られないまま、髪が短くなるにつれて剥き出しになっていくのは、髪に隠されていた頭の形だけではない。社会的な役割や、「女性らしさ」という鎧を脱ぎ捨て、ありのままの自分と向き合う過程が、五感を刺激する詳細な描写と内面の吐露と共に描かれる。 髪と共に過去を床に落とし、新しい自分としてサインポールの下から一歩踏み出す女性の、解放と再生の物語。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

おめでとう。社会貢献指数が上がりました。

水井伸輔(Mizui Shinsuke)
SF
「正しく」生きれば、どこまでも優しいこの国。 17歳のシュウは、社会貢献指数を高め、平穏な未来を手に入れようとしていた。しかし、システムに疑問を抱く父のランクは最低の「D」。 国家機能維持条項が発令された夜、シュウの端末に現れたのは、父の全権利を支配するための「同意」ボタンだった。 支配か、追放か。指先ひとつで決まる、親子の、そして人間の尊厳の行方。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

刈り上げの教室

S.H.L
大衆娯楽
地方の中学校で国語を教える田辺陽菜は、生徒たちに校則を守らせる厳格な教師だった。しかし、家庭訪問先で思いがけず自分の髪を刈り上げられたことをきっかけに、彼女の人生は少しずつ変化していく。生徒たちの視線、冷やかし、そして自分自身の内面に生まれた奇妙な感覚――短くなった髪とともに、揺らぎ始める「教師」としての立場や、隠されていた新たな自分。 襟足の風を感じながら、彼女は次第に変わりゆく自分と向き合っていく。地方の閉鎖的な学校生活の中で起こる権威の逆転劇と、女性としての自己発見を描く異色の物語。 ――「切る」ことで変わるのは、髪だけではなかった。

王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル

ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。 しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。 甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。 2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...