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4話 辞表
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翌朝、早く会社に行き、机を拭き、お茶出しをした。
頑張ったと自分を褒めているときに先輩達も出社してきた。
どう、私に感謝しなさい。
「あなた、何したの。部屋中が臭いじゃないの。昨日、ちゃんと雑巾を洗って干しておいた? 雑巾をそのままにしておいたら雑菌が繁殖して臭くなるでしょう。衛生的にもよくないし。本当に使えない子ね。今日はもうどうしょうもないから、明日からきちんとしなさい。」
朝から怒鳴られてしまった。
机なんて、気になる人が自分で拭けばいいじゃないか。
ホストの頃は、清掃会社がやっていたんだろうか。
気にしたことなんてなかった。
「それに、あなたの髪の毛はなに? ぼさぼさじゃない。あたなの容姿だと、がんばっても無理だと諦める気持ちも分かるけど、女性なんだから、もう少し気をつかいなさいよ。せめて清潔感を保たないと恥ずかしいでしょう。」
「そんなにひどいですか?」
「本当に、これまでどんな生活をしてきたのかしら。バックパックで、1週間、お風呂に入っていなかったとか。ここは会社なんだから、しっかりしなさい。」
こき使われたから、朝早く起きられなかったんだよ。
お前たちのせいじゃないか。
昨日は、新しいことばかりで慌ただしく1日が過ぎた。
でも、今日は全てが昨日の繰り返し。
明日も、明後日も。
しかも、1時間に1回以上は怒鳴られている。
そんなに僕って、悪いことしているのか。
日頃の不満を僕にあたっているだけじゃないのか。
そして、金曜日になり、歓迎会だから来いと言われた。
夜8時になって、やっと帰れると思ったのに。
歓迎会では、お金は払わないのだろうが、ひどい扱いだった。
「江本、ビールつげよ。まあ、ブスからじゃ、嬉しくないけど、お前にできることはそのぐらいだけだしな。」
「おい、ブス、追加のビール、早く持ってこいよ。本当にダサいやつだ。」
「あ、ビール瓶を倒しちゃった。ブス、おしぼり早く持ってきて拭けよ。」
「通常は、男だけじゃなくて女も新人は裸踊りとかしてもらうんだが、ブスの裸なんて見たくないしな。ああ、想像するだけで気持ち悪くなっちゃったよ。おぇ。」
「そんなのみたら、みんな吐いちゃうだろう。しばらくは悪夢にうなされるとか。あはは。」
「ブス、女の裸踊りは冗談だからな。外に、そんなこと言うなよ。まあ、ブスの裸を見たらみんな吐いちゃうというのは本当だけど。」
僕の呼び名はブスということで定着したようだ。
今どきセクハラだが、誰も気にならないらしい。
酔ってるにしても、程度というものがある。
酔っ払いすぎたのか、いきなり男の社員が僕の目の前で吐いた。
「お、きったねえな。でも、ブスに吐くなんて面白いじゃないか。お酒じゃなくて、ブスの顔が気持ち悪くて吐いたとか。あはは。」
女の先輩たちが声をかけてくれた。
「まあ、ひどい姿ね。服、ドロドロじゃない。家、近いんでしょう。もう帰って、お風呂に入りなさい。お金は出さなくていいから。」
お金はいい? 当たり前じゃないか。
逆にクリーニング代をもらいたいぐらいだ。
僕は、居酒屋を飛び出し、家に帰った。
土曜日は1日中寝て終わってしまった。
日曜日は、気晴らしに城北中央公園に行ってみた。
桜は満開で、気候も過ごしやすい。
ちょっと背伸びして、薄手のスカートで公園を散歩してみた。
桜の花の下にあるベンチでくつろいだ。
これまで夜の世界だけしか知らなかった。
でも、昼の公園はこんなに気持ちがいいんだ。
こんな所にささやかな幸せがあった。
僕は1人で十分に幸せ。
深呼吸をし、爽やかな空気を味わった。
ところで、この女は、何を考えて日々を過ごしていたんだろうか?
女友達はいないようだ。
もちろん、彼もいないだろう。
1週間、誰からも電話もメッセージもない。
でも、インスタにあげた花にはメッセージが添えられていた。
どれも、名も無いような花に向けて、暖かい応援が書かれている。
自分に向けた言葉なのだろうか。
その一言一言に、優しさがにじみ出ている。
嫌らしさはどこにもなく、清らかさを感じた。
おそらく、心がきれいで、優しい人だったんだろう。
そんな気持ちは、今の世の中では誰にも気づかれない。
道端に咲いた小さな雑草のように。
過去の自分探しをしても、特になにもないだろう。
せいぜい、そういえば、そんな人がいたねと言われるぐらいかな。
でも、ささやかな幸せに満足して清らかに過ごしてきたのだろう。
俺みたいな汚い心が入った今は、どこにも良いところがない女。
申し訳ないと思った。
その時、学生らしいカップルが横を通り過ぎた。
「あのブス、よく生きていけるな。ホームレスかと思ったけど、そうでもなさそうだな。雰囲気が悪くなるから、どっか、行ってほしいんだけど。しかも、あんな似合わないスカートなんてはいて。」
「やめなさいよ。ぶちぎれて、襲ってくるかもよ。でも、確かに、あのスカートはどうかと思うけど。ふふふ。」
「あういう粗大ごみは、だれか回収してくれないかな。」
「光一たら、ひどいわよ。聞こえるって。」
聞こえているよ。
なんだよ。お前たちに何も迷惑をかけてないだろう。
こんなこと日々、言われて、清らかな心は保てない。
さっきまでキラキラしていた風景が、いきなり灰色に変わった。
1人で幸せに過ごす時間すら、僕には与えられていないのだろうか?
どんな努力をすれば、幸せになれるのだろうか。
僕は誰からも嫌われているみたいだ。
そんな暗い気持ちで家に戻った。
そして、月曜日からまた繰り返しの日々が始まった。
僕が悪いのだろうか。
1日に10回以上、怒鳴られ、怒られる。
誰もが普通に僕のことをブスと呼ぶ。
そもそも、女って、もっと楽しそうに、楽に生きていただろう。
僕は、ブスのせいで楽しいことは1つもない。
女って、男にちやほやされているんだろう。
なんでも男性がやってあげているんじゃなかったのかよ。
ただ、笑顔で微笑んでいれば、楽しく過ごせてたと思っていた。
それなのに、僕を助けてくれる男はいない。
女の先輩たちも、僕を不満のはけ口にするのが日常になったようだ。
でも、ひたすら謝って、卑屈になっている自分がいた。
こんな容姿に自信が持てない。
文句を言う資格なんてないんだという気分になってる。
僕はこんな人だったのだろうか。
謝って、下ばかりを見るようになっていた。
僕は、この世に存在しちゃいけないのかも。
生きてるだけで、みんなに迷惑をかけてるんだ。
気持ちが滅入っていく。
でも、次の瞬間にはストレスが爆発する。
なんかイライラする。眠気も押さえられない。
社長が、僕をバカにしつつ、周りの社員には気を使う。
そんな社長の顔を見るだけで腹がたつ。
どうしたんだろう。
自分の気持ちを抑えられない。
不満で、夜にはどか食いした。
男のときはあり得なかったが、ケーキを5つも一気に食べてしまった。
また、部屋のカーテンを引きちぎってしまった。
どうしたんだろう。
感情の起伏が大きすぎる。
そもそも、僕は女なんだ。
顔と関係なく、男からはエッチできるだけで魅力があるだろう。
こんな会社は辞めて風俗にいけば、ちやほやされるんじゃないか。
僕は、もう、我慢できなくなった。
翌日、社長に辞表を叩きつけてやったんだ。
おどろいた社長の顔は忘れられない。
制服を着替えた時に、パンツに違和感を感じた。
すぐにトイレに行くと、やっぱりだ。
たぶんと思って付けていたナプキンは血で汚れている。
僕はぎこちない歩きで家に戻った。
その晩、初めてだったのでパンツやシーツが汚れて困ったよ。
まあ、数回経験すると慣れてきたけど。
頑張ったと自分を褒めているときに先輩達も出社してきた。
どう、私に感謝しなさい。
「あなた、何したの。部屋中が臭いじゃないの。昨日、ちゃんと雑巾を洗って干しておいた? 雑巾をそのままにしておいたら雑菌が繁殖して臭くなるでしょう。衛生的にもよくないし。本当に使えない子ね。今日はもうどうしょうもないから、明日からきちんとしなさい。」
朝から怒鳴られてしまった。
机なんて、気になる人が自分で拭けばいいじゃないか。
ホストの頃は、清掃会社がやっていたんだろうか。
気にしたことなんてなかった。
「それに、あなたの髪の毛はなに? ぼさぼさじゃない。あたなの容姿だと、がんばっても無理だと諦める気持ちも分かるけど、女性なんだから、もう少し気をつかいなさいよ。せめて清潔感を保たないと恥ずかしいでしょう。」
「そんなにひどいですか?」
「本当に、これまでどんな生活をしてきたのかしら。バックパックで、1週間、お風呂に入っていなかったとか。ここは会社なんだから、しっかりしなさい。」
こき使われたから、朝早く起きられなかったんだよ。
お前たちのせいじゃないか。
昨日は、新しいことばかりで慌ただしく1日が過ぎた。
でも、今日は全てが昨日の繰り返し。
明日も、明後日も。
しかも、1時間に1回以上は怒鳴られている。
そんなに僕って、悪いことしているのか。
日頃の不満を僕にあたっているだけじゃないのか。
そして、金曜日になり、歓迎会だから来いと言われた。
夜8時になって、やっと帰れると思ったのに。
歓迎会では、お金は払わないのだろうが、ひどい扱いだった。
「江本、ビールつげよ。まあ、ブスからじゃ、嬉しくないけど、お前にできることはそのぐらいだけだしな。」
「おい、ブス、追加のビール、早く持ってこいよ。本当にダサいやつだ。」
「あ、ビール瓶を倒しちゃった。ブス、おしぼり早く持ってきて拭けよ。」
「通常は、男だけじゃなくて女も新人は裸踊りとかしてもらうんだが、ブスの裸なんて見たくないしな。ああ、想像するだけで気持ち悪くなっちゃったよ。おぇ。」
「そんなのみたら、みんな吐いちゃうだろう。しばらくは悪夢にうなされるとか。あはは。」
「ブス、女の裸踊りは冗談だからな。外に、そんなこと言うなよ。まあ、ブスの裸を見たらみんな吐いちゃうというのは本当だけど。」
僕の呼び名はブスということで定着したようだ。
今どきセクハラだが、誰も気にならないらしい。
酔ってるにしても、程度というものがある。
酔っ払いすぎたのか、いきなり男の社員が僕の目の前で吐いた。
「お、きったねえな。でも、ブスに吐くなんて面白いじゃないか。お酒じゃなくて、ブスの顔が気持ち悪くて吐いたとか。あはは。」
女の先輩たちが声をかけてくれた。
「まあ、ひどい姿ね。服、ドロドロじゃない。家、近いんでしょう。もう帰って、お風呂に入りなさい。お金は出さなくていいから。」
お金はいい? 当たり前じゃないか。
逆にクリーニング代をもらいたいぐらいだ。
僕は、居酒屋を飛び出し、家に帰った。
土曜日は1日中寝て終わってしまった。
日曜日は、気晴らしに城北中央公園に行ってみた。
桜は満開で、気候も過ごしやすい。
ちょっと背伸びして、薄手のスカートで公園を散歩してみた。
桜の花の下にあるベンチでくつろいだ。
これまで夜の世界だけしか知らなかった。
でも、昼の公園はこんなに気持ちがいいんだ。
こんな所にささやかな幸せがあった。
僕は1人で十分に幸せ。
深呼吸をし、爽やかな空気を味わった。
ところで、この女は、何を考えて日々を過ごしていたんだろうか?
女友達はいないようだ。
もちろん、彼もいないだろう。
1週間、誰からも電話もメッセージもない。
でも、インスタにあげた花にはメッセージが添えられていた。
どれも、名も無いような花に向けて、暖かい応援が書かれている。
自分に向けた言葉なのだろうか。
その一言一言に、優しさがにじみ出ている。
嫌らしさはどこにもなく、清らかさを感じた。
おそらく、心がきれいで、優しい人だったんだろう。
そんな気持ちは、今の世の中では誰にも気づかれない。
道端に咲いた小さな雑草のように。
過去の自分探しをしても、特になにもないだろう。
せいぜい、そういえば、そんな人がいたねと言われるぐらいかな。
でも、ささやかな幸せに満足して清らかに過ごしてきたのだろう。
俺みたいな汚い心が入った今は、どこにも良いところがない女。
申し訳ないと思った。
その時、学生らしいカップルが横を通り過ぎた。
「あのブス、よく生きていけるな。ホームレスかと思ったけど、そうでもなさそうだな。雰囲気が悪くなるから、どっか、行ってほしいんだけど。しかも、あんな似合わないスカートなんてはいて。」
「やめなさいよ。ぶちぎれて、襲ってくるかもよ。でも、確かに、あのスカートはどうかと思うけど。ふふふ。」
「あういう粗大ごみは、だれか回収してくれないかな。」
「光一たら、ひどいわよ。聞こえるって。」
聞こえているよ。
なんだよ。お前たちに何も迷惑をかけてないだろう。
こんなこと日々、言われて、清らかな心は保てない。
さっきまでキラキラしていた風景が、いきなり灰色に変わった。
1人で幸せに過ごす時間すら、僕には与えられていないのだろうか?
どんな努力をすれば、幸せになれるのだろうか。
僕は誰からも嫌われているみたいだ。
そんな暗い気持ちで家に戻った。
そして、月曜日からまた繰り返しの日々が始まった。
僕が悪いのだろうか。
1日に10回以上、怒鳴られ、怒られる。
誰もが普通に僕のことをブスと呼ぶ。
そもそも、女って、もっと楽しそうに、楽に生きていただろう。
僕は、ブスのせいで楽しいことは1つもない。
女って、男にちやほやされているんだろう。
なんでも男性がやってあげているんじゃなかったのかよ。
ただ、笑顔で微笑んでいれば、楽しく過ごせてたと思っていた。
それなのに、僕を助けてくれる男はいない。
女の先輩たちも、僕を不満のはけ口にするのが日常になったようだ。
でも、ひたすら謝って、卑屈になっている自分がいた。
こんな容姿に自信が持てない。
文句を言う資格なんてないんだという気分になってる。
僕はこんな人だったのだろうか。
謝って、下ばかりを見るようになっていた。
僕は、この世に存在しちゃいけないのかも。
生きてるだけで、みんなに迷惑をかけてるんだ。
気持ちが滅入っていく。
でも、次の瞬間にはストレスが爆発する。
なんかイライラする。眠気も押さえられない。
社長が、僕をバカにしつつ、周りの社員には気を使う。
そんな社長の顔を見るだけで腹がたつ。
どうしたんだろう。
自分の気持ちを抑えられない。
不満で、夜にはどか食いした。
男のときはあり得なかったが、ケーキを5つも一気に食べてしまった。
また、部屋のカーテンを引きちぎってしまった。
どうしたんだろう。
感情の起伏が大きすぎる。
そもそも、僕は女なんだ。
顔と関係なく、男からはエッチできるだけで魅力があるだろう。
こんな会社は辞めて風俗にいけば、ちやほやされるんじゃないか。
僕は、もう、我慢できなくなった。
翌日、社長に辞表を叩きつけてやったんだ。
おどろいた社長の顔は忘れられない。
制服を着替えた時に、パンツに違和感を感じた。
すぐにトイレに行くと、やっぱりだ。
たぶんと思って付けていたナプキンは血で汚れている。
僕はぎこちない歩きで家に戻った。
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