愛しいブス

一宮 沙耶

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8話 結婚

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私も、この頃は、女として幸せに暮らしたいと思うようになっていた。
私だけを愛してくれる、お金持ちの男と結婚すること。

女が幸せになれるには、こんな時代でも制約は多い。
だから、誰もが上を目指してがんばっている。
ごく普通のこと。

また、愛されたいという気持ちを抑えられない。
人から嫌われたくもない。
これは女としての本能なんだと思う。

私がこの世の中で1番美しいなんて思っていない。
今の私は、あるレベルに留まっているのは分かってる。
でも、その前提で最大限、背伸びしてもっと幸せになりたい。
いいでしょう。

愛されていると自慢もしたい。
男から相手にされない悲しい女だとバカにされたくもない。
そのために日々努力する。
そんな努力のどこが悪いの?

私を支えてくれる男が横にいて欲しい。
ずっと、私のことを見ていて欲しい。

そのために、時には男に嘘をつくこともある。
でも、それって愛されるため。
男だって、女の嘘を、嘘と知って楽しんでるでしょう。

そんななか、高級クラブのお客様から付き合って欲しいと言われた。
財産家であり、優しくて、顔とかも上のレベルだと思う。
しかも、独身で、こんな水商売の女にも偏見なく付き合ってくれる。
こんな人と結婚できれば、幸せに暮らせるんだと思う。

「私、こんな仕事しているけど、プライベートで男性の方と付き合ったことないの。だから、なんて答えていいか迷っちゃう。」
「そんなに緊張しなくていいよ。休日に水族館に行くなんて誰でもやっていることだし。」
「そうなの? どんな服でいけばいいのかしら?」
「普段の服装でいいよ。家ではどんな服でいるの?」
「普段って言っても・・。Tシャツとかかな。でも、そんな格好じゃ、健一さんに相応しくないし。健一さんは、どんな服装で来るの?」
「お互いにラフな格好で行こうよ。僕は、どんな姿でも、凛と一緒にいれば幸せなんだから。」
「嬉しい。」

私は、健一の腕に腕を重ね、バストを近づけた。
男性が喜ぶコツは知っている。
上目遣いでねだるような甘い顔も忘れない。

少しでも、自分に好意を持ってもらうように背伸びをする。
言っていることは半分以上は嘘でかためている。
でも、そのぐらいは愛嬌があるという範囲でしょう。
悪いことじゃない。

「本当に可愛いな。」
「私なんて、どこにでもいる女性よ。健一さんがいなくなったらって、毎日不安で眠れないくらいなの。いなくならないでね。」
「ずっと一緒にいるよ。」
「約束よ。私には、健一さんしかいないんだから。」

男は、美人は、心が清らかなんて思っていると信じている。
だから、整形をして美人になった。
男から愛されるように努力しているのは悪いことではない。

水族館に行ったあと、公園に腕を組んで向かった。

「今日は涼しいし、気持ちがいいわね。健一さんと一緒にいられるからかしら。」
「本当に気持ちいいね。」
「今日、健一さんに食べて欲しくて、お弁当を作ってきたの。食べてもらえる?」
「本当? 嬉しいな。ごめんね。大変だったでしょう。わぁ、とっても美味しそうだ。いただきます。」
「どう?」
「すごい美味しい。合格か。」
「健一さんに合格なんて言ってもらえるなんて嬉しい。」
「違うよ。水筒に合格って書いてあったら読んだだけで、凛が時間を割いて作ってくれたお弁当を合格なんて言うはずがないじゃないか。」
「そうだったんだ。いいのよ。健一さんに合格なんて言われたら、嬉しくて今夜は寝れないかも。お弁当、頑張ったかいがあったわ。」
「凛は、いいお嫁さんになれるね。」
「そんな、恥ずかしい。」

背伸びした甲斐があった。
私のことに本気になって欲しい。
まずは結婚に漕ぎ着けたい。

結婚してしまえば、後は騙せるなんて考えていない。
その後は、その後に考えるけど、まずは目の前をクリアしたい。
今、精一杯、背伸びをしているから、それ以上は今は考えられない。

そのまま夜まで一緒に過ごし、海沿いの散歩をしていた。
そして、海辺のテラスがあるイタリアンレストランで一緒に過ごした。

「こんなこというのは健一さんが初めてなんだけど。」
「なんだい?」
「やっぱり、恥ずかしいから言えない。」
「気になるじゃないか。言ってみてよ。」
「でも・・。」
「大丈夫。僕は凛のことしか考えられないんだから、不安にならないでいいんだよ。」
「・・・・・」
「なんだって、声が小さくて聞こえなかった。」
「今日、帰りたくない。」
「本当? 嬉しいよ。僕も同じ気持ちだった。今夜はずっと一緒にいよう。」
「一緒にいてくれるの。嬉しい。」

この辺で涙を流しておく。
その後、ラブホテルに一緒に行った。

「恥ずかしい。私、あんな仕事しているけど、男性とは一緒に寝たことはないの。少し怖いけど、健一さんとだから、頑張ってみる。でも、恥ずかしいから、あまりみないでね。」
「大丈夫。優しくするから。僕に任せて。」
「電気を消して。」

100点満点の男が欲しいなんて高望みはしない。
自分が幸せになれるようがんばるだけ。
私が愛に包まれる夢を見ているだけ。

このように、度々会う機会を重ねていった。
その度に、私は背伸びをし続けた。
そして、とうとうプロポーズに漕ぎ着ける。

これで、私は幸せになれる。
夫に愛され、可愛い子供を産み、暖かい家族を作る。
こんな偽物ばかりの私でも、少しでも幸せに近づきたい。
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