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2話 マッドドクター
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3年前のギャガ王国は、のどかな田園風景が広がる国だった。
道路は、国を縦断する1本の国道のみで、車が走ることは珍しい。
仕事をしなくても野生のバナナで生きるのは困らなかった。
誰の目にも不安と言うものはなく、ほほ笑みが溢れる。
昨日も、今日も、明日も、全く変わらないゆったりとした時間が流れる。
家族、隣人を大切にする気持ちが溢れていた。
それが、ここ3年で大きく変わる。
ハイウェイが縦横無尽に走り、交通渋滞が常態化する。
貧富の差も広がり、貧民街もいたる所にできた。
人々の目には焦燥感が漂い、金の亡者の色に染まる。
貧民街では、裸同然の人々が道路に座り、争いごとも絶えない。
半年前には、軍部によるクーデターも起きていた。
マッドドクターの病院は、富裕層が住むエリアにある。
有刺鉄線で囲われ、ライフル銃を持つ警備兵に守られる。
貧民の反乱や軍部の攻撃から守るために容赦はない。
広く門戸を開いた病院ではない。
貧民には一生かかっても払えない大金を一回の手術で要求する。
1月に1人の患者がいれば病院経営は成り立つ。
病院は、高い塀に囲まれ、要塞のようにも見える。
外から、何が行われているのかを隠すような塀。
そんな病院に、さっき、救急車で重症の男の子と女の子が運ばれた。
周りでは、急ぐ救急車に、あの子達は誰だろうと噂される。
この国では、人の命は、その辺に転がる石より軽い。
救急車で運ばれるぐらいお金持ちの子供なのだろうかと。
あの待遇なら、アメリカ大統領の子供ではないか。
いや、この辺りでは見慣れない服を着ていたけど、アジア人だったぞと囁かれる。
でも、塀の中は闇の中に終わることは明らかなので、誰もがすぐに忘れる。
病院の中では、医師がソファーにふんぞり返り、看護師たちに自慢をしていた。
「俺が実験してみたかったのは、単体の臓器移植とか性転換手術とかではなく、子宮・卵巣や性器も含めた臓器全体の移植だ。体がごっそり、入れ替わるんだぞ。そんな手術ができるのは、この世界で俺ぐらいだろう。お前らも、そんな手術を見ることができて、幸せ者だな。」
看護師たちは、クビになることを恐れ、何も言わずにうなづく。
気をよくした医師は、検査データに目を通し、満足そうに笑う。
「調べてみたら、血液等の相性は良さそうだ。まあ、ダメだったら、死ぬだけだから、その遺体を焼いちゃえばいい。でも、成功したら、まだ、若いし、男性の体の中で子宮も成長するだろうし、体の傷も、皮膚の移植で俺の技術なら消せる。これはやりがいがあるな。染色体が男性なのに、卵巣と子宮を移植したら、どう成長するのか、本当に楽しみだ。まあ、3年ぐらい様子を見て、その後は、売春宿とかに売り払えばいい。それが手術代だ。」
自分の趣味で勝手に手術をし、その代金も受け取ろうとする非道な医師。
まるで、自分が神様かのように過信している。
でも、こんなことで医学は進歩していくのかもしれない。
手術が始まった。
肺は男の子のものを使いながら、食道から肛門、子宮から膣まで全てを取り出す。
そして、丁寧に男の子の体に縫合していく。
つぶれた男性器は取り除かれ、膣とともに女性器が手際よく付けられる。
女性器も含め切り取られているので、子宮から女性器はどこにも切断面はない。
大腸から肛門までも同じで、排せつ物が通る管に、どこにも切断面はない。
内臓の切断面は喉元だけと言える。
あとは臓器が体に縫合されていくだけ。
皮膚に縫い目があるだけで、体の中で臓器が移植されたと思う人はいないだろう。
頭部は男の子のままだけど、まだ子供で女の子と言われてもそれほど違和感はない。
髪の毛が短いだけで、いずれは伸びる。
女の子の頭部と下半身は、ただの肉塊のように横の手術台に投げ捨てられる。
この後、焼却するだけだから。
もし魂というものがあったとすれば、どんな気持ちで自分の体を見ているのか。
自分の臓器が取り出され、ゴミのように机の上で転がっている姿を。
頭部は、口と目が手術台と接し、生きていれば息ができない。
手術台から垂れ下がっている髪の毛が、風を受けて揺れる。
首が宙に浮き、襲ってきそうだと、この医師は思わないのだろうか。
首は転がり、死んだ魚のように力なく開いている口が見えた。
息苦しいかもしれない。泣いているのかもしれない。
でも、その表情をする心はもうないし、医師も見る意思はない。
この国ではそれほど命は軽い。
皮膚移植で傷を消すために、女の子のお尻の皮膚は保存液に浸され、冷蔵庫にしまわれた。
皮がはがされた下半身は、ただれた姿になる。
2本の足だけが、もともと人間だったと語っている。
一方、潰れた男性器も、女の子の遺体の横に投げられた。
男の子の下半身では、丁寧な移植手術を行い、皮膚の縫合が終わった。
ただのビックマウスではなく、手術の腕は素晴らしい。
素早く臓器は女の子から切り離され、男の子の体に縫合された。
その正確さ、スピードは群を抜いている。
それでも、これだけの手術には5時間も要した。
医者の額にも汗が滲み、医師もさすがにふらつく。
もう限界だと思ったとき、医師はマスクを取った。
「疲れた。まあ、今日はこんなもんだ。まだ、子供だから、3年ぐらい、どう体が変化するのか、じっくり様子を見ていこう。」
手術から2日後に、隆は目を覚ます。
幸いにして、看護師は日本で1年程働いたことがあったので日本語は概ね話せた。
「気がついた。大変な事故だったんだけど、覚えている?」
「ぼんやりとだけど、なんとなく。事故にあったんだよね。お父さんとお母さんは?」
「悲しいお知らせになっちゃうんだけど、お二人とも助からなくて。」
「え!」
表情を動かす力はなさそうだけど、その声で言葉を失ったことはわかる。
悲しむと言うよりは、頭が真っ白になって状況を理解できていないのだと思う。
「でも、あなただけでも助かって良かった。ご両親も、きっと喜んでいる。しっかりと生きないと。言っておかなければいけないことがあるんだけど、事故であなたの体の状況がひどくて、これからも皮膚の手術とか続くから、3ヶ月ぐらいは起きられないの。」
看護師は、紙にかかれた文字を読むような感じで話し続ける。
日本語が得意ではないのかもしれない。
「カテーテルで尿とかは外に出るし、当面は点滴だからトイレに行くとか動かなくても大丈夫だから、我慢してね。1週間に1回は、暖かいおしぼりで体を拭くから。その後も、しばらく、様子を見なければいけないので、この個室で過ごしてもらうわ。まずは、しっかりと回復に向けて頑張ろうね。」
「お父さん、お母さん、死んじゃったんだ。」
「気を確かにもってね。」
その子は、それからしばらく窓から見える空をただ見つめていた。
両親が亡くなり、これからどう生きていけばいいのか不安なのだと思う。
首から膝まで包帯に包まれて、いかに大変な手術を受けたのかを実感しながら。
麻酔で痛くはないものの、体を動かせないもどかしさもあったのだと思う。
日本に帰ったら、普通の人として生きていけるのか自信を持てないみたい。
得意なサッカーもできなくなるかもしれない。
初恋の美鈴さんから醜い体だと嫌われてしまうかもしれない。
そもそも、両親がいなくなり、養護施設に預けられて、東京に住めないかもしれない。
そんな悩みも頭の中をめぐっているように見えた。
そんな悩みを吹き飛ばすほど、自分の体が大きく変わってしまったことにも気付かずに。
道路は、国を縦断する1本の国道のみで、車が走ることは珍しい。
仕事をしなくても野生のバナナで生きるのは困らなかった。
誰の目にも不安と言うものはなく、ほほ笑みが溢れる。
昨日も、今日も、明日も、全く変わらないゆったりとした時間が流れる。
家族、隣人を大切にする気持ちが溢れていた。
それが、ここ3年で大きく変わる。
ハイウェイが縦横無尽に走り、交通渋滞が常態化する。
貧富の差も広がり、貧民街もいたる所にできた。
人々の目には焦燥感が漂い、金の亡者の色に染まる。
貧民街では、裸同然の人々が道路に座り、争いごとも絶えない。
半年前には、軍部によるクーデターも起きていた。
マッドドクターの病院は、富裕層が住むエリアにある。
有刺鉄線で囲われ、ライフル銃を持つ警備兵に守られる。
貧民の反乱や軍部の攻撃から守るために容赦はない。
広く門戸を開いた病院ではない。
貧民には一生かかっても払えない大金を一回の手術で要求する。
1月に1人の患者がいれば病院経営は成り立つ。
病院は、高い塀に囲まれ、要塞のようにも見える。
外から、何が行われているのかを隠すような塀。
そんな病院に、さっき、救急車で重症の男の子と女の子が運ばれた。
周りでは、急ぐ救急車に、あの子達は誰だろうと噂される。
この国では、人の命は、その辺に転がる石より軽い。
救急車で運ばれるぐらいお金持ちの子供なのだろうかと。
あの待遇なら、アメリカ大統領の子供ではないか。
いや、この辺りでは見慣れない服を着ていたけど、アジア人だったぞと囁かれる。
でも、塀の中は闇の中に終わることは明らかなので、誰もがすぐに忘れる。
病院の中では、医師がソファーにふんぞり返り、看護師たちに自慢をしていた。
「俺が実験してみたかったのは、単体の臓器移植とか性転換手術とかではなく、子宮・卵巣や性器も含めた臓器全体の移植だ。体がごっそり、入れ替わるんだぞ。そんな手術ができるのは、この世界で俺ぐらいだろう。お前らも、そんな手術を見ることができて、幸せ者だな。」
看護師たちは、クビになることを恐れ、何も言わずにうなづく。
気をよくした医師は、検査データに目を通し、満足そうに笑う。
「調べてみたら、血液等の相性は良さそうだ。まあ、ダメだったら、死ぬだけだから、その遺体を焼いちゃえばいい。でも、成功したら、まだ、若いし、男性の体の中で子宮も成長するだろうし、体の傷も、皮膚の移植で俺の技術なら消せる。これはやりがいがあるな。染色体が男性なのに、卵巣と子宮を移植したら、どう成長するのか、本当に楽しみだ。まあ、3年ぐらい様子を見て、その後は、売春宿とかに売り払えばいい。それが手術代だ。」
自分の趣味で勝手に手術をし、その代金も受け取ろうとする非道な医師。
まるで、自分が神様かのように過信している。
でも、こんなことで医学は進歩していくのかもしれない。
手術が始まった。
肺は男の子のものを使いながら、食道から肛門、子宮から膣まで全てを取り出す。
そして、丁寧に男の子の体に縫合していく。
つぶれた男性器は取り除かれ、膣とともに女性器が手際よく付けられる。
女性器も含め切り取られているので、子宮から女性器はどこにも切断面はない。
大腸から肛門までも同じで、排せつ物が通る管に、どこにも切断面はない。
内臓の切断面は喉元だけと言える。
あとは臓器が体に縫合されていくだけ。
皮膚に縫い目があるだけで、体の中で臓器が移植されたと思う人はいないだろう。
頭部は男の子のままだけど、まだ子供で女の子と言われてもそれほど違和感はない。
髪の毛が短いだけで、いずれは伸びる。
女の子の頭部と下半身は、ただの肉塊のように横の手術台に投げ捨てられる。
この後、焼却するだけだから。
もし魂というものがあったとすれば、どんな気持ちで自分の体を見ているのか。
自分の臓器が取り出され、ゴミのように机の上で転がっている姿を。
頭部は、口と目が手術台と接し、生きていれば息ができない。
手術台から垂れ下がっている髪の毛が、風を受けて揺れる。
首が宙に浮き、襲ってきそうだと、この医師は思わないのだろうか。
首は転がり、死んだ魚のように力なく開いている口が見えた。
息苦しいかもしれない。泣いているのかもしれない。
でも、その表情をする心はもうないし、医師も見る意思はない。
この国ではそれほど命は軽い。
皮膚移植で傷を消すために、女の子のお尻の皮膚は保存液に浸され、冷蔵庫にしまわれた。
皮がはがされた下半身は、ただれた姿になる。
2本の足だけが、もともと人間だったと語っている。
一方、潰れた男性器も、女の子の遺体の横に投げられた。
男の子の下半身では、丁寧な移植手術を行い、皮膚の縫合が終わった。
ただのビックマウスではなく、手術の腕は素晴らしい。
素早く臓器は女の子から切り離され、男の子の体に縫合された。
その正確さ、スピードは群を抜いている。
それでも、これだけの手術には5時間も要した。
医者の額にも汗が滲み、医師もさすがにふらつく。
もう限界だと思ったとき、医師はマスクを取った。
「疲れた。まあ、今日はこんなもんだ。まだ、子供だから、3年ぐらい、どう体が変化するのか、じっくり様子を見ていこう。」
手術から2日後に、隆は目を覚ます。
幸いにして、看護師は日本で1年程働いたことがあったので日本語は概ね話せた。
「気がついた。大変な事故だったんだけど、覚えている?」
「ぼんやりとだけど、なんとなく。事故にあったんだよね。お父さんとお母さんは?」
「悲しいお知らせになっちゃうんだけど、お二人とも助からなくて。」
「え!」
表情を動かす力はなさそうだけど、その声で言葉を失ったことはわかる。
悲しむと言うよりは、頭が真っ白になって状況を理解できていないのだと思う。
「でも、あなただけでも助かって良かった。ご両親も、きっと喜んでいる。しっかりと生きないと。言っておかなければいけないことがあるんだけど、事故であなたの体の状況がひどくて、これからも皮膚の手術とか続くから、3ヶ月ぐらいは起きられないの。」
看護師は、紙にかかれた文字を読むような感じで話し続ける。
日本語が得意ではないのかもしれない。
「カテーテルで尿とかは外に出るし、当面は点滴だからトイレに行くとか動かなくても大丈夫だから、我慢してね。1週間に1回は、暖かいおしぼりで体を拭くから。その後も、しばらく、様子を見なければいけないので、この個室で過ごしてもらうわ。まずは、しっかりと回復に向けて頑張ろうね。」
「お父さん、お母さん、死んじゃったんだ。」
「気を確かにもってね。」
その子は、それからしばらく窓から見える空をただ見つめていた。
両親が亡くなり、これからどう生きていけばいいのか不安なのだと思う。
首から膝まで包帯に包まれて、いかに大変な手術を受けたのかを実感しながら。
麻酔で痛くはないものの、体を動かせないもどかしさもあったのだと思う。
日本に帰ったら、普通の人として生きていけるのか自信を持てないみたい。
得意なサッカーもできなくなるかもしれない。
初恋の美鈴さんから醜い体だと嫌われてしまうかもしれない。
そもそも、両親がいなくなり、養護施設に預けられて、東京に住めないかもしれない。
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