5 / 11
5話 売春
しおりを挟む
私は、薄手のドレスを着た女性達と一緒に、男性の笑い声が漏れる部屋の外に並ぶ。
みんな、生きるのに必死な様子。借金とかがあるのかもしれない。
ある女性の目はうつろだけど、口元はぎゅっと結ばれている。
別の女性は、体調が悪いのか顔は真っ青。それでも参加せざるを得ないのだと思う。
ドアが開き、部屋に入る。女性たちの顔は、いきなり笑顔に変わる。
笑顔の仮面をかぶった恐怖、不安が渦巻いているのに男性は気付かないのかしら。
笑う男性たちは、偽りの笑顔で自らの気持ちを隠す女性の演技に騙される。
こんなに、強い緊張、不安のオーラが部屋に充満しているのに。
男性たちの笑い声が響き渡る部屋の入口に女性8人が並び、男性が選ぶのを待つ。
今夜、男性と寝てお金を貰えなければ、生活はさらに困窮するのだと思う。
女性側でしかわからない必死さが漂う。
男性たちが明るく楽しむ華やかな空間は、私には、じめじめした薄紫色の空間に見えた。
こんなみじめな姿で男性の前に並ぶなんて、しなくていいならしたくない。
ここにいる女性たちは物としか扱われず、水槽で泳ぐ熱帯魚の方が大切にされている。
男性たちの目は、私たちの体をなめまわす。
でも、ヘロインをもらうためには、ここから逃げるわけにいかない。
もう、あんなに苦しい禁断症状を感じるなんて嫌だから。
男性たちのリーダーらしい男性が、いきなり私に指をさす。
男性たちは声をあげ、羨ましいという声も聞こえた。
私は、その男性の横に座り、下から男性を見上げてお礼をいう。
禁断症状の恐怖に押しつぶされそうになり、私も、笑顔で本心を隠すしかない。
その後も、指をさされた女性たちが、次々に嬉しそうに男性の横に座っていった。
男性たちは、いずれも欧米人みたい。
「よろしくお願いします。」
「あれ、英語喋れるんだ。ここには、何回か来てるけど、君は初めて見た。最近、入ったの?」
「今日が初めてなんです。どんな仕事してるんですか?」
「まあ、この国のレアメタル、わからないかな、採掘した石みたい物を他国に輸出する仕事かな。」
「よく、わからないけど、すごい仕事なんですね。」
「まあ、飲もう。乾杯!」
「乾杯!」
出された飲み物は、サイダーのようだけど、飲むうちに体がふらふらする。
ヘロインがきれたときの苦しみは簡単には語れない。
あんな苦しみを感じないで済むなら、こんなことは簡単なこと。
男性は私のももに手を置く。
私は、嬉しいと言わんばかりに、男性に胸を押し付ける。
男性は、私を支配したかのように自慢気に私の頭に手をそえる。
お金で結ばれた関係でも、男性って、そんなに嬉しいものなのかしら。
お金で縛り付けているだけで、私は、あなたを好きでも、尊敬しているわけでもない。
体もそう。別に寝たからと言って、今日と明日が変わるわけでもない。
男性は、女性の気持ちなんてどうでもよく、性欲をはければ満足だと聞いたこともある。
そんなものなのね。だから、目の前の男性は、嘘にまみれた私を笑顔で抱きしめる。
女性とエッチができれば、女性なんて誰でもいい。
「結構、飲んだね。では、そろそろ帰ろうかな。」
「私を連れて行ってください。そうしないと、今日、泊まるところがないんです。人助けだと思って。」
あらかじめ教えられたフレーズを口にする。
男性を下から見上げ、ねだるように口づけをして、抱きつく。
男性は、営業フレーズだとわかってるようで、形式的なやり取りが行われる。
「そうなの。素直に帰ろうと思っていたけど、そこまでいうなら、お持ち帰えりしちゃおうかな。」
「嬉しい。」
「じゃあ、おいで。」
私は、男性と一緒にホテルに行く女性達と、更衣室で普段着に着替える。
こんな商売服を着たままだと、ホテルのフロントに止められてしまうから。
男性がいつの間にか帰ってしまうかもしれないから、慌てて着替えなければいけない。
横の女性は、私に敵意のある目を向ける。
ここでは、誰かが選ばれれば、その分、選ばれない人がでる。
その人の生活はその分、困窮する。
選ばれなかった女性が目を真っ赤にして呆然と立ちすくむ。
自分がその位置に変わろうと、ナイフを顔に切り付けようとする姿の女性もいる。
ただ、そんなことをすれば、ここでもう働けないと思いとどまっている。
選ばれた私も、彼女たちに同情の声をかける余裕はない。
私も生きるのに必死なのだから。
この狭い部屋には、数限りない人生の苦悩が渦巻いていた。
タクシーに乗り、威厳ある一流ホテルの入口でお客と降りる。
この国で、こんな立派なホテルがあるとは想像もしていなかった。
ロビーに入ると、豪華なシャンデリアが上品さを演出している。
分厚い絨毯がすべての床を覆う。
カフェエリアでは、気品溢れる欧米人が上品に紅茶の香りを楽しむ。
カジュアルな服装の私は、いかにも場違いな雰囲気がにじみ出る。
それでも、ホテルマンは丁寧にお辞儀をし、私を中に通す。
売春をする女性が入ることも、この国であれば想定済みなのかしら。
お客は、28階のスイートルームに私を通した。
「この部屋、すごい。部屋が3つもあるし、夜景が素敵。ギャガ大国ではないみたい。」
「この国は、これから発展してすぐに欧米のようになると思うよ。そんなことは、どうでもいいか。まず、シャワーを浴びてくればいい。」
「わかりました。ではお先に入らさせていただきます。」
シャワーを浴びる。
高級感が漂う、いい香りの石鹸の泡で体を包み込み、熱いシャワーで洗い流す。
バスローブに身をくるみ男性がくつろぐリビングに行った。
「じゃあ、僕もシャワー浴びてくるね。君は、ここでシャンパンを飲んで待っていて。」
「わかりました。」
その日の食べ物もない人々で溢れている国で、この部屋には贅沢で溢れている。
雲に落ちていく感覚を味わえるような厚みのあるベッド。
テーブルには、シャンパンだけでなく高級なチョコレートのタワーが置かれている。
見たこともない、高そうなフルーツも。
これが、この国の現状なのだと思う。
いくら貧民があがいても、生活は全く向上しない。
一握りの富裕層が富を独占する。
そんなことを考えていたら、お客もバスローブを着て私の元に歩いてくる。
そして、立ち上がった私を抱きしめた。
ヘロインの強いチェーンで縛りつけられた私は、男性の腕の中で抗うことができない。
この国で私は、ずっとこの暮らしをしていくのかしら。
年をとれば、男性に相手にされなくなるけど、そうなったら薬はもらえない。
いえ、そんな長い時間、生きていけないのかもしれない。
ヘロインが体を蝕んでいくはずだから。
私の心も耐え切れず、自ら命を絶つかもしれない。
明るい未来はどこにもない。
ただ、息を吸い、食べるだけの獣にすぎない。
いえ、お金とヘロインに縛られた穢れた生き物で、横を通り過ぎた犬の方が清らかね。
私は、濡れた自分の真っ黒な下半身が頭に浮かび、吐きそうになるのを必死にこらえる。
その時、ドアのベルが鳴った。
「こんなに遅く、何だろう。何ですか?」
「ホテルスタッフです。お客様の落とし物があったと連絡が入り、確認に参りました。」
「明日にしてくれないか。」
「いえ、お客様のものでないと、今夜12時までに警察に届けないとだめなものですから。夜遅く、申し訳ありません。」
「しかたがないな。」
そういって、お客がドアを開いた途端、3名の男性が部屋に入り込む。
3人はお客を押さえつけ、手錠をかけていた。
もう一人の女性は、私の手を取り、手錠をかけて2人をパトカーに連行した。
売春で逮捕されたのだった。
みんな、生きるのに必死な様子。借金とかがあるのかもしれない。
ある女性の目はうつろだけど、口元はぎゅっと結ばれている。
別の女性は、体調が悪いのか顔は真っ青。それでも参加せざるを得ないのだと思う。
ドアが開き、部屋に入る。女性たちの顔は、いきなり笑顔に変わる。
笑顔の仮面をかぶった恐怖、不安が渦巻いているのに男性は気付かないのかしら。
笑う男性たちは、偽りの笑顔で自らの気持ちを隠す女性の演技に騙される。
こんなに、強い緊張、不安のオーラが部屋に充満しているのに。
男性たちの笑い声が響き渡る部屋の入口に女性8人が並び、男性が選ぶのを待つ。
今夜、男性と寝てお金を貰えなければ、生活はさらに困窮するのだと思う。
女性側でしかわからない必死さが漂う。
男性たちが明るく楽しむ華やかな空間は、私には、じめじめした薄紫色の空間に見えた。
こんなみじめな姿で男性の前に並ぶなんて、しなくていいならしたくない。
ここにいる女性たちは物としか扱われず、水槽で泳ぐ熱帯魚の方が大切にされている。
男性たちの目は、私たちの体をなめまわす。
でも、ヘロインをもらうためには、ここから逃げるわけにいかない。
もう、あんなに苦しい禁断症状を感じるなんて嫌だから。
男性たちのリーダーらしい男性が、いきなり私に指をさす。
男性たちは声をあげ、羨ましいという声も聞こえた。
私は、その男性の横に座り、下から男性を見上げてお礼をいう。
禁断症状の恐怖に押しつぶされそうになり、私も、笑顔で本心を隠すしかない。
その後も、指をさされた女性たちが、次々に嬉しそうに男性の横に座っていった。
男性たちは、いずれも欧米人みたい。
「よろしくお願いします。」
「あれ、英語喋れるんだ。ここには、何回か来てるけど、君は初めて見た。最近、入ったの?」
「今日が初めてなんです。どんな仕事してるんですか?」
「まあ、この国のレアメタル、わからないかな、採掘した石みたい物を他国に輸出する仕事かな。」
「よく、わからないけど、すごい仕事なんですね。」
「まあ、飲もう。乾杯!」
「乾杯!」
出された飲み物は、サイダーのようだけど、飲むうちに体がふらふらする。
ヘロインがきれたときの苦しみは簡単には語れない。
あんな苦しみを感じないで済むなら、こんなことは簡単なこと。
男性は私のももに手を置く。
私は、嬉しいと言わんばかりに、男性に胸を押し付ける。
男性は、私を支配したかのように自慢気に私の頭に手をそえる。
お金で結ばれた関係でも、男性って、そんなに嬉しいものなのかしら。
お金で縛り付けているだけで、私は、あなたを好きでも、尊敬しているわけでもない。
体もそう。別に寝たからと言って、今日と明日が変わるわけでもない。
男性は、女性の気持ちなんてどうでもよく、性欲をはければ満足だと聞いたこともある。
そんなものなのね。だから、目の前の男性は、嘘にまみれた私を笑顔で抱きしめる。
女性とエッチができれば、女性なんて誰でもいい。
「結構、飲んだね。では、そろそろ帰ろうかな。」
「私を連れて行ってください。そうしないと、今日、泊まるところがないんです。人助けだと思って。」
あらかじめ教えられたフレーズを口にする。
男性を下から見上げ、ねだるように口づけをして、抱きつく。
男性は、営業フレーズだとわかってるようで、形式的なやり取りが行われる。
「そうなの。素直に帰ろうと思っていたけど、そこまでいうなら、お持ち帰えりしちゃおうかな。」
「嬉しい。」
「じゃあ、おいで。」
私は、男性と一緒にホテルに行く女性達と、更衣室で普段着に着替える。
こんな商売服を着たままだと、ホテルのフロントに止められてしまうから。
男性がいつの間にか帰ってしまうかもしれないから、慌てて着替えなければいけない。
横の女性は、私に敵意のある目を向ける。
ここでは、誰かが選ばれれば、その分、選ばれない人がでる。
その人の生活はその分、困窮する。
選ばれなかった女性が目を真っ赤にして呆然と立ちすくむ。
自分がその位置に変わろうと、ナイフを顔に切り付けようとする姿の女性もいる。
ただ、そんなことをすれば、ここでもう働けないと思いとどまっている。
選ばれた私も、彼女たちに同情の声をかける余裕はない。
私も生きるのに必死なのだから。
この狭い部屋には、数限りない人生の苦悩が渦巻いていた。
タクシーに乗り、威厳ある一流ホテルの入口でお客と降りる。
この国で、こんな立派なホテルがあるとは想像もしていなかった。
ロビーに入ると、豪華なシャンデリアが上品さを演出している。
分厚い絨毯がすべての床を覆う。
カフェエリアでは、気品溢れる欧米人が上品に紅茶の香りを楽しむ。
カジュアルな服装の私は、いかにも場違いな雰囲気がにじみ出る。
それでも、ホテルマンは丁寧にお辞儀をし、私を中に通す。
売春をする女性が入ることも、この国であれば想定済みなのかしら。
お客は、28階のスイートルームに私を通した。
「この部屋、すごい。部屋が3つもあるし、夜景が素敵。ギャガ大国ではないみたい。」
「この国は、これから発展してすぐに欧米のようになると思うよ。そんなことは、どうでもいいか。まず、シャワーを浴びてくればいい。」
「わかりました。ではお先に入らさせていただきます。」
シャワーを浴びる。
高級感が漂う、いい香りの石鹸の泡で体を包み込み、熱いシャワーで洗い流す。
バスローブに身をくるみ男性がくつろぐリビングに行った。
「じゃあ、僕もシャワー浴びてくるね。君は、ここでシャンパンを飲んで待っていて。」
「わかりました。」
その日の食べ物もない人々で溢れている国で、この部屋には贅沢で溢れている。
雲に落ちていく感覚を味わえるような厚みのあるベッド。
テーブルには、シャンパンだけでなく高級なチョコレートのタワーが置かれている。
見たこともない、高そうなフルーツも。
これが、この国の現状なのだと思う。
いくら貧民があがいても、生活は全く向上しない。
一握りの富裕層が富を独占する。
そんなことを考えていたら、お客もバスローブを着て私の元に歩いてくる。
そして、立ち上がった私を抱きしめた。
ヘロインの強いチェーンで縛りつけられた私は、男性の腕の中で抗うことができない。
この国で私は、ずっとこの暮らしをしていくのかしら。
年をとれば、男性に相手にされなくなるけど、そうなったら薬はもらえない。
いえ、そんな長い時間、生きていけないのかもしれない。
ヘロインが体を蝕んでいくはずだから。
私の心も耐え切れず、自ら命を絶つかもしれない。
明るい未来はどこにもない。
ただ、息を吸い、食べるだけの獣にすぎない。
いえ、お金とヘロインに縛られた穢れた生き物で、横を通り過ぎた犬の方が清らかね。
私は、濡れた自分の真っ黒な下半身が頭に浮かび、吐きそうになるのを必死にこらえる。
その時、ドアのベルが鳴った。
「こんなに遅く、何だろう。何ですか?」
「ホテルスタッフです。お客様の落とし物があったと連絡が入り、確認に参りました。」
「明日にしてくれないか。」
「いえ、お客様のものでないと、今夜12時までに警察に届けないとだめなものですから。夜遅く、申し訳ありません。」
「しかたがないな。」
そういって、お客がドアを開いた途端、3名の男性が部屋に入り込む。
3人はお客を押さえつけ、手錠をかけていた。
もう一人の女性は、私の手を取り、手錠をかけて2人をパトカーに連行した。
売春で逮捕されたのだった。
1
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる