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第20話
しおりを挟む20 笑顔返り咲き
アガルタの街はそれなりに大きな街だ。
レンガ造りで続く建物には、人々の生活感が溢れており、昼間一本入った路地なんかを歩いた時には、洗濯物が運動会の国旗みたいに干されていた。
夕刻になった今は流石に洗濯物は取り込まれているが、建物の多さや、今も尚人通りの多いメインストリートから推測するに、人口は百人単位では無いだろう。
1000人?いや、2000人くらいはいそうだ。もしかしたら、それ以上かもしれない。
主要産業が何かは不明だが、街行く人は大きな荷物を持っている人も多く、推測するに交易都市、またはそれに付随した中継都市と言ったところだろう。
(注)中世ヨーロッパの城壁都市の人口は1000~2000人くらいで、大きくても1~2万人程度である。
ちなみに、アガルタの人口は2500人程で、東部地方の主要都市の1つに数えられている。
メインストリートには、何軒かの飯屋がポツポツと点在していた。
何処に入ろうかと迷ったが、店前に置いてある看板メニューを見て一番安価の店を探し、そこに入る事にした。
「いらっしゃい!何名様で?」
人差し指を立てて1名の意を店員に伝える。
「1名様で?どうぞこちらへ」
店員の後に続き、店内の奥へと歩いて行く。
案内された席は4人掛けのテーブルで、そこには既に一人の先客が座っていた。
あぁ……相席とか気にしないんだなぁ……
この世界では当たり前の事なのか?それともこのお店がそういうスタイルなのかはわからないが、
「あっ!」
「あっ!」
思わず声が出た。
それは、相手も同じ。
私が勧められた席に座っていたのは、
白金の翼団のメンバー。
エルフの少女"ジライヤ・ミーン"だ。
「あっ!」
「あっ!」
二人して声が揃った。
からの暫しの沈黙。
誰でも経験した事があると思うが、それ程仲がいいわけじゃ無い知り合いとバッタリ出会すというのが1番達が悪い。
「お知り合いですか?」
空気を読めない店員が沈黙を切り裂き、「………はい」とか頷く私と、じろ目でチラッと私の方を見たジライヤ。
「そりゃ良かった!」
何処が?
「ご注文が決まりましたら、テーブルのベル、鳴らして下さい。こちらメニューになります」
立ったままの私にメニューを渡す店員。
どっか抜けてるのか?こいつ?
見ればだらしの無い格好。エプロンなんかアレだ。なんて言うかだらし無い。顔もだらし無い。無精髭もボーボー。
言う事だけ言って、スタスタと戻って行く後ろ姿も裾をズルズルと引き摺ってだらし無い。
飲食店に置いて、一番大事な清潔感のカケラも無い。日本なら、即クビレベル。
店員の姿を目で追っている私に、
「座ったら?」
と、ジライヤが席を勧めて来た。
「どうも……」
この子なんか苦手なんだよね……
何考えてるかわからないし、
読めない。
昼間、冒険者ギルドで出会った時に、一度"心読"を試してみたが、この子の心の中はまるで"無"だった。
(ふーーん)とか、
(そうなんだ)とか、
(別に)とか、
(勝手にどうぞ)とか、
自己という肯定感をほぼ持っていないというのか、意見を持って無いというのか……
感情を顔に出さない事をポーカーフェイスというが、ポーカーハートなんていう言葉があるとすれば、この子はまさにポーカーハートだろう。
また少しの無言の時間が続く。
仮に、私から喋りかけたとしても、会話は一言でぶつ切りにされ、続かない事くらい想像出来る。
これだから中途半端な知り合いってのが1番厄介なんだ。
身も知らずの赤の他人の方が、気を遣わなくて済むからよっぽどマシ。
メニュー表と睨めっこをしながら、そんな事を考えていた私に、話しかけて来たのはジライヤの方だった。
「今は、使わないの?」
「え?」
「 使わない?なんの事?」
「昼間、何回か、対象魔法、使ってたでしょ?」
正直、驚いた。
対象魔法とは、きっと心読スキルの事だろう。
メニューから目線を上げると、同じテーブルの斜向かいに座っている、トンガリ帽子を被ったエルフの少女(ジライヤ)と目が合った。
「よくわからないから聞いた。どんな効果があるの?
私も初めて見た魔法だったから」
どうする?正直に言うか?言わまいか?
頭の中を覗かれるなんて、対象相手からしてみれば随分と嫌な効果だと思う。
流石に今この状況なら、ジライヤの頭の中には何かしらのキーワードはあると思うが、スキルを使えば彼女は敏感に察知するだろう。
それにもし、彼女が対象魔法と呼んだ私のスキルに耐性があるのだとすれば、彼女の心中を『無』と感じた事にも納得がいくし、スキルを使うだけ無駄だ。
ここは"心読"は使わずに、ジライヤの言葉の真意を確かめるのが最良の策。
私はそう判断を下した。
なら、答えは一つ。ニコリと笑顔を作っては、
「どんな効果か当ててみて?」
と私は答えた。
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