ちょっとハッとする話

おかえりのキス

俺の妻は先月末に交通事故にあった。
前方不注意の大型トラックが、歩道へと乗上げ突っ込んで来たのだ。

　　　　　即死だった。

自慢の妻だった。
俺の自慢の、
誰が見ても美人と言う程に、目鼻立ち整った自慢の妻だった。

　　　　　あれから１か月……

俺は「ただいま」と玄関のドアを開ける。
1DKの狭い部屋に俺の声が響く。
すると、「おかえりなさい」
俺を迎えてくれる優しい妻の声。

だが……その声の主は、
誰なのかわからない程、
グチャグチャに潰された顔の女だ。



「あーーただいま」と言う俺に、
目なのか鼻なのかそれとも、口なのか……。
ペシャンコに潰れて引き伸ばされた顔が近づいて来た。

　　　　「ねぇ
　　　ただいまのキスは？？」

判別がつかない俺はそれらしき場所にキスをするが……

「そこは……口じゃ無くて……目だよ……」

と、妻は言った。

「あっごめんよ」

俺は哀しく笑う。
それでも、デテキテクレテありがとう。
まだ時間が許されるなら、
少しでもいい一緒に居たい。