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山本君の家は赤く染まる
しおりを挟む緑の電話ボックスって昔はいっぱいあったんだわ。
最近は携帯電話のお陰でとんと見かけなくなったけど、うちの管轄区域の神社の横にも電話ボックスがあったんですよ。
そう話してくれたのは、その当時地元の消防団の分団長をやっていた伊藤氏だ。
伊藤氏は語る。
「ウチの町では毎年恒例の、
年末夜景ってイベントがありましてね。
まぁ簡単に言いますと、年末になると、消防車に乗って防火PRを3日間に分けて行うんですがね。
初日から、19時、21時、23時に見回ってたんですよ」
消防車を動かす規則が最低でも3人は確保しろとの事で、通例だと分団長は消防団の詰所 に残り、お客さん(地元出身の議員さんや、OBの方達、町の役員さん)の相手をするのだが、初日の19時の見廻りは団員達の集まりがいまいちで、まぁこんな早くから誰も来ないなと、伊藤氏は仕方なく消防車に乗り込んだらしい。
『カーン!!カーン!!カーン!!』
消防車の鐘の音が、せわしない年の瀬の町に響く。伊藤氏は若手の団員に運転を任せて、助手席に座り、〇〇消防団の昔話に花を咲かせていた。
カーンカーンカーンと、消防車は決まったルートを見廻る。
県道を下り、閑静な住宅地を抜けて、人気の無い林道へと差し掛かっていた。
「そう言えば伊藤さん」
運転席の若手団員が何かを思い出したように話かけた。んーー?と伊藤氏は聞いたという。
「もうすぐ行くと神社がありますよね?
その神社の横に電話ボックスあるじゃないですか?」
「あったっけ?電話ボックスなんて?」
「あるんですよ
電話ボックスが。外灯の下に、ポツンと…」
「へーー……で??それがどうしたの??」
「あっちは通らない方がいいですよ」
ボソッと後部座席から今年?入った新入団員が呟く。
「なんで??なんで??」伊藤氏は聞いたそうだ。
「なんで?なんで?って……。伊藤さん、
外灯の下の電話ボックスなんですけどね。
アソコなんか有名な心霊スポットらしいんですよ」
運転手の若手団員が出るらしいですよっと意味深なポーズ。片手ハンドルだ。
前、前、と伊藤氏は注意した。
ポツンっと暗闇の向こうに光る外灯の下、
フワッとした明かりを放つ電話ボックスが見えてくる。
消防車の赤色灯がグルグルと回って、周囲の暗闇を赤く染めていた。
。。。。。。
んーーどれどれと伊藤氏は助手席から窓の外を除いたそうだ。
「!!」
「戻れ!!引き返せ!!」
「バックで!!早く!!」
伊藤氏が叫ぶ。運転手の若手団員も同じモノを見たのか、言われる前に消防車をバックしていた。
緑の電話ボックスは赤く染まり、そのガラスには手垢と思われる無数の手形。
それがまた反射して赤く染まる。
で、その横にいたんですよ。
人では無い何かこう、違う雰囲気の影が。
▽▽▽▽
伊藤氏はこう続けた。
実はその翌日、消防団に朝から出動の要請がかかってね。
交通整理ですわ。
この先の林道で古い橋が落ちたって……
その橋がかかってたトコってのが、例の電話ボックスからちょっと行った所でね。
あのまま消防車なんかで進んで行ったら
きっと重さで落ちてたなと思ってゾッとしたね。
それともう1つゾッとした事があってね。
「あっちは通らない方がいいですよ」
って誰が言ったんだってね。
初日は待っても、待っても、自分と運転してた団員しか集らず、仕方なく2人で見廻りに行ったというのに。
考えてみれば、今年も新入団員なんて入って無かったのに、あん時はそう思っちゃったんだよね。なんでかなぁ……不思議な事ですよ。
消防車の運転席で笑顔で話す伊藤氏。
消防車はかれこれ5分程この場所に停車している。
この場所も何か曰くがあるのですか?
と聞くと、
「あっここ?ここは去年入って、すぐ来なくなった。
幽霊団員の
山本君の家」
『カーン!!カーン!!カーン!!』
せわしない年の瀬。
閑静な住宅地に、
消防車の警鐘が鳴り響く。
「次は……最近来ない、渡辺さん家だね」
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