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おいでと言われたら行きたくないそれは人のサガですね
しおりを挟む急な坂道を登ると私の通う女子校があります。
校門までは坂の下から見えるのですが、校舎はそこからだと、確認は出来ません。
その日の朝も私は坂道を登って、女子校へと向かっていました。
『おいで~~おいで~~
はやく …こっちにおいで~
おいで~~』
坂の中腹まで来たくらいでしょうか。?
坂の上から私と同じ歳くらいの女の子が、私を呼んでいます。
周りには他の子もいましたが、コチラに向かって手招きをしていたので、対象は私だったのだと思います。
ただその出で立ちは、
茶色のクルクルした髪に、
見た事の無いセーラー服姿、
私は何処と無く異様さを感じ、少し後退りました。
周りの子達はソレが見えていないのか、
それとも見えていても気にしていないのか、
スタスタと坂道を登っていきます。
(え?何?皆んな気付いていないの?)
アレが見えてないの?
『おいで~~おいで~~
はやく …こっちにおいで~~
おいで~~』
よく見ると、その顔は真っ暗で
目も鼻も口も無く、一言で言うと怖さを感じました。それがコチラに向かって手巻きをしている……
行ってはダメだ!!
そう強く思いました。
えっ?…あれ?笑った??
1945年8月6日 午前8時15分
広島市上空
ピカッ
と空が光り、
次いで物凄い轟音と、爆風。……
私は咄嗟に坂道の影に隠れます。
そして意識を失いました。
▽▽▽▽▽▽▽▽
「気がついたときにぁ。。
見渡す限り焼け野原でねぇ。。
そりゃあひどい有り様だったよぉ……
学校も、友達も、みぃぃんな焼け焦げ
ちまったわ」
そう遠い目で話してた曾祖母が、今年の冬に亡くなった。
貧しく、苦しい、時代を生き抜き、戦争の愚かさと、原爆の恐ろしさを、後世へと伝えた人生。
御歳95歳。
生前、曾祖母は私の顔を見るたびにこんな事を言っていた。
「坂の上の顔の無いあの子……
最後ニッコリと笑ったんだわ。
あんたの顔によう似てる」
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