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一方、ザザはというと、落ち込んでいた。
勢いよく店から出たはいいものの、すぐに足取りは重くなった。何をやっているんだろうか私は。どんよりとした気持ちがザザを支配して行く。
嫌われたかもしれない。
何をムキになっている。
私はバカか?
反省したところで、嫉妬心というものを初めて感じたザザにとって、腹わたが煮え繰り返るほどの妬み。辛み。ムカつき感。この感情。どこにぶつければいいものか?わからない。「クソゥ!」小石を蹴飛ばし、背中の大剣を強く握った。
道行く村人達は、そんなザザに声をかける事も出来ずに、ちらほらと、ちらほらと、噂話に興じている。「どうしたんだ?」
「危ないな」「殺気立ってないか?」
「一緒に居たあの少年はどうした?」
「あぁ。あの子」「そう言えば居ないな」「綺麗な子だったね」
「あぁ」「うんうん」
「あんな綺麗な子は見たこと無い」
「私、王子様かと思ったし」「それな!」「美少年と野獣ってか?」
「おい!」
「言っていい事と悪い事があるぞ」
「しーーっ」
「ザザさんに聞かれたら一瞬で首チョンパだ」「バカヤロゥ」。。。。
外野がザワザワとうるさい。彼らの話声はザザの耳には届いていないが、もし。『美少年と野獣』なんて言葉が届いていたら、虫の居所の悪い彼女の事だ。その逆鱗に触れてしまうのは言うまでも無く。死亡。彼らは、野次馬。自分の事を話しているのだろう。ザザはそう思った。そりゃそうだ。
四方八方をウンバサという広大な森で囲まれた。このバサラの塔のベースキャンプで、人の出入りは稀である。年に数回ある王国兵士隊の遠征か、ハンター協会から緊急ミッションが発令された時くらいで、バサラの塔に滞在している者は、そのほとんどが顔見知りだ。総人口は53名。内訳はというと、王国兵士隊の残留部隊が6名。エミリオ商会の商人が12名。料理人が3名。娼婦が4名。ハンター協会に登録しているハンターが15名。残りは、行く当ての無い流れ者達だ。
その中でザザは有名人。
ザザ・ミュースカイ・セビラハートの名を知らない者などいないし、それはバサラの塔の外でも同じ事で、こんな小さな世界にいるのだから。輪に輪をかける。
+誰なんだろう+
+誰なんだ?+
+あの美少年は誰だ?+
村人達の興味は、ザザが連れて来た、得体の知れない美少年へと移りつつあった。
エミリオ・ルーフという女がいる。
ハンター業界において、女帝と畏れられている女だ。彼女は、バサラの塔の創始者であるエミリオ・バッカスの孫娘であり、現エミリオ商会の代表でもある。
絢爛豪華な机にドンと足をかけ、同じく豪華な椅子に踏ん反りかえるように座って、手にはニュースペーパー。タバコを口で咥え。タバコの灰が落ちそうになり、ようやくタバコに手を添えた。エミリオ・ルーフ、その女は、プカリと口から煙を出すと「フーー」
輪っかになった煙の中に、煙を通した。
ルーフが持つニュースペーパーには、ここ最近の出来事が書かれている。それは、もっぱら王国軍や国王陛下の話であって、王国軍が北に進軍して帝国軍を討ち倒した。だとか、王国軍が新しい兵器を開発中。だとか、国王陛下が直々に指揮をとった。だとか、信憑性の無い話が、大袈裟に書かれている。
「全く……内地は相変わらずだね」
ルーフは眉間に皺寄せ、ニュースペーパーの記事を見て呟いた。『トン、トン』と、ドアをノックする音が聞こえた。
「なんだ?」
「ルーフ代表。ザザ様が、グリッドベアの爪を鑑定して欲しいと」
「グリッドベア?ザザが?そうか……彼奴を倒したってわけかい。わかった。直ぐに行く」
ドアの声にそう答えたルーフは、机の上から足を下ろし、ふんぞり返っていた椅子からゆっくり立ち上がった。マント掛けにかけた真紅のマントを手に取ると、それを羽織る。大鏡の前に立ち。刈り上げた薄紅色の頭髪を、髪ゴムでポニーテールに纏める。キリリとした目付きが、更に鋭さを増した。
ここは、バサラの塔にあるエミリオ商店。
ザザは、エッダのお店を出た後、フラフラとベースキャンプ内(集落内)を歩いていたが、やがてエミリオ商会が運営している商店へと辿り着いた。グリッドベアの爪を買い取ってもらう為だ。
エミリオ商店は、バサラの塔の真下にある。地上150メートルほどでポキリと折れた元電波塔の真下だ。木造二階建ての建物は、一際大きくて目立った。【エミリオ商店】大きな看板が、屋根の上に設置されている。店内に響くはザザの声。
「ルーフを出せ!ルーフを!!」
カウンターに座る女性店員は、そりゃあもうあたふただ。
ザザ・ミュースカイ・セビラハートが怒っている。そりゃあもうあたふただ。あたふたし過ぎて、噛みまくる。「あっ!」
「ひっ!ひま!ひまっかかりのもにょがよびににひってますほでぇぇぅ」
「あ"?あ"ぁ?何言ってんのかわからねぇよ!!」
「ぎょっ!じゃなかった。も、もう」
「いつまで待たせんだよ!!」
「ひっ!?す、すみ"ま"せ"んぅぅ」
「言っとくがな!!私は機嫌が悪いんだ!!早いとこルーフを連れて来い!!」
「ウチの看板娘をあまりイジメてくれるなよ?」
「代表!」
「ちっ!やっとお出ましか」
階段を『コツ。コツ』と、義足の足が渇いた音を立てて、エミリオ・ルーフはやって来た。鋭い眼光がザザを睨む。ザザも負けてはいない。その眼を睨み返す。
螺旋階段の踊り場から、真っ直ぐ。カウンターに肩肘を付いたザザに対して「なんの用だ?」とルーフは言った。
真紅の赤が目に止まる。真っ赤なマントを付けて、肩パッドがいかってる。刈り上げた頭髪と、纏め上げた頭髪から前髪が溢れて、軽く首を横へと振る。キリリとした切れ長の吊り目が、鋭くドスを効かせる。歳はザザの1つ上。齢30歳。
対するザザ。グリッドベアの鮮血に染まった白のタンクトップは、渇いて赤茶色の柄を作っている。大剣を背に、短髪黒髪と、ゴーグルは首にかけたままだ。
そんな2人がお互い歩を進め、ちょうど店内の中央付近でカチあった。異様な空気が店内を包む。
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