極妻、乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生しちゃいました!

ハルン

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美しい花々が咲き誇る、手入れの行き届いた美しい広大な庭。その美しい庭を、一人の子供が歩いていた。8歳くらいの、とても美しい子供だった。軽くウェーブのかかった黒髪に、新緑の様な緑の瞳の男の子だ。

その男の子は、迷い無く整えられた道を逸れて美しい草木を掻き分ける。すると、小さな子供1人分程のポッカリと空いた空間が現れる。

「見つけた」

そう言って、男の子はとても嬉しそうに笑った。そこには、青いドレスを着た小さな女の子が丸まって眠っていた。艶やかな黒髪に白い肌。頬は薄らと赤く染まり、小さな色づく唇は薄らと開いている。その口からは、気持ち良さそうな寝息が聞こえて来る。

「サーシャ、サーシャ。起きて、俺の可愛いサーシャ」
「んっ…」

とても優しい声で、男の子は小さな女の子ーーサーシャを起こす。すると、長い睫毛が小さく震えサーシャが目を覚ます。

「……アラン兄様?」

煌く青い瞳に、目の前の男の子を映す。アランと呼ばれた男の子は、甘い笑顔を浮かべて自身の妹を見つめる。

「また、こんな所で寝ていたんだね」
「ごめんなさい。でも、とっても気持ちいいんだもの」
「父さん達が探してるよ。そろそろ家族のお茶会の時間なのに、サーシャが来ないから」
「もうそんな時間なの?ごめんなさい…」

そう言って、サーシャは「ふぁ~」っと小さな欠伸をする。アランが手を伸ばして、サーシャを抱き上げる。そうして、そのまま屋敷に向かって歩き出した。

「アラン兄様、一人で歩けるわ。おろして」
「だーめ。大人しくしてて」

降りようとするサーシャを、アランはギュッと抱き締める。こうなったら、何時もはサーシャに甘い兄に何を言っても無駄だ。サーシャは、諦めてアランの腕の中で大人しくする。

「そうそう。今日は、サーシャがずっと飲みたいって言ってた東方の島国にある『緑茶みどりちゃ』を、父様が用意したって言ってたよ」
「えっ!本当に!?」
「うん。でも、サーシャは珍しいね。紅茶じゃ無くて、東の島国にある緑茶が飲みたいなんて。緑茶の存在は、この国では余り知られて無いんだよ?よく知っていたね」

その言葉に、サーシャは曖昧な笑みを浮かべる。

(だって、私には日本に住んでた時の記憶があるからね)

前世では、緑茶が一番好きな飲み物だった。それを、夫と共に縁側でのんびりと飲みながら話す事が一番好きだった。

(あの人や、あの子達は、皆んな元気かしら…?)

前世の夫や、何十人もの厳つい顔の男達の顔を思い浮かべる。前世、サーシャは何万人もの人間を従える組の組長の妻であった。夫婦の間には、三人の子供もおり、家には何十人もの組の人間が住んでいた。そんな彼女も、50歳になる前に病気で息を引き取った。最後に見たのは、泣き崩れる夫や子供、それに厳つい大勢の男達と恐怖に震える病院の医師や看護師達の顔だ。

(そりゃあ、あんなに厳つい如何にもヤクザですって奴等が大勢居たら、恐怖で震えるよね)

あの医者達には、申し訳ないと思ったものだ。そうして、死んだと思った彼女は地球ですら無い別の世界の侯爵令嬢サーシャとして生まれ変わったのだった。





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